ロングセラーの秘訣は、本質的であること。口に合い、時代に合い、商品としてブレがない

書き手 兼田 美穂
写真 ふるやま げん
ロングセラーの秘訣は、本質的であること。口に合い、時代に合い、商品としてブレがない
誰もが目にしたことがあり、一度は使ったことがある商品。ロングセラーとは、そんな風に生活に溶け込み、日々何気なく触れている存在なのかもしれません。意識させないことは、変わらずずっと使い続けられることと同義であり、そこに長く愛される秘密があるようです。

「暮らしを支えるロングセラーブランド」では、暮らしに根付いたロングセラー商品にスポットをあて、長く愛されている理由を探ります。

今回は、キユーピー株式会社で「キユーピー マヨネーズ」の商品開発を手がける谷川和正さんにお話をお伺いし、ロングセラーの理由を探りました。


谷川和正さん
キユーピー株式会社 家庭用本部 調味料部 マヨネーズ・マヨ類チーム チームリーダー
1994年の入社以来、東京や新潟、大阪など、全国9拠点で、営業、商品開発、広告宣伝に携わってきたマヨネーズのスペシャリスト。現在はマヨネーズカテゴリーの商品開発や、プロモーション立案を手がけている。好きな食べ物は、マヨネーズをたっぷりつけたポテトサラダ。

マヨネーズは、日本人の健康のために生まれた

——マヨネーズの始まりについて教えてください。

マヨネーズは、1925年に日本で初めて製造販売されました。キユーピー株式会社の創始者である中島董一郎がアメリカに行った際に、現地でポテトサラダに出合って感銘を受け、日本で発売するタイミングを見計らっていました。

1923年の関東大震災の後、街の復興とともに西洋文化が急速に広がったことから「今だ!」と。1925年3月に、第1号となる瓶のキユーピーマヨネーズが発売されました。

当時の日本人は背が低く小さかったため、体格向上を願い、「栄養価の高いものを作りたい」という思いで、当時の輸入品と比べて約2倍の卵黄を使ったマヨネーズを発売しました。発売当初は誰もマヨネーズを見たことがなかったので、整髪料に間違えられたようです(苦笑)。

——その後、どのように普及したのでしょうか。

まずはマヨネーズの食べ方をお伝えしようと、カニやホタテの缶詰で試食販売をしました。また、商品の売り上げ以上の広告宣伝費をかけました。当時はまだ生野菜を食べる習慣がなく、魚介や肉料理に合わせるソースや、茹でアスパラにつけて食べる方法を提案したんです。

円卓にマヨネーズがある洋風な絵画の広告は、雑誌に掲載したもの。“ちゃぶ台”が主流だった時代の感覚からすると、ハイカラで独創的でした。

また、白黒の広告は新聞に掲載したもので、小さなスペースの広告を定期的に連載し続けました。この頃培われた“キユーピーらしいトーン”を、今の広告でも大事にしています。

——当時と今で、マヨネーズの味は変わりましたか。

マヨネーズの場合、原料の9割以上は油とお酢と卵なので、味は大きく変わりませんが、時代に合わせて少しずつ変えています。「良い食品は良い原料から」という創始者の考えを受け継ぎ、当社の基準を満たす、質の高い原料を使っています。

——ボトルの形状は変わっているのでしょうか。

このボトルもキユーピーらしさだと思っているので、1958年に瓶からボトルに変えて以来、ほとんど変わっていません。パッケージは、白ベタにしたり、網目やロゴの太さを変えたりするなど、時代に合わせた工夫をしています。

マヨネーズは、日本人の味覚に合う「万能調味料」

——「キユーピー マヨネーズ」は日本人の味覚に合うと思います。

日本の食事では、淡白なごはんに合う、味のはっきりした調味料が使われますよね。マヨネーズの卵黄は、日本の伝統的な発酵食品と同じようにたんぱく質が分解しアミノ酸に変化するのですが、実はそのコクが醤油や味噌と似ているんです。だから日本で広まったんじゃないかな。

