2023.12.12

成熟を信じ、成熟に支えられ、新たな「3つの期待」を胸に進む──代表×店長が振り返る、クラシコムの歩み(7)2023年版社史

書き手 長谷川 賢人
写真 木村 文平
成熟を信じ、成熟に支えられ、新たな「3つの期待」を胸に進む──代表×店長が振り返る、クラシコムの歩み(7)2023年版社史
兄の青木耕平が妹の佐藤友子を誘って生まれたクラシコム。2007年に「北欧、暮らしの道具店」を開店以来、始めたことや留まったこと……その背景にある決断の数々を振り返り、記事という形にして、その歩みを社史としてまとめてきました。

18期目を迎えたクラシコムは、2022年8月5日に東京証券取引所グロース市場へ新規上場を果たした後、まさに市場から「試される」一年だったといえます。結果として、2023年7月期通期の経常利益率は16.0%と、目標を上回って成長中。YoYの売上成長率も17.4パーセントと、前年よりも成長率をさらに高め、17期連続の増収増益を達成しました。

ビジネスの成長に加えて、テレビドキュメンタリー番組にも初めて登場。人気経済番組『日経スペシャル カンブリア宮殿』の特集や、朝の情報番組『THE TIME,』の出演といったパブリシティを経て、クラシコムや「北欧、暮らしの道具店」をより知っていただく機会にも恵まれました。

現在、「カンブリア宮殿」クラシコム特集回は、TVer/ネットもテレ東にて再配信中です(12月21日まで)

また、2023年4月には創業から初めてとなる新卒スタッフが入社、8月にはファッションD2Cブランド「foufou」がグループにジョイン。新たな顔ぶれも加わって、社内にはフレッシュな空気が届けられました。

2023年の主なできごと

様々な動きがあるなかで、青木と佐藤にも、意識の変化や習慣の見直しがあったと言います。それらの内面的な変化も踏まえながら、次なる年への道筋を照らしてみましょう。

「これまで以上に模索していく勇敢さを持とう」

8月の株式上場という節目があったことで、昨年は「頭がそれでいっぱいだった」と佐藤は苦笑い。ようやく気持ちが切り替わったのは2022年末頃だったそう。

佐藤:
「自分のモードが明確に変わってきた!という感覚がありました。新しい動画番組『あさってのモノサシ』やコラボレーション商品を企画したり、次に作りたいドラマを構想したり。お客様と対面できる試着会イベントも絶対に催そうと決めました」

40分という初の長尺ドキュメンタリー「あさってのモノサシ」2023年9月公開

初めての試着会を2023年10月に実施(レポートはこちら)

佐藤:
「2023年は『やってみたかったこと』を進められましたし、未来に向かってお客様へ改めて自己紹介したい、という気持ちが大きかったです。お客様と「今の私たち」としてもう一度向き合いたいという新たな願いが出てきたのかもしれません。年齢を重ねた私が、次なる普遍的な価値を求めて、それをいかに作っていけるのかを考えるようになりましたね」

佐藤の「モード」が変わった背景の一つに、「北欧、暮らしの道具店」の店長業務の多くを、社員へ任せられるようになってきたことも挙げられます。

また、クラシコムは役員体制を変更して、佐藤は2023年11月より取締役副社長に就任。この就任を青木は「10年くらい前から共同代表になろうと呼びかけてきた」と歓迎しますが、今日にその決断が至ったのは、佐藤自身の意識の変化も大きく働いています。

佐藤:
「株式上場を経て、自分が生きている間だけでない時間軸でクラシコムや事業のことを考えるようになってきたんです。副社長という会社の明確な2番手になって、自分の管掌部門をトップとして見ていくだけでなく、自分の管轄下でないところに関しても、これまで以上に模索していく勇敢さを持たないといけないと考えました。

実はこの2年間ほど、社外の方に『店長』と自己紹介するだけでは、自分が会社の中で担っている役割を言い表しにくい時期が続いていました。それに、自分には『副社長』なんて務まる器がない、『店長』という役割がぴったりじゃないか、とも。今思うと、自分で自分にそういうレッテルを貼っていたんですね」

佐藤:
「でも、株式上場を経て、会社としての見られ方が変わるなかで、自分もその変化に食らいつきながら、もっと自分ごととして現状を捉えるさらなる覚悟が出てきました。『ウーマン・オブ・ザ・イヤー2023』や『ボールド ウーマン アワード 2023』といった、働く女性を対象にした賞で選んでいただいたことも、レッテルを自ら剥がし現実に向き合う機会だったと感じています。

