さぬきうどんのおいしさを伝え続けて40年以上。「冷凍うどん」のシェアNo.1メーカーが追求し続ける職人技とは

書き手 塚本佳子
写真 栃久保 誠
さぬきうどんのおいしさを伝え続けて40年以上。「冷凍うどん」のシェアNo.1メーカーが追求し続ける職人技とは
子どもの頃から当たり前のように家にあり、大人になってからも気づけばいつもストックしているーー。そんな親から子へと受け継がれていくロングセラー商品には、おいしさと一緒に作り手の熱い思いとたゆまぬ努力が詰まっています。

「暮らしを支えるロングセラーブランド」は、長く広く愛され続けている商品にスポットをあてた連載シリーズです。

今回はTableMark(テーブルマーク株式会社)の高橋 良輔さんに、来年発売45周年を迎える「冷凍うどん」についてお話を伺いました。|子どもの頃から当たり前のように家にあり、大人になってからも気づけばいつもストックしているーー。そんな親から子へと受け継がれていくロングセラー商品には、おいしさと一緒に作り手の熱い思いとたゆまぬ努力が詰まっています。

「暮らしを支えるロングセラーブランド」は、長く広く愛され続けている商品にスポットをあてた連載シリーズです。

今回はTableMark(テーブルマーク株式会社)の高橋良輔さんに、来年発売45周年を迎える「冷凍うどん」についてお話を伺いました。

高橋良輔さん
テーブルマーク株式会社 マーケティング&セールス戦略部 麺カテゴリマネージャー

テーブルマーク株式会社に入社後、商品企画、商品開発などを経て、現在はマーケティング&セールス戦略部の麺カテゴリマネージャーに。「さぬきうどん」を筆頭とする「冷凍うどん」商品の広告宣伝をはじめブランディングを担っている。|テーブルマーク株式会社に入社後、商品企画、商品開発などを経て、現在はマーケティング&セールス戦略部の麺カテゴリマネージャーに。「さぬきうどん」を筆頭とする「冷凍うどん」商品の広告宣伝をはじめブランディングを担っている。

さぬきうどんの命「コシの強さ」の再現に10

――「冷凍うどん」誕生のきっかけを教えてください。

テーブルマークの前進である加ト吉が設立されたのは香川県観音寺です。今でこそ「香川といえば、さぬきうどん」と広く知られるようになりましたが、当時は知名度が低くて。

「全国の人においしいさぬきうどんを知ってほしい」という想いから、「冷凍うどん」の開発が始まりました。すでに製造・販売していた冷凍食品の技術やノウハウを活かしつつ、現地のうどん屋さんを食べ歩いては試作を繰り返しました。

そうして1974年に販売を開始したものの、当初はまったく売れなかったそうです。

――売れなかった理由はどこにあったのでしょうか?

チルド麺や乾麺に比べ値段が高かったこともありますが、最大の理由は品質が安定しなかったことです。味や食感にムラがあり、何よりもさぬきうどんの特徴である「コシの強さ」を再現しきれませんでした。

途中、値段を下げたり、一旦販売を中止したり、対応策を取りながらも試行錯誤を繰り返した結果、麺に含まれる「空気の量」と「水分の量」に秘密があることに気づきました。

職人さんは生地をビニール袋に入れて足で踏むことで空気を抜いていますが、生地に空気が含まれると茹でムラができ、コシも出にくくなります。

また、ゆでたてのうどんは外側の水分量が約80%、内側の水分量が約50%と、内外で水分量に違いがあることがわかったのです。冷凍に時間がかかると水分が均一になってしまい、解凍したときにのびた麺になってしまいます。

そこで機械メーカーや製粉メーカーと共同開発したのが、空気を抜きながらミキシングできる「真空ミキサー」と、これまで1時間かかっていた凍結時間を30分に短縮できる急速凍結機でした。機械の改良を続けながら、安定した品質の「冷凍うどん」を量産できるようになるまで10年の歳月がかかりました。

対面コミュニケーションで、地道にさぬきうどんのおいしさを伝える

――10年ですか! それは長い道のりですね。その後、すぐに売れはじめたのですか?

いえ、まだ下積み時代は続きます。品質の向上は製造部門の問題ですが、今度は営業部門に課題が出てきました。食べてもらえば、ほかのうどんとの違いをわかってもらえる自信はありましたが、乾麺とチルド麺が一般的だった当時、「冷凍うどん」を知らないお客さまは大勢いました。また、全国展開するうえでさぬきうどん自体の知名度が低いというのもネックになりました。

――どういった方法でそこをクリアしたのですか?

