はじめにオリジナル商品の担当としてアサインされたのは、それまで仕入れ商品の管理をしていたスタッフ。
右も左も分からない手探りの日々の中で、指針にしたのは経験でも業界の常識でもなく、お客様そして自分たちの「気持ち」でした。
今回は、オリジナル商品開発の立ち上げから関わった担当2名がその裏側をお話いたします。
未経験から始めた商品開発。2年で目標の「3割」を単月達成。
──オリジナルアパレルの商品開発を最初に担当したのは加藤さんですよね。もともと、どんな仕事をしていたのですか。
加藤
実はクラシコムには、「北欧、暮らしの道具店」のコラムや商品紹介ページを作るエディトリアルグループで編集担当として入社しました。その後、商品の仕入れや在庫管理を担当するMDグループと兼任し、しばらくしてからMDグループの専属になり、今に至ります。
左:加藤 右:佐藤
──MDグループは、もとは仕入れだけを行なっていて、今は同じ部署でオリジナル商品も作っているということですね。
加藤
そうですね。
──佐藤さんが入社したのはどのタイミングですか。
佐藤
オリジナルのアパレル商品をクラシコムが作るぞ、というタイミングで入社しました。
前々職は、今と同じようなアパレルや雑貨を扱う通販の会社で6年くらい商品企画をしていたのですが、そのあとの前職ではポテトチップメーカーで商品企画として働いていて。
──意外なものが挟まりましたね。
佐藤
もう、雑貨はやりきったという思いで、ちょっと違うものを企画したかったんですよね。でも、やはり自分の好きなものを企画したいという気持ちが高まっているころに「北欧、暮らしの道具店」でオリジナル商品の企画経験者を募集していたので、応募して入社しました。
──そうして、加藤さんと佐藤さんが中心でオリジナル商品の開発が始まったわけですね。
加藤
そうですね。今では、私たちの他に雑貨部門で一人、アパレル部門で二人がオリジナル商品担当としておりますが、最初は私たち二人が中心となって進めていました。
──そもそも、なぜセレクトではなく、オリジナル商品を作ることになったのでしょうか。
加藤
セレクト品だけでやっていた頃から「いつかオリジナル商品をつくりたい」という願いが会社としてあったと思います。仕入れであると、どうしてもお客様に用意できる在庫の量に制限が出てきてしまいます。その点、オリジナルであれば、それが例え大きなボリュームの在庫になるとしても自分たちでしっかりコミットメントできる。
そして、仕入れ商品では「もう少しここをこうしたい」という部分があったとしてもこだわりきるのは難しいけれど、オリジナルであればこだわりきることができる。自分たちが欲しいと思うものをご紹介するという本質に、さらにもう一歩近づきたかったんです。
そんな理想をもってスタートさせたとはいえ、初めは何から、どうやってつくっていけばいいのかが全然わからないので、まずは既存の型にロゴをのせたTシャツを作るくらいが精一杯でした。もっと自分たちが思い描くアパレルを作りたいと考えていた時に、ブランディングディレクター福田春美さんに出会い、相談すると「作れるよ!」と。
──心強いですね。
加藤
本当に。作れるなら作りたい!ってなりますよね。そこで福田さんに洋服ができる工程を教わり、いろいろな人や工場を紹介していただき、本格的にオリジナル商品の製作を進めることができるようになりました。
──加藤さんは商品開発の未経験者。佐藤さんも、商品企画の経験者とはいえ大変なことも多かったのではないでしょうか。
加藤
それはもう、ほんとに……、やばかったです。
佐藤
手探りでしたね。
──はじめに目標やロードマップのようなものはあったのですか。
加藤
お店の売上構成比率の3割をオリジナル商品にしよう!という大きな目標はありましたが、そのためにいつまでに何をやって、ということは本当になくて。とにかくやりながら開拓していきました。
──いま、目標だったその3割はどのくらい達成を?
加藤
昨年、初めて3割を超える月がでまして。
佐藤
月ごとに波はありますけど、オリジナル商品が売り上げの3割近くを占める月が増えてきました。
──ほぼ達成、という感じですね。では、今日はその成長の裏側を聞いていきたいと思います!
