ユーザーが「どの会社のモノを買っても同じ」と感じ、値段や手に入りやすさで購入を決めてしまういわゆるコモディティ化の中でも、こだわりの商品を「これがいい!」と選んでもらうためには、どうすればよいのでしょうか。
2016年10月6日(木)に南青山の宣伝会議セミナールームにて開催されたパネルディスカッション『コモディティ化に打ち勝つ、ブランドの差別化と共感性の向上』では、具体的な事例からその鍵を見つけ出そうとしていました。
前編は、ル・クルーゼ ジャポンの堀内亜矢子さんと、キリンの中村美幸さんのケースを、私たちクラシコムがご提供しているタイアッププログラム「BRAND NOTE」での取り組みも交えて紹介しました。
続く後編は、独自のアイデアで展開をするハウス食品の宮戸洋之さん、エスビー食品の中島康介さんの登場です。
(写真左)ハウス食品株式会社 宮戸洋之氏 (写真右)エスビー食品株式会社 中島康介氏
ロングセラーブランド/ニューブランド、それぞれの悩み
ハウス食品株式会社 宮戸洋之氏(以下、宮戸) 我々としては、ブランドに課題があるのか、メニューに課題があるのかを切り分けて考えなくてなりません。たとえば、シチューの素の「シチューミクス」で最近わかったことが、「顆粒タイプであること」を知らない方が結構いらっしゃる。ベテラン社員ほど「顆粒タイプは古いのでは」と思っている一方で、若い人たちは意外とそうでもなく、むしろ良いイメージがあったりする。
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そういうこともひっくるめて、あらためてブランドの「らしさ」を考えようと。ただ、あまりにもブランドの課題を掘り下げていくと、目先の問題を裏返すだけでになってしまいがちなので、「ユーザー視点」を併せ持たなければと考えています。ロングセラーブランドだからこその悩みですね。
エスビー食品株式会社 中島康介氏(以下、中島) ヱスビー食品では「おひさまキッチン」というブランドで、トースト用のシュガー&シーズニングを手がけています。パンダくん、カバくん、ウサギさんと、いろいろな動物さんを水彩画で描いたイラストのパッケージが特徴です。
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メインで使うお子さまはもちろん、それを与えるお母さまの気持ちを想像すると、こういった(動物がパッケージに登場する)世界観が浮かんできました。「パンにかけるシュガー」という部分ではライバル会社さんと同じですが、そこがわかりやすい差別化でもあります。
ハウス食品さんの「シチューミクス」のようなロングセラーブランドとは違い、私どもの商品はさんと近い、とても新しいブランドです。まずは市場定着と、お客さまが何を望んでいるかを両立させるのに課題があると感じ、必死にもがきながら解決をしている最中ですね。
世界観を決めつけないチャレンジで、若い世代と接点をつくる
──それでは、現状の課題を踏まえて、具体的にはどのように取り組まれたのかをお聞かせください。まずは、ハウス食品の宮戸さんはいかがですか。
宮戸 シチューミクスでは、粘性が高くて具材が多い、いわゆる「主菜」として食べている人のほうがメニューとしての満足度は高く、ヘビーユーザーが多いというふうにわれわれは理解しています。ただ、そういうところをマス広告として捉えると、「旦那さんが喜ぶガッツリしたメニュー」みたいな、ワンウェイの世界観を押し出しがちになってしまいます。
この繰り返しは、パッケージの裏面に似たようなレシピをいっぱい載せていたり、実は過去にほぼ全てやってきてしまっている。そこで我々の理解が変わったことを表すための取り組みとしてチャレンジしたのが、『シチューとごはん あなたはどっち“ごはんとわける?”“ごはんにかける?”』の動画を始めとした取り組みです。今回のアプローチは、本音を言えばテレビCMを通じて聞いてみたい気持ちもありましたが、全体のコストとKPIを鑑みて、今回のかたちに行き着きました。
シチューは「季節もの」という面もあります。秋冬で涼しくなって、コマーシャルが流れて、スーパーの食材ともリンクしたときに「シチューミクス」を買っていただけるお客さまがいる。そのことは継続しながら、特に若い人たちとの接点をつくるために、新しいことにも取り組まなければいけない。デジタル領域での展開はまだまだビギナーですので、トライアンドエラーでやっていこうということで、まずは『わける?かける?』で少しはっちゃけてみたところです(笑)。
「おひさまキッチン」の世界観を作り上げるための、3つの事例
──中島さん、エスビー食品ではいかがでしょうか?
