「バカバカしさ」「読者目線」など、『和樂』が大切にされていることをお話いただいた前編に続きまして、後編では、女性誌ならではの広告モデルの枠を超えた、『和樂』が目指している新しいビジネス展開についてお話いただきました。
「日本美術」をテーマにしたビジネスを次々展開
青木
『和樂』さんは、雑誌はブランドの核として作り、その他のビジネスで利益を出そうというということを考えられているんですよね。
高木
そうですね。『和樂』事業室としては、今は6つのメディアを持っています。雑誌『和樂』が1つ目で、2つ目はまだ走り出したばかりですが、「INTOJAPAN」というウェブメディアがあります。
3つ目は、「JAPANラボ」でして。もともと、色んな企業の方から日本文化を取り入れたいけどどういう風にしたらいいかわからないと相談されることが多くて。これを、きちんとビジネスにしたいなと思いました。
今は、何人かの方が窓口になってくださって『和樂』がコンサルティングを請け負っています。
青木
そんなことまでされるんですね。
高木
今、一番大きい案件は、2019年に、新千歳空港に国際線ターミナルができることに合わせて、日本美術をテーマにした施設を作りたいということで、そのアートディレクションといいますか、コンサルティングやディレクションをさせていただいています。
こういったものが、今年から来年で2,3個決まりかけています。
そして、4つ目は、オリジナルの招き猫などの、『和樂』プロデュースの商品開発もしています。
5つ目の「コンシェルジュサービス」というのは、外部のコンシェルジュサービスと組んで、「『和樂』に載っていた旅先に行きたい」とか、「お茶会を開きたい」とかいったことをコーディネートしてもらえるといったサービスでして、今年の夏から始まります。
6つ目の「七夕入札会」というのは、いわゆるオークションです。日本美術は、今まで「見る」「知る」楽しみがあったんですけれど、そこに「買う」楽しみができつつあって、それをきちんとしたいなと思いまして。
というのも、今は、江戸時代のすごく良い絵でも20〜30万円で買えてしまうんです。ちょっと考えられない値段で取引されていて。有名な伊藤若冲の絵も400万円くらいで買えるんです。
青木
そうなんですね、知らなかったです。西洋の有名な絵は何千万もしますよね。
高木
それは、マーケットができているからなんです。海外の買い手が購入するかどうかは、その作品が投資になるかどうかがポイントで。でも、日本美術はマーケットがないので、そんな値段で取引されていて。でも、日本美術は、結構モダンなんです。マンションにも合いますし、クールといいますか、クールになるであろうと思っています。
その価値のある日本美術も、きちんとした価格で取引されるマーケットを作るために、京橋の加島美術というギャラリーと一緒に始めたのがこの「七夕入札会」です。七夕に始めるので「七夕入札会」とつけましたが、まあ、年末に開催されても別にいいと思うんですよね。
青木
「七夕入札会」ってすごく良い名前ですね。
オークションて男性のイメージが強いじゃないですか。それを「七夕」ってつけることで、すごく女性が行きやすい雰囲気が出るし、オークションというよりは、「入札会」という言葉の響きも良いですよね。
『和樂』プロデュースの棺桶!?日本文化のタブーを打ち崩したい。
高木
あとは、「ウェディングサービス」と「エンディングサービス」をやりたいと思っています。
青木
ウェディングとエンディングはまさに日本に目を向ける機会ですよね。エンディングはすべての人が迎えるものだし、ウェディングもかなりの人が行うもので。
高木
この間、広島の有名な桶屋の方と話をしたのですが、商品である棺桶に、ちょっと物語が欠けていて、「エンディングサービス」とまではなっていないのではないかと感じました。
カタログを見ながら、私も死んだらこの桶に入るのか…とか考えてしまって。物語を作るのは私たちが得意とする分野なので、ご協力できないかと思いまして。
まずは、その方の人生の記録や残された方々へのメッセージを書き込んだ「エンディングノート」を作って、その後に、桶屋さんと一緒に『和樂』の桶を作りたいなと。
青木
ウェディングもそういうところがありますよね。カタログに載っているステレオタイプの結婚式は挙げたくないとか。『和樂』を読む方は特にそういうこだわりがありそうですよね。
そして、『和樂』がバカバカしさというものを追求してきたらからこそ、エンディングをテーマとして扱っても大丈夫な許容を、読者との間に共有してる感じはすごくありますね。
高木
私たちがテーマとして掲げている「日本文化の民主化運動」もそういった意味があるかもしれませんが、何かしら社会の意識を変えるとか、社会に貢献するというモチベーションがないとビジネスってできないですよね。