流行は追わない!編集目線の商品開発。
──加藤さんは、コラムや商品の紹介記事を作成するエディトリアルグループ出身ということですが、その経験は商品開発に役立っていますか。
加藤
そうですね。エディトリアルグループでは、この商品はどんな人がどんなことを考えて使うのか、という視点を持たないといけないので、それは商品企画にも役立っているのではないかと思います。
佐藤
その視点は、「北欧、暮らしの道具店」の独特なところだと思います。
お客様がどういう風に使うか、だけでなく、どんな「思い」や「動機」で使うのかまで考えた上で商品を紹介するのが「北欧、暮らしの道具店」。そうでないと、たとえ商品自体が完璧であってもお客様には全く響かないことがあって。
ですから自然と商品開発も、その「思い」や「動機」を考えながら進めていきます。
例えば、「母子手帳ケース」であれば、取り出すのはお子さんが病気のときや検診のとき。決して明るい気持ちではないことも多いと思います。その気持ちにまずは寄り添って、共感して、励ますことができるようなケースってどんなものだろう、と考えていく。
オリジナル商品KURASHI&Trips PUBLISHINGの「母子手帳ケース」
こういった視点は、私は加藤さんと働く中で学びました。
加藤
たしかに、ちょっと独特かもしれませんね。あまりに当たり前に考えていましたが…。
──そうすると、商品の企画はお客様の想いをもとに作ることが多いのでしょうか。それは、一体どのように計るのですか?
佐藤
「北欧、暮らしの道具店」で反響の大きかった記事に対して、どんなところに共感してくれたんだろうと「雑談」しているうちに商品の企画につながる、なんてことが多いですね。
わかり易いものだと、私物を紹介するコラムで反響のあったものを作ってみようか、となることも。ただ、単純に同じものを作るのではありません。このアイテムの何にお客様は反応されたのだろう、ということを雑談していく中で探り、企画にしていきます。
──「雑談」はクラシコムの文化ですね。一般のアパレルでは、コレクションを参考にしたり、流行を意識すると思うのですが、そういったことは?
佐藤
はっ。それはないですね。もう、流行は全然ウォッチしていないかもしれない。
加藤
ウォッチしないですね。それよりも、この記事はどうして反応がよかったのだろうとか、お客様はなぜこの商品が欲しいんだろう、ということばかり考えています。
商品が生まれるのはモヤモヤしたちょっと暗い気持ちから。
加藤
私たちって、普通に暮らしているだけでも、なんか大変じゃないですか。
──確かに、何かと大変なことはありますね。
加藤
普通に1日過ごすのってほんとに大変だなって思うんですよね。朝起きて、今日は仕事だから何を着るべき?から悩みが始まって。誰かに会うのであれば、そう簡単にこれでいいや、とはならない。家事だってしないとならないし、でもやりたくない時もありますし。普通の1日を過ごすだけでも、心にざらつきのようなものがしょっちゅう現れて。
でも、そのモヤモヤをスルーせずに、私はこういう時にこう思うな、というのを大切にしてこそ、企画をするときに共感してもらうものをつくることができると思います。
だから、商品を作るときの気持ちって、最初はモヤモヤ、なんだかちょっと暗いことも多いんですよ。そんな話を、MDグループの合宿でしていまして。
──モヤモヤを話すための合宿ですか?
加藤
いえ(笑)。オリジナル商品の振り返りをする合宿だったんですけど。
佐藤
そもそもオリジナル商品はどんな趣旨で作っているのか、ということを話し合う中で、お客様ってどういう方達だろうとなり、そこから「お客様」はイコール「私たち」じゃない?という流れになって。
加藤
で、私たちってどういうことを思っているのだろう、となっていったんですよね。
──掘りましたね。
加藤
そこから、「性格悪いかもしれないんですが、私は普段こういうところにモヤモヤするんですよね。」なんて告白する人が出てきて、そこから「わかる!!」と盛り上がって次々に自分のモヤモヤを話していって…。
佐藤
みんなの闇が見えましたね。土曜日の朝11時とかからスタートしたのに、そんな話題に(笑)。
加藤
でも、そこで自分がずっと抱えてきたちょっと暗い気持ちが、みんなに共感されるという体験ができたことはとても大きくて。
佐藤
そうですね。共有するとこんなにすっきりするんだ、ということがわかったというか。
こんな風にお客様も、なんとなく毎日我慢している気持ちに対して、「私もそう思ってた!」と言われているようなアイテムに出会えたら、自分を認めてもらえたように感じるんじゃないか、そうすれば生活がもっと楽しくなるんじゃないかと。
加藤
そして、そんな気持ちで作った商品が売れることによって、私たちもモヤモヤを抱えていても良かったんだ、と思えるというか。あ〜〜、良かった!って。私は私のままで、変わらなくて良かった。小さなことで悩んだり、ちょっと暗い自分もこれでいいんだ、って思えて。私のモヤモヤした気持ちが浄化されるんです。
佐藤
報われますね。単純に、私たちが作った商品を愛用しています、好きですと言っていただけた時もとても嬉しいのですが、さらに私たちが開発を始めた動機とばちっと合った感想をいただけた時は、本当に喜びがこみ上げます。
動機が私たち自身の気持ちから始まっているから、自分だけじゃなかったと受け入れられた、というような。ある意味承認欲求のようなものに近いのかもしれません。大げさになってしまうかもしれないのですが、心の痛みが共感できるってすごいことだなと感じます。
忖度している暇はない。とにかく良い商品を作りたい!
