そんなヨッピーさんと、広告事業を初めて1年経った「北欧、暮らしの道具店」を運営する株式会社クラシコム代表青木が、2016年11月21日に、各企業でマーケティングや宣伝を担当されている方を対象に開催されたトークショーでお話した内容を、前後編でお届けします。
前編は、「発信者として気をつけていること」がテーマです。
ネットショップから広告へ。下ネタから広告へ。その軌跡。
(司会)まずは自己紹介からお願い致します。
ヨッピー
こんにちは。インターネットを軸にライターの仕事をしています、ヨッピーです。ちょっと調子に乗って偉そうなことも言ってしまうかもしれないのですが…。どうぞお手柔らかにお願いします。
青木
「北欧、暮らしの道具店」というネットショップを運営しているクラシコム代表の青木と申します。
僕らのサイトと、ヨッピーさんは、ちょっと距離があるのではと思われる方も多いかもしれないのですが…。
ヨッピー
僕みたいな下品な人間とは品が違いますもんね。
青木
いえいえ。そんなことはないです。でも、たしかに、キャラは違うかもしれませんね。
でも、僕らのビジネスも広告事業始めたことで、ヨッピーさんの活動に共通することがあるなと感じているんです。
僕らは2007年にネットショップを始めて、多くのお客様に訪れていただけるようになりました。そして、2015年からそのお客様たちに向けて、クライアントさんの商品や会社をご紹介する広告事業をはじめました。
「北欧、暮らしの道具店」のスポンサードコンテンツ「BRAND NOTE」
今思うのは、もし「北欧、暮らしの道具店」ができたばかりの頃に、たとえ、今と同じコンテンツを作る力があったとしても、広告事業はできなかっただろうなということなんですよね。「北欧、暮らしの道具店」というネットショップを10年間、お店としてお客様とつきあってきた積み重ねがあってはじめて成り立っていると考えています。
ヨッピーさんの記事は、最初の頃は、今とは違って、下ネタや、体張る系のコンテンツばかりだったと思います。
それが、段々と社会派の内容も書かれるようになって、広告案件を受けられるようになってきましたよね。これも、もし最初から、今と同じクオリティで広告の記事をつくっても、なかなか世の中に受け入れられなかったのではないかと思います。
僕らと同じで、積み重ねがあってのことかなと。その過程や、維持について、今日はお話できればと考えています。
ヨッピーさんは、どういった経緯で、今のスタイルに変化したんですか。
ヨッピー
ライターを始めた頃は、下ネタばかり書いてたんですよね。下ネタの覇者って言って。
いってみれば、当時の僕って「下ネタ」を料理として提供するお店だったわけです。
でも、下ネタばかり提供していると、当たり前ですけど、下ネタを喜ぶ人しかお店に来なくなって行き詰まってくるんですよ。さらに、下ネタって手っ取り早いから、ライバル店もどんどん出て来るんですよね。
だから僕の周りには下ネタを提供するお店ばっかり増えてきて、お店のある通り全体の治安が悪くなったっていう。スラムですよスラム。それで、「これはアカン」思って、下ネタを控え目にして、今度は体を張るようになりました。
すると今度は、「ARuFa」というすごいライターが現れまして。体を張りつつ、桁違いの数字をとる化物みたいなやつが出てきたんです。自分が出したお店の隣に、ものすごい美味しいフレンチのレストランを500円で出す店が出来た、みたいな。そんなもん、勝てるわけないじゃないですか。
「これは勝てない。別の生きる道を探さなきゃ」って生き残る方法を模索しつつ、体を張るだけではなくて、時事問題の取材もやってみたら「意外とできるのかな?」って。そんな流れで「何が出来るかな~」って模索している内に広告もやるようになって今に至るという感じです。
炎上するのは、読者が得するコンテンツじゃないから。
(司会)そんな、ライターとして、メディア運営者として、広告案件を取り扱いながら、インターネット上で「発信」しているお二方ですが、「発信者」として最も心がけていることをテーマに前半はお話していただきたいと思います。ヨッピーさんは、どんなことを心がけていますか。
