このニューカマーのふたり。クラシコムではちょっと異色の経歴を持つと話題です。さらにその業務も、新規事業のリサーチ、管理体制の強化といったものから、社内の備品購入まで多岐に渡ります。
クラシコムの「社長室」はなぜつくられ、どのような役割を持つのでしょうか。なぜふたりはちょっと畑違いのクラシコムにジョインしたのでしょうか。彼らには、クラシコムの人々はどう映るのでしょうか。
いわゆる「北欧、暮らしの道具店」っぽくはないふたり。でももしかすると、これから彼らによって思いもよらない化学変化が起こされていくのかもしれない、そんなワクワクのインタビューをお届けします。
ぽてんヒットを防ぐのが僕らの仕事
──社長室は、どのような仕事をしているのですか。
角野
僕は、クラシコムが新たに挑戦するコンテンツ事業について色々進めています。
「北欧、暮らしの道具店」で公開しているようなコラムなどではなく、ざっくりいうと物語のコンテンツですね。具体的に動いているひとつは漫画。もうひとつは、WEBドラマとして公開していた「青葉家のテーブル」を2020年公開を目標に映画化するのを皮切りに、映画事業を継続的に運営していくための組織作りや連携先との調整をしています。
それらに伴って、著作権を管理する法務も今より強化しなくてはいけないので、そのあたりも。
社長室・角野
高尾
僕は、「北欧、暮らしの道具店」の倉庫のオペレーションを改善したり、社内全体の情報セキュリティを強化したり、データ分析を進めたり、あとは広告出稿を細々と試してみたりしています。
角野
あと、最近だとプロジェクターも買いましたね。
高尾
そうですね。ソファーも見にいきました。
社長室・高尾
──ソファー?社内で使うものですか?
角野
はい。社内のカフェスペースにあるソファーです。青木さんと今のソファーはうちらしくないから変えたいねという話になって、ふたりで見にいきました。
──なんと幅広い業務。つまり社長室の役割というのは何なのでしょうか。
角野
野球で言えば、ぽてんヒットを防ぐ人だと考えているんですよ。
──ぽてんヒット?
角野
誰の守備範囲なのかわからないところに「ぽてんっ」とボールが落ちてしまうのを防ぐんです。だから、ソファーも探すし、プロジェクターも買う。
担当者がいないけど、会社にとって必要なことをまずは僕たちが手を付ける。
僕らが入社する前は、青木さんがひとりでやってきたことだと聞いています。そういう意味で、社長機能を拡大するのが「社長室」です。
──いわゆる「社長」のイメージとはちょっと違うお仕事ですが……でも、確かにこれまでは青木さんがやっていた仕事なのかもしれません。
角野
そして、新規事業もまずは僕たちが手をつけて、本格的に進めようとなったらきちんと社員をアサインする。
高尾
通常業務に追われてできなかったことを、まずは一歩踏み出すという仕事ですね。
──クラシコムの新たな可能性を探る部署でもあるんですね。
幸せってなんだろう、って考えていたんです
──そんな社長室のおふたりですが、経歴がクラシコムの中にはいなかったタイプ。高尾さんは化学関係の研究者さんだったのですよね。
高尾
そうです。大手の硝子メーカーで、ガラスに指紋や汚れをつけないためのコーティング材料の研究開発をしていました。
角野
転職する人なんてほとんどいないような、歴史ある大きな企業ですよね。
高尾
そうですね。良い会社でしたし、どうしても転職したいというわけではなかったんですけどね。
──では、一体なぜクラシコムに?
