ブランドパーパスがお客様から選ばれる理由のひとつに。日本で成長し続けるソーダストリームのブランド戦略

書き手 野本纏花
写真 佐々木孝憲
ブランドパーパスがお客様から選ばれる理由のひとつに。日本で成長し続けるソーダストリームのブランド戦略

世の中に数多くあるヒットブランド。開発の背景はさまざまですが、その裏には共通して、価値観やライフスタイル、時代の変化にチューニングしながらお客様に寄り添い続ける姿勢があります。
「暮らしを支えるヒットブランド」では、そんな商品やサービスにスポットをあて、マーケティングの取り組みとその背景にある思いを紐解いていきます。

今回、注目したのは日本でもすっかりお馴染みとなった炭酸水メーカーの「ソーダストリーム」。わずか5秒でフレッシュな炭酸水を作れるとあって、愛用されている方も多いのではないでしょうか?

もともと炭酸水を飲む文化がなかった日本で、いかにブランド価値を守りながら認知拡大を図ってきたのか。ブランドの歴史を紐解きながら、「北欧、暮らしの道具店」との共通点から、「ソーダストリーム」の目指す世界まで、ソーダストリーム株式会社 マーケティング部 部長の平野幸恵さんにお聞きしました。

聞き手は、クラシコム ブランドソリューショングループ マネージャーの高山です。

※この取材は2022年5月に実施しました。


(写真右)
ソーダストリーム株式会社
マーケティング部 部長
平野幸恵さん

(写真左)
株式会社クラシコム
取締役 事業開発部 部長
高山達哉

100年以上続くソーダストリームの歴史の歴史

高山
「ソーダストリーム」が日本に上陸して10年あまりですが、発祥の地はイギリスで、1903(明治36)年に創設されたと知り、大変驚きました。

平野
そうなんです。日本にいると炭酸水は流行り物のように思われている方も多いかもしれませんが、西ヨーロッパでは紀元前から天然の炭酸水を飲む文化があったと言われています。私たちが、お茶を飲むような感覚で、日常的に炭酸水を飲む。そんな文化圏で「ソーダストリーム」は生まれました。

「液体二酸化炭素に圧力をかけて水に添加する」という根幹の技術は現在と変わりませんが、当時は巨大で高価な機械だったことから、王族や貴族が使っていたそうです。現在のように一般家庭に普及し始めたのは、70年代頃からですね。

高山
2011年に日本に上陸したのは、日本で炭酸水が流行り始めたことが理由でしょうか?

平野
いえ、一番の理由は、炭酸水は人間にとって欠かせない「水」であり、人々の健康に対してどんな食文化の背景においてもソリューションをもたらすと確信があったからです。例えばアメリカでは、炭酸飲料をたくさん飲む家庭が多くて、いろんなメーカーの炭酸飲料がパントリーにずらりと並んでいるのが当たり前なんです。でも日常的に飲み続けていたら、カロリー過多で肥満になったり、糖尿病になったりする人が、増えてしまいますよね。

そこで90年代、人工甘味料を使ったダイエット系炭酸飲料が登場したのですが、やがて「人工甘味料は砂糖よりも体に悪い」という考え方が広まるようになって、何を飲めば良いのか途方に暮れる人たちが出てきました。毎日、炭酸飲料を飲んできた人たちに「今日からお茶を飲みなさい」と言っても、無理な話ですから。

そんな中で、炭酸水なら刺激があって飲みやすいですし、砂糖が入っていないから体にも良いと、見直され始めたんです。遅かれ早かれ、日本はアメリカの食文化の影響を受けますし、日常的に炭酸水を飲む時代がやってくる。そこで日本はアジアにおける重要な拠点でした。

高山
なるほど。アメリカなどで広まりつつあった炭酸水の健康的なイメージが、日本にも浸透するだろうと、考えられたのですね。では、日本に「ソーダストリーム」が上陸した当初、お客様からの反応はいかがでしたか?

平野
最初は、海外生活や海外旅行の経験がある方たちが「待ってました!」と喜んでいただけました。当時はコンビニでもほとんど炭酸水の取り扱いがありませんでしたから。海外経験の豊富な、購買力の強い方たちが百貨店で購入してくださるというパターンが、1年目の主な動きでしたね。

ブランド価値を守るためにあえてブームに乗らない戦略を貫く

高山
そこから一般家庭へとブランド認知を広げていく上で、何か気をつけたことはありますか?