ヨッピー
「発信者」として心がけていることは、シンプルに言うと、「読者に得をさせる」ということですね。読んだ人が得をする、つまりは「面白かった」「タメになった」「感心した」「感動した」「儲かった」とかそういう「読んで良かったな」って思ってもらえるような記事を作るという事です。
炎上する広告ってよくありますよね。誰かを馬鹿にするから炎上するんだ、不適切な表現があったから炎上するんだ、なんて言われますけど、僕はそれだけじゃないと思っています。
炎上のプロセスが違うんですよね。「この表現がむかつく→だから叩いてやろう」っていうプロセスで炎上してるって思われがちですが、少し違った見方もあって、一番最初に来るのは読者がコンテンツを見て得をしたかどうか、じゃないかなって。
読者がコンテンツを見て、「つまんない」「読んで損した」「時間返せ」っていうのが最初にあって、それが気に入らないから、どこかに文句言えるような部分、言わば「あら」を探して、その「あら」に対する悪口をネットに書く、っていう。
「読んで良かったな」って思われる記事であれば、多少表現が不適切でも別に怒られたりしないですもん。だから読者に得をしてもらおう、という事さえ意識してればそうそう炎上しないような気がします。
青木
「あら」の一つかもしれないのですが、会社や商材のことをストレートにPRしすぎているということも、炎上の原因として語られたりしますよね。でも、僕は、それは違うなと思っていて。読者が嫌いなのは、「嘘」と「退屈」ではないかと。
「本当」が「面白く」表現されていれば、自分の商材をストレートに伝えていても、きちんと聞いてくれるものではないかと考えています。
ヨッピー
そうですね。結局、読んで良かったと思ってもらえばいいんです。もちろん面白ければ何をしても良い、という事ではないんですけども。
発信する側は、あら捜しされることを恐れる前に、まず、その記事が、読者にとって得になる情報なのかどうかを確認すべきだと思います。
笑いをベースにした発信の積み重ねがつくった読者との信頼
青木
そういった、「読者に得をさせる」ですとか、発信する上で一定の約束を守っていると、だんだんと高いハードルが飛べるようになりますよね。
ヨッピー
そうですね。積み重ねは大切ですね。
僕も、だんだんと偉い人にもインタビューをすることができるようになっていまして。
まずは市長にお会いする機会があって、その実績で今度は県知事にお会いすることができるようになるわけです。
弘前市の市長とサシ飲みをするヨッピーさん(ジモコロ)※1
そう積み重ねていたら、今度、未確定なんであんまり大きな声では言えないんですけれども、またすごく偉い人に会えることになりました。次はその実績で総理大臣に会えるかもしれないですよね。読者も、ヨッピーのやつ、次は誰に会いに行くんだろう!って楽しみにしてくれてるんじゃないかな、って。
インターネットの良いところは、そういった、ストーリーテリングができるところだと思っています。普段、僕を好きな人は、僕がどういうことをしてきたかわかった上で、新しい記事を読んでくれる。だから、裏側がわかって更に面白いということがあると思います。
雑誌だと、この記事が面白い、ライターは誰だろうって考えて、そのライターさんが書いた記事を集めて過去記事を読むということはなかなかできませんよね。でも、インターネットなら検索して簡単に読むことができます。そういう積み重ねができるところが、インターネットの良いところかなと思います。
青木
約束を守って発信し続けることで、読者の信用を得ているということですね。
ヨッピー
そうそう。昔、留年したことを親に言えていない学生を集めて、一緒に親に謝りに行くという企画をたてた事があるんですね。
そして、インターネット上で留年生を探していると、「留年した人を、晒し者にしておもちゃにするつもりか!」と批判する人が出てきまして。僕も「なるほどなー。確かに一理あるけど、どうしようかなぁ」って思ってたんですよ。