とはいえ、これまでも模索していくような役割は担っていたと思いますし、社員からの見られ方も変わっていないはずですが、副社長という役付きになることで、さらに頭と体がしっかり連動できるような感覚があったんです」

組織的な成熟と、マネージャー支援の取り組み

佐藤が副社長に就任する決意をしたことにも関連しますが、青木と佐藤が長年続けてきた「習慣」にも変化が表れました。それは、毎週月曜日の朝に行っていた「二人だけの定例会議」を、毎週から隔週へ変えたことです。

ささいなことに思えるかもしれませんが、佐藤は「すごく大きな転換点だった」と話します。青木もその言葉に頷きますが、背景にはクラシコムという会社の「成熟」がキーワードに挙がりました。

青木:
「ある時から、佐藤さんが僕のために、毎週の定例会議を開いてくれるような感覚があったんですよね。僕の不安を解消するためだけに説明を受けるような時間になっていました」

青木:
もちろん、僕も会社や事業について隅々まで把握しておかないと不安だったり、それこそが僕なりの責任の果たし方だという意識は強くありました。常に起きていることに関心を寄せ、問題意識を持ち、必要があればいつでも介入する覚悟も持ってきた。

ただ、現実問題として、その心構えが会社全体の成長を阻害しかねない、とも感じるようになったんですね。むしろ、僕がジャッジする環境下で動くことの方が、社員が適切に動きにくい理由になるかもと。ちょうど2023年の初めくらいからです。もちろん、岐路に立つような意思決定は僕にしかできない仕事なので、それは変わりません」

青木は社員がよりパフォーマンスを発揮できるような環境を考えると共に、佐藤や執行役員たちの働き、クラシコムの「人と組織にまつわること」を全て担う「人事企画室」の施策などを通じて、組織的な「成熟」を見てもいました。

青木:
「2020年から執行役員制に変えて3年が経ち、経験値も貯まってきました。また、重要視したのは各部署のマネージャーたちが抱えやすい痛みを減らして、マネジメントの充実度を上げることです。そのためにも、マネジメントのために使える考え方や施策を言語化して、多くの『道具』として手渡せるように努めてきました。

その取り組みの一つが、通常はリモートを中心に働いている中で、半年に一度、リアルの場で全社員が集まる『全体会議』の実施です。そこで僕の口から、時々で必要だと思えるテーマを全体へ説明する時間を取るようにしました。

ちょうど、キャリブレーション(※クラシコムの人事評価制度。詳細はこちら)の時期と重ねることで、僕の説明を踏まえて今、各社員が期待されていることのフィードバックもしやすいのです」

2023年7月に開催された全社会議では、青木から取り組みの振り返りや、来期も一人ひとりが健やかに働きつづけるため「コンフォートゾーン」をテーマに話しました。

キャリブレーション会議の様子。半年に1回経営陣とマネージャー・人事担当が集まって、全社員のロール(役割)についてすり合わせを行い、後日、マネージャーによって各社員にフィードバックされます。

青木:
「今、新任マネージャーの誕生をきっかけに、クラシコムのマネジメントで大切にしている考え方をまとめたテキストも準備しています。

マネージャーたちはみんな概ね正しく意思決定をして努力ができるし、問題があってもディスカッションしながら解消できるようになった。僕があえて出張っていくようなシーンも減りましたね」

また、マネージャーの支援策としては「ペアマネジメント」も特徴です。人事企画室にマネジメント支援機能を持たせ、難しい課題にも、マネージャーと人事が二人三脚で対応できるように。キャリブレーションのフィードバック面談などにおいて、期待値のすり合わせがしやすくなるよう、伝え方を考案したり同席したりと、マネージャーに伴走する仕組みを作りました。

参考:マネジメントや社内コミュニケーションに関しての取材記事。
【Agend】『北欧、暮らしの道具店』は、無理はしないが手は抜かない。健全な事業成長をするチームとは」(2023年9月公開)

トップとしての「徳」を積む意識

青木:
「本当に順調に、僕自身の仕事をなくしていっているし、それがなくても困らない状況をどんどん作れているんじゃないかと思っています。

この1年間で、様々な本を読んで『無意識の認識』について考えました。自分の無意識が周囲に影響を及ぼしてしまうことがあるなと」

青木:「僕自身が無意識的に反応してしまうこと、反射的に思ってしまうこと、介入してしまうことが周囲を邪魔しないように、そして、どうすればさらに良い方向へと進ませることができるのか。まさにこの一年は、僕自身の無意識的な世界認識を変えようと試みてきました」

