クラシコムの仕事を深堀りするインタビュー企画「北欧、暮らしの道具店の裏側」。今回話を聞くのは、外部クリエイターやお客さまとの橋渡し役(=ゲートキーパー)を担う、メディア編集グループの津田です。
企画と原稿のクオリティを維持するために大切にしていること、世界観の一貫性を保ちながら新しいテーマに挑戦するときの心構えなど、「北欧、暮らしの道具店」のゲートキーパーとして、日々の仕事で意識していることを詳しく聞きました。
写真:メディア編集グループ・津田
企画は編集方針に沿って徹底的に言語化する
▲津田が企画から執筆まで担当した商品開発秘話
–– 「北欧、暮らしの道具店」のコンテンツ編成について教えてください。
当店の読みものは、暮らしから生まれる素朴な疑問をもとに取材を行う「特集」、作家、歌人、文筆家、随筆家の方に執筆いただく「連載エッセー」、オリジナル商品をスタッフがご紹介する「スタイリングサービス アパレル編 / 雑貨編」、「企業タイアップ」など、さまざまなタイプの企画があります。
私が担当している1カ月の企画は、ある月を例に挙げると約7本。特集が2本、連載エッセーが2本、スタイリングサービスが2本、企業タイアップが1本といったかんじです。編集スタッフが執筆や撮影を担当する企画も、外部の方と協業する企画もあります。制作体制は記事ごとに異なりますね。
–– 企画で最も大切にしていることは何ですか。
どんな企画でも大切にしているのは、編集方針です。編集方針の大まかな骨子は、私たちみたいな誰かのためのメディアであること、フィットする暮らしをつくるために新しい視点をお客さまと一緒にみつけること。お客さまがフィットする暮らしのヒントを持ち帰れるような企画を目指しています。
そして編集方針を礎にした企画を立てるのに必要な作業が「言語化」です。頭で考えたことを、一度は必ず人に伝えるつもりで、とことん言葉に落とし込みます。
▲編集方針について社内用にまとめた読本「KURASHICOM BOOK 1」。この制作を担当したのも津田。(詳しくはこちら)。「北欧、暮らしの道具店」の編集方針は、こちらの記事でも詳しく紐解いています。
–– 企画書にまとめるとき、意識していることは?
「なんとなくよさそう」から一歩踏み込み「なぜ今このテーマで、この人に取材しようと考えたのか」を文章にします。「このテーマで、今この人に話を聞く企画は、この1本しかない」という気持ちで、ユニークな視点がどこにあるのかを突き詰めますね。そして言葉にするときは、伝えたいことを具体的かつ、ぐっと絞る。私たちがどんな方針の媒体で、私がどんな編集者で、どんな動機をもって依頼をしているのか。誰が読んでも、なぜ私が企画したのかすぐに伝わるレベルまで、言葉を噛み砕きます。
クオリティの一貫性を保つために気をつけていること
–– 外部クリエイターとのコミュニケーションで気をつけていることは?
ライターやカメラマンなど外部の方と協業するときは「なんとなく雰囲気が合っているから」ではなく、テーマを表現するのにふさわしい方へ、企画の意図をもってお声掛けしています。また外部の方と自分自身の目線をすり合わせるために、事前に「北欧、暮らしの道具店」のミッションや方針をたっぷりとご共有させていただくケースもあります。
例えば原稿に修正が必要な表現がある場合、端的に修正方法を指示するのではなく、どこに違和感を感じたのか、なぜ修正が必要と思うのか「媒体の編集方針だから」という理由だけでなく自分の言葉で丁寧にお伝えする姿勢で臨んでいます。そのすり合わせをした上で、どのように修正を進めるかライターの方のご意見も伺う、という流れでコミュニケーションしています。
–– 原稿のクオリティにおける一貫性はどのように担保していますか。
最近は、編集や執筆のナレッジをまとめた資料を、チーム内で共有しています。これは昔から行っていたわけではなく、チームが大きくなってもサステナブルなメディアであり続けるために、必要を感じて始めた取り組みです。
例えば、タイトルは「たくさんの人に読んでもらうため」、見出しは「読み始めた人に最後まで読んでもらうため」という前提のもと、どんな言葉を選び、どの点をチェックしたら良いか、普段自分が意識していることをまとめています。
チームで具体的な記事を例に挙げながら「なぜこの記事がたくさん読まれたか」「もっと読んでもらうためにはどうしたら良いか」を考えるワークショップを実施したこともあります。