でも、普段、僕の記事を見ている人が、「ヨッピーさんは、一方的に馬鹿にする記事は書かないから心配しなくていいよ」と批判してきた人に対して擁護してくたんですね。すると、批判していた人も、「じゃあ、僕も記事を楽しみに待ってます」という風に収まったりして。
青木
読者の方々が、火消しをしてくれたのですね。
ヨッピーさんが、そういった信用を得ているのは、もともとが「笑わせる」という関係性を読者の方と築いてきたことも影響しているのかなと思うのですが。
例えば、ビートたけしさんは、お笑い出身ということが、文化的なことや、政治の問題、世の中のモラルの問題などに対してコメントする場合でも多くの人に共感をしてもらいやすい土壌をつくっている気がします。
お笑い=体制側の人ではない本音トークをしてくれる人という立ち位置を築いてきたからこそ、お笑いに関係ない話題においての発言も一定の信頼を得ることができているという部分がヨッピーさんとも重なって見えます。
ヨッピー
僕の名言で、「インターネットは弱いほうが強い」というものがありまして。例えば、大企業と中小企業だと中小企業を応援したくなりますし、イケメンと不細工が喧嘩したら、できれば不細工の肩を持ちたくなるじゃないですか。
で、僕は三輪車で都内を一周させられたり、42.195kg背負って42.195km歩かされたり、普段からひどい目にあっているせいか、わりと肩を持って頂いてる気がしますね。社会派の記事を書く時も、仮に僕が、社会学者だったらポジショニングトークだろとか言われてしまうもしれませんが、僕は、三輪車で東京を一周しているような人間なので、ポジションをとって発言をしてるようには見られませんし。
「主語」を広げて、読者との距離を縮めて、共感を得る。
青木
タイアップの記事を書かれる際に、多くの人にとって馴染みのないことを書かなくてはいけないことがありますよね。自分に関係のある事柄でないと、共感してもらうこともなかなか難しいと思うのですが、そのようなときはどうしていますか?
ヨッピー
なるべく主語を大きくしますね。
例えば、特定の業界の人と喧嘩する記事を書く場合でも、最後に、「こういう人ってどの会社にもいますよね」という一言を入れると、みんなの頭のなかで、「あの人だ!」と浮かんで盛り上がったり。
青木
あなたにも関係がありますよ、という言葉が埋め込まれているんですね。
ヨッピー
そうですね。でもそういう部分は細かいテクニックでしかなくて、「共感してもらえないなこれ」っていうことはそもそも書きません。
僕は、たまにインターネット上で喧嘩したりもしているので、怖い人だと思われがちなのですが、怒る際には、「自分個人のことでは怒らない」っていうルールを決めたりしてるんですね。自分が入ったお店の対応が悪かったからといって、その出来事を書いたりはしません。みんなのことにできることや、社会にとって有意義だと思わない限り、書かないようにしています。
青木
最初にお仕事を受けられる際や、ネタを考える際に、みんなにシェアできるポイントが見つかっているかということに気をつけられているんですね。
仲間になって欲しい層を明らかにして目線をあわせる
ヨッピー
あと共感を生むには、目線を下げるということも大切ですね。僕は、自分が「馬鹿」であることをオープンにすることで、僕=馬鹿でもわかるように記事を構成して、読者の目線を下げています。
以前、「誰でもわかる量子学」という記事を書いた際にも使った手法なのですが。
量子力学というのは、理系のお話なので、普通に文系の人達が聞いても、意味がわかりません。こういう難しい話を書くときは、特に馬鹿の目線が必要です。
普段は、僕が馬鹿の役ですが、この時は、取材をするにあたって、量子力学についてある程度調べてしまっていたので、「量子力学」という単語すら聞いたことのない女の子を連れていきました。これで、賢い教授と、ある程度わかっている僕と、何もわからない女の子という3つの視点で記事を構成することができました。
【誰でも分かる】「量子力学」ってなんなの? 詳しい人に聞いてきた【入門編】(インテリジェンスの派遣)※3
