長尾さんは約1年前にクラシコムに時々やってくる「エア社員」となりました。そのきっかけは、創業10年目を前にして、代表・青木の中にふつふつと湧いてきたある「不安」でした。
10年間でたくさんのお客様に出会い、社員は50名近くになり、一見順調に成長しているクラシコム。一体、代表・青木の不安の原因は何だったのでしょうか。そして、それはどうすれば解消されるのでしょうか。この1年の取り組みを長尾さん、代表・青木、人事担当・筒井の3人で振り返りました。
創業10年目の不安?エア社員を迎えた理由
———今日は、「エア社員」の長尾彰さんと歩んだこの1年間の取り組みを振り返りたいと思います。そもそも、青木さんが長尾さんを呼んだ理由は何だったんですか
クラシコム代表・青木(以下 代表・青木)
とにかく不安だったんですよね。
昨年でクラシコムは、設立10年を迎えたわけなんですが、言ってしまえばこの10年は創業当初にこうやったらこうなるよね、と想定していたことのスタンプラリーみたいな感じだったんです。でも、この10年間で、確度の高いものは一通りハンコを押しちゃった感があって。つまり、僕自身が次に何をしたらいいか、よく見えていないところもあって。
今のクラシコムは、大きな方向性は経営陣で決めるけど、実際の仕事は社員一人ひとりが自分の考えで動いてくれています。それでも僕の見通しの確度が下がってしまったら、もしかしたらいつかみんなで崖から落ちちゃう可能性もあるんじゃないかと思ったんです。
それを避けるために、経営陣でやってきたようなことまで、これからはもっとみんなに補ってもらえるようにならないかな、というようなことを、モヤっと思っていたんですよね。
というか、長尾さんに相談した1年前は、ここまでの言語化はできていなくて。とにかくすごく不安だったんですよ。車を運転しているうちに、だんだん暗くなってきて、よく見えなくなってきたような感じで。
そのとき、たまたま長尾さんの存在を知って、お問い合わせをしました。
長尾
会社のお問い合わせフォームからふつうに問い合わせがきたんですよ。
代表・青木
そうですね。間にいっぱい知り合いはいましたけど、自分でお問い合わせしてみたんです。
実際お会いして話をしていくうちに、最初はワークショップをちょっとやってもらおうかなぐらいで考えていたんですけど、長尾さんが「エア社員」というカタチで定期的にいろんな会社に行っているということを知って。確かに外の人じゃなくて、中の人として関わってくれるのはすごく素敵だなと。どうなるかわかんないけどそれでお願いしますとなったんですよね。
それから、1年。今は月2回くらい来てもらっていますね。
長尾
よくコンサルタントなのかと聞かれるんですが、コンサルタントとはちょっと違うかなと思っていて。コンサルタントはすでに持っている答えをどうぞと渡せると思うのですが、僕がやっていることに正解はないし、物事を実行はあなたたたちですし、というポジションなので。顧問とかコンサルタントじゃないなと。
この関わり方って相性もあって、うまくいく会社さんとそうじゃない会社さんもいますしね。
人事・筒井
うまくいくには、どういう特徴が?
長尾
潰れそうで、自分たちでどうにかしなきゃいけないんだけど、どうしたらいいかわかんないとか、切実な人たち。
代表・青木
うちに切実感あったかな。
長尾
会社にはないです。だって、問題ないんですもん。むしろ良いともいえる。でも、青木さんからは切実さを感じましたね。
代表・青木
悩んでたもんね…。
ここから先の成長には、さらなる「自治」が必要?
