リリース直後からSNSでは「待ってた!」「ついに!」という声が飛び交い、あっという間にApp Store「ライフスタイル」カテゴリで第1位、無料アプリ全体でも錚々たるアプリと並んで第7位にランクインしました。*
これほど待ち望まれながら、なぜ、クラシコムはここまでアプリを作らなかったのでしょうか。また、なぜこのタイミングでアプリを作ろうと思ったのでしょうか。
入社当時からアプリ開発を熱望していた担当エンジニアと、対照的に「僕は、アプリは要らないのではと思っていました…」と語るUI/UXデザイナーの2名が、開発の経緯、展望など裏話をお届けします。
アプリは要らないのでは?と思っていました。
──サービス開始から13年目にして、ついに「北欧、暮らしの道具店」のアプリがでましたが、実は廣瀬さんはずっとアプリを作ろうと言っていたんですよね。
廣瀬
そうですね。入社前からずっと作るべきだと思っていました。
以前、僕の母に「北欧、暮らしの道具店」って知ってる?と聞いたら、「アプリはあるの?」と聞き返されて、ないよと答えると「じゃあ、知らないよ!」と言われて。
エンジニア・廣瀬
──アプリがないなら知らない!でも、私の家族も同じようなことを言っていました。お客様からのご要望も多かったですしね。
廣瀬
でも、僕が入社する前から、代表の青木さんはアプリは作らないと宣言していました。ウェブとアプリとで開発リソースが分散するし、現時点では作らない方がいいと繰り返していました。でも、いつか作るかもしれないと思って、個人でアプリ開発をしたりこっそり準備していました。
──すごい思い入れですね。
廣瀬
だから、そろそろアプリを作るかとなった時に、僕は仕事としてのアプリ開発は初めてでしたが、「できます!」と言い切りました。そのくらい作りたかった。
あとは外部で手伝ってくださるパートナーが見つかったことや、経験豊富なUI/UXデザイナーの村田さんが入社してくれたのも大きかったですね。
──村田さんはアプリ開発の経験があったんですね。
村田
そうですね。前職ではこの3年くらいはアプリ開発がメインの仕事でした。
──それは心強い。
村田
でも、僕はアプリはいらないんじゃないの?と思っていましたよ。
──え?
廣瀬
え、そうなの?
村田
はい。「北欧、暮らしの道具店」のことはシンプルに買い物ができるだけの「ネットショップ」だと思っていましたし、ウェブで十分でしょって。
UI/UXデザイナー村田(右)
アプリであれば、もっと世界観に没頭できる、という仮説
──「いらないんじゃないの?」から、作ろうになった理由は何なのでしょう。
村田
それは、「北欧、暮らしの道具店」がネットショップでありながら、様々なコンテンツを配信するECメディアであるとわかって。その特性を持って、事業的観点と、お客様目線で話し合う中で納得することができたからです。
月100本ほどの読みもの(Web記事)、動画、ラジオ、リトルプレス(小冊子)など、様々な種類のコンテンツが公開されています。
──事業的な理由、とお客様目線の理由。
事業的な理由は、外部プラットフォームに依存しないお客さまとのコンタクトポイントを持っておきたいということです。現在の流入経路はSNSやLINEからのリピート誘導が多いわけですが、別のサービスを挟む分、自分たちがコントロールできる量が少ない。
公式LINE・Instagram・YouTube
●公式アカウント数値
Instagram フォロワー:86万人
LINE公式アカウント 友だち数:49万人
Facebookページ いいね数:43万人
Twitter フォロワー:3万人
Pinterest 月間閲覧者数:約160万回
YouTube 登録者数:6.3万人/チャンネル月間再生回数:約150万回
*2019年11月末現在
──通知の回数に制限があったり、SNSは日々仕様や使用料金が変わりますもんね。
村田
そうですね。アプリなら、お客様に合ったタイミングで通知を送れますし、コントロールできる範囲が広くなる。だから、そろそろ挑戦せざるを得ない、という判断。
そしてお客様目線の観点からは、もっと僕らとの距離が縮まるのではと考えました。
例えば、同じスマホで見るとしても、SNSやLINEを通じてウェブのお店にくるのと、直接アプリにきてもらうのでは体験が違う。アプリなら1ステップ縮めることができるし、ファーストビューで僕らが見てほしいものをみていただける。
