企業のブランディングやマーケティングに携わる方から寄せられたお悩みに、クラシコムの代表取締役社長・青木耕平が「こうかな?」「こうかも!」とうろうろ思考を巡らせながら、お答えします。
*記事の最後に、青木へのお悩み募集フォームのご案内がありますので、ぜひご記入ください。
今回は、食品メーカー・通販部門のマーケティング担当者の方から寄せられたこんなお悩みです。
「ブランディングの費用対効果が見えず、不安に駆られることがあります。イベントやコンテンツなど、施策に費用をかけても数値になかなか反映されないため、計画段階で断念することも……。ブランディングにおいて、効果を証明できる数値や、不安な気持ちを昇華する方法があれば教えてください」
青木「そもそもブランディングってなんだろう?」
質問者さんは、そもそもブランディングってどんなものだと思いますか? 私は、サービスや商品の価値を磨き、その価値への期待を裏付けるエピソードを積み重ねる活動じゃないかと思っています。
(1)価値を磨く
まずは、人々の期待のマイナスにならない「良いもの」をつくることが、ブランディングの一丁目一番地です。もしすでに一定の利益が出ているのなら、それは誰かが求めているものをつくれているという状態で、ある意味ブランディングは成功しているのではないでしょうか。さらに心から興味深いと思えるものであれば、人は惹かれます。場合によってはほとんどコストも労力もかからずに広がっていってしまいます。まずは良いものづくりをして、そのうえでナンバー1であるとかこういうふうに差別化されているとかよりも、自分自身が「素敵だ」「興味深い」と感じるものになっているかどうかに軸をおいて、価値を磨くことがブランディングの一丁目一番地だと思います。
(2)エピソードを積み重ねる
さらに、ブランディングに必要なのは「エピソード」です。小説家であれば、良い作品を書くことは前提として、そこから周囲に認めてもらうためにコンペに挑戦したり、評論してもらったり、さまざまな活動を展開します。また自分の大好きな友人や尊敬してる人の本棚にその作家の本が並んでいたという体験もまた、価値を裏付けるエピソードになります。このようなエピソードがたくさんの方の中に蓄積していくことで、まだ読んでないのに「この作家の次の作品楽しみだな」と思ってもらえる存在になったらブランディングが成功したといえますよね。一方で試し読みして面白かったら買おうと思われているとしたら、まだブランディングの余地がだいぶ残っているのかもしれません。
つまりブランディングには、価値を磨くことだけでなく、エピソードの積み重ねによる価値の裏付けづくりが不可欠です。また、ブランディングにおけるエピソードは地層のように積み重ねていくものだと思います。
ひとつの例ですが、今年私たちがつくったオリジナルの楽曲とMV『わたしの星』は「ドラマも映画もつくって、今度はMVもつくったのか」「音楽もつくれるのか」と新しいイメージの地層を、1枚足せたことに意味を感じています。
長期を見据えてバジェット管理する
ブランディングが着実に価値を磨き、エピソードを積み重ね続けるものだと考えたうえで、数字の指標を持つには、バジェット(予算)を管理するしかないと思います。短期的な売上や利益にポジティブな影響があってもなくても困らない範囲で予算を組み、長く続けていく。費用対効果という考え方よりも、コツコツと税金を納めるような感覚に近いかもしれません。
よくプロモーション予算についても質問をいただきますが、エピソードをお届けするためのチャネルのひとつがプロモーションなので、すでに独自の価値があって、その価値を裏付けるエピソードが人々の中で積み重なっていけば、求める成果に対するプロモーションコストは自ずと下がると考えています。
やり遂げれば強いアセットになる
クラシコムの場合、ブランディングに関わらずあらゆる施策において、まずは小さく試してみて、うまくいったことだけを続けています。
たとえ新しいトライをして何も起こらなくても、エピソードの地層は薄くてもしっかりと残ります。だからこそ矛盾が起こらないよう、自分たちが心から良いと信じるトライを続けることが重要です。
また「なぜ何も起こらなかったのか」をふりかえっても「これはやめよう」という結論しか導きだせませんが、想像していたより少しでも良い結果となったときに、しっかり振り返ることが重要ですね。人々の潜在的な期待や願いにふれられるし、再現性もあるし奥行きもあります。
と、ここまでブランディングについてあれこれお答えしてきましたが、ブランドになるのは、すごくむずかしいことです。誰もが不安なくなれるものであれば、みんなが既に実践しているはずです。でも逆に不安だからこそやり遂げれば、強いアセットになると信じています。不安もありますが、お互いにコツコツとがんばっていきましょう。