真面目や優等生のようで、実は意外にロック? 「ちふれ」ブランドが50年間守ってきた高品質・適正価格のプライド

書き手 阿部 花恵
写真 鈴木 静華
真面目や優等生のようで、実は意外にロック? 「ちふれ」ブランドが50年間守ってきた高品質・適正価格のプライド
子どもの頃からなんとなく存在を知っていて、大人になってふと気づいたら手に取っていたーー。時代を超えて愛されるロングセラーブランドの秘密を知ることは、「本当にいいもの」とは何かを考え直すことでもあります。

「暮らしを支えるロングセラーブランド」は、長く、広く、多くの人々に愛され続けている商品にスポットをあてた連載シリーズです。

今回は、2018年で誕生50周年という大きな節目を迎える化粧品ブランド「ちふれ」について、商品企画部の櫻井悠さん、広報部の本井沙織さんのお二方に、ロングセラーブランドとしての「ちふれ」の歴史とこれからについてお聞きしました。

(写真左)櫻井 悠さん
株式会社ちふれ化粧品 商品企画部 企画開発課 課長 
2002年、株式会社ちふれ化粧品(現・ちふれホールディングス株式会社)入社。商品企画部で新商品の開発・マーケティング全般に携わる。現在は「ちふれ」ブランド50周年の節目を記念した「50周年サンクスプロジェクト推進チーム」の一員として、限定商品や消費者参加型人気ランキング「ちふれ総選挙」などの企画も担当。昨年に出産、現在は育児のため時短勤務中。

(写真右)本井 沙織さん
ちふれホールディングス株式会社 広報部 部長
2017年、株式会社ちふれ化粧品(現・ちふれホールディングス株式会社)に入社。「ちふれ」ブランド以外にも、エイジングケアブランド「綾花」、百貨店専用ブランド「HIKARIMIRAI(ヒカリミライ)」などの広報を担当。

品質は高く、コストは適正な「化粧品」が誕生するまで

――「ちふれ」誕生の背景について教えてください。

本井 沙織さん(以下、本井)
当社の前身にあたるのは「アゼリア薬品工業株式会社」という1947年創業の会社です。戦後に三菱石油株式会社の一部門として、設立された化粧品の製造・販売会社です。

当初は数ある化粧品会社とあまり変わりなかったのですが、1959年に欧米視察に参加した創業者の島田松雄が、現地で1ドルで化粧品が売られていることに衝撃を受けたのが転機となりました。

日本でもワンコイン感覚、つまり100円で買える化粧品があればと考え、「日本の化粧品は高い。多くの方に手に取っていただきやすい価格で、いい化粧品をつくろう」という試行錯誤の末に開発したブランドなんです。

本井 
ところが、100円という価格のインパクトがあまりに強く、「その価格で本当に大丈夫?」と、当初はあまり売れなかったそうです。

最初の数年は苦戦を強いられましたが、あるとき雑誌『暮しの手帖』さんがいくつかのメーカーさんと当社の化粧品を比較して、「リーズナブルな価格にも関わらず、他社の化粧品と比べて何ら劣っていない」という結果を記事にしてくださったところ、そこから注目を浴びて「あの化粧品、いいらしいよ」という評判が徐々に広がっていきました。

――「ちふれ」というブランド名に変わったのはいつからでしょう。

本井
1960年代後半に、地域の婦人団体の連絡協議機関である全国地域婦人団体連絡協議会、通称「全地婦連(ぜんちふれん)」に属する東京支部(東京地婦連)の方から「そちらの化粧品について詳しい話を聞きたい」と打診されたのがきっかけです。

協議を重ね、東京地婦連への販売が決まり、その後、全地婦連向けにも、という話になり、創業者の島田松雄が全地婦連初代会長、山高しげりさんにお会いすることになりました。山高しげりさんは参議院議員でもあり、街頭で演説をする中、日焼けやシワにお悩みだったようで「化粧品会社である御社とパートナーを組めば、それが解消できますね」と島田に話したそうです。

それに対し、島田は「そのようなことを期待されるのであれば、提供はできません。化粧品は色を白くしたり、シワをのばしたりする役目のものではありません」と答えたんですね。

――化粧品会社のトップとしては率直すぎる回答ですね。

本井
はい。ですが、その正直さが信頼に足り得ると思っていただけたようで、正式に提携させていただくことが決まり、「地婦連」のお名前にちなんで「ちふれ」というブランド名になりました。

