2016.12.20

なかしましほさんとお仕事の話をしよう:後編「経営者として守りたい会社・スタッフのこと」

書き手 クラシコム馬居
写真 有賀傑
なかしましほさんとお仕事の話をしよう:後編「経営者として守りたい会社・スタッフのこと」
なかしましほさんと、クラシコム代表・青木耕平がお仕事のお話をする対談後編です。

10年以上続けてこられたお店に対する思いを語っていただいた前編に続きまして、後編では、社員を抱える経営者としてのお話で盛り上がりました。

お菓子を売り続けるのは、お客様とスタッフのため

ーーーなかしまさんのお店「foodmood」には、たくさんのスタッフさんがいらっしゃいますよね。レシピ本の出版やフードコーディネーターなど、お一人でも十分ご活躍されているなかしまさんが、スタッフさんを雇い、しっかりお店を事業として継続されているのは、なぜですか。

なかしま
本を出させてもらうようになってから、注文が増えたことで、まず数人のスタッフに入ってもらいました。でも、なかなかお店としての経営は、赤字は出ないけど、儲かりもしない、私の本の売上で成り立っているような状況が続きました。

そんなに儲けが出なくても良いと思っていたんです。ただ、続けていくうちに、スタッフが増えていって、そうすると、やっぱりお店もきちんと機能させていかなきゃいけないと思うようになって。

つまり、その時も、今も、お店は自分のためではなくて、お客様とスタッフのためにと思って運営しています。

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青木
よくわかります。

僕も、よく、どこまで会社を大きくしたいんですかという質問を受けることがあるんです。でも、僕自身は、会社を大きくすることを目的にしてやってきたつもりはないんですね。

ただ、最後に入ったスタッフのことを考えると、そのスタッフに一生後輩ができないのはどうだろうと思ってしまって。社会の一員として、自分が教えられて育ったら、次は教えて面倒をみる機会を持たせたいと思うようになって。

年月が経てば、社員も年を取って辞めていく時に、入れ替わりが起こると思うんですけど、そこまでは、よっぽど離職率が高くないと、ビジネスの規模が一定のままで常に新しい人を入れることなんてできないんですよね。

そうすると、新しい人を入れるためには、規模を大きくしていかないといけなくて。

つまり、ビジネスを大きくするために人を雇っているのではなくて、人を雇うためにビジネスを大きくしているんですっていう結論になるんですよね。

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なかしま
全く一緒です。うちも、スタッフに働き続けてもらうために、お菓子を作る量を増やさないといけないということで、規模が大きくなっていますね。

青木
今はどのくらいのスタッフの方がいらっしゃるんですか。

なかしま
13人くらいです。ちょっとずつ増えてきたらそのくらいに。

今いる人達が、楽しく働いて暮らせるように、そしてお客様が喜んでくださるように、お菓子をつくっているうちに、大きくなってしまったんですよね。

青木
個人のエゴでは、そこまでのモチベーションはないですよね。

なかしま
ないんです。

ただお店を大きくしたい、お金を儲けたいわけじゃない

青木
うちには、駅ビルとかに店舗を出しませんかっていうお誘いはすごく多いんです。

なかしま
百貨店とかもですよね。うちもあります。でも、そういう場所にお店を出すという状況を、全くイメージできないんです。

青木
ただお店を大きくしたいわけではないんですよね。

なかしま
今とは違う層のお客様が来てくれるかもしれないですが、値段が変わったり、無駄になるものが出たり、スタッフが大変になったりとか、なかなかよい形がイメージできないんです。

本当にありがたいですし、申し訳ないんですけど。

青木
色んな人に実店舗を出すことやチェーン展開とかも薦められるんですけど、たしかにビジネスの規模は大きくなるだろうということは分かるんですけど、今はやる気になれなくて…。

なかしま
単純に儲けたいわけじゃないんです。

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青木
どう考えても、気持ちよくできる気がしないんですよね。何かを犠牲にしてしまう気がして。

なかしま
毎日があっての仕事なので、生活を大きく変えたいわけではなくて、想像が追いつかないですよね…。

経営者の仕事は用務員。スタッフが心地よく働けるための存在

青木
でも一方では、大きくしようと思ってなかったのに、スタッフは増えてしまうんですよね。

なかしま
そうなんですよね。思ってなかったんですけどね。

人と関わることが嫌で独立したのに、今はスタッフがいて、結局また人と関わらないといけなくて。毎日何を一番考えるかというと、お客様であり、商品であり、やっぱりスタッフのことなんですよね。

青木さんとお話して思ったのは、経営者って、用務員さんみたいだなって。全然偉いわけじゃないし、みんなのお世話役みたいなんですよね。

青木
「社長!蜂が入ってきました!」とか言われますよね。

なかしま
そうそう、蟻が入ってきましたとか。そういうことを、処理して片付けていくのが私たちの仕事なんですよね。

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青木
本当にそうなんです。

僕は、「青木さん」て声をかけられることがすごく怖くて。というのも、僕のところにあがってくる話って楽しいことって本当にないんですよね。お客さんからこんなに嬉しいメールがきましたとか、ご紹介した商品がたくさん売れたよとかっていう良い話って現場で処理できるんですよね。

僕のとこにくるのって、ちょっと嫌な話か、すごく嫌な話かのどちらかで。だから僕のところにスタッフがくるとまず、「ちょっと嫌なことか、すごく嫌なことか教えて」っていうんです。