高尾
きっかけとしては、妻が「北欧、暮らしの道具店」のユーザーだったことがあります。そして、青木さんについて共通の知人から話を聞いたり、インタビュー記事を読んで面白い人だなとは思っていて。
ちょうど社長室の募集をしていたので、まずは一度会いに行ってみようと思いました。そこで青木さんと話をして、クラシコムの「フィットする暮らし、つくろう」というミッションがいいなって思ったんですよね。
というのも、僕はずっと「幸せ」について考えていたんですよ。
──幸せ、ですか。
もともと転職を決める1、2年前に工場で働いていたんです。開発したコーティング剤を量産するための工場勤務だったのですが、僕が苦手とする業務が多くて悪戦苦闘していました。大変だなぁ、と思う毎日の中で改めて「幸せってなんだろう」と考えるようになって。
──幸せって、なんなのでしょう。
高尾
結論、「自分が何をしたいか」を知ることが、大事だと思いました。そして、できれば僕の周りの人たちも幸せでいてほしい。でも、他人の幸せは、僕がコントロールできないことの方が多いので、難しいなと考えていました。
そんな話を青木さんにしたら、「幸せってとっても不確かなものだ」って言うんです。なぜなら、幸せかどうかって、周りと比べたり他人から言われてわかることで。周囲の状況で自分の幸せは変わってしまう。
でも、フィットするかどうかは自分の体で感じることだから、他人にどうこう言われることではないし、誰かと比較する必要も関係ない、と。だから「フィットする暮らし、つくろう」なんだって。
──幸せかどうか、ではなく、フィットするかどうか、を求めたほうがいいと。
高尾
これだ、って思いました。幸せ2.0だって。自分にとって「フィットする暮らし」ってどんなことだろうって、もうずっと考えられるテーマですし。
──では、明確にこの業務がやりたい!と思ったわけではなく、ミッションに共感したから転職を決めたと。
高尾
前職は大きな会社でしたので、営業や経理などの他の職種をやりたいなら部署を異動すればいいだけです。せっかく転職するのなら具体的に何をするということではなく、前職ではできないことをしようと思っていました。 その点、規模も事業も全く違うクラシコムは転職しがいがあるな、と思いました。
そして、クラシコムは「フィットする暮らし」を追い求められる人たちが集まっている会社だとも感じましたしね。
ここは面白いぞ、ビジネスとしての特殊さ
──角野さんの経歴も異色ですよね。大手スーパーでマーケティングなどを経験した後、出版社やベンチャー企業などを経て、前職では漫画家さんなどのクリエイター・エージェンシーで管理部門を担当されていたとのこと。一体、どんな理由でクラシコムに入ろうと思ったのですか。
角野
もともとは、前職がコンテンツ制作をする会社だったので、同じようにコンテンツでビジネスをしている会社を調べていく中でクラシコムを知りました。
僕が会社を選ぶ基準はひとつで、一緒に働いている人が面白いかどうか、だけなんですよね。
──青木さんは面白い、と?
角野
そう。社長って自分のやりたいことをやるために社長になる人がほとんどなんですよね。特にコンテンツを制作する会社は、トップがクリエイターなことが多いので、その思いつきをみんなで一生懸命ビジネスにするために最適化していく。
でも、クラシコムでは代表の青木さんが、妹であり店長の佐藤さんのやりたいことの中から、ビジネスとして全体最適できるものを選んでいる。こういう企業って生存者バイアスかもしれませんが、うまくいっていることが多いと思うんですよね。
そういう点でまず興味を持ちました。
──では、雑貨に興味があったわけではなく。
角野
初めはそうですね。何を売っているのかもよく知らなかった(笑)。
──コンテンツを販売する会社として、クラシコムは特殊だったんですね。
角野
そうですね。青木さんだけじゃなくて、会社としても面白い可能性を感じましたしね。
