2023.06.23

foufouのグループジョインに寄せて

代表取締役社長 青木耕平
foufouのグループジョインに寄せて

この度、クラシコムがファッションD2Cブランド「foufou(フーフー)」を2023年8月1日より子会社化することを決定いたしました。

・プレスリリース
「北欧、暮らしの道具店」運営のクラシコム、ファッションD2Cブランド「foufou」を子会社化し、ライフカルチャープラットフォームの拡大へ

・適時開示資料
子会社設立及び株式会社ステイト・オブ・マインドのアパレルブランド「foufou」事業を吸収分割により承継する会社の株式取得(孫会社化)に関するお知らせ
*説明動画[2023年6月23日 適時開示情報 補足説明動画 ]

foufouがどんなブランドであるかの紹介などは各資料を見ていただくとして、この稿では

1)前提となるクラシコムの課題
2)なぜfoufouだったのか
3)foufouはクラシコムにジョインすることでどのようにポテンシャルが開放される可能性があるのか

4)foufouのジョインと成長はクラシコムに何をもたらす可能性があるのか

について書きたいと思います。

 

1)前提となるクラシコムの課題

当社は「北欧、暮らしの道具店」の「ショップブランド」としての強みを活かしつつ、その限界を補完するためにも「プロダクトブランド」をポートフォリオに加えて、将来の選択肢を増やすことを大きな課題と認識してきました。

クラシコムが運営する「北欧、暮らしの道具店」の業態はオリジナル商品比率高めのセレクトショップであり、プロダクトブランドではなくショップブランドです。ですからルイヴィトンではなく伊勢丹に近く、コムデギャルソンではなくBEAMSに近いブランドです。

つまりは「品」への信頼よりは「場」への信頼をつくってきたのが我々のようなショップブランドだと思います。

プロダクトブランドに比べてショップブランドの持つ強みは、商品構成やサービスのあり方をかなり柔軟にコントロールできるという部分にあります。当社も祖業のヴィンテージ北欧食器の販売から始まり、扱える商品カテゴリが増え、オリジナルブランドを開発したり、さまざまなコンテンツとの出会いを演出する場に変容してきました。

これができるのは「場」の質とコンテクストの一貫性を維持すればこそ。そこでお客様にご紹介するものがどのような種類の商品であれ、コンテンツであれ、顧客との約束を破ることにはなりにくいからです。

一方プロダクトブランドは、あくまでも「品」として質やコンテクストの一貫性を約束してブランドが出来上がっていることもあり、異なるカテゴリの商品や今までにないサービスを加えていくことは、顧客との約束そのものを変更することにつながることが多く、容易ではありません。

そのため当社は、変化が激しい世界でゼロからブランドを立ち上げていく中で、まずセレクトショップとしての地位を確立し、変化に合わせて扱う商品を変えたり、お客様との関わり方を変化させたりできる柔軟性の維持を優先させてきました。

しかし同時にショップブランドだからこその限界もあります。

第一にブランドの魅力がハイコンテクスト化しやすく、文化を共有してない相手に理解してもらうコストが高いことです。これは特に海外に進出しようとするときに大きな障害になり得ます。セレクトショップは常にローカルが強いというのが私の基本的な考えであり、これまでクラシコムがあまり海外に目を向けてこなかった理由がこれです。オリジナル商品もあくまでセレクトショップという「場」のコンテクストとの掛け合わせで魅力を感じてもらう仕組みになっているので、いかに「品」がよくても、本領発揮していくためにはどうしても「場」の複雑なコンテクストを理解してもらう必要があります。

第二に自社以外の流通企業と協業し、より早く、広く成長することが難しいという特徴があります。自身が「セレクトショップ」という顧客と直接結びつく小売業であるため、卸、小売といった流通パートナーと協業してスピード感を持って世界中に広げていくというよりは、コツコツと時間をかけて自社の顧客を増やし、直接運営するタッチポイントを増やす活動が不可欠です。これは事業のサスティナブルな成長や、収益性、効率性の高さにはつながっていますが、事実として自社以外の販売チャネルの活用が難しいという特徴があります。