「エンディングサービス」で何がしたいかというと、日本人が持っている死へのタブーとか、死を語ることへのタブーというものをちょっと変えたいと思うんですよね。あるいは、もっと死が自由であってほしいなと思っていて。
私は、個人的には海に捨ててほしいんですよ。
青木
散骨ということですか。
高木
いえ、散骨ではなくて。
青木
そのまま、ドボーンとですか。
高木
ええ。食われたいと思うんです。それでもいいじゃないかと。
こういうことが、メディアの役割なのかなと思うんですよね。さすがに死んだらドボーンを、スタッフに共有するのはなかなか難しいのですが(笑)
青木
怖気づきますね。
織田信長も愛した「茶の湯」をレンタルオフィスに
高木
あとは、私は、茶室で仕事をしたいんですよ。その辺りのマンションを茶室にしちゃって、それをレンタルオフィスにしてとか。うちがそれをやるべきだと思うんです。
青木
僕も、都心で時間を過ごそうと思っても、カフェとかって混んでて居心地が良くないことも多くて。
たとえば欧米だと、紳士クラブとか、そこに行ったらお酒も飲めて、ビジネス界隈の方とも出会えてという会員制の空間があって。それが日本にもあったら、僕は行きたいのになと思うんですけど。
日本には、宿泊もついたホテルとか、誰でも来れちゃうカフェとかしか無いですよね。もう少し日常的に滞在する場としてのサロンのような場所があったら面白いなと思っていて。
それが単にそういう場を作りましたではなくて、それにつながるメディアがあってというようなものだといいですよね。
高木
ワクワクしますよね。戦前までは、それは茶の湯が機能してたんです。経済人たちはみんな茶を嗜んで、茶会に集まって、そこでビジネスの話をしていたりしたんですね。
青木
あー、なるほど。
高木
でも、それが戦後、ほとんどなくなってしまって。茶の湯というものが、花嫁修業になってしまったんです。
青木
全然違うものになりましたね。
高木
あれはあれですごいんですが。
お茶の団体の方が、このままだとお茶の文化が終わってしまうから、花嫁修業としてシステムに組み込まないとということで、女子大に茶室を作ったんですね。女子大って花嫁候補がくるという当時の認識があったので。
そして、花嫁になるためには、茶道が必要なんだということで教育システムに組み込んでしまったんです。
それ以降、茶の湯は女性のものだという認識が強くなりました。
でも、本当は茶の湯はそういった機能だけではなくて、織田信長にしても豊臣秀吉にしても、茶の湯で論じていたと思うんです。上意下達じゃないアイデアを組む場所として、茶の湯って最高だと思うんですよ。
青木
たしかに、そうですね。
高木
異業種の方が集まるという意味でも良いですよね。
だったら、サイバー上に、茶室スペースを作ってというのも面白いでしょうし。会員の方々は、そこに入ってもらって、ビジネスや文化をマッチングするということもできますよね。
出版社だからできる新しいビジネスへの挑戦
高木
今持っているのは6つのメディアなんですけど、もう少し増やして、10くらいあると『和樂』が盤石になるなと考えています。
青木
すごいなー。めちゃくちゃ面白いですね。今日、雑誌の編集長がいらっしゃると思っていましたけど、これは完全にスタートアップのプレゼンテーションですね。
高木
まさに今、これらを実現するための、エンジェル投資家さんを探しています。ただ、これらはすべて、『和樂』という雑誌を出し続けるだめだけにやってるのですが。
青木
いや、でも、こういう事業をやりたいからやるというと、普通ですし、つまらなくなってしまうと思うんです。でも、雑誌を支えるための事業だっていうと、さらに面白いですよね。みんなで支えようみたいな感じになるじゃないですか。
高木
そうですね。でも、個人的には、ビジネスのセンスがある方に全部渡して、雑誌の編集だけに戻りたいんです。私は、編集上がりなので、どうしてもビジネスセンスってそんなにないんだろうなって。
青木
でも、僕は、ビジネスって状況の編集だと思ってるんですよ。
例えば、どういう人を集めるのかというのも一つの編集だし。お金をどう配分するのかということも編集じゃないですか。やりたい企画は色々あるけど、最終的にどこに結びつけるかということも編集なので。
だから、編集系の方ってすごくビジネスに向いてるんじゃないかなと思っていて。
むしろ今のトップになるべきなのは、お金の扱い方を知っているというよりも、どういう世界観をどういうプロセスで作りたいかを持っている人の方が良いのかなと。
編集者として、小学館という会社にいるからこそ、何か大きなことができるんじゃないかという気もしますし。
高木
そうですね。もちろん社内に同じような想いを持ってくださる方もたくさんいらっしゃいますしね。小学館は、ドラえもんとかの印象が強いんですけど、実は美術出版社なんですよ。
青木
そうなんですね!
