日本人なら、誰もが知っている“あの商品”。それらが長く愛されている理由を探る、連載シリーズ「暮らしを支えるロングセラーブランド」。
連載第2回は、日本で初めて市販用のレトルトカレーとして誕生し、今や日本中で愛されている「ボンカレー」に注目します。来年50周年を迎える1968年生まれのボンカレーは、日本の食卓にどのように受け入れられてきたのでしょうか。
大塚食品株式会社でボンカレーの商品開発を担当し、今は開発からマーケティングまでトータルで携わっている中島千旭さんに、お話を伺いました。
中島千旭さん
大塚食品株式会社 製品部 ボンカレー担当
多くのアイデアと、約4年間の試行錯誤から生まれたボンカレー
ボンカレーの開発が始まったのは、東京オリンピックが開催された1964年のこと。当時、カレーといえば国民食を代表する人気メニューのひとつでした。
「すでにカレールーは多くの企業が発売していたので、そこに新たに参入していくのは難しいと判断していました。では新たな市場を開拓するためにはどういったものを出せばいいか? ということを、当時は検討していたと聞いています」
きっかけは、アメリカのパッケージ専門誌に掲載されていた、ソーセージの真空パックの記事だったとか。それは缶詰に代わる軍用の携帯食として研究されていたもの。その技術とカレーを組み合わせて何か作れないかと考えた末に、お湯で温めて食べるカレーを思いついたそうです。
コンセプトは「一人前をお湯で温めて食べられる、誰でも失敗しないカレー」。そのためには美味しくて簡単・便利で、保存料を使わないことが絶対条件であり、いつでも食べられるよう常温で長期保存ができることも必要でした。今でこそ身近な存在のレトルト食品ですが、当時はまだその技術も材料もなかった時代。試行錯誤の上、世界初の市販用レトルトカレーとして「ボンカレー」が誕生したのは、開発から4年後の1968年2月のことでした(当時は阪神地区限定発売)。
1日15枚!ボンカレーの知名度を上げた営業マンたちの地道な努力
「レトルトというと、あの袋そのもののことを指すと思っている方も多いのですが、実は“レトルト釜”に由来しているんですよ」と中島さん。レトルトとは加圧加熱殺菌釜のことで、袋(パウチ)などに詰めた食品をこの釜に入れて高温高圧で殺菌したものをレトルト食品と呼ぶのだとか。当時は珍しかったレトルトカレー。その苦労をこのようにも教えてくださいました。
「当時は『具なんて入ってないだろう』『自分で野菜などを加える必要があるのでは?』という誤解もあったので、わかりやすい商品の説明が必要でした。そこで、レトルトカレーを持った、女優・松山容子さんの姿を印刷したホーロー看板を製作し、『牛肉 野菜入り』と大きく書いて、小売店様に営業したのです」
商品を置いてくれた小売店には、営業マンたちがこのホーロー看板を金づちで取り付けてまわったのだとか。しかも、ノルマは1日15枚!営業マンたちの地道な努力により全国で9万5千枚の看板が取り付けられ、ボンカレーの知名度は一気に上がりました。
沖縄ではすべてのレトルトカレー=ボンカレー!?
