梅酒のパイオニア・チョーヤ梅酒は世界を目指す。本物にこだわるものづくりの姿勢とは

書き手 忠地 七緒
梅酒のパイオニア・チョーヤ梅酒は世界を目指す。本物にこだわるものづくりの姿勢とは
わたしたちの周りで長く愛され続けている商品。その一つひとつが生まれたストーリーを知ることは、心地よい日々を増やしていくことにつながるかもしれません。

「暮らしを支えるロングセラーブランド」は、長く愛されてきた商品にスポットをあて、その理由を紐解く連載シリーズです。

連載第13回に登場するのは、梅酒でおなじみのチョーヤ梅酒の「紀州」。チョーヤ梅酒株式会社の金銅俊二さんにお話を伺いました。


金銅 俊二さん
チョーヤ梅酒株式会社 専務取締役
1981年蝶矢洋酒醸造株式会社(現 チョーヤ梅酒株式会社)入社。国税庁醸造試験所での醸造研修や、本社製造部での品質管理業務を経て、梅酒熟成の品質向上や梅酒に最適な梅作りに取り組む。2008年専務取締役に就任。趣味は体を動かすこと。特に低山登山や水泳などをよく楽しんでいる。

元々はワインメーカー。梅酒を造り始めたきっかけとは

——チョーヤというと梅酒のイメージが強いですが、もともと別のお酒を造っていたんですよね。

金銅俊二さん(以下、金銅) 実は、わたしたちの会社はワインメーカーでした。大正3年に大阪南東部でブドウ栽培をはじめ、ワインの製造・販売をしていました。

でも昭和30年代、当時の社長が海外視察に行ったとき、向こうでブドウがたくさん栽培されていて、しかも日本より安価。今後どんどん日本に輸入されたら、わたしたちのワインは勝てないと感じました。ならば「日本でしか造れないお酒を造ろう」と、着目したのが梅酒でした。

——なぜ、梅酒に着目したのでしょうか?

金銅 まず、梅酒が江戸時代以前からある日本の伝統的なお酒だったこと。また海外にはないお酒だからこそ、世界で販売していける可能性があると考えたからです。昭和34年に梅酒の製造・販売をはじめた後、酒税法改正により家庭での梅酒作りが認められ、果実酒ブームが起こりました。

といっても、その頃は今のように梅酒は日常的に飲まれていなかったんです。たとえば夏に疲れたときや寝る前、腹痛などの体調不良時に薬膳酒として飲んだり…。きっかけがないと飲まないお酒で。

だからまず、食卓で日常的に飲んでもらいたくて大きな壺型容器を冷蔵庫のドアポケットに入れられるようコンパクトにしたのが昭和61年に発売された「紀州」であり、その後も注ぎ口の改良など、日本人がカジュアルにデイリーに飲めるよう改善を重ねました。

チョーヤはあえて100点を目指さない。本物だから自然のゆらぎを大事に

——今年で32年目を迎えるチョーヤ梅酒「紀州」。発売当初から変えていないこだわりはありますか?

金銅 変えていないのは原料です。市販の梅酒には添加物を使っているものもありますが、梅・砂糖・お酒のみを使った「本格梅酒」にこだわっています。

ただ、梅の収穫年や熟度によって梅酒の性格が異なるのでお酒のブレンドの比率は変えていますね。

——ブレンドする上で気をつけていることを聞かせてください。

金銅 一番はベストバランスな梅酒を造ることです。わたしたちは数万円もする最高級品を造りたいわけじゃないんです。お客様の日常に寄り添っておいしく楽しく梅酒を楽しんでいただきたい。

これを話すと怒られるかもしれないですけれど…。

わたしたちは100点満点の梅酒を目指していません。目指すは90点。なぜなら自然の梅を使っているため、同じ年に採れた梅で造った梅酒でも生産ロットによって微妙な味の違いがあるんです。

90点の味にそろえる努力はしますが、91点になったり87点になったりする。自然の原料にこだわるから人間の力が及ばない部分もあります。

——素材にこだわるからこそ生まれるゆらぎなんですね。

金銅 常に全く同じ商品を供給することが使命だと思っているメーカーさんも多いと思いますが、そもそも家庭で毎日みそ汁を作っていても、味は微妙に変わりますよね。家庭ではそのゆらぎを許容しているんです。だから一定の基準を設けた上の振れ幅は、企業にだってあっても良いと思っています。

いい梅酒はいい梅から。農家さんに寄り添った梅作りにこだわる

——「紀州」という名前も印象的です。

金銅 原料の梅にこだわっていることを伝えたくて、梅の産地である和歌山を意味する「紀州」と名付けました。今、日本の梅の生産の約7割が和歌山県産です。わたしたちはただ梅を購入して加工するのではなく、農家さんと一緒に梅を作るところから携わっています。

農作物って農家さんが1年かけて一生懸命作ったものでしょう。でももちろん豊作の年もあれば、凶作の年もある。何でもビジネスライクに進めるのではなく、よりおいしくて安心して飲める梅酒を造るために農家さんに寄り添った梅作りをしています。

——具体的にどのような取り組みをしていますか?

金銅 たとえば今の農業は「高品質のものを作りたい」という想いが強く、化学肥料や農薬が過剰になる傾向があります。そこで農家さんに肥料・農薬をまきすぎない方法を相談したり、あとはゆとりを持って収穫できるよう収穫期間に余裕を持たせたり…。

梅作りはチョーヤの大きな使命です。日本一の産地から仕入れ、本物の梅酒を造るその姿勢を「紀州」という商品に集約しています。 

梅酒の中で、チョーヤというブランドを愛してもらいたい

——金銅さんがこれから目指すチョーヤ梅酒の未来像を教えてください。

金銅 そうですね…。梅酒ではなくチョーヤを人気者にしたいです。

——梅酒ではなく、チョーヤを人気にする…。

金銅 わたしたちは本物の梅を使い、ライフスタイルの変化に沿って容器の形状を変え、梅酒を薬膳酒から食前酒など日常的に飲むお酒にすることで、梅酒全体を盛り上げました。

でも今、梅酒は非常に多様化しています。数百社が梅酒を販売していて、中には先ほどもお話した酸味料や香料といった添加物を使用した商品もたくさん出ているんです。その波にのまれ、以前梅酒業界の中で、チョーヤというブランドが埋もれました。お客様としては「梅酒があれば、どこのメーカーのものでも良い」という状況になってしまって…。

だからこれからは「チョーヤの梅酒を飲みたい」というお客様を増やしたいです。つまりリキュールの「カンパリ」のように。チョーヤというブランドを愛してもらいたいんです。

——梅酒というカテゴリではなく、チョーヤを梅酒の代表ブランドとして広げていくのですね。

金銅 そうですね。わたしたちは梅酒で世界進出をしたいんですよ。

日本で生まれたお酒の中で今も残っているのは清酒と梅酒。とりわけ梅酒は日本の伝統的なリキュールですから、世界で戦っていけると思っています。
その一つとして「The CHOYA」という熟成とブレンド技術を追究した本格熟成梅酒を2016年3月から発売しました。

——世界進出は、伝統と本物を大切にしているチョーヤさんだから描ける夢かもしれません。

金銅 どこまで叶うか分かりませんが、でも夢がないとつまらないでしょ(笑)夢を持って梅酒を造っていきたいです。