自由演技ではなく「今の空気」に触れながら調整する
–– 新しいテーマに挑戦するとき、一貫した世界観とのバランスをどう意識していますか。
私個人は、同じテーマを続けるよりも、どんどん新しいテーマに挑みたいタイプ。テレビ番組なら『世界ふしぎ発見!』や『クレイジージャーニー』が好きで、一見すると「北欧、暮らしの道具店」の世界観から少し遠いところにあるテーマにも興味があります。
そんなこともあって、新しいテーマを他のスタッフに相談すると「このテーマは共感しづらいかも」と返ってくることがあります。でも、家の本棚が全部馴染みのある本だけしかないのは、つまらないと思うのです。家族が持ってきた意外なテーマの本がほんの数冊でも並んでいたほうが、少しだけ興味が広がったり、思わぬところで自分の生活と繋がったりするかもしれない。個人的には、そんな役割の企画が「北欧、暮らしの道具店」にあってもいいんじゃないか、と考えています。
だからこそ新しいテーマに挑戦するときは、編集方針に立ち返ることを忘れません。完全に個人で自由演技するのではなく、ひとりの読者として「北欧、暮らしの道具店」を楽しみながらも、一方で予定調和すぎないか、似たような企画が多くて飽きないかと、常にアンテナを張り、じゃあ今どんな企画を読みたいだろう? と新しいテーマを考え始める。
そしてそれがお客さまに共感いただけるようになるまで、店長佐藤やチームのミーティングで出てきた言葉など当店に流れる「今の空気」に触れながら、方向性を調整したり、他のスタッフの意見を聞いてみたり、しっかりと企画を揉んでから、形にしていきます。
▲特集『ポケットに詩を』。好きな詩を見つけることは、自分を見つけることかもしれない。そんな思いを胸に絵本と詩集の出版社「童話屋」の田中和雄さんに話を聞いたインタビュー企画。
昨年新しいテーマに挑戦した企画をいくつか例に挙げると『ポケットに詩を』『これからの生きかた(ウェルビーイング)』『日々は言葉にできないことばかり』……。ありがたいことにどの企画もお客さまから、嬉しい反響をいただきました。いずれも細やかにすり合わせた上で掲載している企画ですが、記事を公開するまで、お客さまの反響はわかりません。新たに挑戦した企画が、フィットする暮らしづくりのヒントになったかどうか、いつも結果をお客さまから教えてもらっています。
新しい企画は日々の積み重ねから
–– 企画のもとになるインプットは、毎日どうされていますか?
気になった本のタイトルから購入したい服まで、スマホのメモ帳になんでもメモしています。企画として提出を見送ったアイデアも、ここにメモしていますね。
記録を続けていると、気になるテーマに暮らしの中で再会することがあって、それが企画につながることがあります。例えば、小原晩さんの連載エッセー『お星さんがたべたい』は、書店で偶然、彼女の書籍『これが生活なのかしらん』を手にとって、読了後に『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』の著者だったのかと気がついたのがきっかけで。そのあとも6,7年ほど担当をしていた大平一枝さんが書評を書かれていたのを見つけたり、YouTubeの新番組『1時間あったら、なにをする』にご出演いただいた安達茉莉子さんとトークイベントをされているのを見にいったり、自分のアンテナの引っかかるところで何度も小原さんに再会する体験を経て、新鮮さだけでない企画の深い動機がみつかったように思います。
–– 急にひらめくのではなく、日々の積み重ねなのですね。
『1時間あったら、なにをする』の企画づくりに参加したとき、そのふりかえりで「他のどこにもないような企画をと、素晴らしいきらめきを掴もうとするのって、結構難易度が高い。アイデアが降りてくるのを待つよりも『これおもしろいな』と日々の中で純粋に感じる事柄を集めて『それはなぜ?』『どこが好き?』と自分に問うこと、その答えをきちんと自分の言葉としてアウトプットすることが、企画につながるんじゃないか」なんて話をしました。
誰も見たことのないような景色をいっぺんに目指したり、芯を食うようなアイデアが降りてくるのを待つのではなく、日々の生活で感じる小さな気づきのたねをコツコツ集めていくしかない。続けていくうちに、やがて新しい企画の芽が出るのだと思います。
写真1,5枚目:メグミ
写真3枚目:平本泰淳
写真6枚目:キッチンミノル