電気ストーブ9年連続No.1(※)!デロンギの「見えない価値」を伝えるための工夫とは

書き手 岡田果子
写真 佐々木孝憲
電気ストーブ9年連続No.1(※)!デロンギの「見えない価値」を伝えるための工夫とは

世の中に数多くあるヒットブランド。開発の背景はさまざまですが、その裏には共通して、価値観やライフスタイル、時代の変化にチューニングしながらお客様に寄り添い続ける姿勢があります。

「暮らしを支えるヒットブランド」では、そんな商品やサービスにスポットをあて、マーケティングの取り組みとその背景にある思いを紐解いていきます。

今回、注目したのは、イタリアの家電ブランド「デロンギ」。オイルヒーターやマルチダイナミックヒーターなどのヒーター、全自動コーヒーマシン、キッチン家電といった製品を取りそろえる、機能もデザインも本物志向のブランドです。

日本では“ゼロ風暖房”のキャッチコピーでオイルヒーター・マルチダイナミックヒーターのブランドとしてよく知られていますが、これまでどのような顧客コミュニケーションをとられてきたのでしょうか。また、コロナ禍で需要の変化もあったというデロンギ ヒーター。コミュニケーションの課題はどこにあるのでしょうか。

ヒーターを担当されている、デロンギ・ジャパン株式会社のマーケティング部 プロダクトマネージャー西岡祐子さんにお話を伺いました。

聞き手は、クラシコム ブランドソリューショングループ マネージャーの高山です。

※タイトルの「電気ストーブ9年連続No.1」は独立調査機関調べ(2013年1月〜2021年12月金額シェア)
※この取材は2022年7月に実施しました


(写真右)
デロンギ・ジャパン株式会社
マーケティング部 デロンギ プロダクトマーケティング
プロダクトマネージャー
西岡祐子さん

(写真左)
株式会社クラシコム
取締役 事業開発部 部長
高山達哉

「目に見えない価値」を訴求する工夫

高山
まず、デロンギが誕生してからこれまで変わらずに大切にしていることを教えてください。

西岡
2011年から続くデロンギのブランドスローガンは“Better Everyday”です。お客さまが家の中で過ごす時間を少しでも楽しく、より心地よいものに変えるような製品を提供していきたい。この思いは、20世紀前半のブランド創業以来、ずっと変わりません。

ヨーロッパでは「デロンギ」のイメージを聞くと「コーヒーマシン」と答える方が多くいらっしゃいます。一方で、日本では多くのお客さまから「オイルヒーター」と返ってきます。実績においても、日本市場で18年連続オイルヒーター販売台数・売上No.1(※1)を記録しているんです。

エアコンの普及率が90%ともいわれる日本で、なぜお客さまがデロンギのオイルヒーターを選んでくださるのかというと、そこには「ゼロ風」(風が出ない、乾燥感なく使える暖房)という私たちのヒーターでなくては提供できない価値があるからだと考えています。

※1 独立調査機関調べ2004年1月~2021年12月数量・金額シェア

高山
デロンギのオイルヒーターが、世界市場の中でも特に日本で愛されている理由について、詳しく教えてください。

西岡
ヨーロッパの暖房は、建物の地下でボイラーをたいたり、ごみ焼却で出た熱で温水を作ったりして、その温水をパイプに流して各部屋を暖める「セントラルヒーティング」が主流で、輻射熱(ゼロ風)暖房が一般的です。一方、日本の暖房システムはエアコンが主流。日頃から、エアコンの風に不快感を抱いている人が多いので、オイルヒーター・マルチダイナミックヒーターの「ゼロ風」にメリットを感じてくださっているのではないかと推測しています。

高山
なるほど。では「ゼロ風」を訴求ポイントとして、どういったお客さまへメッセージを発信されているのでしょうか。

西岡
主なターゲットは、乾燥に悩む人や空気の汚れが気になる人です。年齢など属性では区切らず、空気の悩みを抱える全ての人を対象としています。

空気の汚れがなぜオイルヒーターに関係があるかというと、エアコンのような風の出るタイプの暖房では、床にたまっている埃が舞い上がってしまうんですが、ゼロ風暖房(オイルヒーター・マルチダイナミックヒーター)はそれが抑えられる。そのため、美容を気にされている方や小さなお子様のいらっしゃるご家庭など、クリーンな空気を意識されているお客さまに、多く選んでいただいている実感があります。

高山
そういったオイルヒーターならではの価値を具体的にどのように伝えていらっしゃるのですか。目に見えないメリットを訴求するのは難しいように感じます。

西岡
そうなんです。「ゼロ風」は見えないし音も聞こえないので、訴求方法は課題のひとつです。そこで、デロンギでは、大学と共同研究でハウスダストの浮遊率のシミュレーションを行ったり、モニター実験で肌の乾燥度をゼロ風暖房とファンヒーター使用時と比較したり、データを可視化する取り組みをしています。