お客さま一人ひとりに試食していただく、対面でのプロモーション活動です。営業担当がショーケース(小型冷凍庫)を抱えて全国のスーパーマーケットなどを回り、精力的にデモンストレーション販売を行ないました。

当時の営業担当に話を聞くと、試食されたお客さまのほとんどが「こんなおいしいうどんは食べたことがない!」とびっくりして購入してくださったそうです。絶対に売れるという自負はあったものの、実際にお客さまの反応を見ることで手応えを感じたといいます。

地道な活動だったので時間はかかりましたが、発売から15年かけてようやく認知度が上がっていきました。瀬戸大橋(1988年)の開通でさぬきうどんが香川の名物ということが全国的に広まったことも追い風となり、1990年頃から急速に売り上げが伸びていきました。

「レンチン」できる「冷凍うどん」の簡便性をもっと知ってほしい

――対面コミュニケーションを経て、現在はTVCMでのプロモーションが中心になっているのですか?

今年は松山ケンイチさんを起用してTVCMを打ちましたが、マスを基軸としたプロモーション展開は5年ぶりです。「冷凍うどん」のプロモーション活動の中心になっているのは、自社のウェブサイト内で運営しているコミュニティサイト「Udon WAVE」における消費者の方々との双方向コミュニケーションです。

パッケージにも書いてあるのですが、「冷凍うどん」はレンジ調理も可能です。でも、それを知らない方、もしくは茹でたほうがおいしいと思っていらっしゃる方が意外と多いんですよね。

今回、大々的にCMを打ったのは、「冷凍うどん」の簡便性を幅広く訴求したかったからです。簡単というだけでなく、実は鍋で調理したときと変わらないおいしさを味わうことがきます。

――レンジ調理でも同じ味が楽しめるとは驚きです。

ぜひ、食べ比べしてみてください。それともうひとつ、TVCMを打った理由があります。弊社は2010年に「加ト吉」から「テーブルマーク」へ社名を変更したのですが、「テーブルマークの冷凍うどん」をもっと認知していただきたいという狙いもありました。

今でも「加ト吉の冷凍うどん」にブランド力があることは認識していますが、我々の目指す方向は「テーブルマークの冷凍うどん」を訴求していくこと。すでに2030代の方々には「テーブルマーク」の認知度のほうが高くなっているという調査結果もありますが、年齢が上がるほど「加ト吉」の認知度が高いようです。

――「加ト吉の冷凍うどん」で育った親世代から、2030代の子世代へと受け継がれる過程で「テーブルマークの冷凍うどん」が浸透しているのでしょうね。

たしかに、2世代にわたって食べ続けてくださるケースは多いようです。パッケージにはロゴとして「カトキチ」の名称を残していますが、今後どのように活用していくのかについては慎重に考えないといけません。

こだわり続けているのは「職人技」の追求

――「冷凍うどん」がここまで愛され続けている最大の理由はどこにあると思いますか?

「職人技」の追求にこだわりつづているからだと思います。いかに職人さんの技術に近づけられるかを念頭に改良を繰り返してきたことで、全国のみなさんに本格的なさぬきうどんをおいしく召し上がっていただけているのかと。

――この秋に「さぬきうどん」がリニューアルされたそうですが、新たな職人技が加わったのですか?

はい。「包丁切り」と「大釜ゆで」です。職人さんが大きな包丁で11本カットする切り方を、機械で再現したのが「包丁切り」です。当社では「くびれ麺」という名称をつけましたが中央が少しくぼんだ形になり、よりつるっとしたのどごしになります。

「大釜ゆで」は名前のとおり、大きな釜で麺を泳がせるように茹でる製法です。機械の場合、1食分ずつざるに分けてから茹でるほうが分量を統一しやすいのですが、職人さんのように大釜で茹でることで、麺が釜の中で大きく泳ぎ、ねじれのないきれいな麺に仕上がります。

――職人技の追求はまだまだ続くのですね。最後に、高橋さんおすすめの「冷凍うどん」の食べ方を教えてください。

個人的には冷たくして食べるのが好きです。香川では「ぶっかけ」といって、冷たい麺に具材をのせてつゆをかけるという一般的な食べ方ですが、やはりシンプルにうどんのおいしさを味わっていただきたいですね。冷たいうどんの場合、氷水でしっかり冷やすのがポイント。電子レンジで解凍したら、水で粗熱をとり、さらに氷水で締めます。そうすることで、コシが増して弾力のあるうどんになります。

寒い季節には鍋もおすすめです。調理方法によって2種類の食感が楽しめます。凍ったまま鍋に入れると、モチモチした食感になると同時に鍋の出汁がしっかり染みたうどんが楽しめます。うどんのコシやうどんそのものを味わいたい方はレンジで解凍してから鍋に入れるといいと思います。そのときの気分や、お好みで、食感の違いを楽しんでみてください!