ブランド誕生から27年。漬物離れが進む逆境の中でも、時代にしっかりマッチした「浅漬け」の形を提案していきたい

書き手 阿部 花恵
写真 鈴木 静華
ブランド誕生から27年。漬物離れが進む逆境の中でも、時代にしっかりマッチした「浅漬け」の形を提案していきたい
変化のスピードが速い今の時代、淘汰されずに「残り続けてきた」優れた商品には秘密があります。時代を超えて愛されるロングセラーブランドの秘密を知ることは、「本当にいいもの」とは何かを考え直すことでもあります。

「暮らしを支えるロングセラーブランド」は、長く、広く、多くの人々に愛され続けている商品にスポットをあてた連載シリーズです。

今回は、「きざんで、つけて、もむだけで!」のキャッチコピーでおなじみの「浅漬けの素」について、エバラ食品工業株式会社の松岡祐那さんにお話を伺いました。

松岡祐那さん
エバラ食品工業株式会社 マーケティング部 家庭用マーケティング課
営業職を経て2015年よりマーケティング部に異動。「浅漬けの素」を中心に野菜まわり調味料のブランドの戦略・構築を担当。好きな「浅漬けの素」レシピはシャーベット感覚で食べられる「冷凍トマトのまるごと漬け」。

漬物づくりにかかる手間と時間を大幅カット

――「浅漬けの素」はいつ誕生したのでしょうか。

全国販売が始まったのは1991年からです。もともとお漬物文化が盛んな東北エリアで営業をしていた社員が、地元の小売店で見つけた漬物用調味料の情報をヒントに開発されました。

お漬物を作るのって本来は時間と手間がかかりますよね。でも「浅漬けの素」を使えば、野菜を刻んで、漬けて、揉むだけで、おいしい浅漬けがたった30分で食べられる。当時としては画期的な商品でしたし、本格的な味わいと手軽さが全国のお客さまに支持されて、今日に至るロングセラー商品となりました。

――「♪朝だ、あーさーだーよ、浅漬けの素」「きざんで、つけて、もむだけで! すぐ食べられる」のCMソングもキャッチーでした。

商品のラベルにも載せてある「きざんで、つけて、もむだけで!」のコピーは発売当時から27年間、ずっと変わっていないんですよ。

一方で、2000年を過ぎたあたりから、お漬物という食べ物自体が“高齢化”してきたという問題が浮かび上がってきました。それまでは“本格的な味わいの浅漬けを手軽に”という形で「浅漬けの素」を訴求してきたのですが、そもそも普段の食事で漬物を食べない若い世代が増えてきました。

販売戦略の転換となったのは、会社が実施している食育教室です。普段野菜を食べない子どもでも、自分で作った浅漬けの野菜は食べてくれた!と喜ぶ親御さんの声をヒントに、子どもたちに野菜をおやつ感覚で味わってもらおうと「きゅうりバー」を提案しました。

長めに切ったきゅうりを「浅漬けの素」に漬けて棒にさすだけの簡単なレシピなのですが、30、40代の子育て世代の方々がすごく反応してくださったことで、ユーザーの若返りにもつながりました。

食卓のグローバル化を受けて新フレーバーも登場

――野菜の味をストレートに感じられるのは「浅漬け」ならではの強みですね。最近では「浅漬けの素」自体の味のバリエーションも多様化していますが、人気の傾向は?

一番売れているのは定番の「レギュラー」ですね。「浅漬けの素」の売上げの半分以上を占めています。次が「昆布だし」で、この上位2種は幅広い世代から支持されています。醤油の味わいを前面に出した「鰹だし」は昔ながらのお漬物がお好きな方に好まれる傾向がありますね。

若年層に人気なのが、昨年登場した「さわやか甘酢」。フルーティーなりんご酢をベースにしたさわやかな味わいで、カレーやハンバーグのような洋食の付け合わせにも相性がいいフレーバーです。やわらかな酸味なのでお子さまにも食べやすく、ラペの味付けや合わせ酢の代わりとしても使っていただけますよ。

――認知度が高い商品である一方で、「知ってるけど、使ったことはない」若い世代も少なくない印象です。初めて手に取る消費者は、どんなところを入り口にすればよいでしょう?