———実質的に、長尾さんと動いていたのはクラシコム・人事の筒井さんですよね。
人事・筒井
そうですね。
代表・青木
僕は、長尾さんを呼んで以上。そこからは全部お願いしちゃったね。
人事・筒井
どうやらコンサルタントではないようだし、きちんと決まったメソッドを提供されるということでもない。何より、今のクラシコムに何か具体的に問題が起こっているわけではなく…。この戸惑いは、もしかしたら他の社員も同じだったかもしれません。
代表・青木
最初の僕以外の…いや、僕も含めたみんなの首かしげ具合はすごかった。僕も自分で呼んどいて、あの人何すんのって思ってた(笑)
ただ、すごく期待していたことが1つ明確にあって。僕は、そういう「何かをするべきだけど、何をしたらいいかわからない」首かしげ感というか、上滑りみたいな状況が耐えられない人なんですよ。何としてでも、その状況を作らないように力技でみんなも自分も納得させようとしてしまう。
でも長尾さんは、きっと心は敏感で弱いところもあると思うけど、鈍感に振る舞える人だから。申し訳ないけど、長尾さんを人身御供にしてしまえば、みんなが首をかしげて、こんな感じでホントにいいのかなって思ってる状況になっても、乗り切れるんじゃないかと。
長尾
いや、それは大事な話で。エア社員冥利につきます。みんなの矢印がこっちに向くことによって、青木さんは次の事業のことを考えることができる。
代表・青木
そんなこといいながら、きっと何年後かには、長尾さんはクラシコムに無くてはならない人になるとは思うんだけどね。とにかく、普通は、専門家っぽい人を顧問として雇うとなると、すごく気を使うんだけど、長尾さんとの取り組みは本当に負担がなかった。
とにかくね、なんとなく危機感があって、なんとなく長尾さん放り込んだら何か起こるんじゃないかっていうかね、ほんとにそのくらいの温度感で来てもらった感じなんですよ。
人事・筒井
そうですね。ひとまずちょっとやってみて、やりながら考えよっかみたいな感じでしたもんね。
長尾
でも、僕ははっきりとしたミッションを与えられている自覚がありましたよ。青木さんと初めてお会いした日に話したことなんですけど、クラシコムを今よりもさらに、社員一人ひとりの自治で運営するようにするという。
代表・青木
確かに、今思うとそこなんだよね。
ここまで僕自身は、チームの一員というよりは、みんなに何かがあった時に助ける人っていうたてつけだと思っていて。それはそれでひとつのリーダー像だとは思うし、責任を負うのが嫌なわけじゃないんだけど。
でも、事業が想定してたことろまである程度来ちゃって、その先が少し不透明になってきて。そんな中でも、厳密な答えを知ってるのは経営者である僕たちでしょとみんなに思われている気がしてたんだよね。だけど、いや、俺だってはっきりとはわからないよというのが本音なわけです。
それなのに、その本音じゃなくて、「俺には見えてる、西だ!」みたいなことを言わなきゃいけないっていう立場を貫くと、たとえみんなが幸せになっても、僕だけが面倒くさいな、嫌だなって思っている。
長尾
それは健全じゃないですね。
代表・青木
そう。
本当は、僕もわかんないんだよって言えて、そうしたらみんなの中にわかるやつがいたり、あるいはこっちに行きたい!ってやつがいたりして。僕もお前がそっちって言うんだったらそっちいこうか、とりあえず責任とる!ぐらいの温度感でいれて。助けることもあるけど、場合によっては助けられないこともあるんだっていう感じというか。
たぶんそれをすごく求めてたんだよね。今思えばね。
リーダーも社員も、強み・弱みを再認識しよう
代表・青木
それが、長尾さんがきて、この1年で、自分のしょうもないところがわかって、すべてひとりでやらなくていい、みんなも助けてくれるっていうこともわかってきて。
———何が変わったのでしょうか。
代表・青木
変わったというか、もともとそうだったのを、僕がみんなを信頼できるようになってきたというか、委ねられるようになってきたというか。
やっぱりストレングスファインダー※をみんなでやったのは大きかったよね。
※ストレングスファインダー
心理学者ドン・クリフトン(ドナルド・O・クリフトン)氏が開発した診断ツール。177問の質問に答えることで、自分の才能(=強み)を知ることが出来る。
長尾
この1年でやってきたことは言葉にすると…ストレングスファインダーのワークショップをやった、Move Campをやった、マニフェストを書いた、以上ですよね。
代表・青木
そうね。