基本的にこれまでコンテンツ業界というのは、誰にでもウケるマス的なものを提供してきました。だから、既存のテレビ局や出版社は視聴者や購入者が誰なのかということを、明確にはわかってはいない。
でも、クラシコムはそもそもECサイトだから顧客情報は保持しているし、お客様が好きな世界観も把握している。そういうところがコンテンツ作りをしたら面白いことができるんじゃないかと。
レーベルの考え方に近いよね、と青木さんとよく話すのですが。東映の任侠ものだったら絶対に見る方たちっているじゃないですか。雑誌だと、週刊実話が好きとか。そんな風に、お客様のテイストが把握できていれば、どんどんコンテンツを作ってどんどん消費してもらうということができるんじゃないかって。
──例えがクラシコムっぽくはない!(笑)でも、わかります。
角野
もちろん顧客情報を持っている会社はたくさんあります。ただ、コンテンツ作りって知識や経験がないとなかなかハードルが高いと感じてしまうので取り組もうとはしない。
でも、例えば100円ショップは、この時代に100万部売れる本をたくさん作っているんですよ。
──確かに100円ショップで本を買ったことがあります。
角野
100万どころか300万売らないと!とかいう世界で。
──大ベストセラーですね。
角野
100円ショップは、顧客が100円で買うものはこういうものだ、と日々試行錯誤していて、その先で「本」も作っているんですよね。同じように、クラシコムも常にお客様が好きなものを考えている。僕らが本を作るなら100万部じゃ少ないよ、なんていえるような状況が作れたら面白いですよね。
──これまでの角野さんの強みが生かされた新たなクラシコムの挑戦ですね。一方、高尾さんも水面下でサイエンスっぽいプロジェクトを動かしているんですよね。
高尾
そう、ど真ん中すぎてびっくりしました。まだそんなにかっこいいことを言える状態ではありませんが、確かに僕もクラシコムでは珍しいサイエンスの人ではあると思っているので、そういう意味で重宝されるようになれたらと思います。
──これまでクラシコムが考えもしなかった分野に踏み出せそうでワクワクしますね。
みんなが嫌がる隙間の仕事にこそ価値がある
──とはいえ、実際行われているのはコンテンツやサイエンスのことだけではなくて、ソファーを買うことだったり、多岐に渡りますよね。
角野
僕、会計士の資格を持っているんですよ。
──会計士ですか?
角野
はい。出版社にいた頃にそのスキルがとても役立ちました。というのも、編集者で会計の仕事をやりたい人なんてほとんどいません。むしろ、請求書を出せとか、面倒臭いことをいう仕事だというイメージ。でも、裏を返せば、会計に強い人間が一人編集部の中にいると、めちゃくちゃ重宝されるわけです。
逆に管理部門にいると、編集経験があることできちんと血の通った規則を作ることができる。つまり誰もやらない仕事こそバリューを出しやすいと言えます。
だから、僕は他にやる人がいないのなら、ソファーも買うし、プロジェクターも買うし、映画制作の組織も作る。誰も取らないぽてんヒットを取っていく。
そして何より、誰もやりたくない仕事でもめっちゃ楽しくできるっていう自信があるんですよ。興味関心が多くて何でも面白く思える。
──たしかに、青木さん含め社長室の皆さんは好奇心がすごいです。
角野
だけど継続力はない、かもしれませんね(笑)。
──だから軌道に乗ったら誰かに託す。
角野
面白くしておいたからあとは頼む!って。
──高尾さんも同じように考えられてます?
高尾
僕はまだできることを探している状態ですけどね。でも、たしかに今はキャリアを積むとかは考えていなくて、とにかく、「手札」を増やしているという意識でいるかもしれません。
クラシコムっぽさってセンスだけじゃない
──角野さんも高尾さんも、ご自身は「北欧、暮らしの道具店」のお客様だったわけではなく、ミッションやビジネスに興味を持っての入社。元お客様がほとんどのクラシコムの中で戸惑うことはありませんか?