このことによって、詳しい人は教授の目線、少し知っている人は僕、全くわからない人は彼女と、それぞれ共感してもらうことができました。
青木
難しい単語が出てきた時に、自分がその場にいたら聞けないかもしれないけど、何もわからないという前提の人がインタビュー上で代わりに聞いてくれると、気持ちよく読めますよね。
お客様の目線を、自分たちの記事にどう憑依させるかということは、僕らもすごく考えます。
ヨッピー
僕は、普段からインターネットを使っているので、読者の目線が何となくわかりますけど、あまりインターネットを使わない企業の方が、ウェブ広告を作ろうとしても、なかなか難しいのではないかと思います。
そういった多くの企業の方は、かっこよさを見せたがりますが、読者はただかっこよさを見せられることなんて求めていません。高級車など憧れてもらったほうが良いものもあるとは思いますが。
青木
誰とコミュニケーションを取りたいかということは重要ですね。メディアは、対象を「みんな」と言った瞬間に成立しなくなるのではないでしょうか。
生活雑貨や、コンビニで買えるものは、距離が近いほうが良いし、高級車を売るのに、車を持つ気がない人の目線で話しても仕方がないですよね。そのメディアや記事が、誰の仲間なのかが明確になっているかということが大切かと思います。
ウェブでは作り込みすぎないことが距離を近づける。
ヨッピー
でも、みんな、やたらアッパーゾーンといか、ハイクラスを狙いたがるというか、おしゃれに見せたがりますよね。あ、「北欧、暮らしの道具店」もそうか…!
青木
いや、みなさんにどう思われているかはわかりませんが、既存のインテリア業界からみると僕らはむしろ邪道でして。もっと作り込める、もっとかっこよくできるはずだということは、創業以来ずっと言われていることです。
でも、僕らは、リアリティがなくなったら、自分事だとは思うことができなくなると思っていて。
ヨッピー
すごくわかります。
青木
憧れをもってもらうことは、僕らのビジネスには大切ですが、実現不可能だと思われたらだめだと思います。
美大出身の方が個展を開いた時に、全然その人を知らない人は、なかなか見に行こうとは思わないですよね。でも、同級生や先輩の個展であれば、楽しめたりします。そんな風に、お客様から見て、同級生や、自分よりちょっとだけ活躍している先輩の個展のようにはなるにはどうしたらいいか考えよう、というのはいつも話しています。
ヨッピー
僕も、もっと作り込める、もっとかっこよくできると思って、食レポを書く際に、プロのカメラマンに撮影をしてもらったりしましたけど、写真が綺麗すぎると宣材のようでリアリティが出なくて。iPhoneの写真くらいがちょうどよいし、みんなも見てくれます。
青木
クオリティという意味では、出版業界の方たちがウェブに本気になったらやばいんじゃないかという議論はありますよね。でも、ヨッピーさんの記事の写真がiPhoneでとったもののほうが良いように、出版の作り込みノウハウのままウェブでつくってしまうと、作り込みすぎてちょっとはまらなくなっちゃうということもありますよね。ウェブはそのくらいがいいのかもしれません。
ヨッピー
そうですね。
後編:オウンドメディアで仲間づくりの研究を!ヨッピー&「北欧、暮らしの道具店」青木耕平対談
■出典
※1 ヨッピー「【本音】初キッスは公園!? 青森県弘前市長とサシ飲みをしてきた」(ジモコロ:2016/02/02更新:2016/12/5引用)
※2 ヨッピー「「三輪車で都内一周」という拷問を乗り切った男のストーリーを聞いてくれ」(オモコロ:2014/09/17更新:2015/12/5引用)
※3 ヨッピー「【誰でも分かる】「量子力学」ってなんなの? 詳しい人に聞いてきた【入門編】」(インテリジェンスの派遣:2016/01/28更新:2015/12/5引用)
次回のトークセッションは、2017年1月26日(木)にオイシックス株式会社の奥谷孝司さんを招いて開催いたします。詳細は以下のバナーよりご覧ください。