「いい計画」を立てよう。定価消化率95%超を保つ「北欧、暮らしの道具店」MDグループ、積み重ねたロジックとコミュニケーション力

書き手 高島 知子
写真 佐々木 孝憲
「いい計画」を立てよう。定価消化率95%超を保つ「北欧、暮らしの道具店」MDグループ、積み重ねたロジックとコミュニケーション力
「北欧、暮らしの道具店」では、日々たくさんの方々がお買い物を楽しんでくださっています。最初は仕入れ商品のみでしたが、いまではオリジナル商品も増え、ちょうど半々くらいになってきました。

クラシコムでは商品を買い付けるバイヤーの機能と、商品全体の売上を管理して先々の計画を立てるマーチャンダイザーの機能の両方を「MDグループ」が担当し、定価消化率95%超という数字を安定して保っています。

「北欧、暮らしの道具店」については、これまで社内外のさまざまなメディアで取り上げていただきましたが、MDグループの実態については、ほとんど発信をしてきませんでした。

そこで今回は、毎日欠かさず数字の推移を見ながら社内のチャットツールで「ものすごい量のコミュニケーションをしている」という3人、店長・佐藤とMDグループマネージャーの竹内、MD担当スタッフの山根に取材。MDグループが担う「北欧、暮らしの道具店」の商品販売の裏側についてじっくり話を聞きました。

絶賛、業務のバトンを受け渡し中。

――実は、「北欧、暮らしの道具店」の販売計画やマーチャンダイジングについて発信するのは今回が初めてなんですよね。

佐藤
意外と、ちゃんと外部の方に伝わる形でお話ししたことがなかったんですよね。クラシコムのD2C事業の責任者として、実は私のエネルギーのかなりの部分を費やしてきた業務なのですが。


クラシコム取締役、「北欧、暮らしの道具店」店長・佐藤

――商品を扱う業務といったら、お店の中心ですものね。

佐藤
はい。その、店全体の販売計画の管理や実行責任を、隣にいるMDグループマネージャーの竹内に少しずつ渡している最中です。以前は「この商品を扱うか、いくつ仕入れる・生産するか」をすべて私が最終決裁していましたが、去年から竹内に半分持ってもらっています。

で、竹内の仕事をいま、少しずつ隣の山根に渡していて。

――バトンを継いで。

竹内
そうですね(笑)。山根さん、どうですか?


MDグループ マネージャー 竹内

山根
任せてください! ……といいたいのですが、商品数がどんどん増え、扱う数字も大きくなってきているので、今後はデータに強い仲間がもっと増えたらいいなとは思っているところです。


MDグループ スタッフ山根

――MDグループは、いま何名いるんですか?

竹内
スタッフ8名と私で、9名です。

会社によっては、バイヤーとマーチャンダイザーの職種がはっきり分かれていることも多いようですが、クラシコムではグラデーションはあるものの、基本的にみんながバイイング業務と在庫管理などのマーチャンダイジング的な業務を兼務しています。加えて、Instagram運営も担っています。

その中で、山根さんは個別商品は担当せず、全体のバランスを把握しながらみんなのバイイングを私と一緒にジャッジしたり、売上・在庫の管理を統括してくれています。そして、私はその全体をみています。

佐藤
今日集まったのは、売上の計画を立てて実行を管理する、数字まわりを毎日追いかけている3人ですね。

――竹内さんと山根さんは、どういった経緯でいまのお仕事に?

竹内
私は新卒でアパレルの販売員をしたり、設計事務所で働いたりして、2016年に入社しました。最初はコンテンツ制作希望だったのですが、未経験でMDへ。職種へのこだわりよりも「いいなと思うものを薦めたい」気持ちがあってクラシコムに共感していたので、バイヤーの仕事も興味を持って覚えていきました。それこそ、SKUという言葉から(笑)。

当時はまだ、佐藤を含めて3人しかいなかったんですが、翌年にマネージャーを任されることになったときは驚きましたね。

――未経験から入って、入社2年でというのは抜擢ですね。

佐藤
確かに抜擢でしたが、良い決断だったと思います。山根さんが入ってくれたのが、ちょうど竹内さんがマネージャーになった年だったかな。

山根
そうですね。僕はもともとライターとしてクラシコムに取材をしたことがきっかけで、クラシコムの考え方に惹かれました。そこで、最初はクラシコムが以前つくっていたオリジナルジャムの工房のアルバイトに入り、次にお客さま対応を担当するコミュニケーションのグループで1年仕事をしてから、僕も未経験でMDにきたんです。

実は、個人的には雑貨を買い集めることや、MD自体にもそこまで興味がなかったのですが、当時は人が少なくて大変そうで。

佐藤・竹内
たしかに……!