高尾
特にありませんが、それはみんなに戸惑わないようにしてもらっているのかもしれませんね。僕はいわゆる「北欧、暮らしの道具店」っぽいセンスが体に染み付いているわけではないという自覚はあるので、そういう部分はお任せするようにはしているので。
例えば、先ほどのソファーを買うことにしても、候補を出すことはできるけれど、みんなが「足は黒よりもグレーがいいよね」とか「この足は北欧っていうより、イタリアっぽい」なんて話していても、さっぱりわかりません(笑)。
角野
もう、ここからはみなさんよろしく、って感じだよね。
──クラシコムっぽいことはわからないと。
高尾
いや、クラシコムっぽさがわからない訳ではないですよ。「北欧、暮らしの道具店」のセンスはまだ体現できていないかもしれませんが、クラシコムっぽさって、インテリアが好きとか、洋服のセンスが近いとかそういうことだけではないですよね。
──たしかに、高尾さんはクラシコムが目指すミッションに共感して入社したんですもんね。
高尾
そうですね。まあ、影では色々言われてるかもしれませんけど……。
角野
僕も、「話題がおじさんだ」とか噂されていますからね。
──ふふふ(笑)でも、角野さんはおじさんとクラシコムを繋ぐ架け橋なのかも。
角野
社長室の役割かもしれない。
高尾
我々もその橋を渡りたいけれども。
こんなクラスだったら楽しかったのに
──そんな架け橋のおふたりから見て、クラシコムの人々はどんな風にうつっていますか。
高尾
クラシコムはこういう人がクラスに一人いたら楽しいのに、っていう人ばかりが集まってるんですよ。
──でも、いわゆるクラスの中心で目立つタイプの人はあまりいないような。
高尾
そういう人ではなく、いつもは静かな人だけど、喋るとすごくいいことを言うし、面白い、みたいな。
──確かに、私だけが知ってる面白い子、みたいな人が多い。
角野
静かな声で強いことを言うよね。
高尾
自分自身の動機を元に動く人たちだからかもしれません。自分はこうしたい、この担当者として今これをやらないといけないと思っている、から動く。そこは僕も共感しますし、一緒に働いて楽なところですね。
角野
商品開発の時にそれは感じましたね。オリジナルブランドのボトムスを企画する会議に出たのですが、生地に艶が欲しいよね、という話になって。
普通なら他社の同じようなボトムスを並べたり数字を分析して考えると思うですが、そうではなく、佐藤店長をはじめスタッフのみんなで「なんで艶が欲しいんだろう…」って腕組みして考え込むんです。
──想像がつきますね(笑)。
角野
みんな、自分の中に答えがあると確信してるんですよね。お客様と自分が同じだと考えてるから。佐藤店長も、経営者になった今でもお客様と本当に同じ目線で考えている。
高尾
佐藤店長は、僕にはわからないすごいセンスとかあるんだと思うけど、普段はとにかくよく笑う普通の人で驚きました。
角野
そういう人たちが商品を作っているというのは、すごく安心できますね。
──そんなみんなの可能性を社長室が広げると。
角野
そんな大それたことは言えませんが、でも役に立てればとは思いますね。
社長への期待は僕たちが実現する
──では、最後に。社長室のおふたりが社長に期待することってどんなことなんでしょうか。
角野
この間、ある会社に部署単位で社員のモチベーションについて調べてもらったんですね。それでまさに、上司への期待値のような項目があったのですが、僕たち社長室のふたりは異様にそこが低くて。
高尾
期待していない(笑)。
角野
そして、自分たちの業務への満足度も高いから、異常にプラスな結果になってしまったという。
──そんなに期待してないのですか。
高尾
期待か……。
角野
うーん……。
──今日イチ止まってしまいましたね。
角野
期待してないというか、まあ、ずっと一緒にいて、常に話しながら進めていますから、判断を求めることもないし。
高尾
決めてもらわないと仕事ができないなら、僕らが社長室にいる意味がないですからね。社長に期待されることは、つまりは僕たち自身の仕事ですから。
それでも期待していることがあるとすれば…かっこよくいて欲しいですね。今のまま、むやみに戦うことはせず、でも果敢に新たな挑戦をしていく、クラシコムにとっての「フィット」を考え続けるかっこいい社長で。
──それはきっと社員みんなが社長に期待していることで、つまりは「社長室」に期待されることですよね。
一般的に考えても「社長室」って業務がわかりにくいな、とインタビュー前は思っていたのですが、それは、会社によって社長のあり方が違うから当たり前なんだと気付きました。
クラシコムの社長である青木さんの役割は、クラシコムがお客様や社員にとって「フィット」する会社であるために足りないことを補完したり、時に戦いを避けるために隠れたり、誰も考えなかった新たな挑戦に踏み出したり。
その役割が「社長室」という部署が作られたことで強化されるんですね。さらに新たな仲間が増えたらもっとその幅が広がる。
高尾
そうですね。これまでは、なかなかできなかった提携や協業の可能性も少しずつ探りたいと思っています。
──予測のつかないことも多いですが、とても楽しみです。今日はありがとうございました!
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