平野
「おもしろいから買ってみる」といった一過性のブームを避けることに最も神経を使いました。ブランド認知を拡大するために、興味のない方にまで、一気に流行らせようとすると、すぐに飽きられてしまうことがありますよね。だから、私たちのコンセプトを正しく理解して、お客様にちゃんとメッセージを届けてくれるチャネルだけを、選択するようにしました。

高山
「ソーダストリーム」がお客様に届けたかったメッセージとは?

平野
「ソーダストリーム」が、日常に寄り添うプロダクトであることです。だから、「パーティー」や「夏限定」といった非日常を演出するプロモーションはそぐわないですし、店頭でビールやワインを泡立ててみたいといった客引きのイベントとして取り扱われるのも違う。

数年前に日本で炭酸水がプチブームになったとき、あらゆるチャネルから取り扱い希望のご依頼をいただいたのですが、私たちの戦略と意図をご理解いただけるように商談を重ね、ただ商品を店頭に置いて販売するだけの展開にならないよう、協働いただくことに注力しました。

このやり方は、側から見ると遠回りに見えるのですが、私たちが強い意志を持って、ていねいにお店とのコミュニケーションを続けてきたことで、現在では、私たちのコンセプトを理解して愛用してくださるお客様がたくさん増えました。同時に、家電量販店やスーパーマーケット、コンビニやドラッグストアまで、「ソーダストリーム」の取り扱い店舗を広げることができました。

高山
一過性のブームにならないよう、丁寧にメッセージを伝えようとする努力に、すごく共感します。

クラシコムも、ブランドソリューションの事業を始めるまでは、メディアへの露出をあえて抑えていました。現在は、私たちのブランドに共感してくださる方にアプローチするために、必要なシーンに応じて、メディアへの露出もするようになりましたが、マスメディアはブランドの世界観を正確に伝えるのが難しいので、今でも慎重に選択しています。

長くお付き合いできるお客様との接点を見極め、真摯にメッセージを伝える努力を重ねてきたという点では、「ソーダストリーム」の戦略と私たちには、共通しているところがあるかもしれません。

他にも何かコミュニケーションで気をつけていることはありますか?

平野
私たちが届けたい価値は、自宅で手軽にできたての炭酸水が飲めるという“新鮮さ”ですが、やはりお客様が気になるのはランニングコストなんですよね。疑問にはお答えしなくてはいけないので、店頭のコミュニケーションツールには一部記載はしてありますが、テレビCMやブランドサイトでコストの話はあえて強く打ち出しません。

「ソーダストリーム」を使うことで最終的にコストを抑えられるのは間違いないけれど、本質はそこではない。フレッシュでおいしい水をたくさん飲むことは、あなたの体にとってすごく良いことなんです、というベネフィットを前面に出すようにしています。

高山
価格競争だけに走らないという点は、私たちも気をつけているポイントです。最近のテレビCMでは、「生炭酸」というワードを使っていらっしゃいますよね。

平野
はい。実は「生炭酸」という言葉を使い始めたのは、7年ほど前からなんです。新鮮さをわかりやすく表現するためのアイデアとして生まれました。ただ、“生”って定義が曖昧じゃないですか。生チョコとか生ビールとか、いろいろなところで使われているけれど、人によって“生”で想起する意味が変わってくるので、大々的に使うのはちょっと怖かったこともあって。

そこでいくつかの広告で「生炭酸」をテスト的に使いながら、どんな反応があるのか、少しずつ検証を重ねていきました。そして今回ようやく、テレビCMでも使用を開始するという判断に至ったんです。

高山
ちなみに御社ではデジタルコミュニケーションの果たす役割を、どのように捉えていますか?