自分自身の働きかけで解決したり、理解できたりすることが減っていくほど、青木は「会社で最弱な存在」としての自分をより認識するようにもなったと言います。最弱であるがゆえに、自らで会社の全てをコントロールしようとして、パフォーマンスを発揮している社員たちとの信頼関係を損なうことを避けたいのです。

青木:
「これからの僕がトップとして求められている役割は『徳』を積むことだと思って、この1年間は特に意識してきました。具体的な未来に対する打ち手を考案するといったことよりも、徳のある存在として、困った時に誰かが助けてくれる状況を作りやすくすることが大切なんです。社員が助けてあげたくなる、支えたくなる存在であれば、悪い状況が起きたときにも好転しやすくなると考えています」

株主がクラシコムに期待している3つのこと

株式上場後の1年間で、青木や佐藤が意識的に自己変革を進めるなか、クラシコムという会社も自らを定義し直してきました。一例としては、マーケティング専門部署である「プロダクトマーケティンググループ」を2月に発足。また、初めてとなる新卒社員の採用、さらには「foufou」がグループジョインするなど、進化を見せています。

8月にはfoufouがグループジョイン

初めての入社式の様子はこちら

その中で、青木は上場企業としてのクラシコムのあり方について、一つの見通しを持ったと話します。

青木:
「この1年間、機関投資家や個人投資家にかかわらず、いろんな関わりを持ってコミュニケーションしてきましたが、クラシコムは株式として、どういった銘柄を目指すのかといったコンセプトが明確になってきたんです。それが『割安なら買いたい銘柄』という言葉に集約されるかなと。

足元は順調に成長を続けていますし、当面はそれが阻害される要因も見当たりません。しかし、事業である限り良い時期も悪い時期もあります。でも、会社としての信頼感があれば、割安になったときには安心して買える株式になれるはず。

割安だと感じる時には安心して買い増せる、割高だと思う時には一部を売って利益を得られる。そういう当たり前の取引を安心してできる状況が、僕らの目指す株式の姿なんだと思っています。

でもそれは簡単じゃない。昨今語られているPBR(*)1倍割れで放置されている銘柄がたくさんあるという事実は、単に割安なだけでは魅力がないことを示しています。本当の意味で『割安なら買いたい銘柄』になるためには日頃のIR活動や決算発表、ガイダンスの内容が信頼に値するという評価を時間をかけて得ていく必要がありますし、なにより社会にとって意義と有用性のある事業をやっている、応援したくなる会社であり続けなければいけない。

地道に事業を磨き、経営品質を高め、信頼感ある情報提供を続けることで少しづつその理想に近づきたいと考えています」

*株価純資産倍率。

10月に初めてリアルの場で開催された定時株主総会。登壇した取締役陣。

急遽、席数を増やすほど多くの株主のみなさまがご来場くださいました。

さらに、佐藤は、はじめての株主総会で実際の株主と向き合うことで、佐藤が株主総会で伝えた言葉から、「株主がクラシコムに期待している3つのこと」が見えてきたと言います。

1.本当のことを言っているのか
2.考えを尽くしているのか
3.未来へ希望を持っているのか

佐藤:
「株主総会というリアルの場を控えて、正直すごく緊張していたんです。でも、10月の中旬にお客様と直接触れ合える試着会イベントを開いて、10月末に株主総会で個人投資家の方々とも触れ合ったら、全く同じような高揚感がありました。

この高揚感の源ってなんだろう?と思ったところから、3つのコンセプトが見えてきましたね。頭では、お客様と向き合うように株主にも向き合おう、と思っていたけれど、それが腑に落ちたようで、体でも実感できました」

佐藤:
「メディアから取材を受ける時に、ありがたいことに『信頼される、愛されるお店だ』と言っていただくことがあって、その秘訣を聞かれることがあるんです。去年くらいから答えは一つだと思っていて、それは私たちがお客様を信頼していること。要は、信頼されようとしているよりも、私たちが信頼しようとしているのが大切です」

青木は株式上場を選んだ背景の一つに、「信頼しようとする」相手の範囲を株主や投資家といった人たちにも広げることが可能なのではないか、という仮説があったと話します。株主はときに経営陣と対立構造で語られることも多いもの。しかし、ともすれば同じ株式を有して、共に歩む仲間のようにもなれるかもしれない、と考えたのです。

