しかし、どうしても面白い働き方をされているのは、フリーランスや、会社を経営されている方が多く、もっと「会社員」として参考になるお話を聞くことは出来ないかと考えておりました。
そこで、お名前が上がったのは、クラシコム代表・青木が、エンジニア向けのカンファレンスなどで語られている姿を見て、あんな風に働くことができたら幸せなんじゃないかと考えていた GMOペパボ株式会社のエンジニア・杉村文美さん。
入れ替わりの激しいIT業界の中で、13年間同じ会社に勤め、2回の出産を経て、36才になった現在はサブマネージャーという立場で働いている杉村さん。
大したことはしてないですよ、と淡々と語られる言葉の中には、「ずっと働き続ける」という強い意志に基づいた、いくつかの決め事がありました。
今回は、同じく会社員として、これからの働き方にちょっと迷える30才、クラシコム・MDチームマネージャーの竹内が聞き手として参加しております。
まあ、やってみるか、で始まった仕事人生
———まず、杉村さんの経歴を教えてください。
杉村
地元は福岡なのですが、高校を卒業した後、大阪でゲーム制作の専門学校に入りました。そして卒業後に大阪のダイハツ工業株式会社でWebシステムを担当していました。
竹内
ゲームの専門学校で勉強していたのに、自動車などを製造するダイハツさんに入ったのですね?
杉村
就職担当の先生に騙されたんですよ。面接を受けるだけでいいから行ってほしいと頼まれたのに、面接中に「これは推薦ですよ」と告げられて。
竹内
推薦だと知らずに受けていたのですか!
杉村
そうです。推薦枠なので、受かった人は必ず入社して下さいという話だったんです。
それで、面接後、ぜひ来てほしいと言っていただいたんですが、推薦枠ということを知らなかったとお伝えすると、内定ではなく、内々定でということにしてくださいました。
私はゲームを作るために専門学校に行ったので内定を受けるか悩んだんですけど…。実際、勉強する中でプログラミング自体の楽しさを知ったので、プログラミングに関われるなら、まあ、やってみようかな、と。
大きい企業だから親は喜ぶかなと思いましたしね。
竹内
そしてWebシステムを担当することになったのですね。
杉村
例年であれば会社のデータを取得したり加工したりするような業務を行うのですが、なぜか入社したらWebシステムを作りたいという話になったので、勉強して…。
竹内
どんどん話が違っていきますね(笑)
杉村
まあ、プログラミングができるなら、いっかなって。
勤続13年。息子(7才)と娘(5才)のお母さんに。
竹内
そして、東京にあるGMOペパボ株式会社(以下ペパボ ※入社当時は株式会社paperboy&co. )に入ったわけですよね。それはどういった経緯で?
杉村
23歳の時に、専門学校の時から付き合っていた今の夫と結婚することになり、夫の仕事の関係で東京に出てくることになりました。
当時、ペパボが運営しているブログサービス「JUGEM(ジュゲム)」を使っていて、そこに東京に行くことを書いたら、前社長に「よかったらうちの会社に来ない?」とコメントをもらって、入社することになりました。
竹内
私は、クラシコムに入る前に2回転職していているのですが、ちょうど1回目の転職のタイミングで25才の時に結婚しました。結婚の年齢や、転職が重なったところは似ていますね。
ペパボでは、どんな仕事をすることになったんですか。
杉村
うーん。入っても、特にこれといってやるべきことはなかったんですよね(笑)
竹内
誘われたのに…。
杉村
そうなんですよ。まあ、そんなもんかなと、その時々にやってといわれたことをやっていて。
そのうちに、JUGEMを担当するようになって、28歳で長男を出産してお休みして、復帰。
そして、長女を出産して、復帰してから現在までは、ネットショップ運営サービスの「カラーミーショップ」の部署で働いています。
竹内
具体的には、どんなお仕事をされてこられたのですか。
杉村
色々なことをしたので、もう忘れてしまいましたが、その時の流行りにあわせて新しい機能を作ったり、管理画面をリニューアルしたり。
あとは、ユーザーさんの要望に答えて機能を改善したり、お問い合わせ担当の方たちや、チームのみんなが働きやすくなるためのシステムを作ったりしてきました。
竹内
いつ今のようなマネジメントする立場にはなられたのですか?
