遠く離れたイスラエルの靴NAOTをどのようにして日本で販売していったのかというお話を伺った前編に続き、後編ではNAOTのファンを作り出す独自の表現活動やその発信をする会社の風土について、同席していたスタッフさんも交えてお話を伺いました。
仕事は「頑張るぞ!」なんて思ったら続かない
──女性のスタッフさんが多いのですか?
宮川
そうですね。アルバイトさんも合わせると30人くらいが働いてくれていますが、僕ともうひとり最近男の子が入りましたが、あとは女性ですね。
──どんな採用の基準があるのですか。
宮川
色々ありますが、最終的には一緒に仕事をするということを想像して、ワクワクする人を選ぶようにしています。そこにいる上野も最初はやんちゃで…。履歴書もNAOT”O”って綴りを間違えてたし。
スタッフ・上野なつみさん(以下、上野)
家に帰ってから気付いて、「ああ、落ちたな」って思いました。
スタッフの上野なつみさん
宮川
すごく個性的でね。おもしろ枠、原石枠でとりました。まだあの時は23歳だったよね。
──なぜ応募されたのですか。
上野
もともと祖母の家が奈良町でここで働きたいという思いがあったのですが、当時は新卒で入社した別のメーカーで販売の仕事をしていたんです。でもそこで、自分の本当にやりたい接客のあり方と少しギャップを感じていて…。
そんな中で、NAOTに行くと、店員さんはみんな「この靴が好き!」という気持ちがひしひしと伝わる接客をしていてすごく羨ましくて。私も楽しく生きるように働きたい!という欲求が膨らんでいきました。
──実際入ってみていかがですか。
上野
今は仕事と生活が流れるように一体化しています。職場に出勤する、とは言いますが、どちらかといえばここも家なんです。家Aと家Bを行ったり来たりしているような、心地いい日々です。
宮川
彼女は家Aと家Bと表現していますが、僕たちの理想とする「仕事」は、ご飯を食べるとか、寝るとか、テレビを見るとか、そういうことの並列であってほしいんです。仕事を頑張るぞ!なんていうと、続かないですから。まあ、一番頑張りたくないのは僕なんですけどね。
接客はフリースタイルを推奨
──みなさんしっかりされて、でも柔軟で素敵なスタッフさんばかりな印象です。
宮川
そう、僕の原石を捕まえる腕はすごいんです(笑)うちはとにかく決まりがないから、逆にしっかりするのかもしれませんね。自分で考えないとって。
──スタッフさんが主体となったイベントやウェブの記事もとても面白いです。
宮川
あれも全部、スタッフがやりたいものをやっているだけ。
あまりにもアウトプットが靴から離れすぎたら笛を吹くのが僕の役割です。ピピピっと。でも、最近はそうそう離れることはないので、お客さんと同じようにみんなの表現を楽しみにしているだけですけどね。
──接客マニュアルなども作らないとお聞きしました。
宮川
そうですね。フリースタイルでの接客を推奨しています。決まった接客なんてつまらないですから。お客様もうちのスタッフと同じように全員違う個性を持っていますから、自分の心から思う言葉じゃないと心を動かせない。
とにかく、嘘をつかず誠実でありたいんです。売れることではなくて、笑顔で帰ってもらうことこそがゴールなんです。お金がないのに何足も買おうとする人には「ダメです」といえる人間でありたいじゃないですか。靴を買われなくても、笑顔で帰ってもらったらそれでいい。
良いサイズを選んでいただく、その人にとって良い靴をオススメするということはもちろん大切ではありますが、接客マニュアルなんてあっても意味がないかなと思うんですよね。
だから僕らは分業をせず全員野球をしています。全員でイスラエルから送られてくる商品を一つひとつ検品して、一生懸命ディスプレイする。その過程があってこそ接客をするときに靴への想いが言葉の波になって自分のなかから溢れると思うんです。
──むしろ全員野球の方が効率良かったりするのでしょうか。
宮川
いや、効率は悪いでしょうね(笑)
でも、そもそもお客様の笑顔をみたいという想いからこの会社をスタートしています。だから売れたからいいだろ、となったらこの会社の存在意義はなくなります。
僕らにはお客さんからすごい量のメールや手紙が届くんですが、これが届かなくなったら、どんだけ靴が売れていようと僕らは解散する。これだけは決めているんです。酔っ払ってふらふらになっても、この信念だけは語れます。
とはいえ、この先もずっと全員野球で行くかどうかはわかりませんけどね(笑)でも、僕らが会社を始めた頃の思いは忘れずに。それだけはどういう形でも続けていきます。
目指すはサザエさん一家?
──とはいえ、みなさんの経験や知識は溜まっていきますよね、きっと。
宮川
そうなんです。みんなが独自に持っているものをシェアする場所がないということに最近気付いたので、おしゃべり会をしようかって話しています。
──おしゃべり会、とっても良さそうです。クラシコムもそうですが、女性スタッフにとって話しやすい環境というものは、何にも代えがたいと思います。宮川さんのお人柄がそういった環境を作っているのかなと思ったのですが、再び上野さんいかがですか?
上野
とにかく誰にでも本気で接してはくれますね。23歳で入社した私にも最初から接し方は今と全く変わりません。
再びの上野さん、登場です。
宮川
彼女は特にめっちゃ噛み付いてきましたからね。こっちも本気で返さないと。
上野
すっごく言い合いになったりはしますけどね。でも、きちんと聞いて話をしてくれるという信頼があるから「うーん」と思ったことは溜めずに言おうと思える環境です。
私たちみんながNAOTの靴をめっちゃ好きということだけブレなければ良いわけで。スタッフ同士でも意見を言い合うことはありますし、真剣に話してこそみんなが思っていることが共有できると思っています。そして先輩がそうだから、自分もそうしたいと繋がっていく。結果として、すごく仲が良いですよね。
この環境は、敦さんが全ての人に対応が同じだから言いたいことが言えるんじゃないかと思います。
「あとで昼飯おごっちゃる!」と嬉しそうな宮川さん。
──宮川さんご自身は話しやすい雰囲気作りを考えたりされてるんですか。
宮川
特には考えていませんけどね。だって、みんな大人なんで、僕が言わなくてもダメなことはわかるだろうし、自主性に任せますよ。学校じゃないんだから。
でも、同じ家に暮らす家族のようではあるかもしれませんね。サザエさんのようなファミリーになれたらいいと思うんです。サザエさんをみると、少し寂しくなるあの気持ちっていいですよね。でも明日からのワクワクもあって。日本だなって。
──なるほど。宮川さんは、サザエさん一家でいうとどなたですか?
宮川
僕は波平さんですよね。
──波平さんは、「コラーッ」って結構怒りますが…
宮川
確かに。じゃあ、マスオさんですね。そもそも、義母のお店から始まっているわけだし。妻がサザエさんですね。幅広い世代が一つ屋根の下に仲良く暮らして、でも言いたいことはきちんと言えて、時にハプニングもありつつ。
──長く、長く続いていくんですね。
宮川
そうですね。サザエさん一家を目指します。
──では、最後に。今年はここには力を入れるぞっていうことはありますか。
宮川
「NAOTキャラバン」というNAOTの靴を持って全国津々浦々をまわる受注会があるんですが、この東京店を立ち上げる時に人手不足でストップしてしまっていました。でも、2年前くらいから再開していて、今年もいろんな土地に伺う予定です。
やっぱり直接お客さんに届けたい、お客さんの声が聞きたいとかっていうテーマなんですけどね。もし奈良や東京が遠くて来れないという方にはぜひ来ていただけたら嬉しいです。
キャラバンの情報は、公式HPから