青木:
「お客様とお店という関係も、お互いの利害を主張し合う相手になることもできるけれど、同じブランドを一緒に育てることもできますよね。理想論かもしれませんが、今後も時間をかけながら、株主との有りたい関係性を実現できそうな見通しが立ったのは大きいです。

世界が自分たちにとってさらに心地よい場所になり、フェアにユニオンできることが証明された方が、心地よい社会にもなれるはず。僕としては『北欧、暮らしの道具店』を開店して、ECモールから出てメディア化していくことを決めた時にも近しい感覚なんです。この感じでコツコツと積み上げたら、幸せな世界が待っているんじゃないかなって」

佐藤:
「うんうん。そういう世界が存在するよね、ここから信じて進んでいいよね、と感じられたのは、この1年間でも大収穫でした。本当のことを言っていて、その上で考えを尽くしていたら、テキトウな希望なんて示せない。みんなが『それ、いいね!』と思えるような、希望のある世界を作る責任が、経営陣には課せられているんだと思います。それこそ、自分自身がこの先の人生を懸けてでも、やっていきたいことです」

成熟の先に、さらなる希望を広げる

「上場企業」であるクラシコムとしての進みたい道が見えてきたように、「北欧、暮らしの道具店」もさらなる進化をしています。

青木:
「最近の『北欧、暮らしの道具店』は、コンテンツの編集には関わっていない僕から見ると決してわかりやすいコンテンツばかりではないけれど、とても良いところを突くな、と思うような企画も増えていて。

それは、スタッフが成熟しているということかもしれませんし、お客さまも同じように変化があると考えてのことなのかもしれません。かといって、『北欧、暮らしの道具店』の発信が一気にガラッと変わるわけではありませんが、チューニングしつつあることを様々なところで見聞きする機会が増えました」

2023年に公開した特集一覧

2023年の社史は、あらゆるところで「成熟」というフレーズが飛び出ました。成長と共に成熟を増す、そうしてさらなる希望を広める。クラシコムが先へ進もうとする姿に、また頼もしい追い風も吹いています。

2024年春には、国立駅南口に開業予定の木造商業ビル「nonowa 国立 SOUTH」に新オフィスを開設予定。立地条件やサステナビリティに配慮された「ソーシャルグッドリビング」というテーマと、クラシコムのミッションとの親和性から入居が決まりました。

次なる社史は、きっと、爽やかな木の香りを添えて、新たなオフィスからお届けすることになるでしょう。

■2023年おもなできごと
1月
BRAND SOLUTION LIVE 2023 開催
ポッドキャスト「チャポンと行こう!」初のオリジナルグッズ発売
2月
累計5万本販売の定番ボトムス、5年目の新作発売。靴下は3年で8万足販売
Spotifyプレイリスト フォロワー10万人突破
ポッドキャスト「チャポンと行こう!」初LINEスタンプ発売
4月
クラシコム初の入社式
テレビ東京系列「日経スペシャル カンブリア宮殿」出演
オリジナルコスメ3周年『香菜子さんとつくったほんのり色づくカラーリップバーム』発売
6月
スマホアプリが3年で300万DL突破
8月
ファッションD2Cブランド 「foufou」を子会社化
9月
foufou、デンマーク老舗ブランド「アルネ・ヤコブセン」とコラボで初の腕時計発売
「プライバシーマーク(Pマーク)」を取得
10月
初の試着会開催
エンジニア向けトークイベント 第4弾開催
新オフィス・木造建築の商業ビル「nonowa 国立 SOUTH」へ
TBSテレビ 『THE TIME,』にて特集を全国放送
役員体制変更
11月
Women Developers Summit 2023 協賛
「ボールド ウーマン アワード 2023」佐藤友子がファイナリスト選出
12月
初のスキンケアアイテム発売

■クラシコムの歩み(社史)
第1回:2006年〜2010年「北欧、暮らしの道具店」が生まれるまで
第2回:2011年〜2015年 ネットショップからECメディア
第3回:2015年〜2019年  オリジナルコンテンツへの挑戦
第4回:2020年 映像制作とアプリがもたらす新たな実り
第5回:2021年 「ライフカルチャープラットフォーム」としての進化
第6回:2022年 株式上場という「新たな手段」が可能性を広げる
第7回:2023年成熟を信じ、成熟に支えられ、新たな「3つの期待」を胸に進む