メディア運営に必要なのは「気合」の入った上司・編集長・ライター
(司会)では、2つめのテーマにいきましょう。近年、マーケティングやPRのために、多くの企業が「オウンドメディア」を立ち上げています。ヨッピーさんも、さまざまなメディアで書かれていますが、オウンドメディアに必要なことはなんだと思いますか。
ヨッピー
「気合」ですね。「気合の入った上司」がいて、「気合の入った編集長」がいて、「気合の入ったライター」がいる。この3つが揃わなければ、オウンドメディアはやらない方がいいと思っています。気合、気合って我ながらアホみたいな発言だなと思いますけど。
「上司の気合」は、「ヒト・モノ・カネ」に対してどこまで腹をくくれるか、ですね。
依頼を頂くときに、「この新メディアは、社運がかかったプロジェクトです!是非書いてください!でも、予算はないです!」とか言われたりします。でも、それって予算突っ込んでないなら全然社運かかってないじゃん、と思いますよね。
気合の入っていない上司が上にいると、現場はめっちゃやりづらいんですよね。決裁もなかなかおりないし、予算もない。そんな風に中途半端にやるならやらないほうがいいと思います。
そして、気合の入ったライターももちろん大事ですけど、とにかく、編集長に気合が入っていないと、ライターは誰もついて来ないと思うんですよね。
青木
オウンドメディアは、いきなり結果が出るというタイプの施策ではないので、予算に気合が入らないことはありますよね。
でも、ずっと気合を入れてやっていけば、広告ではなかなか実現できない「深いコミュニケーションをたくさんの人ととることができる場」になる可能性を秘めていて、そういう意味では、ある種大きな賭けの施策であると思います。
賭けという意味では、ギャンブルで一番良くないのは、ちょこちょこ少額を賭けて、気がついたらすごい額を費やしてしまったという時だと思うので、勝負どころではきちんと賭けないといけないとは思います。
ヨッピー
オウンドメディアって最初は絶対儲からないし「なんのためにやってるんだっけ」ってなりがちですが、どこかの地点を超えると、とても便利なものになりますよね。でも、超えるまでに力尽きることが多い気がするんですよ。
更新停止したオウンドメディアってめっちゃありますよね。そもそも用意したお金が足りなかったとか、人的リソースが足りないとか色々あると思いますが、損益分岐点を超えるまではもうみんなの気合で乗り越えるしかないですよたぶん。
オウンドメディア運営を頑張ればWEBコミュニケーションが学べる
青木
でも、気合だけ入っていればうまくいくかというと、そうではないですよね。
気合の上に、何のためにやるんだろうと考えなくてはいけなくて。僕は、オウンドメディアは、仲間を増やすための取り組みなんだろうなと思うんですよね。
自分たちの会社や商品に共感してくれて、欲を言えば、ヨッピーさんを擁護してくれる人のように、いざというときに助けてくれる仲間を増やすことが目的だと思います。
そして、みんなが仲間になりたいと思うのは、「すごい人」か「楽しそうな人」であるのかなと思うので、まあ、すごい人になるのは簡単ではないですから、楽しそうにやっている感は出したいなと思います。
ヨッピー
辛いこともたくさんありますけど、基本的にメディア運営は楽しいですよ。
もし上手くいかなくて途中で駄目になっても、その過程で「ユーザーとコミュニケーションする」っていう体験は出来るわけですから。そういうのってインターネットならではで、テレビやラジオのCMで、お客さんとコミュニケーションを取るということはけっこう難しいですよね。
とにかく、毎日頑張っていれば、こういうことが喜ばれて、こういうことは怒られる、みたいなサジ加減がなんとなくわかってきます。そして、そういうサジ加減って、オウンドメディアに限らず、インターネットを使った様々なコミュニケーションをのためにすごく良い経験になりますよね。
僕は、「オモコロ」というお笑いメディアを運営しているバーグハンバーグバーグという会社の人たちと仲が良いんですけど、彼らは10年間ずっとオモコロを運営してきたから、「インターネットで何がウケるのか」ということを肌感でわかってるんだと思います。だから、ヒットする広告を作ることが出来るのかな、って。
株式会社バーグハンバーグバーグは、数々のヒット広告を手がける傍ら、多数のウェブメディアを運営している。※2
インターネットは、これから10年、20年と続いていく世界でしょうから、そういうノウハウは持っていたほうがいいと思います。
青木
インターネットでのコミュニケーションの研究開発の一貫としてオウンドメディアを行うという位置づけは面白いですね。
読者の気持ちが最優先。PVでは測れない仲間の数。
青木
ヨッピーさんが、仲間を増やしていくという状況を作るためには、ある程度内輪向けというか、ヨッピーさんを知っている人を対象にした記事を作らないといけないですよね。
でも、コアユーザーだけを対象にしていると、なかなか数字をとるのは難しくはありませんか。ウェブメディアを運営していると、PVやシェア数を目標においてしまい、そのウェブメディアのコアユーザーではない、初見の人でも価値を感じられるコンテンツのほうが良いものだと判断されてしまいがちだと思います。
ヨッピー
そうですね。
青木
たとえば、「北欧、暮らしの道具店」でいうと、レシピやお片付け術は、「北欧、暮らしの道具店」を知らなくても楽しめるので、絶対に良い数字を出します。一方、社内の様子などを出した時の数字はあまり良くありません。
でも、僕たちにとっては、社内の様子を楽しんでくれるお客様が重要なのです。
クラシコム社内の様子をコラムにしたコーナー「今日のクラシコム」(北欧、暮らしの道具店)