高木
去年も、「日本美術全集」という、おそらく、今世紀最後の日本美術全集になるであろう本を刊行しまして。
これは私の夢ですが、東京国立博物館や京都国立博物館とかのデジタル版、つまりデジタル国立博物館が作りたくて。それって、ベースになるのは、日本美術全集でしかないと思うんです。あんなコンテンツを持っているところはどこにもないですから。
それを、東京国立博物館や京都国立博物館のように、サイバー上で企画展をやりたいんです。『和樂』でやっている世界の名画との比較もデジタルならすぐできるんです。
青木
和洋比較の企画、面白いですよねえ。
高木
このドヤ顔の展覧会だってすぐできるじゃないかと。多言語展開もできますし。世界の美女だけの名画展でもいいわけですし。なかなか実際の絵画を集めて開催するのは難しいですけれど、ウェブ上ならできるはずだと思っていて。それを『和樂』が運営するとか。
青木
面白いですねえ。
雑誌・女性誌という枠を超えて…
高木
出版は、自分たちで販売するわけではないので、読者との接点がめちゃくちゃ少ないんですよ。でも、ありがたいことに『和樂』は7000人の定期購読者の方々がいて、その方たちには直接的に接触できるんです。その一つがこの新聞でして。
青木
手作り感ありますね。
高木
この新聞は、とにかくどうでもいいネタしか書いていなくて。例えば、橋本記一という人が僕の前の編集長なんですが、彼をキャラクター化した「アンドリュー橋本」が公式キャラクターだったのに、ある日嫌になっちゃって、勝手にfacebookで卒業宣言をしていて。ですから、その卒業のわけをインタビューしたりですね。
あとは、7000人の定期購読者の方々にこちらから『和樂』のパスポートを送ってしまおうとも思っていて。美術館の割引が受けられたり、『和樂』の世界観を実現してくださっているお店とパートナーになって、何らかの優遇を受けられるパスポートにしたいなと。
和樂の世界観を実際に味わえる場所をたくさん増やしたいなと思っています。
青木
完成度の高い雑誌と、この手作り感あふれる新聞と、両方があっていいですね。
高木
雑誌は、紙でしかできないことをするために豪華に作ったので、逆に言うと、高尚にとられてしまっているんですよ。それは嫌なので、和樂新聞を発行していて。Twitterも「和樂−公式と非公式のあいだ」という名前でやっていて、すごく砕けてやっているのですが、それは読者の方々と親しくなりたくて。
よく絡むので、たまに炎上するんですよ。
青木
炎上してるんですね(笑)
『和樂』さんは女性誌とのことですが、こういったバカバカしい世界観て、男性も好きですよね。
高木
男性の読者の方々も増えてきましたね。歯医者さんの奥様が買って、旦那さんも読むみたいなルートで知っていただくことが多いようです。アニメ好きの方も増えてきていますね。
青木
全体的に、サブカルっぽいですもんね。
高木
日本美術には、アニメの原型が詰まっているのだと思います。そういう方も、もっと気軽に読むものに対して1500円というのは高いのかもしれないので、ウェブメディアである「INTOJAPAN」がそこを埋められればと思います。
青木
もはや女性誌とか、雑誌とか、そういうことを超えて、面白いことが期待できそうですね。今日は、本当に楽しかったです。これからも、ずっと『和樂』さんの挑戦を見守り続けます。
ありがとうございました!
高木
こちらこそ、とても楽しかったです。ありがとうございました。
最後まで高木編集長に笑わされっぱなしの代表・青木でした。
前編は、『和樂』ブランドが大切にされていることをたっぷりお話いただきました。
「前編:バカバカしさだけが人々を熱狂させるコンテンツになる!」