山根
そういう大変な状態が嫌いじゃないので(笑)、また数字の管理も向いていたようで、楽しくデータに向き合ってここまできました。

私たちは、「いい計画者」でありたい

――では佐藤さん、クラシコムのMDグループがどんな役割を担っていて、何を大事にしているかをうかがえますか?

佐藤
役割は、いま大きく2つあります。ひとつは、全体の中で仕入れ商品とオリジナル商品のバランスを取り、お店全体を魅力的にしていくこと。もうひとつは、数字の管理です。

ひとつ目からお話しすると、仕入れ商品の販売からスタートした「北欧、暮らしの道具店」も徐々にオリジナル商品が増え、いまは仕入れとオリジナルの売上は半々くらいになりつつあります。

オリジナル商品は企画から販売まで平均して半年ほどかかるので、先に動き出し、そのラインナップに合わせて仕入れ商品を追加して、“店内”がいつも充実するようにしています。なので、オリジナル商品を開発するプライベートブランド グループとも密に連携しています。

――もうひとつの数字の管理が、先ほど佐藤さんが「数字を毎日追いかけている3人」とおっしゃった役割ですね。

佐藤
はい。この役割が、年々大きくなっています。適切な売上計画を立て、社内の生産や在庫管理、WebサイトやSNSのチーム、データ分析のチームなどと常にやり取りしながら計画をしっかり実行し、事業を伸ばしていく。……ちょっと言葉にすると硬いのですが、昨年の上場を機に、この能力が以前に増して問われるようになったと実感しています。

ただ、いつでも「売上計画を達成」したいとは願っていますが、私は「いい計画を立てたい」と思っているんです。いい計画者でありたいねと、2人ともいつも話しています。

――いい計画、とは?

佐藤
売上の計画は、予算を達成するとか予実管理といった言葉がよく使われますが、そうするとつい“確実な数字”を立てようとしてしまうんですね。もちろん達成するのが目標ですし、無謀な計画を立ててはいけませんが、簡単にいうと「このシャツはブラックが昨シーズンに1000枚売れたから、今回は800枚なら確実」みたいな考え方はしたくないな、と。

――なんだか、縮こまった感じになりますね。

佐藤
そうなんです。過去のデータも大事な情報ですが、前年対比〇%に達するか、達さないかといった思考回路になると、未来に希望を込めることが難しくなる。それよりも、こんな可能性がありそう、今年はこのくらいいけるかも、という希望的観測を含むことがとても大切。そういう意味で「いい計画」といっています。

私も常に数字を気にしていますが、だからこそ、理想は「いい計画を立てよう」と。そのほうが、仕事として楽しく取り組むこともできますね。

週1の“お店の売上と品ぞろえを話しつくす”会議

――具体的に、MDの商品ラインナップはどう決めているのですか? 雑貨、アパレル、化粧品などのカテゴリのバランスなどをみているのでしょうか。

竹内
あまりカテゴリで分けてはいません。それよりも、先ほどの「仕入れかオリジナルか」ということに加えて、年間を通して安定的に支持いただいている「定番商品」と、新しく取り扱うものやオリジナル商品などの「チャレンジングな商品」という2つの商品群を分けて捉えています。それぞれ過去の傾向を見ながら、仕入れ数やラインナップを決めていきます。

――メンバーの“猛プッシュ”や、お客様の想定外の反響で、大幅にラインナップを方向転換する……みたいなことは?