ところ変わればボンカレーも違う!?地方の県民性がわかる、おもしろいエピソードを中島さんは教えてくれました。
「沖縄では、すべてのレトルトカレーを総称して“ボンカレー”と呼ぶ方が多いのだそうです。『ボンカレー食べよう』と言っても、他社のカレーを食べていることもあるとか(笑)。発売当時から、沖縄県の方にはボンカレーをよく買っていただいており、親しみを持って召し上がっていただいています」
台風の多い沖縄では、備蓄食として食べる機会が多いのだそう。また、以前は親子2〜3世代で住んでいる家庭もあり、幼少期にボンカレーを食べていた世代が大人になって、受け継がれているとのこと。
「実は発売当時、松山容子さんのパッケージの“ボンカレー”と、“ボンカレーゴールド”の両方を全国で販売していましたが、沖縄では昔ながらの松山さんパッケージの方が多く消費されていました。これは、最初から入ってきたものを好むという沖縄県民の傾向も影響しているとか。そのような経緯から、2003年に松山容子さんの“ボンカレー”は、全国販売をやめて沖縄限定商品としました」
味の工夫もさまざま!進化するボンカレー
「味についての変化が顕著なのは、1978年に発売したボンカレーゴールドです。1980年代を前にレトルト商品も競合が増え、また消費者の味の嗜好も変わってきた中で、香辛料やフルーツを贅沢に使った新商品を発売しました。また、当初は甘口と辛口しかありませんでしたが、1982年に中辛をラインアップに加えています」
カレーの辛さの調整は、甘口をベースに、唐辛子などのスパイスを足して中辛、辛口と調整するのが一般的。ですが、ボンカレーゴールドは甘口・中辛・辛口・大辛など、商品の特徴に合わせた材料のレシピ組みをしているのだそうです。
「たとえば甘口だったら、フルーツ感を出すためにアルフォンソマンゴーを加えたり、大辛だったらチポトレという燻製にした唐辛子を原材料とした香辛料を入れたり……。それぞれ違った味を表現するようにしています。パッケージの裏を見て、何が入っているかをぜひ気にしていただければと思います」
ついに箱ごと電子レンジ調理可能に!お母さんにも優しいボンカレー
ボンカレーゴールドが箱ごと電子レンジ調理できるようになったのは、2013年から。「お母さんが作った、家庭のカレー」がテーマのボンカレーシリーズは、時代変化にともない調理法も進化してきました。
「現代のお母さんは忙しいので、今はほとんどの商品が箱ごと電子レンジ調理可能です。『子どものごはんにレトルトカレーを出すと罪悪感を感じる』と話すお母さまもいらっしゃるのですが、ボンカレーは家族のためにしっかりと手を加えたものになっているので、活用していただけると嬉しいです」
中島さんが子どものいる家庭におすすめするのは、その便利さだけではありません。具材に使用する野菜(じゃがいも、たまねぎ、にんじん)は国産を使用し、保存料・合成着色料不使用で、子どもにも安心して食べてもらえるよう真摯に取り組んできたからだといいます。
「誤解されている方も多いのですが、レトルト食品には保存料が入っていません。レトルトパウチを完全に密閉して外からの圧と加熱で殺菌するので、保存料は必要ないんです。また、特にこどものためのボンカレーは、着色料、香料や化学調味料も不使用。お母さんたちのご意見を頂戴しながら、安心・安全かつ、おいしくお召し上がりいただけるよう工夫を重ねました」
おかげさまで、2018年で50周年を迎えます!
「カレーって、疲れて帰ってきて、もう何も作りたくないって時に食べることも多いと思うんです」と、中島さん。
「私自身、カレーと一緒に野菜を食べなくてはと思うのですが、サラダくらいしか思いつかないのでマンネリ化してしまっていました」
そういった背景から、最近ではボンカレーと一緒に野菜を手軽に摂ることのできるアレンジレシピ提案に取り組んでいる最中なのだとか。
「若い世代の方にはボンカレーを知らない、食べたことがないという方もいるので、古いブランドと思われないように、常に新しさを意識しています。ホームページを充実させたり、アレンジレシピを配信したりして、多くの方々に“ボンカレー”の思いをお伝えできればと考えています。ボンカレーならと信頼していただけるように地道にコミュニケーションを続けています」
来年の2018年2月、ボンカレーは50周年を迎えます。
50年の時を経て、レトルトカレーは私たちの生活の中で、近くにあって当たり前の存在となりました。次世代のレトルトカレーは、一体どのように進化するのでしょうか。大塚食品の挑戦に期待が高まります。
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