最初はレシピなどで入った人が、何回も来てくれて、その上で、社内はこうなのねと楽しんでくれる。そういう人に増えてもらうことが大切だと考えるので、そんなコンテキストを共有しているコアユーザーだから楽しめるコンテンツを、必ず一定数は配信するようにしています。
初見の方でも楽しめる記事だけを作り続けると、いつまでたっても仲間ができないと思うんです。
ヨッピー
たしかに、どんなにPVがでているメディアでも、そのメディアを好きな人がだれもいないようなものは、いつまで続くのかもわからないので、やっていても仕方がないと思います。
青木
僕らは、目標PVは一切持っていません。でも、放っておくと、スタッフはみんな真面目だし、いつも一生懸命なので、自分で調べて数字を知って、PVが高くなるような記事ばかり作ろうとしてしまうんですね。むしろ僕が編集会議に出て、そういうことをやりすぎるなということを言わないといけないくらいです。
「自分だったら、お片付け術のようなコンテンツだけをみて、そのサイトの仲間になる?」というようなことを繰り返し言っています。
でも、広告でクライアントさんと取り組みをすると、PVなどの指標は課されますよね。
ヨッピー
そうですね。僕は、むしろ、クライアントさんには、最初は数字のことしかいいません。わかりやすいので。何万PVとってくださいといわれたら、「そうなるように頑張ります」って。
でも、優先順位については最初に共有します。一番は読者、次は取材を受けてくれる人、あなた達はお金をくれますけど一番下です。それでもいいですか、ということを了承してもらってからお仕事を受けることにしています。読者にとって得にならない記事は、お金をもらっても作りたくないですからね。
青木
ヨッピーさんは、オウンドメディアからの依頼で、どういうものはやりやすいなと思いますか。
ヨッピー
やっぱり気合が入ってるメディアですね。公開されている記事を見て、インターネットでこういうことあったらしいですよ、というだけを書いたコンテンツがあったりすると、「気合が入ってないなぁ」と思います。こういうことがあったから、こういう人に話を聞いてみました、というものだったらいいと思うんですけど。
青木
一次情報をとりにいってるなということですね
ヨッピー
そうですね。気合が入っていないメディアだと、責任から何から、全部ライターに色々のしかかってきて疲れちゃうのでよっぽど良い条件じゃない限りはやめる事にしてます。
作り手も同じ属性であることを伝えれば信頼は生まれる。
(司会) それでは、ここで、お時間がきてしまったので、最後に会場のみなさまで、質問がある方はぜひお願いします。
Q:オウンドメディアの仲間になってくれる人を獲得するには、その方たちに目線を合わせたほうがいいのか、こちらから教えるような目線にするのか、どちらのほうが良いと思いますか。
青木
どちらかということはないと思います。「北欧、暮らしの道具店」は、スタッフが語る形になっているケースと有名な方にお話を伺うケース場合と両方あります。
意外かもしれませんが、スタッフが語るほうが読了率やPVなどの数字がいいことが多いです。ただメディア全体が僕たち運営者の主語だけで埋め尽くされてしまうと、バランスが悪くなるので色々な方に登場願ってバランスを取っているところはあります。
あとは、スタッフが語りつつも、権威的に保証する意味で、有名な人にも一緒に出てもらうコンテンツも作ります。
ただ、もし企業さんがオウンドメディアを運営する際の立ち位置で、一番打ちだしたほうがいいなと思うのは、企業さんの中に仲間になってもらいたい読者の方たちと同じような属性の人、同じようなことに悩んだり、喜んだりしている人がいるということだと思います。
僕たちが、スポンサードコンテンツを作るにあたって、企業さんのお話をうかがうと、宣伝担当の方や、開発担当の方の中に、「北欧、暮らしの道具店」の読者のような方がいるなと思うことがよくあります。
でも、生活者サイドはそれ商品の向こう側に想起できていません。商品の向こう側に想起するのはなんとなく、難しい顔をしたおじさんの姿だったり、そもそも人間をおもいうかべられていなくて、工場だとか、ビルなどを想起したり。
「あなたに近い人が一生懸命働いているんですよ」、「そこにはあなたと価値観の遠くない話の通じる人間がいるんですよ」、という事実が一番読者に親近感をわかせ、響くと思うんです。
ヨッピー
親近感を出すのであれば、社長でもいい気はするんですけどね。大きい会社の社長がインターネットのよくわからない記事に出てきたらそれだけで親近感が出てくると思います。
まだ偉い人がインターネットに出るという文化がそんなにないので、ウケますよね。これが何年か経って、偉い人が当たり前に出てくるようになると、新鮮さが薄れるような気はするんですけど。
青木
打ち上げ花火的に偉い人を出すのは良いですね。でも、基本は、読者に近い人が語ったほうがいいと思います。主体は近い人で、その人が偉い人を連れて来るというような企画が良いかもしれませんね。
まずは、自分たちと共感できる人が中にいるなら、信じられるかもというシンプルな信頼感を目指すことが、難易度も低いと思います。面白がらせるのは、難易度が高いですし。
同じじゃんくらいに思ってもらうとか、同じ問題意識や、良心を持った人がいる事を知ってもらえれば、信じてもらえるのではないかと思います。
■出典
※1ヨッピー「野良YouTuberを探しに行ったのに最終的には「落語家すげぇな」ってなった話」オモコロ:2016/06/10更新:2016/12/05引用
※2バーグハンバーグバーグHP 2016/12/05引用
前編「読者が得をするコンテンツは炎上しない!人気ライター・ヨッピー&「北欧、暮らしの道具店」青木耕平対談 前編」
次回のトークセッションは、2017年1月26日(木)にオイシックス株式会社の奥谷孝司さんを招いて開催いたします。詳細は以下のバナーよりご覧ください。