山根
あまりないですね。時折、会社として「コスメを増やしていこう」など路線を強化したりすることはありますが、ふだんは大きく舵を切るというより、少しずつ変えています。

佐藤
最近だと、コロナ禍の影響で多少ラインナップを見直しました。多くの人の生活が変わった転機だったので、その状況で人が装いたいものや使いたいものを考えて、インテリア雑貨や食器を増やしたりしましたね。

――そうなんですね。仕入れ商品とオリジナル商品、そして定番商品とそれ以外の商品という区別があった上で、何を仕入れるか、あるいはつくるかどうか、またどのくらい仕入れる・つくるかを佐藤さんと竹内さんが最終的に決めている、と。

竹内
そうですね。その前に、仕入れ商品に関しては、まずバイヤー自身が「なぜこれを仕入れたいと思ったか」をしっかり掘り下げています。具体的にどのような導入でご紹介するか、いつどのくらいの量を投入するのが適切なのかを、山根やグループ内の他のメンバーと壁打ちするような形で相談していきます。

仕入れ数や生産数については、長年積み重ねてきたデータを元にしたロジックを活用しながら、この商品を「ほしい」と思ってくださるお客様は、このくらいの期間は続くんじゃないか……などと経験を元にした想像も交えて商品ごとに考えています。

――その結果が定価消化率95%超になるのですか? なんだか、魔法のような……。

竹内
えっ、魔法ですか(笑)。でも、たしかに不思議かもしれないですね。

ただ、もちろん販売時にもたくさんの工夫や調整をしていて、それも含めて結果的にほぼすべての商品の定価消化を実現できている形ですね。そこにものすごい量のコミュニケーションがあってこその結果だと思います。

――そうした調整は、オリジナル商品の開発担当とも共有しながら行っているのですか?

佐藤
はい。私たち3人とオリジナル商品開発のメンバーで、週1で1時間半くらい“とにかくお店の売上進捗状況と品ぞろえのことを話しつくす”会議をしているんです。そこで、本当に活発な意見が出てきます。で、それをもとに毎週、微調整をしています。

竹内
そこは、けっこう山根さんが意見を出してくれますね。数字を見ながら。

山根
特に、在庫や発注金額についてなどですね。この数字はもっと伸びそうとか、もう少し在庫を持ってもいいのでは、とか。

佐藤
何がよく売れているか、あるいは売れていないかがいわば“シグナル”になって、調整しなきゃ、となる感じです。

在庫状況が“健康”であるか

――商品ラインナップだけでなく、個別商品の販促や在庫数も、常に微調整なんですね。いま“シグナル”とおっしゃいましたが、日々の売上の動向から「これは……?」と気づくのでしょうか。

佐藤
まさに、そうですね。私たち、通期、四半期、月次、日次の4段階で売上の数字をみているんです。それぞれの着地の計画が、ロジックによって導き出されているので、計画の数字に対して実績が多いか少ないかを確認しています。ある商品の年間着地がXだったら、分解していって日次の着地はZじゃないといけないのだけど、「今日ずれてるね……」「何かすぐにできることある?」みたいな、そんな会話を社内チャット上で常時しています。

もちろん全部の商品を毎日チェックするのは大変ですが、データ分析の仕組みが整ったおかげで、以前よりも手間なくしっかりと確認できるようになりました。

ちょっと想定と違う動きがあったら、具体的にどのカテゴリのどの商品がどう動いているのかを突き止められるんです。そこから、何かあったのかを探ったり、マイナスなら対策を考えたりしています。

――たとえば、どんなふうに確認しているのですか?

佐藤
どの商品も、これは1日何個くらい売れる予想、というのがまずあります。予想通りなら当月中に何個くらい売れて、在庫の何割を消化する、という見通しが立っています。

たとえば新商品だと、いまは午前10時に売り出していて、夜12時までの14時間を「初速」といっているんですね。その初速って、もう朝の2時間くらいの間に見通しが経つんです。1日に売る予定の数が、朝の2時間で達成していたら「これはもっといける!」とわかるし、実際に夜には想定の倍の販売数になったりします。

逆に朝の時点で半分もいかなかったら「これは今日は達成できない」とわかる。不思議なことに、朝の動きが、夜には逆転するようなことはほぼないんです。……これが毎日感じるシグナルで、3人を中心にみんなで知恵を絞っている部分です。

――毎日、複数の商品でそんなプロセスが繰り広げられているんですね……!