平野
コロナ禍でオンライン上でのコミュニケーションの重要性は加速しましたよね。「ソーダストリーム」は、どちらかというとPRでテレビや雑誌などのマスメディアに取り上げてもらう戦略がマーケティングの中心だったので、デジタル分野に関しては、まだまだ試行錯誤している最中なんです。

高山
デジタルの世界だとマスメディアに比べると、コミュニケーションの深さも追求できますからね。コンテンツやタッチポイントも多様化するなかで、いかに可処分時間(滞在時間)を多く使っていただけるか。クラシコムでは「もっと滞在したいな」と思ってもらえるような世界観と多様なコンテンツを配信しています。YouTubeで「モーニングルーティン」や「うんともすんとも日和」といった番組をつくったり、「チャポンと行こう!」というポッドキャストを配信したりなど。15分以上の動画や30分程度のポッドキャストでも、多くの方に最後まで視聴いただけています。お客様に、当店のコンテンツに触れていただく時間を少しでも多く割いてもらうことによって、これまで以上に、エンゲージメントが高まってきた実感があります。

平野
そうですね。マスメディアと違って、お客様を惹きつけることができたら、いくらでも階層を深くして、多くのメッセージを伝えられますから。そこはやはり私たちも上手になっていかなければ、と考えています。

「プラスチックごみの削減」というパーパスを原動力に

高山
ところで、「ソーダストリーム」では、自宅で好みの炭酸水を作れる楽しさ以外にも、ペットボトルを削減できるエコをベネフィットとして強く打ち出されています。しかし2018年12月には、米国の大手飲料メーカー「ペプシコ」のグループに入られましたよね。これにはどのような意図があったのでしょうか。

平野
私たちは長年、ものすごくアグレッシブに環境問題を訴えてきました。「ソーダストリーム」を普及させることで、世界中のプラスチックごみを削減し、地球を救えると信じていますし、それが私たちの活動の原動力にもなっています。それなのに、世界でもトップクラスの飲料メーカーに、吸収合併されるなんて、一見すると、こんなに違和感のあることはありませんよね(笑)。

でも実際のところは、違うんです。当時のペプシコは、飲料のみならず世界最大手の食品供給企業として、環境問題を解決しなくてはならないという社会的責任を強く感じていました。だからこそ、最先端にいる「ソーダストリーム」のソリューションが魅力的だったと聞いています。

高山
日本でもエコに対する意識は高まっていると感じますか?

平野
感じます。SDGsが注目されるようになった、ここ2〜3年ですね。それまではむしろ環境問題って、触れてはいけないタブーのような扱いを受けていました。「ソーダストリーム」の購入理由をリサーチしても「ペットボトルのごみを無くしたい」という理由は、ずっとランキングの圏外だったんです。でも最近は4位にまで入るようになりました。

高山
お客様の購買理由が企業のミッションにどんどん近づいてくる流れは、非常におもしろいですね。

平野
本当にうれしいことです。お客様に毎日おいしく炭酸水を飲んでもらった結果として、プラスチックごみを減らすことができる。これが、私たちがずっと目指してきた世界なので。

高山
今でこそ、社会や生活に貢献するブランドパーパス(ブランドの存在意義)の重要性が盛んに叫ばれていますが、「ソーダストリーム」の場合は、後付けの形式的なものではなく、パーパスが社員のみなさんのモチベーションの源泉であるとともに、お客様から選ばれる理由にもなりつつあるという点が、素晴らしいですね。

平野
ありがとうございます。販売店からのリクエストも、5年前とは全然違うんですよ。以前は私たちが「環境問題を訴えるコーナーを作りたい」と言っても「そんなの誰も興味がない」と言われていたのに、今ではお店の方から頼まれますから。

高山
そのようにブランドを取り巻く外部環境が変化している中で、今後「ソーダストリーム」をどのように育てていきたいですか?

平野
私たちはブランドサイト以外にも、プラスチックごみ削減について考える「プラスチックファイターズ」というサイトを運営しています。

そこは「ソーダストリーム」のユーザーはみなさんプラスチックごみ削減に貢献しているので、たとえ購入したきっかけが環境問題ではなく、ご本人にそんなつもりがなかったとしても、勝手にプラスチックファイターと呼ばせてもらいます、というスタンスでやっているんです(笑)。

今はそんなふうに勝手に呼ばせてもらっていますが、これからはもっと自覚的になってもらえるような何かしらの仕掛けを作って、いつか「私はプラスチックファイターなんだ!」と誇りに感じてもらえるようなステータスにしていきたいと考えています。

高山
私もいちユーザーとして感じるのは、「ソーダストリーム」は長く使い続ければ続けるほど、ロイヤルティが高まっていくブランドですよね。これからはプラスチックファイターとして自覚を持ちながら使っていきたいと思います(笑)。今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。