この他に、ユーザーアンケートも訴求材料として活用しています。ファンヒーターやエアコンからデロンギゼロ風暖房に切り替えた、乾燥を気にするお客様の85%が「乾燥が気にならなくなった」、90%が「よく眠れるようになった」と回答しているので、その数字をWebサイトやパンフレットで伝えています(※2)。

※2 デロンギ ヒーター購入後アンケートより(2021年自社調べ/n=256)

高山
目に見えないメリットを訴求するために、データを集められているんですね。最近では、テレビCMに声優の津田健次郎さんを起用されていますが、どういった意図で起用されているんでしょうか。

西岡
声優は、のどや肌のケアが大事なお仕事なので、乾燥を気にされるユーザーの代表としてご登場いただきました。テレビCMの影響も日々実感していますが、1995年のデロンギ・ジャパン設立以来、日本でも多くの方に愛され続けている製品なので、口コミでの広がりも大きいと感じています。

高山
デロンギのオイルヒーターの認知度の高さは、お客さまの声がひとつの鍵になっているということですね。WebサイトやSNSでのコミュニケーションはいかがですか? 先ほどの実験データを、Webでもコンテンツとしてアウトプットされているのでしょうか。

西岡
お客さまが製品を比較検討される際の判断材料になるよう、実験データやグラフは「デロンギヒーターの特長」「他の暖房との比較」として、WebサイトやYoutubeの動画に使用しています。

一方で、SNSでのコミュニケーションで意識しているのは、そういったテクニカルな情報ではなく暮らしに寄り添う情緒的なメッセージです。私たちのSNSで最もフォロワー数が多いプラットフォームはInstagramですが、素敵な暮らしの1ページを想起させるようなイメージを投稿することが多いですね。Instagramをきっかけに、Webサイトへ訪問いただくことも多く、ブランド全体のタッチポイントとして活用しています。

高山
WebサイトとSNSでコミュニケーションの役割を分けているんですね。Instagramもアルゴリズムがどんどん変わっていくなかで、どのようにお客様とのエンゲージメントを深めていくのか、僕らも試行錯誤しているところなので、とても気になります。他にもInstagramでデロンギならではの世界観をつくるために意識していることはありますか?

西岡
デロンギのオイルヒーター・マルチダイナミックヒーターは、イタリアのデザインチームが、インテリアのトレンドや家で馴染むような形・色を取り入れて設計していることが特徴のひとつです。他社の家電製品とは異なるスタイリッシュなデザインなので、Instagram上でも、他の人とかぶらない上質なお部屋を実現できることがアピールポイントのひとつになっています。

みなさんの暮らしの中にデロンギのオイルヒーターがあると、どんな風に「映える」のか。生活に取り入れた際のイメージを具体的に伝えることで、お客さまに「子ども部屋だったらここに置いてみたいな」など自分ごとに思っていただけるよう、意識していますね。

高山
お客さまにいかに「自分ごと」として捉えてもらえるかは、Webマーケティングにおいて非常に重要なポイントですよね。「北欧、暮らしの道具店」には、販売商品を実際に使っているスタッフの声を集めた「スタッフの愛用品コラム」というコーナーがあります。これも「自分ごと」のための施策のひとつで、商品ページだけでは伝わりづらいリアルな使用感だったり、暮らしの中で役立つTipsを紹介したりすることで、購入後の具体的なイメージを膨らませていただくきっかけになっていると感じています。

口コミでの広がりも大きいとのことでしたが、SNSでのUGC(User Generated Contents)の活用事例はありますか。

西岡
コーヒーマシンの訴求では、Instagramなどでインフルエンサーや生活者の声を活用できているのですが、オイルヒーターでの活用は、これからですね。コーヒーマシンだと、使っている様子や、豊富なメニュー展開を見せることでパワーコンテンツになりやすいのに対して、オイルヒーター・マルチダイナミックヒーターは生活の基礎的な働きをする家電なので見せ方が難しいんです。今後の課題のひとつでもありますが、オイルヒーター・マルチダイナミックヒーターでも、ユーザーの声を、InstagramやYoutubeチャンネルなどでうまく活用していきたいと考えています。

なによりも「製品の価値」が起点にある

高山
オイルヒーター・マルチダイナミックヒーターは、暮らしと密接にかかわっている製品なので、コロナ禍で家にいる時間が増えたことも売上に影響がありましたか。

西岡
そうですね。最近の購入者アンケートを見ると、リモートワークのために購入したお客さまも増えているようです。風がなく乾燥も防げ、音も静かなので、集中して作業する空間には最適だと思います。

