2021.03.15

我々はなぜシステムを内製してきたのか、我々は何者か、我々はどこへいくのか。

代表取締役社長 青木耕平
我々はなぜシステムを内製してきたのか、我々は何者か、我々はどこへいくのか。

こんにちは、クラシコム代表の青木です。

普段はエンジニアが書いているこのブログですが、今日は僕もちょっとお邪魔して、これまでのシステム開発のことについてお話しさせてもらおうと思います。

「なんでスクラッチでシステムを内製しているんですか?」

僕たちは北欧、暮らしの道具店というECメディアを運営していますが、なぜシステムを内製しているのかというのは、同業者や仲間の経営者からよく聞かれる質問です。

そして僕が一度もうまく答えられたことがない質問でもあります。

あまり知られていないのですが弊社では社員7名+フリーランサー2名、そしてベトナムにパートナー会社さんが用意して下さっているチームに5名ほど、合計14名ほどの開発者が関わって「北欧、暮らしの道具店」を構成するWEB、アプリ、各種管理システムなどをスクラッチで内製してきました。

また副業等で関わってくれてるデータサイエンティストやデータエンジニアやインフラ面のアドバイザーなども含めるとわりと多くの人が関わってなりたってるんです。(社内のチームも、パートナーも所属こそ違えど弊社側の仕様策定や開発計画の立案と管理の下で開発を進めているという意味で内製という言葉を使っています)

社員数がやっと70人に届いたか?という規模の会社ですからまあまあの規模です。しかも全社員の20%をデベロッパーにすることを目指しているのでまだまだ増やさなくてはいけません。

モールやSaaSといったプラットフォーマーではないEC事業者であれば、システムベンダーのパッケージを利用したり、shopifyやBASEのようなSaaSを利用したり、自分たちで内製するにしてもEC-CUBE、MagentoなどのOSSをカスタマイズするくらいにしておくのが普通です。

なので前述の「なんでスクラッチでシステムを内製しているんですか?」という質問が出るわけですが、端的に言えば「メリットはあるんですか?」もっと言えば「合理性なくないですか?」と詰められているようなものです。

システム内製に舵を切った背景

僕らが社内にデベロッパーを迎えてシステムの内製に取り組み始めたのは意外と古く2013年のことです。その頃はカラーミーショップというサービスを利用させていただき、とてもありがたく使わせていただいていました。

でも、ECのサービスはお客様へのサービスの99%以上がシステムを通じて提供されていることを考えると「システムはみんなと同じ」でその「活用方法で差別化」するのでは結局商品、コンテンツ、マーケティングという部分でしか勝負できずユーザー体験を根底から変えるようなイノベーションを起こすチャンス自体がないことにつまらなさも感じていたころでした。

また自分自身が「つくる」ということが大好きなのと、自分が使っているものを「深く理解したい」という欲求が強いというのもこの選択をしたことの大きな理由になっていると思います。自分が使っている道具、というよりサービスそのものであるECのシステムを深く理解して自在にコントロールしてみたかった。

確かに内製したことで僕らは使いやすい道具を得て生産性を高めることができましたし、自分たちのサービスにあったユーザー体験を提供できる機能を実装することもできました。

ただそれが「スクラッチで内製」することでしか得られないメリットかと言えばそんなことはなく、逆にSaaSが良い機能をどんどんリリースするのを横目に、技術的な負債をコツコツ返済する時間を過ごすなんてこともあるわけです。

一方僕らがシステムの内製をはじめた2013年から現在に至るまで売上は10倍以上に成長しています。モールやプラットフォーム上で商いをしていないインディペンデントなEC事業者としては国内でもまずまずの規模に到達し、これからもしばらくは急速な成長が続けられそうな見通しです。

この事業成果に対して僕らが「スクラッチで内製」を選択してきたことは寄与していないのか??そんなことはないはずだけどうまく言葉にできない……そんな日々が続いていました。

内製で得られたコアな競争力とは?

しかし先日デベロッパーたちと僕らの選択によってもたらされた「コアな競争力」はなんなのか?を議論したときにようやくその答えの片鱗が見えました。内製をはじめて足掛け8年目にしてようやくです。

僕らが僕らのビジネスのためのシステムを「スクラッチで内製」するためには、まず自分たちの事業と顧客と外部環境とオペレーションを相当深く理解し、抽象化することが求められます。そしてそれは最終的に自分たちのビジネスの今にフィットしておりかつ、将来見込まれる変化や成長を織り込んだ「データモデル」に結実します。

そしてその自分たちのビジネスに対する解像度高い理解と抽象化して表現するための力はデベロッパーだけにあれば結実するわけではありません。

これは事業会社のシステム開発部門でお仕事をされた経験のある方はわかると思うのですが、経営とユーザー部門とデベロッパーという関係する全てのステークホルダーに自分たちのビジネスをシステム化していくこと、今流に言えばDXしていくことを前提とした解像度の高い把握力と抽象化力が求められるのです。

僕らは今この時点をスナップショットで切り取るとECのプロダクトとしてなかなか面白いものをつくれているとは思いますが、圧倒的に差別化できている何かを実現できているとは言い難いですし、前述のデータモデルについてもまさに現時点での理想を実現するためのプロジェクトが進行中なわけなので「スクラッチで内製」してきたからこそ他のEC事業者にはないシステムプロダクトでUXや生産性に圧倒的な違いをつくることができたというわかりやすいメリットを提示できるところにはたどり着いていません。

しかしすでに得ているものがあり、それが圧倒的なUXと生産性の差を生み出し、事業の急速な成長をもたらしているのです。それは何か?