中島 以前、お客さまがどういった気持ちで「おひさまキッチン」を利用されるのか知るために、朝食のシーンを調査したんですね。そのときに、僕らが想像するよりずっと忙しくて、会話をしている余裕もないくらいのお母さんとお子さんの毎日が見えてきました。
だからこそ、動物さんのイラストを水彩画で描いたのも、「パンダくんのシュガーを自分でかけたよ!」とか、「シナモンって何?」とか、食事の手間を省きながらも親子の会話が生まれるような食卓の空気感をつくっていけたらと考えたのが始まりです。私たちが販売しているのは、単なる「ビン詰めの砂糖」なのではなく、僕はこれを「心のサードプレイス」と勝手に呼んでいますが、心理的な逃げ場みたいなものまで用意できたらと。
WebではYouTubeに動物さんたちのショートムービーをかなりつくり込んで公開したりしますが、お客さまのとのコミュニケーションという点で、3つの事例を紹介します。
1つ目は、製品のホームページに、あくまで私のノリなんですが「希望動物さん価格」を書いちゃったんですね(笑)。希望価格120円の商品なら、希望動物さん価格は120どんぐりです。そうしたらある日、「400どんぐりあります」という付箋と、商品がプリントアウトした紙が同封されて届いたんです。「つまり、このどんぐりで、この商品がほしいということなんだな」と察して、僕も外に走りまして、葉っぱでおつりのどんぐりを包んで、その商品を送り届けたんです。そしたら、お礼の手紙をいただいたりして。
そこから、全然商品を届けてくれないナマケモノが社長をしている「なまけもののとどけもの」という架空の運送会社をつくって、ツイッター懸賞やキャンペーンでもその運送会社のロゴ入りのダンボールで届くようにしました。そのときに、田舎のおばあちゃんがやるように新聞紙で物を包んだり、クッション材にしたりしましたが、それも実在の新聞だと興ざめするだろうと、「おひさまキッチン新聞」をつくりました。
そうすると、オンラインで見ていた世界がリアルへ飛び出したきたようで、誰かに話したくなると思ったんです。つくりこんでいった裏話やダイレクトなコミュニケーションは、「おひさまキッチン」のように若くて小さなブランドじゃないと逆にできないんじゃないかな、という思いがありました。
2つ目には、ツイッターも「おひさまキッチン」のパンダくんがつぶやいている設定にしました。いまは3万くらいフォロワーがいますね。
3つ目として、まだまだ商品が店頭に行き渡っていない状況を心苦しく思いながら、「おひさまキッチン探検隊」を立ち上げました。売り切れや配荷の少なさに「どこで買えるのか」と問い合わせがきても、私たちが公式見解として一定の店舗を紹介するわけにもいきません。そこで、お客さま同士、ツイッターのフォロワー同士で、「どこどこの店舗に売ってたよ」と教えてくれた人にはバッジをプレゼントするということをやっています。
オフラインでスーパーに売ってるという情報がオンラインで共有化されて、買えなかった人が買えるようになる、という体験です。そのとき、コアなファンは商品名よりも「あそこにパンダくんがいたよ」とか「キツネさんが喜ぶね」とか言ってくれるんです。そういった微細な成果は出てきていて、お客さまとつながっている感覚が持てるようになりました。
それから全ての営業マンに、「動物」なんて呼び捨てにしないようと言っています。心のサードプレイスを提供する世界観だからこそ、パンダではなく「パンダくん」、ウサギではなく「ウサギさん」なんだ、と。今はどれほど年長の営業マンでも「動物さんです」と紹介をしてくれます。そういう意味でも、会社がひとつになれたかなというのもありますね。
「誰に届けて、どんな価値として実現したいのか」をクリアにする
──最後に青木さんから、各ブランドのお取り組みを伺われての感想をいただけますか。
株式会社クラシコム 青木耕平 「浸透しているからこその難しさ」と「浸透させることの難しさ」、その両面を聞けて非常に興味深かったです。
クラシコムが「BRNAD NOTE」でご相談いただくのもその両パターンに集約されています。事例でいえばレクサスさんは、「ラグジュアリー」というすでに浸透しているイメージを更新したいというニーズでお声がけいただいたことがありました。
キーワードとしては「キーワードだらけだったな」と思うんですけれども(笑)、共通して感じたのは、さまざまな課題に対して「誰に届けて、どんな価値として実現したいのか」が、ものすごくクリアだというふうに感じたんですよね。
お客さまが本当に求めていることは何か、その方たちとどんな関係を結びたいのか。ここまで考えていらっしゃるのも、われわれがメディアとしても日頃から心がけていることとも通ずると思っています。
「おひさまキッチン」さんのお話を聞いていて、僕らもジャム工房を持っていますが、「朝の時間のサードプレイス」というコンセプトは、似たようなことを展開できないかとつい考えてしまいましたね。
われわれも引き続き、お客さまが何を考えておられるのかを、もっともっと知りたいと思います。BtoCのお客さまも、ご支援するブランドさまとしてのお客さまも、具体的にどういうことに困っているのか、あるいはどういう気持ちを味わいたいと思っているのか。お客さんとのコミュニケーションが僕らもまだまだ足りないのを、すごく痛感いたしました。