ストレングスファインダーは、もともとやってはいたんだけど、改めてきちんと向き合うことによって、自分にない強みはないんだからしょうがない!ということが理解できて。
たとえば僕はよく、僕がもっと勤勉だったらうちの会社って年商100億くらいになってると思うんだよとか言うんだけど。でも、それってもうどうにもならなくて。頑張れる人は頑張れるけど、僕は頑張れない。思い悩んだところで、なれないものはなれない。
苦手なことを克服しなきゃとか、自分が社長じゃなかったらもっとその先に行けたのにとか、そういうことを、もうしょうがないよね、代わりにやる人はいないんだからさ、って思えるようになったというか。
それよりも、自分にはこんな強さがあるからそれを活かそうと。あらゆる美徳とかあらゆる能力において、第一人者である必要はなくて。もちろん、それまでも全然そんなことはできてなかったんだけど、それが手放せた。
人事・筒井
そういうふうにトップが言ってくれることって、社員側からするとすごく救いでもあって。やっぱり上がパーフェクトだったり、パーフェクトを求めようとしてると、自分もそうしなきゃって感じちゃうと思うんです。
でも、みんなそれぞれ強いところも、弱いところもあるよねって言われたら、自分もそうだなって素直に思えるんですよね。
みんなが持っている力に濃淡はあるけど、それでもその力でなんとかするしかない、って思えるのは、すごく健全というか、安心ができるというか。
もともとそういう文化だったと思うんですけど、長尾さんがストレングスファインダー使ってワークショップをしてくださって、共通言語ができることによってよりわかりやすくなりました。
凸凹があるからいい!これからのステージに向かって
長尾
青木さんも悩む、店長も困ってる時がある、どうしていいかわかんないときもあるっていうことが、じわじわと浸透したのかな。
人事・筒井
経営と社員っていう関係性の中だけじゃなくて、社員同士とかマネージャーとチームメンバーの中でも、みんなそれぞれ違うから、それぞれのやり方で貢献しようみたいなことがちょっとずつ浸透してきたんだと思います。
お互いにどういう凸凹がある人たちなのかっていうことがわかって。みんな凸凹あるんだ、あっていいんだ、よかった、みたいな。
長尾
何がすごく変わったのかって言われると、正直わからないけど、でも何か変わりつつある感じもするし。
代表・青木
するね。
人事・筒井
変わりつつある感じ、すごくします。
長尾
特に、青木さんは、すごく変わっている感じがする。というか、もともと変わろうとしてたのが、開き直れた感じ。僕に委ねてもらうことで。
社内をまとめるとか、社員を鼓舞するところは、向いてないんだよって。実は今までもそうで、おそらくこれからもそうなんだけど、でもそれでいい。
その代わりに、お客様をモチベートするとか、世の中を騒がせることとか、その仕組みを考えるっていうのが得意な方だから、そこを熱心にやってほしい。社内のことは、僕と筒井さんでどうにかするからみたいな。というか、そもそもみんなが自分たちでどうにかするから。
代表・青木
そうなんだよね。
長尾
ここまできたら、次のステージはそのみんなの凸凹を使ってこれからどうするっていうことですね。
みんなが凸凹なパズルのピースだとすると、今まではこの下絵があって、それに沿ってみんなで美しい絵を描けています。でも、これからのご時世、真っ白いピースにしちゃって、そこに自分たちで絵描くみたいなもののほうがもしかしたら売れるかもしれない、とか。
———まだそれは決まってないんですね。
長尾
決まってないです。一人ひとりが、自分とみんなの凸凹を知った上で、何をするべきか考えていく。すごく大変なことですけどね。
人事・筒井
でもそれって、すごく希望が持てるし、楽しみなんですよね。
今までは、青木さんと佐藤さんの中で解決して、その枠組みを超えなかったこともあると思うんですが、もっとみんなの動機、みんなの凸凹に合わせていったらはみ出ちゃうと思うんですよ。
時々はそっちにはみ出ないでっていうのもあるかもしれないんですけど、想定以上にそっち行ったか、かなり面白い方向にいったねみたいな、予想外のはみ出方もきっと生まれてくるんだろうなと思って。これはワクワクしますよね。
代表・青木
そうだね。今よりも、さらに懐が深い組織になる一歩目になるといいなあ。
後編では、クラシコムに関わらずどういうリーダーがチームを幸せにするのかという話に展開しました。ぜひごらんください。
とんでもなく大きな夢が組織をひとつにする。愚者風リーダーシップのすすめ。
PROFILE
好きなもの:プリン、オムライス、焚き火