その後、全国区でさらに評判が広がり、百貨店やスーパーでもお取り扱いいただけるようになって現在に至ります。

プチプラ市場が拡大、だからこそ「雰囲気では売らない」

――商品企画部の櫻井さんとしては、ここ数年の化粧品市場の動きはどのように捉えていますか。

櫻井 悠さん(以下、櫻井)
高級品とプチプラの二極化が進んだ結果、プチプラコスメに新規参入する企業がとても増えましたね。リアル店舗ではなく、ネット通販での購入者数も急増しています。背景にはやはり、ウェブメディア、SNSの影響力も大きいですね。

――変化のスピードが速い時代ですが、「ちふれ」ブランドは半世紀にも渡って支持され続けています。どんな理由があると思われますか。

櫻井
お客さまに「ちふれ」ブランドの印象についてのアンケート調査をすると、「真面目そう」「地味だけど誠実」といったお声をよくいただくんです。

無香料・無着色へのこだわりや、全成分の分量や配合目的を公開していること、過度な宣伝費をかけないなど、企業として地道な努力の姿勢がブランドから醸し出されているのかもしれません。


ちふれの化粧水は、定番の「さっぱり」「しっとり」「とてもしっとり」をはじめ、肌の悩みに応じた全8タイプをそろえている

櫻井
ただ、だからこそ「雰囲気だけではだめ」だとも思っています。肌に必要な成分を必要なだけ配合すること。社内基準を定め、安全性の実績が確認されたものを使用すること。この2つの考えを基本とし、しっかり効果が確認できたものを販売する。これが当社のスタンスです。

たとえば、「化粧水 しっとりタイプ」というロングセラー商品がありますが、保湿はスキンケアの基本であり、最もベーシックなところ。ですから、いたずらに他社との競争を目的として成分を配合するようなことはしない、幅広いお客さまが使えるようにシンプルな処方にこだわる、など、常に戻ってこられるゼロ地点、として考える。そういった姿勢を心がけています。

中身もデザインも、生活にすっとなじむシンプルさを

――シンプルで安全。そんな中身を反映するように、容器のデザインも落ち着いています。

櫻井
売り場ではもちろん目立ったほうがいいと思うのですが、普段の暮らしの中では化粧品が主役とはいえません。基本は生活にすっと溶け込むような佇まいにデザインしています。

本井
容器はそのままで、中身だけを詰め替える「詰替用」の化粧品を国内で先駆けて1974年に販売したのが当社です。今では当たり前の存在になり、珍しいものではありませんが、長年愛用してくださるお客さまが本当にたくさんいらっしゃるので、実は先進的かつ消費者の方に支持していただける試みを行ってきた企業といえるのではないかと感じています。


11月から発売される50周年記念ボトルと詰め替え用化粧水のセット

――老舗ブランドだからこそのコミュニケーション戦略についても教えてください。

櫻井
2003年から、企業と商品を認知してもらうためにテレビCMを出稿しはじめました。CMを出稿することは当社にとっては本当に大きな決断でしたし、社内でも慎重に議論を重ねたそうです。

本井
CMを打たなかった理由として、「価格に反映させたくない」という背景もあったんです。宣伝費を価格に上乗せさせるようなことはしたくなかったんですね。

本井
一方で、「こんなにいいものをつくっているのに、大勢の人に知ってもらえていないのはどうなんだろう?」という意見もあったそうです。私たちとしては一度使っていただければ、その良さはきっとわかっていただけるだろう、という想いがあり、ただ単に宣伝をして売り上げようということではなく、その想いを伝えるためのメッセージやビジュアルの議論に時間を費やしたと聞いています。

結果としてCM効果で、売り上げも徐々に上がり、そのことが証明されました。ちなみに、CMをはじめとする広告出稿費は昔も今も販売価格には一切反映させていません。あくまで適正に得た利潤の中から捻出しています。

――近年はSNSを使った宣伝やキャンペーンなどにも力を入れていますね。

本井
おかげさまでインスタグラムのフォロワーは開設してから1年で2万人を突破しました。インスタをはじめとしたSNSを通じて、こんなにもいろんな楽しみ方があったんだな、と私たちがお客さまから学ばせていただいています。

櫻井
昔からずっとあった色がインスタで突然話題になって爆発的に売れたりすると、「新色じゃないのに、今これがくるんだ!?」と社内のみんなで驚いています(笑)。

――今後の「ちふれ」が目指すところを教えてください。

本井
お肌のお手入れって、日々繰り返す当たり前のことですよね。でもだからこそ、肩の力を抜いて、安心して使っていただけるものを届けたい。「ちふれ」がこれからも皆さんにとってそういう存在になることができれば嬉しく思います。

櫻井
おとなしめなブランドと思われがちですが、「100円化粧品」「詰替用」のように、初めての試みに挑戦してきた、実はロックな気持ちを隠し持っている企業でもあるんです。50年という大きな節目を迎えることができたからこそ、今後はそんなロックな要素もさらに付加できたらいいですね。