野菜を刻んで、漬けて、揉む。基本の手順はこの3ステップだけなので、すごくシンプルです。基本的にはあらゆる野菜に合わせられますが、とくに相性がいい「おすすめ食材」は商品裏面でご紹介していますのでぜひ参考にしていただければ。

たとえば、みょうがなら「鰹だし」、ニンジンやキャベツは「昆布だし」、玉ねぎなら「さわやか甘酢」などがおすすめです。今の時期なら大根、カブ、白菜など旬の野菜を漬けて楽しんでもらいたいです。もちろん裏面で紹介している野菜以外でも、きちんとおいしく仕上がりますよ。

生ではそんなにたくさん食べられない野菜も、「浅漬けの素」で漬けることで手軽にグッと食べやすくなります。ご家庭によっては、お酢やごま油、オリーブオイルなどをお好みで足したり、漬けるときに唐辛子を一緒に入れたりと、皆さんさまざまなアレンジをしてくださっているそうです

――公式サイトでは「浅漬けの素」を使ったレシピも豊富に掲載されていますね。

「浅漬けの素」は、当たり前ですが本来はお漬物をつくるための調味料です。でも食卓の洋食化やお客さまニーズの多様化が進んでいく中で、今後はメニュー提案も多様化していかなければならないだろう、ということは意識していますね。

いわゆる定番のお漬物だけではなく、お子さまが食べやすいようにカラフルな野菜をピックでさしたり、華やかに見える野菜の切り方を提案したりと、当社のメニュー開発担当者にはさまざまな工夫をお願いしています。

 若年層と高齢層、それぞれに合ったアプローチを

――2018年には使い切りタイプ(50g×3袋)の「浅漬けの素」も登場しました。ターゲット層と狙いは?

お子さまが独立されて夫婦ふたり暮らしとなった50~60代のユーザーさんです。世帯人数が減ったご家庭では、500mlのボトルタイプだと多すぎるそうなんです。

さらに健康志向の高まりから「塩分が気になる」という声も非常に多くいただきまして、それらのご意見を受けて誕生したのが小袋タイプの「あわせだし」「こうじ漬け」です。

どちらも使い切りタイプで、「レギュラー」と比べて塩分を25%カットしていますが、出汁のうまみを効かせることで満足感のある味わいに仕上げています。ボトルタイプの「浅漬けの素」に慣れ親しんでくださっている方にも物足りなさを感じないよう、味わいも工夫しています。

「古臭い」と思い込まれている浅漬けを、時代にマッチさせていきたい

――平成という時代をほぼ丸ごとサバイブしてきた「浅漬けの素」ですが、この先、ブランドとしてどのようなチャレンジを考えていますか。

若年層に向けたデジタルの施策を今後はさらに強化していくつもりです。やはりテレビCMだけで広く大勢に訴求する、というアプローチだけでは届かない層がすでにありますから。

一方で、これまで「浅漬けの素」を支えてくださった50~60代、それより上の世代のお客さまとのコミュニケーションも継続してしっかりと取っていくつもりです。店頭における野菜との関連販売や試食販売を今後も強化して、接触率を上げていきたいと考えています。

――「浅漬けの素」という商品の核自体はそのままに、コミュニケーションを多様化していくということでしょうか?

今の時代、野菜を摂取する方法って本当にたくさんありますよね。野菜ジュースとかスムージーとか。そんな中でも「浅漬け」は日本人にすごくなじみのある食べ方だと思うんです。

「古臭い」という思い込みを持たれている方もいるかもしれませんが、「和食」が見直されている今だからこそ、時代にしっかりとマッチした浅漬けの形を、今後もさまざまなコミュニケーションを通じてどんどんご提案していくつもりです。