なかしま
すごくわかります。

外出時のお店からかかってくる電話は本当に嫌です。電話をかけるほどの用事って普通のことではないので…。ただ、私が知らないうちに何かが起きていることは駄目なので、良いことも悪いことも基本的に全部報告してもらいたいんですけどね。

青木
ただ、こちらの悪いことが起きた時に自然に湧き上がる、嫌なことから目を背けたいという気持ちが見えてしまうと、次から言ってもらえなくなるじゃないですか。なので、とにかく態度としては、そうやって知らせてくれることはウェルカムだよとはしているんですけどね。

なかしま
責任は取るよってことですよね。

たいせつなのは、会社が健全であり続けること

ーーー今後、なかしまさんは、こうしていきたい、というような目標などはありますか。

なかしま
あまり将来的な目標はないんです。今のお客様が喜んでくれて、スタッフが楽しく働けて、ということを続けていきたいに尽きるんです。具体的にこうしたいということはないですね。

やりたいことといえば、「毎日きちんとお店を営業できること」ってなっちゃいますね。

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青木
僕らはいつも、健全で有り続けたいといっていて。

今は駅ビルには出さないとか言っていますけど、これってこういう意味があるのか!とわかった時に、やります〜!となったり、やらないことが不健全なことになったときは、やるかもしれないです。

なかしま
わかります。私もやるかもしれないです。あくまで現時点で健全にってことですよね。今、特に悩むことがないから、今のままでって思えているのかもしれないです。

青木
健全でありたいんですよね。会社が大きかろうが、小さかろうが。そのためにできることであれば、形に対するこだわりはあまりなくて。

なかしま
そうですね。私と青木さんの共通することって、そういう執着がないことかもしれませんね。こうじゃなきゃ!っていうのがそんなになくて。

青木
もしかしたら、なかしまさんのお店も、バターを使わないことが、お客様や、一緒に働いている人たちにとってしっくりこないことがあったら、使うっていう可能性もあるのかな、とか考え始めるかもしれませんよね。

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なかしま
そうですね。そういう変化は来るかもしれないです。

青木
大事なのは、自分と自分の周囲の人達が、健全でいられることで。そのためだったら、自分はある程度犠牲になっても良いなと思っているところがあって。

なかしま
やっぱり用務員さんなんですね。

青木
親が子どもに対する気持ちや満足感に近いですね。

スタッフを幸せにするために。悩ましい給与の問題

なかしま
そうなんですよね。なんかどんどんやってあげたくなっちゃって、さじ加減が難しいですね。

私は、なんだか、お給料をあんまりあげることができていない罪悪感があって。他のことで、なんとかしてあげないと、と思ってしまっているということもあります。

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青木
わかります。給料って本当に難しくて。

みなさんそうだと思うんですけど、僕らも、一応、全員の人件費の総額を決めるためのロジックのようなものだけはあります。いわゆる粗利益を三分割して、三分の一は人件費に、三分の一は人件費以外の販管費に、そして残った三分の一が営業利益として残るように計画しています。

なかしま
あー、そういう基準って飲食業とほとんど同じですね。

青木
なかなか計画通り、基準通りにやれるわけじゃないんですが、一応そういう前提で計画しておかないと、長く続けられる健全な事業にするのが難しくなります。

そうすると絶対額が決まってきちゃうので、すごく悩むんですよ。ただ、無理な経営がたたって会社が傾いて職場がなくなってしまうことも働く人にとって不幸なことなので、後先考えずに大盤振る舞いするわけにもいかないし。

なかしま
そうなんですよね。それで、私も税理士さんによく止められるんです。

でも、周りから、働いているときは楽しく働いてたのに、何らかの問題があって辞める人って、最後はお金のことになっちゃうと聞くと、お金のことで辞められてしまうのは嫌なので、ちゃんとしようと思うんですよね。

青木
世の中、楽しそうな仕事だからこれくらいの給料でもいいでしょっていう傾向はありますよね。

なかしま
でも、楽しかったらできるでしょってそんな時代じゃないですよね。

青木
僕は、自分の責任から逃げてないかっていうことだけはいつも考えているんですよね。

僕の怠慢や不勉強で、あらたな収益機会が目の前にあるのにやらないがために、社員の給与が低い水準で保たれてしまっている、ということは避けたくて。

みんなが楽しく働いてくれるからいいかってどっか甘えてる部分はないかとか、すごく自問自答しますね。

なかしま
お金のことはやっぱりすごく気になりますよね。

青木
本当にそうですね。

でも、いくらあげられてるかではなくて、そういう風に、お金のことは考え続けたいです。

すごく儲かって、他よりも給料をあげられていたとしても、だからこれでいいだろうと思うのもちょっと違うと思うし。いつでも自分の責任を果たせてるだろうかということをクヨクヨ考えていたいですね。

なかしま
考えていたいですね。

昔の飲食店て、どこか修行という雰囲気があって、すごく給料が安いんですよね。でも自分がそういう安いところを経験した上で、生活できなかったら駄目だと思っていて。なので、あまり飲食業界を基準にはしたくないんですよね。

東京で暮らす女の子として、たまには美味しいものを食べて、おしゃれをしてってさせたいと思うんですよね。

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青木
やっぱりお客さんも喜ばせつつ、一緒に働いている人を幸せにしたいですよね。

なかしま
そうなんです。表向きはお客さんが一番大事って言わないといけないと思うんですけど、自分にとっては同じくらい大事で。

青木
自分が幸せになるためには、自分の目に届く人が幸せになってないと。

なかしま
本当にそう思いますね。

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前編「すぐ売り切れるお店、なんでもあるお店になったらだめ」