高山
「北欧、暮らしの道具店」でもコロナ禍でルームウェアなどの売上が伸びて「暮らしの心地よさを自分なりに整えていきたい」というニーズの高まりを感じました。デロンギのオイルヒーターは長い間、日本市場で販売台数・売上No.1を維持されていますが、その理由をどのように分析されていますか。

西岡
デロンギのオイルヒーターが「乾燥対策」や「質の高い睡眠」といった暮らしの悩みに対するイシューソルビングになっている。そこを評価いただいているんじゃないでしょうか。何よりも、裏打ちする技術やベネフィットが、デロンギのオイルヒーター・マルチダイナミックヒーターが選ばれてきた理由なのではないかと考えています。

高山
睡眠は誰もが快適さを追求したいトピックスですし、今まさに関連市場も伸びていますよね。

西岡
そうですね。睡眠時間を含めると、家で過ごす時間は長いので、快適な生活空間づくりはコロナ禍でますます注目されるようになりましたし、睡眠の質を追求する方はますます増えていると思います。

高山
クラシコムでも、デロンギのオイルヒーターを使っているスタッフが何人もいるんですが、みんな熱量が高くて。「使い心地が良すぎて、3台も持っている」なんてヘビーユーザーもいるんです。スタッフのひとりが「冬なのに春みたいな過ごしやすさを家のなかで感じられる」と話していたことが、特に印象深くて。こうした愛用者の声を聞くと、購入してみようかな? と心が揺れ動きますね。口コミで普及するのも納得の一方で、企業としての戦略的なコミュニケーションは、難しいところもあるかと思います。現在、課題に感じられていることはありますか。

西岡
いかにして「オイルヒーターは電気代が高い」というイメージを正すかが、コミュニケーションにおける課題のひとつです。まず同じ条件の部屋を同じ温度にするのに必要な熱エネルギーは同じですので、電気ヒーターで比較した場合、オイルヒーターだけが電気代が高いというのは物理的にあり得ません。さらに現在は、温度設定も可能なデジタルモデルが増え、正しく温度を設定すれば無駄な電力を使いません。「電気代が高い」という誤った認識で、購入を足踏みしている方がいたらもったいないですよね。この課題を解決するために、明治大学の建築学科の先生の監修の元、さまざまなサイズの部屋で、一定の温度に設定した時の電気代がいくらかかるのかをシミュレーションするコンテンツを用意しています。

高山
実際とは異なるイメージを払拭するために、実験とデータで正しい情報を伝えようとされているんですね。ではデロンギのヒーターの今後の展開についてお聞かせください。

西岡
まず製品としては、多様なユーザーのニーズに対応することを目指しています。直近では、スマートフォンで屋内外から操作を制御できる「デロンギ マルチダイナミックヒーターWi-Fiモデル MDHAA12WIFI-BK / MDHAA09WIFI-BK(※3)」や、デスクワーク時の手元や足先の冷え対策にちょうどよく、柔らかい風が特徴の小型サイズの「デロンギ カプスーラ デスク セラミックファンヒーター HFX12D03(※3)」など、これまでにないタイプの製品を続々発表しています。

※3 2022年9月1日発売

高山
多様なニーズに応えるために、お客さまの声は意識されていますか。

西岡
そうですね。購入者アンケートの声の一部は、新しい製品に反映しています。例えば、直感的に操作できるディスプレイノブが付いた「マルチダイナミックヒーターMDHS12」は、オイルヒーターで似たような機能を持った商品を出したときに、非常に満足度が高かったことを受けて、開発しました。どのように改善したらみなさんの生活をより快適にできるかを考え抜くのが、私たちの使命だと思って、大事にお声をいただいています。

高山
なるほど。デロンギは製品の品質が高いからこそ、お客さまとの理想的なコミュニケーションがとれていると感じます。

西岡
ありがとうございます。お客さまにより快適な時間を過ごしていただくために、ユーザーエクスペリエンスのマイナーチェンジを日々繰り返して、製品は進化を遂げています。メディアには取り上げられないような小さな改善点も、積極的に、私たちからの発信で伝えられればと思います。

何よりも、短期的な視点だけでなく、長くデロンギの製品を愛用してご満足いただきたい。この視点を、お客さまとのコミュニケーションにおいて、常に大切にしたいので、コミュニケーション戦略の大筋はこれからも変わりません。ブランドスローガンである“Better Everyday”の通り「使う人の暮らしをよくしたい」というメッセージをぶらさずに、多面的な情報発信を目指していきたいです。

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「北欧、暮らしの道具店」を運営する株式会社クラシコムの「BRAND SOLUTION(ブランドソリューション)」では、企業のマーケティング担当者のみなさまと知見を共有するための記事配信・イベント開催などを行なっています。

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