東京に住む人が東京でAirbnbを使う理由は? Airbnbが生み出した「旅」と「暮らし」の新しい関係性

書き手 阿部 花恵
写真 鈴木 静華
東京に住む人が東京でAirbnbを使う理由は? Airbnbが生み出した「旅」と「暮らし」の新しい関係性
世の中に数多くあるヒットブランド。開発の背景はさまざまですが、その裏には共通して「ずっとこういうものが欲しかった」というお客さまの声が潜んでいます。長く求められていたのに、今までになかったもの。それが、ヒットブランドのキーワードだといえそうです。

「暮らしを支えるヒットブランド」では、そんな商品やサービスにスポットをあて、ヒットの理由を紐解いていきます。

今回、お話をお聞きしたのは、Airbnb Japan株式会社の長田英知さん。新しい旅のかたちを提案した「Airbnb(エアビーアンドビー)」の今までとこれからについて、お話をお聞きしました。


長田英知さん
Airbnb Japan株式会社 執行役員
IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社、日本ヒューレット・パッカード株式会社、PwCアドバイザリー合同会社を経て、2016年にAirbnb Japan株式会社に入社。ホームシェアリング事業統括本部長を経て、2017年より現職に。日本市場における企業とのパートナーシップ事業、ホームシェアリング事業全般の統括を担当する。

旧来の「旅」を変えた、シェアリングエコノミーの先駆けとして

――改めて、「Airbnb(エアビーアンドビー)」とはどんなサービスなのでしょうか。

2008年にサンフランシスコで創設された旅のプラットフォームです。ちょうど今年で10年目を迎え、現在は191カ国8万1000都市、500万物件の宿泊物件を掲載しています。

――ホテルと違うのはどんなところでしょう?

ゲスト(宿泊客)がホストと一緒に楽しむホームステイ型のものから、別荘や一軒家、古民家、ツリーハウスなど、多種多様な物件に泊まることができるのがAirbnbの特色ですね。

Airbnbの日本支社では2016年からは「体験」サービスも開始していまして、日本国内で1000件ほどの「体験」を提供しています。伝統工芸体験や、そば職人にそば打ちを教わる会、日本酒の利酒師がお薦めのお酒を紹介する会など、さまざまな体験イベントがあります。

――ボートに乗って海の旅を楽しんだり、大自然の中でグランピングをしたりと、「ホテルや旅館に泊まり、観光名所を巡る」という旅の概念とはまったく違うスタイルですね。

Airbnbは「コミュニティ」という考え方を非常に大事にしています。家を貸し出す側であるホストと、利用する側であるゲスト間の交流が、まず基本にあるんですね。

皆が行く観光名所に行って、皆と同じ名物料理を食べる……というよりは、もっと地域に根ざしたような旅の形をおすすめしていきたい。地元の人しか知らないようなおいしい定食屋さん、地域に詳しいホストさんだからこそ知っている絶景スポット、そうしたものにアクセスできる旅を目指しています。

安心・安全を担保するための4つの仕組み

――「知らない人の家に泊まるなんて抵抗がある」という声もあるのではないでしょうか。ユーザーの安心・安全をどのように担保されていますか?

確かに、「見知らぬ人の家に泊まりに行く」という行為だけを見ると、かなりハードルの高いものだと感じられるかもしれません。その不安を払拭するために、システム面ではおもに4つの仕組みで安心・安全を担保しています。

1つめはID認証。Airbnbを利用されるユーザーの方は、ゲストもホストもパスポートや運転免許証のような公的書類を必ず登録していただいています。個人を認証することでなりすましを予防します。

2つめはリクエスト予約の仕組み。ゲストの方の予約のリクエストを受けた後、ホストの方がその予約を受け入れるか入れないかを決められる仕組みを取っています。おうちを貸し出される方には「こういった楽しみ方をしてほしい」「私達はこういったおもてなしができる」という希望もありますから、お互いのフィーリングも含めて予約リクエストを受け入れられる仕組みをつくっています。


Airbnbの利用方法や交流をホストとゲストの両視点から解説したイラストは、ピクサーのアニメーターが描いたオリジナルイラスト。

3つめはお金のやり取りがすべてオンライン決済であること。現地でお金のやり取りをする必要がなくなることでトラブルが防げると同時に、万が一予約をドタキャンされた場合でも、ホスト側はちゃんとお金を受け取れるよう保障される仕組みができています。

そして4つめはサイト上の相互レビューという仕組みです。一般的な旅行予約サイトだと、宿泊客が旅館に泊まった場合、「食事がおいしかったです」と評価をすることはあっても、旅館側が宿泊客を評価することはありませんよね? ですが、Airbnbの場合はお互いが個人と個人でやり取りをしている形ですから、相互に評価したレビューが公開されます。

――宿泊が完了した後に、ゲストがホストを評価すると同時に、ホストもゲストを評価するということでしょうか?

そうです。たとえば私がAirbnbを使ってどこかのおうちに泊まったときには、ちゃんと写真通りの部屋なのか、清潔なのか、ということを評価してレビューします。と同時に、宿泊させる側のホストも、ゲストが深夜にうるさくしなかったか、部屋を散らかしていないか、きちんとコミュニケーションが取れたか、などの点を評価してレビューする。

お互いがお互いを評価することによって、相手に対して紳士的な行動をとれる仕組みをつくっています。レビューの評価が低い方は、家を借りられなくなるというペナルティもあります。

ほかにも、24時間相談できるコールセンター、万が一問題が起きたり家具が壊れたりした場合などは、日本ホスト保険(※)によって1億円までの対人・対物補償を受けられる制度を整えています。

※日本ホスト保険の適用条件の詳細は下記をご覧ください。
https://www.airbnb.jp/guarantee

――信頼・信用が成り立つプラットフォームを築き上げるために、さまざまな仕組みが導入されているのですね。わずか10年間で191カ国まで広がるというのは驚異的なスピードです。

基本は口コミでの広がりなんです。一方で、ここまで広がったのはシステム自体が信頼され、機能しているということの裏返しでもあるといえるかもしれません。

Airbnbの中心となっているユーザー層は、やはり20、30代の若い世代の方々です。既存の旅のスタイルでは飽き足らなくなっていた若い世代が、新しい旅、新しい体験をしたいという気持ちとマッチしたという背景も大きいと思っています。

また、40、50代の子育て世代のホストさんもたくさんいます。海外には頻繁に行けないけれども、「日本にいながらにして、子どもにさまざまな文化・価値観を触れさせたい」という教育的視点から、海外の若い方たちを受け入れて交流するというホストファミリーもよく聞きます。

 

東京に住む人が、東京でAirbnbを使う

――「ホテル代わりに使う」だけでなく、多様な使い方とメリットがあるんですね。

「旅先で利用する」イメージが先行しているかもしれませんが、最近だと東京の方が東京でAirbnbを使われるケースも多いんですよ。

たとえば、ママ友の集まりや女子会などで、「うちのマンションだとちょっと狭いな」というときは、近くのAirbnb物件を借りて集まる。そうすると準備の負担もぐっと減りますし、お互い気兼ねなく過ごせますよね。そんな風にいろんな使い方のバリエーションを示していければ、と思っています。

――最後に、日本版Airbnbとして今後目指すところについて教えてください。

Airbnb自体はグローバルなサービスに成長しましたが、これからは日本ならではのローカライゼーションがさらに必要になってくるかもしれません。

認知度が上がってきているので、さらに多くの方々に安心して利用していただける仕組みを強化していければ、と考えています。