一方プロダクトブランドは、提供商品やサービス内容の変化への柔軟性は高くない代わりに、「品」そのものがブランドの価値の大部分を語れる立て付けになっているため、魅力を理解するコストが低く、販売チャネルの種類や、販売地域は柔軟に対応しやすい部分があります。

今回foufouにグループジョインしてもらう取り組みは、基本的に当社が向きあってきたショップブランドの限界を越えるという課題に対するチャレンジを目的としています。

2)なぜfoufouだったのか

他のブランドを買収し、PMIを成功させ、さらに成長軌道に載せることは簡単なことではなく、一定の不確実性を伴う取り組みだと認識しています。

そのような中で、不確実性を抑え成功確率を高めるために私たちが最初に取り組む案件としては、以下のような要件を満たすものであるべきだと考えてきました。

1.適切なサイズ感であること

買収金額は保有現金の10%以内、組織の人数もクラシコムに対して同程度の割合の人数の会社に限ることで、短期的な不確実性を許容しつつ、時間を味方にして学びながら成果を上げるというクラシコムのカルチャーにあった取り組みをしたいと考えています。

2.リーダーに強固な世界観のビジョンがあり、それを商品だけにではなく、コンテンツやコミュニケーションや組織でも一貫性を持って表現することができるディレクション力があること

クラシコムの成長の礎は創業者が強固な世界観のビジョンを持ち、それを会社から発信されるすべてのアウトプットに一貫して反映させられることによって築かれたと考えており、これができるリーダーがいるブランドであれば再現性を持って成長させられる可能性が高いと考えます。特にリーダーが商品を作ることだけができるのでなく、販売チャネルづくり、コンテンツづくり、組織づくり、顧客とのコミュニケーションスタイルをつくることなど、あらゆるアウトプットをブランドの一部と捉えて一貫したディレクションができることは不可欠だと認識しています。

3.クラシコムのミッションやカルチャーと矛盾しないブランドであること

クラシコムは「フィットする暮らし、つくろう」というミッションを掲げており、その実現に最も適した企業文化を形成してきました。それゆえにカルチャーはタイトで、このミッションの方向性や、これを進めるに適したカルチャーと乖離するミッションを掲げていたり、カルチャーを形成する会社を内在化することは難しいと考えています。そのため元々クラシコムと親和性の高いミッションやカルチャーを持つ会社に限って取り組むことで不確実性を低下させたいと考えました。

4.対象ブランドの既存のお客さまを自然に愛せること

感覚的なことになりますが、でも最も大事な判断軸だと思っているのは、対象ブランドの既存のお客様に接した時、ある一貫したキャラクターを感じ、ごく自然にその方達のことが好きだなと感じられ、その方達のためにいろんなことをしてあげたいなと無理なく思えること。これは、受け入れ側として難易度の高い取り組みに粘り強く取り組む上で欠かせないことだと考えています。

5.リーダーの長期的コミットを自然に引き出せること

ブランドを運営、成長させていくことと、リーダーの人生観やアイデンティティが密結合して不可分な状況にあることで、無理なく長期的コミットすることが自然かつ必然である相手を選択することで、不確実性を抑えたいと考えています。

これら5つの要件をほぼ完璧に満たしていたのがfoufouでした。要件1はもちろんのこと、要件2以降の点についてもマール・コウサカさんという世界観を持ち、お洋服だけでなく、コンテンツやコミュニケーションにも一貫した世界観を練り込めるリーダーがいること、そして彼の人生観やアイデンティティがまさにブランドと密結合していることは成功確率を高める上でとても重要な要素です。

また「すこやかな消費のために」というスローガンを掲げて、一貫して素直に、無理しすぎず、効率的にブランドを運営してきたfoufouのカルチャーはクラシコムの「フィットする暮らし、つくろう」や経営方針である「自由・平和・希望」とも親和性が高いと感じています。