杉村
入社してからは11年目の一昨年、リーダーになって、13年目の今年サブマネージャーになりました。ですから、まだ、なりたてです。
残業しないために、仕事は自分で精査する
竹内
私は今結婚5年目で、ちょうど杉村さんが最初のお子さんを出産されたくらいですね。私も、仕事を続けながら子どもも育てたいなと思っていて。
そうすると、今と同じ働き方はできない、でもマネジメントする立場だと、仕事を断ったり、人にお願いするのが申し訳ないんじゃないかと思ってしまって不安に思っています。杉村さんは、そのあたりはどのように対処されていますか。
杉村
そもそも、私はリーダーやサブマネージャーになる前から、仕事をする前に本当にその仕事はやるべきかを確認するようにしているんです。
というのも、10年前のインターネット業界は今よりもっとイケイケで、みんな次から次へと色々な物を作りたがっていたので、残業する人も多かったんです。今ほど、残業に対して厳しくなかったですし。
でも私は、定時までに仕事を終わらせて帰るのが一番いいと思っていたんです。
そのためには、決められた時間内に成果をきちんと出せる仕事を選んでやらないといけないので、仕事をする前に、本当に自分は今それをするべきかを確かめるようにしていました。
竹内
上司の方から頼まれた仕事も時には断るということですか。
杉村
そうですね。おかしいなと思った時は、「これ、本当にやって大丈夫ですか?」って言うんです、アホな子のふりして(笑)
気をつけるのはしっかり理由を添えることですね。「嫌です。やりたくありません、」とだけ言ってしまうと、相手も絶対に嫌な思いをすると思うので、完全に否定はせずに、こういった理由でやらない方がいいと思いますけど、それでもやりますか、という風に。
竹内
ママになる前、リーダーなどになる前から、既に自分の仕事を精査するようにしていたんですね。
杉村
そうですね。それもあって、出産後にみんなよりも2時間早く来て、2時間早く帰るという時差勤務になったんですが、あまり戸惑うことがなかったんです
竹内
私は今、マネージャーという責任を持って、何かを決めるということは難しいなと感じているのですが。杉村さんは決断に悩まれることはありませんか。
杉村
うーん、そういう意味でも、私はもともと全ての仕事に、こういう理由でやると自分で決めて働いていたので、マネジメントする方の立場になっても実はあまり変わらないんです。
いままで通りのことに、ちょっと範囲が広がったくらいで。部下であったときも、上司になってからも、仕事にはこういう理由があるからということはきちんとつかむようにしています。後でなんでこれにしたのって言われた時に説明がつかないので。そこだけはちゃんとしておいたほうが良いと思うんです。
竹内
なるほど。本当にやる必要があるのっていうのをいつでも聞けていたから苦労されなかったんですね。私は、その訓練が今必要です。
出産前からプライベートとの切り替えは大切に
———杉村さんが出産前から頑なに残業をしなかったのはなぜなんでしょう。定時でどうしても帰りたかった理由があるんですか?
杉村
ああ、その時は、オンラインゲームをやっていたんですよね。
竹内
ゲーム!
杉村
ええ、ゲームがやりたくて帰ってました(笑)。
あとは、本屋に寄って、本を漁るのが好きで。そういう仕事以外のことを考える時間を持ちたくて、定時に帰るようにしていましたね。
竹内
仕事とプライベートで切り替えをきちんとされていたんですね。私は会社でみっちり仕事のこと考えているのに、家に帰ってからもそれが抜けなくて。このまま子供が出来て大丈夫なのかと不安になってしまって…。
杉村
あ、でも、子どもを産んだら更にできるようになったのかもしれません。というのも、子供って、自分に目が向いてないって気が付くと、好き勝手し始めるんです。私が目の前にいても、やってはいけないことを堂々とやって。
竹内
お菓子を食べたりしちゃうとかそういうことですか。
杉村
そうですね。注意すると、あっ見つかったみたいな顔するんですよ。いや、ずっと目の前にいますけどって…。
ですから、切り替えざるを得ないというか、子どもといる時間は、なるべく仕事のことは考えないようにしています。
子どもに本気で向き合ったほうが仕事が楽になる。
竹内
本屋さんには今でもよく行かれますか?
杉村
最近はもっぱら電子書籍をスマホで読んでいます。
ダ・ヴィンチのWebニュースを見て、良いなと思った本をチェックして、電子書籍販売サイトのセールがあるタイミングでまとめ買いしています。
ビジネス本も買いますが、最近は人を動かすための心理学の本をよく読みますね。
竹内
チームマネジメントなどで活かされるのでしょうか。
杉村
仕事をする上でももちろん役立つんですが、子供に使ってみているんです。本で読んだメソッドを使って、こうやったら宿題をやってくれるかな、と試しています。
竹内
すごい、家庭でもいかせるんですね。
杉村
使えるんですよ。こんなにすんなりいくんだってこともたくさんあります。
そうやって、子供に真剣に向き合うと、大人なんて楽だって思えますよ。少なくとも話は聞いてくれますから。怒っているときの子供って、全然聞く耳をもたなくて、まずは怒ってるのをどうにかしないといけないですし。
竹内
お子さんを育てることで、仕事が楽だと感じられるようになったということですか。
杉村
仕事はきちんと話をして、こういう風にやってもらえますかといえば、後はやってくれますけど、子供は1から10まで説明しても、それでもやらない。まず、1を聞いてもらうまでにどうするかっていうことから始めないといけないですよね。
会社という組織の中で、マネジメントをする立場として働く分には、日常的には進捗をみていればいいですから。ちょっと遅れ気味だけど大丈夫?みたいな感じでちょこちょこ心配しながら見るくらいでいいんですけど。子供はつきっきりで見てないと、ちょっと目を離したすきにお菓子食べてたりするので。
竹内
目の前にいるのに(笑)
杉村
宿題やるって言ってたのに、なんで今お菓子食べてるの!って。
とにかく、私は子どもたちが明日、どうやったら動くかな、ってずっと考えてます。
子育ても仕事も、無駄な不安は持たない。
竹内
お子さんができる前に、仕事も子育てもできるかなって不安に思うことはありましたか?