加藤
合宿で、お客様は自分たちだという認識を改めて共有できたこともよかったですね。どうしても、お客様はこうなんじゃないかと想像するだけだと、ふわっとした企画になりがちです。でも、お客様は自分だと思うと自信が持てる。何しろ、自分のことですから。
例えば、スカートを作ろうという企画にも、「スカートって足やお腹が冷えちゃうんだよね。だからパンツしか履かないんだけど、それじゃあさみしいんだよ。」なんて意見を出せちゃったり。
──なんて率直な意見。でも、痛いものは痛いですものね。
加藤
そう、痛いんです。じゃあ、どうしよかとなって、「丈は膝下にしたいよね。でも、自転車に乗るときにバサバサしたくない。」「わかる。じゃあ、広がり過ぎないもの。足捌きが良いものにしよう。」というように詰めていきます。
──美しさよりも大切なのは機能ということですか。
加藤
いえ、美しさもすごく大切です。ここは苦労しますね(笑)
佐藤
わがままですよね(笑)。でも、大切。
──でも、この間はこの仕様がよくないって言ったのに、今度は美しくないって言われても…!みたいな感じで喧嘩になったりはしませんか。
加藤
そういうことは、全くもってよく起こっている話です。でも、喧嘩にはなりませんね。ダメ出しされることは、商品に対してであって、自分に対してではないということは徹底してみんなで共有しています。
それに、そんなことよりも良いものを作りたいとただただ一生懸命で、もらえるアドバイスは全部ください!という雰囲気です。MDグループだけでなく、クラシコム全体がそうなので、変な忖度をする必要がない。ここがクラシコムで働く一番楽なところだと思っています。
佐藤
反省することはもちろんあったりしますけど、拗ねたりする人はいませんね。黙りこくっちゃう人もいない。
加藤
黙っちゃいないですね。その文化は徹底しています。
リモート環境でも雑談が生まれる仕組みに挑戦。
──そんな、率直に話し合う文化のクラシコムですが、実は加藤さんはオリジナル商品開発が始まる頃に京都に引っ越して、基本的に今もリモート環境で働いているんですよね。
加藤
そうです。夫の仕事の都合で京都に引っ越して。月に1、2回東京に来る以外はそちらで働いています。
──京都に行くよ、と言われた時はどうだったのですか。
最初に夫に「京都に行く可能性がある」と聞いたときは、まだエディトリアルグループと兼業していて。MDグループには頼れる先輩もいましたし、たとえ私がやめてもそこまでおおごとではないだろう、くらいの気持ちだったんです。
でも、その先輩が辞めることになってMDグループはとりあえず私が中心で動くとなったときに、これは大きなチャンスだなと思ったんです。これは続けたいぞと。そんな時に、本格的に京都行きが決まってしまい…夫には、「やっぱり行きたくなくなっちゃったぞ」と話しました。
──それは大変なことになりそう。
加藤
はい、大変です。やや喧嘩っぽくなってしまって…。それで、自分の中で整理をして、「京都に行ってもクラシコムの社員でいる」という選択肢が一番嬉しいという結論になりまして。
ダメだったら仕方ない、という思いで、代表・青木と店長・佐藤に「京都に行くかもしれません。それでもクラシコムで働き続けたいです。」と相談をしました。まだ実際に行く1年前だったので、一旦考えてもらうことになりました。
──なんと難しい相談。びっくりしたでしょうね。
加藤
びっくりしたと思います。でも、結局はリモート勤務で続けることになって、さらにはオリジナル商品を作るという挑戦を私にさせてくれたんですよね。びっくりです。
今思えば、もしあのとき、リモート勤務になるならこれまでの仕事をそのままできる範囲でやってくれ、となっていたら苦しかったと思います。
──リモート勤務になるだけでも大変そうなのに、逆に新しいことをしたほうがよかったということですか。
加藤
やったことのないことなので、「これまではできていたのに…」という葛藤がなかったというのが大きいですね。