それはデベロッパー、ユーザー部門、経営が一体となって自分たちのシステムを自分たちでつくることを足掛け8年続けてくることによって、社内に浸透しているカルチャーとケイパビリティです。

自分たちの仕事をシステム化することに高いリテラシーと能力を持ち、より良くしていくことに意欲があり、それを主導するデベロッパーに対するリスペクトを持つカルチャーを築くことができていること、このカルチャーとケイパビリティを築くことができたことこそが我々のこれまでの成長を促進してきたことは間違いなく、システム内製の成果そのものではないかと。

デベロッパーだけが開発をしているわけではない

弊社でデベロッパーとして仕事を始めるとすぐに気づくと思うのですが、各ユーザー部門には自分たちの業務を抽象化、構造化してして説明し、データをどのように持ち、それをどう処理することで成果を生み出せるかをデベロッパーたちと対等にディスカッションできるスタッフがたくさんいます。

開発のテーマやスケジュールはデベロッパーたちに委ねられていますが、経営も状況を理解しプロジェクトを成功に導くために共に肩を並べて働く仲間として、毎週いくつかのMTGに参加しディスカッションを重ねています。

ユーザー部門からシステムに対する建設的な提案は多く上がるものの、デベロッパーたちのリソースの有限性や、すぐに生産性の向上や収益の向上に結びつくような機能の実装よりも、インフラや開発環境、技術的な負債の解消の優先順位が高くなる場合があることを理解しており、社内の無理解にデベロッパーが疎外感を感じるようなことはないと言って良い状況があると思います。

またデベロッパーも進んでユーザー部門のオペレーションを体験する機会を作ったり、ユーザーとの座談会に同席するなどの経験を通じて「顧客と仲間に貢献したい」という思いでまとまっています。

この全社的に自分たちの仕事を深く理解し、抽象化し、DXしていく力を身につけられていること、そしてその牽引役としてデベロッパーたちが自らが実現すべきことをデータモデル、アプリケーション、インフラ、UIで構想し設計し実装できる力を内包化できたことこそがこの8年の成果だったのではないかと思います。

誤解を恐れずに言えば我々が企業として「小売業」「メディア業」を営みつつ「ユーザー企業」から「テック企業」にトランスフォームするための8年だったと思うのです。

そしてその成果を土台にして、世界でも類を見ない特殊な(不思議な?)ビジネスモデルの「北欧、暮らしの道具店」というサービスをよりユニークで卓越したものに昇華していくために、やはり「プロダクト」として誰の目にも明らかな「これを作りたかったから内製してきたんだね」というものを作りたいとも思っています。

4年前の「ホラ」を現実に近づける一歩目

そしてそのためにもどうしても実現しなければいけないことが一つあります。

それは世のデベロッパーが一度はあのチームで仕事したいなと思ってもらえるような卓越した開発チームをつくるということです。

これを読んで「身の程知らず」だと笑う人もいるかもしれません。

今から4年ほど前デベロッパーのチームがいろんな理由で今流に言えば組織崩壊してしまいリードエンジニアがひとりと、まだ開発経験が浅かったジュニアなエンジニアがひとりの二人きりになってしまい、外部の協力者もおらず途方にくれたタイミングがありました。

そのときに僕は残ってくれたリードエンジニアにこういいました。

「例えば僕らのお客様の利用率が高いサービスのひとつに〇〇〇〇〇〇があるよね。僕が起業した2006年ごろ、〇〇〇〇〇〇は今のような規模の開発チームだったわけじゃなかった。ユーザー属性が限定的になりがちなサービスだったこともあり多分開発チームを作っていくのに苦労したこともあったんじゃないかな。

だけど彼らはその後素晴らしい開発組織をつくったし、多くのエンジニアにとって仕事してみたい卓越したチームをつくれたよね。ぼくらにもそのチャンスがないって誰が言えるだろうか。僕はクラシコムのデベロッパーチームが日本のデベロッパーからリスペクトされ、一緒に仕事したいと思われるチームにできるチャンスはあると思うし、できるまで諦めないよ」
(*注:〇〇〇〇〇〇には国内の素敵なWEBサービスの名前をそれぞれに当てはめてお読みくださいw)

残された彼は心細くてきっと途方に暮れてた上に、経営者はほとんどホラ吹きのようなことを言い始めたわけですから、きっと内心呆れていたことでしょう。

でもそれから4年がたって、社内にも10名近い優秀で気持ちの良い人ばかりのデベロッパーチームが形成でき、面白法人カヤックさんやSun*さんというパートナーにも恵まれ、数年前からUI/UXにおいてはTHE GUILD 深津さんにアドバイザーを引き受けていただき、経営においては社外取締役のソニックガーデン倉貫さんにサポートしていただく体制が作れて、ようやく「ホラ」を「現実」にするための一歩目が踏み出せそうな気配が漂ってきました。

そのチームが生み出したアプリはリリースから約一年で100万ダウンロードに到達しようとしていますし、それにともなってビジネスも急速に伸びています。

出来上がった素晴らしいチームに入りたいというよりは、共に素晴らしいチームを作りたいデベロッパーに是非仲間になってほしいです。そして今加わってくれたら、数年後「あのホラ実現しちゃったね」と笑い合えるという最高の幸せを共有できると思うのです。