杉村
長男の出産が、ほぼ同じ時期に2人の同僚と重なって、この3人が社内で初めての産休・育休を取得したので、制度もそこから作られていったんです。ですから、ママの先輩もいないし、もうわからなすぎて不安にも思えなかったというか。
まあ、いざとなったら、転職かなと考えてはいましたが、きちんと復帰できるように会社も制度を整えてくれました。まあ、ここまでも何とかやってこれたし、なんとかなるだろうくらいに思っていました。
竹内
最初の会社に入った時から一貫して、なんとかなるか、のスタンスなんですね。
杉村
不安を抱え続けることが嫌なんです。不安に思っている時間は無駄に辛いので、あまり考えないで、とにかく目の前のことをコツコツ解決してていこうと思っています。そうやって今まで何とかなってきたから、そうそうひどいことにはならないだろうなと楽観的に。
竹内
私はつい、やったこともないことをできる限りの想像をして、不安になってしまいます。今でもそうなのに、子どもが生まれたらと思うと…。
杉村
でも、子どもは不安に思ってる暇もないくらい、思ってもみないことを片っ端からやってくれますよ。想定していてもいつも軽く超えてくるので、考えるだけ無駄だなって。
竹内
どんな想定外のことが起こるんですか。
杉村
いつも想定外なのは、長男のポケットの中身ですね。道端に落ちているものをなんでも拾って帰ってくるんです。この間も、洗濯機から変な音がするなって思ったら、ネジが出てきて。
竹内
ネジ??
杉村
洗濯機が壊れた!と思いましたが、息子のポケットから出てきたものだったんですよね…。
5才の娘も、この間、休みの日に朝早く起きたからといって、ひとりで友達のうちに遊びに行っちゃったんですよ。お使いもしたこともない子が、まさかそんなことをするなんて。
もう、起きているときだけじゃなくて、寝ている間にも何か起きるんだなって。そんなことばっかりなので、不安に思っても仕方ないですよね。
インタビュー中もつけられていたショルダーバックには、いつ保育園から連絡がきてもいいようにスマホが。予測可能な不安は先回りして準備万端です。
自分は自分で褒める。他人に期待するのは、喜んでくれること。
———杉村さんはリーダーになるまで10年以上の時間がかかったと思います。入れ替わりの激しいIT業界で、10年間同じ職場で、役職がつくということもなく、子どもを産む前も、産んだ後も、変わらず仕事を続けて来られたのは、どんなモチベーションがあったのでしょうか。
杉村
モチベーション…。なんでしょう(笑)でも、とにかく続けてこられたのは、いつでも仕事が楽しかったからなんですよね。
誰かが喜んでいる姿をみるのって楽しいじゃないですか。
お客様の要望に答えて、喜んでいただくのはもちろんですが、同僚たちが仕事がしやすくなるようにと作ったシステムで、喜んでもらえてると嬉しいし。
竹内
自分がこうなりたいとか、こう見られたいとかということはモチベーションではないのでしょうか。
杉村
誰かに褒めてもらいたいとは思わないようにしていて、誰かが喜んでいるところをニヤニヤしながら眺めるのが好きなんです。
誰か褒めてって思うと、誰にも褒められないときに嫌な気持ちになるけど、嬉しいことが起こればみんな喜んじゃうと思いますし。
竹内
たしかに、お客さんであれ、同僚であれ、近くの人が喜んでいるのを見らたらいい、というモチベーションなら、どんな仕事をしている人でもずっと持ち続けられそうですね。
杉村
あとは、これを作るぞって決めて、それが出来上がれば嬉しいんです。コードを書いたら動く、ってそれだけで楽しいですよ。そして、私はいつも、自分でここまで作るぞと決めて、それができたら自分に何か買ってあげるようにしています。
竹内
何を買うんですか?