「キユーピー マヨネーズ」は卵の卵黄をたっぷり使っているので、おいしさの軸になるコクが違います。お酢は、グループ会社でマヨネーズに合うものを作っているので、全体のバランスがいいのも特長です。

——おいしい食べ方を教えてください。

パンでしたら、パンにハチミツを塗って、マヨネーズを線描きして焼く「ハニーマヨトースト」がおすすめです。もとはお客様の声から生まれたのですが、これが非常においしくて。

卵黄タイプのマヨネーズは、トーストで加熱すると香ばしい風味が生まれて、卵感が増すんです。それに甘いハチミツが合わさると、甘塩っぱくてクセになる味わいです。「このメニューでマヨネーズを食べる機会が増えた」というお声も伺いますよ。

ほかにも、卵焼きやホットケーキに入れるとふっくらしますし、チャーハンの炒め油に使うと、お米にマヨネーズがコーティングされて、パラパラに仕上がります。ここ数年流行している鶏胸肉は、マヨネーズに漬け込んで焼くと、やわらかくジューシーになりますよ。

マヨネーズは、食材に合わせていろんな使い方ができる「万能調味料」なんです。

ロングセラー商品として、変えるべきものと残すべきもの

——ロングセラーならではの苦労はありますか。

この味を続けていく大変さはありますね。「変えてはいけないもの」と「変えていいもの」があるとしたら、“キユーピー マヨネーズの味”という、お客様からご支持いただいているものは変えてはいけません。

私たちにとって、一番おいしいマヨネーズであるこの味を守り続けています。一方で、お客様が求める価値が変われば、それに合った商品を提供したいと思っています。

——「求める価値に合った商品」とは、どういうことでしょうか。

たとえば当社では、1991年にカロリー半分の「キユーピーハーフ」を発売しました。その後、ノンコレステロールの「キユーピーゼロ」や、機能性表示食品の「キユーピー アマニ油マヨネーズ」、最近ではカロリー80%カットの「キユーピーライト」も誕生しました。

ラインナップ展開のきっかけとなった「キユーピーハーフ」の開発時には、「これまでのマヨネーズを否定するのか」と、社内で激しい議論になったと聞いています。ですが、「キユーピー マヨネーズ」という軸があるからこそ、種類や容量などの展開ができるんです。今では「軸を守りつつ、時代が求める価値に合致したものを出そう」という思いで、開発にあたっています。

——ロングセラーの秘訣は何でしょうか。

「実家でずっと使っていたから」というような、情緒的な要素はあると思います。それだけでなく、「おいしい」と思って使い続けていくには、何か理由があるはずです。それは、ずっと守ってきた絶妙なバランスと、コクのある卵黄タイプが日本人の好みに合うことかな。

——これから挑戦したいことはありますか。

マヨネーズをずっと磨き続けていくことですね。現在、9割以上の方が「キユーピーといえばマヨネーズ」と答えるほど、キユーピーにとってマヨネーズは大切なものです。マヨネーズの磨き上げが、キユーピーブランドの価値を高め、企業価値を高めることにつながるんです。

来年は「キユーピー100年」、その先には「マヨネーズ100年」が待っています。その時、皆さまに感謝を伝えられるように、創始者である中島董一郎の理念を頭に置き、磨き上げていきたいと思います。その時々の流行はあっても、「キユーピー マヨネーズ」のポリシーは、一貫して変わりません。ロングセラーというのは、本質的なものは変わらないと思っています。

編集後記
取材後、「創始者の思いを、社員みんなが大事にしている」とお聞きし、「ロングセラーであり続けるためには、理念を掲げ、思いを一つにすることが大事なのだ」と改めて感じました。変わらないものを提供するために、小さな磨き上げを続けていくこと。皆に愛されるロングセラー商品の裏には、見えない努力の積み重ねがありました。

【編集協力】そこそこ社