2025.06.18

顧客理解を深め、心地よい体験を生み出すアプリ運用の裏側は? 累計400万DL「北欧、暮らしの道具店」マーケティング担当インタビュー

書き手 白方はるか
顧客理解を深め、心地よい体験を生み出すアプリ運用の裏側は? 累計400万DL「北欧、暮らしの道具店」マーケティング担当インタビュー

「北欧、暮らしの道具店」のiOSアプリのリリースから6年。iOSアプリ、Androidアプリの累計ダウンロード数は400万を突破し、新規ダウンロードから30日間の1人あたりの平均購入金額(ARPU)は、2021年から2024年までの約3年間で186%に成長しています。現在では「北欧、暮らしの道具店」の売上の7割以上がアプリ経由に変化するなど、6年間でクラシコムにとって大切なチャネルのひとつに成長しました。

今回は、そんな「北欧、暮らしの道具店」のアプリの開発と運用を担っているクラシコムのシステムプラットフォーム部 部長・執行役員の村田(写真中央)と、プロダクトマーケティンググループのデザイナー白木(写真右)に、アプリの運用を通じてお客様とのつながりをどのように深めているのか、その裏側について聞きました。

SNSに依存しない独自のプラットフォームを目指して

▲2019年11月にiOSアプリ、2020年4月にAndroidアプリを提供開始。2025年には400万ダウンロードを突破

── アプリ開発の背景を教えてください。

村田:検索エンジンのアルゴリズムやSNSの仕様変更など他社サービスへの依存をできるだけ小さくするために、独自のプラットフォームをつくってみたいという動機からアプリ開発がスタートしました。

また、アプリなら「北欧、暮らしの道具店」がさまざまな方法でお客さまに届けている体験をひとつの場所に集約し、シームレスにその世界観を楽しめる場所を実現できるのではないか、と希望も感じていました。

社内外とグループを横断した最小限の運用体制

── 現在の運用体制は?

村田:社内外含め10名ほどの体制で、売上規模に対してはミニマムなチームで運用しています。 立ち上げからほとんど変わらない規模感で、運用はシステムプラットフォーム部に所属する社内のエンジニア5名(アプリ専属ではなく他の業務も兼務)、開発は外部パートナーのSun Asterisk社のエンジニアが複数名携わっています。

僕が管轄するシステムプラットフォーム部のプロダクトマーケティンググループは2名で、白木さんが アプリのデザインや体験設計、要件定義を担当し、もうひとりのスタッフが、アプリとSNSの連携や広告まわりを担当しています。

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── プッシュ通知やVMD(※)もプロダクトマーケティンググループが担当しているのですか?

村田:アプリの骨組みにあたる部分をプロダクトマーケティンググループが担当し、プッシュ通知やVMDといったコンテンツ企画については「北欧、暮らしの道具店」のエディターやMDが担当しています。ですので、プロダクトマーケティンググループがアプリにまつわる全てのクリエイティブをコントロールしているというわけではありません。

「北欧、暮らしの道具店」はアプリやWebのコンテンツだけでなく、SNSやプッシュ通知でお届けする日々のメッセージにいたるまで、全てのコミュニケーションが顧客へお届けするサービスのひとつだという考え方を持っているからこそ、このような役割分担になっているのだと思います。

※Visual Merchandising:店舗を視覚的に演出することで購買意欲を高め、売上向上につなげるマーケティング手法

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顧客の体験や行動を深く観測。アプリだからこそできる改善方法

▲アプリ開発にあたって設定したコンセプトは「忙しい一日の始まりと終わりに一息つける。いつ開いても北欧、暮らしの道具店の世界に戻ってこられるアプリ」

── 顧客理解のために、数値面で重視していることは?

村田:ひとつのKPIを追いかけているわけではありませんが、新しいユーザーが翌日も使っているか、その後も継続して使っているか「継続率」は重視しています。またそもそも新たに使い始める方がどれだけ増えているのか「ダウンロード数」や、売上基盤を支えるチャネルの一つでもあるので購入に至っているかどうか「購入率」も細かに見ています。

Webと異なり、アプリではユーザーの行動を画面単位で把握できるうえに、一人ひとりの一連の体験を深く観測できるので、お客さまが日々の暮らしのなかでどんなふうにアプリに触れているのかは細かに追いかけるようにしています。

── 使い続けてもらうための改善はどのように行っていますか?

白木:アンケートとコメント(レビュー)の大きくふたつから改善の種をみつけています。前者は、年1回実施している「北欧、暮らしの道具店」のお客さまを対象としたアンケートと、アプリを新しくダウンロードしたお客さまに表示しているアンケートです。後者は、日々「北欧、暮らしの道具店」に寄せられる声とアプリストアに届くレビューで、寄せられるコメントの中には、具体的な課題もありますし、漠然とした課題もここでみつかります。

▲アプリの改善リスト。RICE(Reach, Impact, Confidence, Effort)の4つの項目に1〜3でスコア化して優先順位を決めています

最近では、広告経由でインストールしてくださった顧客が目的の商品にたどり着けないという課題が浮き彫りになり、具体的にどこを改善すべきかリストをつくって優先順位をつけ、対応しているところです。

アプリだからこそ実感できる、顧客との距離の近さ

── アプリを通じて、顧客についてわかったことや発見は?

村田:一番の驚きは、距離の近さですね。アプリはホーム画面からワンタップでアクセスできますし、プッシュ通知で特定のコンテンツへもスムーズに誘導できます。DAUやMAU(※)、訪問頻度もWebと比較して高く、一人あたり月平均15回アプリを使い、半数以上が6カ月後もアプリを起動していることがわかりました。単なるECにとどまらない“お客さまと距離の近い”場所なのだなと感じています。

※ DAU:1日あたりのアクティブユーザー、MAU:1カ月あたりのアクティブユーザー

▲「北欧、暮らしの道具店」のウィジェットは1日に2,3回更新。全体のDAUの10%がウィジェット経由でアプリを起動している

白木:プロダクトマーケティンググループでは、UXリサーチを目的に当店のお客さまを対象としたインタビューを実施していますが、一人ひとりがアプリを「大切な場所」と感じてくださっているのが伝わってきます。お客さまから「信頼」という言葉を寄せていただくことも多く、スピードや機能的な意味ではない、好意のある人や場所へ寄せるような愛着を感じられます。

インタビューをした方の中には、夜のプッシュ通知を時報のように受け取り「そろそろ一息ついて、子どもの寝かしつけをしようかな」と毎日の生活リズムに組み込んでくださっている方も。こうした話を聞く度に「北欧、暮らしの道具店」のアプリをつくってよかったな、と感じています。

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