杉村
おいしいお菓子を買ったりとか。お菓子が好きなんです。限定品とか、季節もののフルーツがいっぱいのったケーキを買って帰ります。今日は頑張ったから、これを食べるんだ、みたいな。
竹内
あー、それはわかります(笑)自分は自分で褒めるんですね。
杉村
人に何かしてもらおうって考えると、思った通りにならなかった時に凹みますもんね。
目指しても幸せになれないことは、最初から目指さない。
竹内
それは真似したいですけど、会社に属していると、ついつい周りと比べたりとか、しちゃうんですよね…。
杉村
そうですよね。でも、人と比べないようにしようと意識的にしています。自分は自分って。
竹内
それはもうずっとですか?そう思うようになったきっかけがありますか?
杉村
学生時代は、勉強で1番を取るのが好きだったから、人と比べてはいたはずなんですけど。社会に出て、自分よりすごい人が世の中にはいっぱいいるんだなと気付いたころからですかね。
エンジニアとしてすごい人は本当にたくさんいますし、大学を出ていたり、大学院で勉強していたり、環境も違いますし。どう頑張っても、この差は埋められないなって思っちゃって。
比べ始めると、ほんとにキリがないですよね。目指しても幸せになれないな、と思ったことは目指しません。
竹内
それで、他人に勝つことじゃなくて、人を喜ばせるということを目指すんですね。とにかく、一貫して、杉村さんのお話は、全然無理をしてない感じがすごいです。
杉村
無理、したくないんです。
とにかく、燃え尽きないようにしています。頑張りすぎたり、限度を超ると、燃え尽きてしばらく動けなくなっちゃうっていうのはわかってるので、一定のスピードを保って働いています。たまにはちょっと早く走ることもあるけど、限度は超えないようにするといいますか。
竹内
ずっと働き続けることを重視されているんですね。
杉村
そうですね。働き続けたいです。
竹内
そのモチベーションはどこから生まれるんですか?
杉村
自分の趣味にもお金がかかりますし、子供たちと出かけたりもしたいですし。そうしたら、お金はそれなりに必要ですよね。日々のそういった楽しみのために頑張っています。
竹内
それでも疲れちゃう時もありますよね。そういうときはどうするんですか。
杉村
寝るか、仕事ではなく、すごく好きなことをやり倒しますね。ゲームをやったり、映画を見に行ったりとか。
もっと楽をして、ずっと働き続けたい。
———他に、杉村さんが仕事をする上で大事にしているものはありますか?
杉村
普段お世話になっている自分の周りの人たちを大事にしようという気持ちだけは大きいですね。仕事も家族も。
竹内
お子さんに働いているお母さんを見せたいというようなモチベーションもあったりしますか。
杉村
子どもは、私の仕事に興味はないと思いますよ。最近、会社の制度で在宅勤務ができるので、ちょこちょこ家で仕事してるんですけど、仕事をしている姿を見ても、子供たちはあまり気にしてないというか、どうでもいいみたいで。
私がパソコンに向かって働いていても、息子は今すぐ僕の方を見ろとか。5時まではお仕事だから、終わるまで待ってねと言っても、いや、今見てくれないと、みたいな感じで。
竹内
男の子はもう少し大きくならないと母親が働いているってよくわからないんですかね。
杉村
うーん、ずっとわからないかもしれない(笑)
娘もしゃべりたい盛りで、仕事してるから聞けないよって言っても喋り続けていて…。お母さんがパソコンの前で何かをやってる、くらいにしか思ってないですね。遊んでるとか、Youtubeを見てると思われているかもしれませんね。そんなもんです。
竹内
そんなもんなんですね(笑)
杉村さんは、これから先、どんな風に働いていきたいですか。
杉村
仕事は今まで通りやっていきたいです。そして、自分が頑張らなくてもいいように、人を育てていきたいですね。
例えば、物事を決めるのが苦手な人には、何かを頼む際に、判断基準だけ渡して自分で考えるようにしたり。そうやって後輩を育てて、私はそのうちハンコ押すだけでいいように…。
竹内
昔の杉村さんのように、自分で判断する部下が育っていくと楽になりそうですね。
杉村
専門学校に行っている時のプログラミングの先生が、プログラマーは楽をしないといけない、そのために頑張ってコード書けとおっしゃっていて。最初は、どういう意味なのかわからなかったのですが、実際仕事をするようになって確かになって。
楽できるように、自動化するようにコードを書く。それと同じように、人も育てれば、自分が楽をできるかなって。楽に仕事を続けていきたいですね。
「なんだか、わたしたち、同じような格好してますね」
クラシコムジャーナルの対談では恒例となった双子コーデのふたりなのでした。
PROFILE
EC事業部 カラーミーショップグループ
好きなもの:期間限定のお菓子、ゲーム、心理学の本