そして、絶対に成功させてくれ!というよりも、「福田さんが作れるって言ってるなら、とりあえず乗っかってみよう!」くらいのテンションでしたし。私も前例がなければ、プレッシャーもない。環境の変化がありながらも、モチベーションを維持できたのは、新しいことをさせてもらえたからだと思います。
まあ、そんなチャンスをこの状況でくれるなんて、すごい会社だなとは思いましたけど(笑)。
──本当ですね。それにしても、遠隔でものづくりをするというのは、大変だろうなと思うのですが。
加藤
そうですね。最初は、雑談ができないというか、商品を作る動機など、スタッフのみんなや店長と気軽に話せなくなることを不安に思いました。
でもそれを解消するために、社内にいつでも私が映されているモニターが設置されました。私も話しかけたいし、店長やみんなも話しかけたいときがある。だから、バーチャル加藤がずっといる、みたいな状態にしてくれたんです。
──佐藤さんからみて、遠隔で加藤さんと働くのはどういったかんじでしたか。
佐藤
私が入社したときにはもう加藤さんは京都にいて。最初からバーチャル加藤さんだったので、違和感はなかったです。
ただ、加藤さんだからできる部分はあったのかなとも思います。それまでに、会社の人たちとの関係ができていたし、加藤さん自身が現場と積極的にコミュニケーションを取ろうとしてくれていました。正直、自分だったらできたかどうかはわかりません。
商品企画会議の様子
──でも、結果的に、その後クラシコムは会社全体でリモート勤務OKになりましたね。加藤さんが良い一歩を踏み出した形になったのでしょうか。
加藤
そうだと嬉しいです。今は、みんながリモート勤務をできるようになったので、とても気が楽になりました。
──加藤さんが東京に来るときは、主にどんな仕事をするのでしょうか。
加藤
最初のうちは仕入れも担当していたので、メーカーさんとお会いする時間が多かったのですが、今は後輩たちが引き継いでくれたので、なるべく社内の人とコミュニケーションをとるようにしています。今日も雑談で1時間くらい使いましたね。
佐藤
大事な雑談の時間です。
加藤
そうですね。そのためにあまり予定は詰め込みすぎずに、意識してみんなと話すようにしています。やっぱりテレビ会議だと議題にあがったことしか話せないので。もっとラフに何を考えているのかということを、同じグループの人やエディトリアルグループ、そして店長と話すようにしています。
成長痛を乗り越えて、さらなるステップアップを。
──最後に、今後どうしていきたいかというお話を。当初の目標だった売り上げの3割はほぼ到達してきたようですし…。
佐藤
私たちのあとに入社した三人は、バリバリ現場経験のある方達です。みんなのおかげで、スピードもアップしましたし地盤も固まったので、ここからだという気持ちはあります。
加藤
それまで二人で真っ暗闇なトンネルにいたんですけど、三人が入ってくれたおかげでヘッドライトがついたどころか、電気が通ったぞ!みたいな気分ですね。
佐藤
ただ、壁にぶち当たっているところでもあります。経験を重ねて、一度に取り扱う量を増やすことができるようになったこともありますが、これまでのように予想通りに売り切れる、というわけでもない商品も出てきたり。
品質面でも、オリジナルとはいえ、まだまだメーカーさんにお任せする部分が大きかったので、どうしても私たちが把握していない問題が発生してしまうこともありました。ですから、今後は自分たちできちんと品質を担保するためのフローを整えなくては、ということも考えています。
攻めて売る部分と、品質の保証という守りの部分と、どちらもさらに整えないといけませんね。一つ目標を達成して、またスタートに立っている感じです。
──今後オリジナル商品ばかりになる!ということもありますか。
加藤
それは、今はないとおもいます。仕入れの面白さもありますし、お客様から見ても、ラインナップが多い方がいいですし。でも、その中でも「オリジナル商品はおもしろいな!」と思ってもらえるようにしていきたいですね。
──楽しみにしています。
子育て中の聞き手・馬居からの母子手帳ケースの感想に嬉しそうな二人。