佐藤
そうですね。「思ったのと違う!」ということが毎日ある(笑)。

竹内
そういうときは、メルマガやSNSチームとも情報を共有して、その日に配信するLINEのプッシュ通知で推す商品をすぐ替えたりしますね。予想通りならそれはそれで、「好調です!」と関係部署のチャンネルに投稿したり。

――高い定価消化率を支える背景には、こうした細かな微調整があるんですね。

竹内
そうですね。セールやキャンペーンを前提にせず、あくまで自然に消化していくことを大事にしています。

でも、ただ売れればいいかというと、そうでもないところが難しいなと思います。在庫は余ってもいけませんが、売れすぎてもお客様には「ほしいのに買えない」状態になります。それも加味して、過不足の幅が少ないのが、佐藤のいう「いい計画」なんだなと。いつも、在庫状況が“健康”か、気にしています。

――“健康”?

竹内
無理をせずに、コンディションよくいられる状態というんですかね。在庫数だけでなく、回転率や欠品率、その全体をみることでお店としての健康状態が確かめられます。これも、先ほど話に上がったデータ分析の仕組みで、とても確認しやすくなりました。

――在庫の管理は、経営側としてどんなことを意識しているんでしょうか。

佐藤
管理可能な量にすることを、すごく大事にしています。以前は売り切ろうという考えが強かったので、いまよりもっと毎日ばたばたしていたんです。昼の時点で伸びが弱ければ、その日のうちになんとかしないと、という焦りがありました。

でも、いまは会社として一定の在庫所有を許容し、それを売上の最大化につなげていく方針になったので、1日で解決策を打つ商品もあれば、1カ月〜数カ月単位で読みものや動画企画とも連動しながらじわじわとプッシュしていく商品もあります。より、じっくり腰を落ち着けて適切な対応ができるようになったと思います。

それぞれが自分ごと化し、みんなで数字を担ぐ

――実際は、ロジックで出した数字よりも多い数を発注することもあるのでしょうか?

佐藤
あります。2倍、3倍にすることも(笑)。でもその場合も、私が勘と経験で独断するのではなく、なぜ私はそう思うのかを話して、そもそものロジックの条件を書き直してもらい、計画の数字を立て直すんですね。たとえば、過去の販売の推移はこうで、こういう人にもっと喜んでもらえそうで、発売日にはこんなコンテンツを出したら現実的な数字だと思うのだけどどうかな、と。

そういう熱量は、他のコンテンツ制作やSNSチームにも伝わります。発注の担当者に直してもらったロジックを添えて、クリエイティブ側のマネージャーやスタッフに持っていくと「わかりました、その仮説をクリエイティブでも意識しますね!」と力を添えてくれる。もちろん、最終的な責任者は私ですが、みんなが“自分ごと”として納得することが大事だと思います。

――なるほど。で、売り出して伸び悩んだら調整して、売っていく。

佐藤
はい。ここまで話に上がったように、MDグループはいろいろな部署との連携が業務のかなりの割合を占めるのですが、その連携は自社ながら「美しい……!」と思うことも多いです。

結果として売れなかったとき、私は仕入れていない・つくっていないとか、私は数を決めていないといった言い訳が生まれないほうがいい。どうやって、決めた数字をみんなで担げるかな、というのをいつも考えています。

竹内
こちらが計画を立てて、売れるように施策のお願いや相談をしにいく立場とも言えると思うのですが、みんな本当に自分のこととして意見してくれて、ありがたいです。

ーーMDグループは、とにかくスタッフともお客さまともコミュニケーションが大切なんですね。

山根
データといっても単なる数字や数式ではなく、お客様が買ってくださった1件1件の積み重ねであり、お客さまとのコミュニケーションの結果です。だからこそのおもしろさがありますよね。

佐藤
本当、そう思いますね。お客様が全部、答えを出してくださる。予想はブラックだったのにホワイトが売れたら「今年はそっちでしたかー!」ってなります(笑)。数字の裏側に人が見えるから、MDの仕事は奥深く、興味が尽きないです。

竹内
たくさんの部署と連携して売上を追いかけて、その数字の重要性も大きくなっているのですが、「北欧、暮らしの道具店」がやりたいことは以前と変わっていないと思うんですね。お店を通して、お客様一人ひとりの暮らしに貢献したいな、という気持ちがやっぱり根底にありますし、MDは商品にまつわる業務なので、お店の土台をこのチームでつくっている感覚があります。

それはなかなか味わえないことだなと、私自身もいつも実感しているので、興味を持ってくださったらうれしいです。

 

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