そして、YouTubeやSpotifyなどの外部サービスを通じてコンテンツを配信していますが、そうするとインターフェイスや導線をお客様が心地よいと思うものにしたくても、限りがある。
それがアプリであれば、他のサービスを介することなく、僕らが発信した通知から「北欧、暮らしの道具店」に訪れて、動画をもっと他の記事とシームレスに楽しんで、ラジオを聴きながらお買い物をして、ということも可能なのかもしれない。お客様がもっと「北欧、暮らしの道具店」の世界観に没入していただけるのではないか、と。
iOSアプリ
様々なコンテンツがひとつのアプリでお楽しみいただけるようになりました。
この二つの話にまとまって、僕ら独自のプラットフォームを作るんだと腹落ちして、じゃあ作ろうかという気持ちになりました。
──単純に何パーセントかの売上をあげるため!ということではないんですね。
廣瀬
売上はもちろん大事です。どんなに楽しいアプリだとしても、商品を購入する体験がウェブよりも劣って売上を損なうのではダメだというベースはあります。
ただ、売上目標を掲げられたというよりも、あくまでお客様との距離が近づいて、世界に没入してくれるようになって、良い体験が増えれば増えるほど、もっとお買い物も楽しくなるんじゃないか、という思いがあってのことです。
村田
という仮説ですよね。
廣瀬
そう、アプリがあればもっとお買い物を楽しんでいただける、という仮説を元に約半年間作ってきましたね。
村田
大きい仮説検証ですけどね(笑)。クラシコムの施策はそういう流れがすごく多いと思います。WEBドラマ「青葉家のテーブル」を作ったときも、これは自分たちなら見るな、という仮説があって、出してみたらやっぱりみんな見てくれたという検証をして。
廣瀬
もちろん、今回のアプリのように作るまではすごく悩みますが、でも、結局やってみないとわからない。もし、それで間違いだったとしても、違ったってことがわかったわけだし。
村田
ちょっと楽しげな感じがありますね。チャーミングさって言うんですかね。絶対に売り上げをあげなきゃ!ではなく、一旦作ってみよう、という風に楽しく進めたところはあります。まあ、仮説検証にしてはやっぱり規模が大きいですけどね。
13年分のデータを前にして直面した「絶望」
──では、なぜやるかが腹落ちして、実際作り始めてどうでしたか。
村田
最初にやるべきことをポストイットに書いて張り出した時は、絶望の淵に立ちました。
──わあ、たいへん。
村田
いってもECサイトでしょって、この時点でもまだ軽く見ていたところがあったかもしれません。でも、コンテンツの量を見て「なるほど、これは単なるECサイトじゃない」と。
廣瀬
マジ?は僕も思いました(笑)。Web記事がたくさんあるのは覚悟していたけど、その記事の中に動画やラジオへのリンクも入っている。そして、アプリではその動画だけ、ラジオだけをカテゴライズして見せたいわけで。
村田
「北欧、暮らしの道具店」を作り直してる意気込みでしたね。一回すべて飲み込んで、解釈して、こういう構造にするぞという。
廣瀬
データ構造を全て作り直したわけではないんですけどね。アプリ上で整理して見せているという作り方を今回はしていて。
大量の付箋を前に会議する開発チーム。
村田
建て直しではなく、リフォームですね。
廣瀬
柱は残して、外壁を塗り替えて……。
村田
電気配線を新しくしてね。
廣瀬
中尊寺金色堂の覆堂のような…。レガシーなところを直さずに、何かを付け加えるというのは、エンジニアとしてはしんどい判断でしたが、まずはアプリを作るということを優先するべきだと判断しました。今ではこれでよかったと思っています。
「北欧、暮らしの道具店」とは何なのだ。
村田
「北欧、暮らしの道具店」は日々進化していますし、今のウェブサイトが最適なインターフェイスだとは限らないんですよね。今回アプリを作る中で、現時点での「北欧、暮らしの道具店」ってこういうUIであるべきだよね、というコンセンサスがとれたことはとても良かったです。
でも、これもあくまで現時点でということで、これからも発展はしていく。代表の青木も、「北欧、暮らしの道具店は『ぬえ』のようだ。」と言っていましたしね。
──ぬえ?妖怪の?