何よりも私自身が店舗や試着会に足を運んで、そこで目にしたお客様が「自分自身を労り、喜ばせる」ことに自然と関心を持ち、周囲の同じ世界を愛する人たちへの気遣いや喜びの共有をされる様を見せていただき、さらにそのようなお客様から試着会のサポートスタッフやお店の店員が生まれているという好循環を目にするに至り、ぜひこのお客様のコミュニティに対して貢献したいという自然な動機を持つことができたことは背中を強く押すことになりました。

3)foufouはクラシコムにジョインすることでどのようにポテンシャルが開放される可能性があるのか

前述した通りfoufouとそれを率いるマール・コウサカさん、そしてその顧客コミュニティはすでに素晴らしい価値を生み出しており、高い評価を得ています。

しかし一方で、ここからさらに広く、深くブランドの可能性を追求していくためには、資金や人材といったより多くのリソースの調達やロジスティクス、DX、組織開発、コーポレート機能の拡充といった様々な課題に直面し、それを乗り越えていく必要があります。

このような課題は確かに成長する上で大きなハードルにはなるものの、ブランドの価値をつくり、製品やコンテンツをつくり、素晴らしい顧客コミュニティとの意義ある繋がりを生み出すといった既にfoufouが成功している課題に比べれば、ベストプラクティスがある程度定まっていて再現性が高い課題であると認識しています。

さらに当社は既にこれらの分野において十分に経験も知見も蓄積してきており、実行のためのリソースも備わっていて、資金的にも十分にサポート可能な財務状況にあります。foufouがクラシコムにジョインすることによって本来持っている価値をより広く、深く届けていくための足回りを強化することができ、結果としてfoufouのポテンシャルが解放され、持続的な事業規模の成長を実現することが可能なのではないかと考えています。

また同時に当社が運営する「北欧、暮らしの道具店」のライフカルチャープラットフォームを活用し、その顧客とのつながりやディストリビューション力を活かすことにより、新たな顧客層の開拓を急ピッチに進めることで、さらにその成長を加速させたいと考えています。

4)foufouのジョインと成長はクラシコムに何をもたらす可能性があるのか

foufouがジョインし、事業の持続的な成功を期待できる状況がつくれると、前述したクラシコムが元々持っている「ショップブランドとしての限界を超える」という課題の解決を実現できることにとどまらない可能性をもたらすと考えています。

それはM&Aによってブランドをグループに加え、ビジネスの足回り、資金ニーズをサポートしつつ、北欧、暮らしの道具店のメディアパワーや顧客基盤を活用して成長を加速させるという取り組みを成長戦略の柱にできる可能性です。それは最終的にブランドポートフォリオ経営に帰結していく可能性です。

簡単なことではありませんが、もしこの取り組みを成功させ、一定型化できればそこまで期待することができるかもしれないと考えています。

だいぶ長くなりましたが、今回のfoufouのグループジョインの経緯、狙い、成功への道筋などを説明させてもらいました。

今は何よりfoufouという卓越した世界観を持ち、健やかに成長しているブランドが共に歩める仲間に加わったことにワクワクしています。

今後のクラシコムとfoufouのチャレンジにご期待ください!

参考

・プレスリリース
「北欧、暮らしの道具店」運営のクラシコム、ファッションD2Cブランド「foufou」を子会社化し、ライフカルチャープラットフォームの拡大へ

・適時開示資料
株式会社ステイト・オブ・マインドのアパレルブランド「foufou」事業を吸収分割により承継する会社の株式取得(孫会社化)に関するお知らせ

*説明動画[2023年6月23日 適時開示情報 補足説明動画 ]

・foufou代表のマール・コウサカさんからのステートメント
“10年続いたら、100年を目指せるかもしれない。” foufouについての大事なお知らせ。

・2021年公開のマール・コウサカさん出演「北欧、暮らしの道具店」ドキュメンタリー