村田
はい、まあ、つまりよくわからないんだろうな、と。でも、アプリを作る中で、この会社は「北欧、暮らしの道具店」って何だろう、何ができるんだろう、ということを解き明かすために、いろんな仮説をもってみんなで検証している。それが楽しいんだ、ということがわかりました。
そして、今回の取り組みで「ぬえ」が「ぬらりひょん」になったような気がしています。
廣瀬
すごい、強くなった。
──「ぬえ」より「ぬらりひょん」の方が強いんですね。
村田
強くなったというか、このアプリができたらもっとこれができるよね、と将来像の期待値がもっと上がるようなワクワクを感じました。
廣瀬
たしかに、ラジオを聴きながら記事を読めたり、YouTubeの動画プレイヤーをアプリ内に設置したり、そういう未来だけじゃなくて、リアルイベントのチケット管理とか色々できるよね、と作りながら話していましたね。
村田
将来チャレンジしたいことが、技術的に実現しやすくなったのはうれしいですね。
廣瀬
僕はもともと「北欧、暮らしの道具店」はECじゃない何かだ、という思いで入社しているので、やっとその「何か」作り始めたという手応えを感じられました。
今作っているのはアプリですが、何のアプリか?と聞かれると、よくわからない。メディアアプリでもあるし、ショッピングアプリでもあるし、かと思うと動画も見れる。
村田
「何か」が何なのかわからなくてもいいんですか。
廣瀬
うーん。まあ、最悪、自分がわからなくても、後世の人がわかればいいかなと。わかりたい気持ちはありますが、それ以上に誰も作ったことがないものを作っているという実感のほうが大事ですね。
──わかりたい村田さんとわからなくてもいい廣瀬さん。
村田
プロセスの中でどう楽しむかはその人次第ですね。僕は、ぬらりひょんの腕をつかんだ、っていう感覚。
廣瀬
まぁ、村田さんは答えを探したくて、僕は新しいものを作りたくて。でも、答えが出なくても作り続けるし、新しければなんでもいいというわけでもないし。
やりたいことやってるから楽しいっというよりも、自分がやるべきだと思うことをやれてるから楽しいっていうのが一番正解ですかね。
村田
やり方にこだわらずね。仕事自体にはみんなすごくこだわりを持っていますが、必要となればいろんなことを捨てられる。身軽というか、新しい良いものがあれば、惜しみなく切り替える柔軟は持ちつつ。
アプリがさらに加速させる、ただのECではないサービスへ
──そんな風に、ラジオも動画も、手探りでも始めてきましたもんね。きっとこれからも「北欧、暮らしの道具店」は形を変えていきそうではあります。
村田
そうですね。アプリもそういう将来的な拡張性は考えて、なるべく柔軟に対応できるインフラにしたいと考えています。
廣瀬
ラジオでも、動画でも、もっと全然ちがうコンテンツでも、どんどん増えて欲しいし、むしろみんなのアイデアを促す存在にアプリがなって欲しいです。
僕の想像できる範囲なんて限られてるけど、社内にはいろんなことを思いつく人がたくさんいて、それを「北欧、暮らしの道具店」というひとつの場所でやろうとしているから、自ずとECではない何かに向かわせてくれるなとも思うので。
村田
アプリという土台ができたので、これをメディア編集や、商品担当のスタッフたちがどう動き出すのか、そしてお客様がどう思ってどんな使い方をされるのか、楽しみですね。
──ついに仮説の検証ですね。
廣瀬
お客様以外の方にも、「北欧、暮らしの道具店」ってただのECじゃないんだよっていうのが、今一番表現できてるところだと思うので、とにかく使ってみて欲しいですね。
村田
「ぬえ」みたいなものを。
──ぬえ、どんどん広がって欲しいですね。
廣瀬
ぬえって。
*2019年11月29日の最高順位
◎プレスリリース
2019年11月28日
北欧、暮らしの道具店」iOSアプリをリリース。EC・Webメディア・動画など様々なコンテンツを包括する独自プラットフォーム構築へ。
◎iOSアプリダウンロード
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◎エンジニア募集中!
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