大きなドラムには理由がある。総合電機メーカーの強みを全力投入した日立の洗濯乾燥機「ビッグドラム」シリーズ開発秘話

書き手 阿部 花恵
写真 鈴木 静華
大きなドラムには理由がある。総合電機メーカーの強みを全力投入した日立の洗濯乾燥機「ビッグドラム」シリーズ開発秘話
変化のスピードが速い今の時代、淘汰されずに「残り続けてきた」優れた商品には秘密があります。時代を超えて愛されるロングセラーブランドの秘密を知ることは、「本当にいいもの」とは何かを考え直すことでもあります。

「暮らしを支えるロングセラーブランド」は、長く、広く、多くの人々に愛され続けている商品にスポットをあてた連載シリーズです。

今回は、ドラム式洗濯乾燥機のロングセラーブランドとしての地位を確立した「ビッグドラム」を手がけてきた日立アプライアンスの森川祐介さん、津坂明宏さんのお二人にお話を伺いました。

(写真左)森川 祐介さん
日立アプライアンス株式会社 事業戦略統括本部 商品戦略本部 商品計画部長
1999年から洗濯機の商品企画を担当。2010年からは宣伝部長として洗濯機の宣伝も担当し、「嵐」を起用したCMでブランド向上を図った。現在は、横断的な商品計画立案を務める。

(写真右)津坂 明宏さん
日立アプライアンス株式会社 家電・環境機器事業統括本部 事業企画本部ユーティリティ事業企画部 部長

1992年、入社。洗濯機や家電を中心とした商品の事業戦略を長年に渡って担当。現在は洗濯機、掃除機、空気清浄機の事業戦略を企画するユーテリティ事業企画部の部長を務める。

「洗浄力の日立」だからこそ、一番大きいドラムを

――日立初のドラム式洗濯乾燥機「ビッグドラム」の誕生は2006年。開発にいたるまでの背景を教えてください。

森川 祐介さん(以下、森川)
当社はそれまで「洗浄力だったら日立」といわれるほど洗浄力に自信がありましたし、縦型洗濯機ではトップを走っていました。ですから、縦型へのこだわりが強くありました。

2002年頃にドラム式洗濯機が日本でも出始めた頃も、ヨーロッパ生まれのドラム式はドラムの中で衣類を叩きつける構造なので、振動が床に伝わりやすいから日本の住環境には合わない、と当初は思っていたんです。

そうはいっても、時流もありまして「ドラム式も必要だ」という声が社内外から徐々に聞こえてきた。それを受けて2004年から開発をスタートし、初代「ビッグドラム」が誕生しました。

津坂 明宏さん(以下、津坂)
開発の際、弊社はドラム式の市場では後発組でしたから、普通のドラムを出しても売れないだろうという点は意識していました。やはり日立ならではのオリジナリティがなければ。「洗浄力の日立」として長年培ってきた技術をなんとかドラムに移植しようと試みたのが初代「ビッグドラム」です。

――それが、「ビッグドラム」という名前にも表れているのでしょうか?

森川
ドラム式はドラムを回転させてたたき洗いをするので、ドラムの径(けい)が大きくなればなるほど、汚れ落ちがよくなります。

そのため、当初から「業界で一番大きいドラムを作るんだ」という思いで開発していたので、正式名称を決める前の段階から社内では「ビッグドラム」と呼んでいたんですよ。製品特長がわかりやすいネーミングだということで、そのまま商品名になりました(笑)。

ただ、この名前にしてよかったのは「なんでこんなに大きいの?」とお客さまから聞かれたときに、製品の特長を説明しやすいんですね。「ドラムが大きいと叩く力が強くなる、そうすると洗浄力も強くなります。かつ、ドラムが大きいと中で衣類が広がりやすいから、シワにもなりづらいんですよ」と伝えると、「なるほど」と皆さんすぐ理解してくださるので。

総合電機メーカーだからこそ開発できた「風アイロン」

――「シワ」問題は洗濯乾燥機を選ぶ際のとても大事なポイントですよね。

森川
強い風をブワーッと衣類にあてればシワは伸びるんです。実験でそれは証明されたものの、実際に洗濯機の内部に入れるファンモーターを開発するのが大変でしたね。ちょっと実際に風を体験してみてください。

――うわ! すごい強風! この風の力でシワが伸びるんですね。

森川
時速約300kmの高速風です。ただ、強風のモーターほど音も大きい。洗濯機内部に入るサイズと静音化の両立が難しくて苦労しました。

そんなとき、当社の同じ工場では掃除機も作っているのですが、「掃除機用に開発したモーターなら、いけるんじゃないか?」という話になり、その技術が見事にはまった。もちろんその後、専用設計にはしているのですが、掃除機の技術を投入したことで「風アイロン」の機能が開発できました。

津坂
技術を相互に連携できるのが、総合電機メーカーの強みですね。日立グループには自動車部品をつくる会社があるのですが、そこと洗濯機チームが共同開発したサスペンションもビッグドラムに使っているんですよ。洗濯機だけじゃない、掃除機と自動車の技術も入っている洗濯乾燥機が「ビッグドラム」なんです。

「風アイロン」に20秒ほどあてたハンカチ。丸で囲んだ部分を比べると、シワが取れているのが一目でわかる

森川
「風アイロン」の機能をPRするためのカタログを作るとき、実は社内では喧々諤々だったんですよ。メーカーとして、カタログにはきれいな写真を載せたくなります。綿系ではなく化繊の衣類だけで比較すれば、シワは少なくなる。でも私たちは「この衣類の量で、この素材なら、これくらいシワが残ります」ということも、正直に写真で比較していただくことを選びました。

津坂
衣類量が増えるほどにシワも残るけれども、ここまできれいにもなりますよ、という事実をありのままお伝えしたかった。結果として、そのおかげでブランドとしての信頼が得られたとも思っています。

AI洗濯にスマホ操作、「新しい未来」を見せる最新モデル

――「風アイロン」以降もさまざまな機能がアップデートされていますが、2018年11月に発売するモデルのひとつは、インターネットとつながる「コネクテッド家電」ですね。

森川
はい。最新モデルには2つの新開発の技術を搭載しています。ひとつは洗剤の種類や布質、汚れの量、水の硬度、布動きなど、9つのセンシングで賢くきれいに洗う「AIお洗濯」です。「水温が高くて化繊が多いので水量を抑えて運転時間を短くする」「汚れの量が多いので時間を延長してきれいに洗う」など、洗濯機がすべて自動で判断してくれるようになりました。

「AI」を押してから「スタート」を押せば、洗濯機が状況を判断して自動で適したモードを選んでくれる

津坂
もうひとつはスマートフォンと連携して洗濯をサポートする「ビッグドラムアプリ」です。アプリに表示される「コンシェルジュ機能」を使えば、おすすめのコースを提案してくれます。

たとえば、生活シーンの中から「スポーツ」を選べば、洗い時間が最長25分ですすぎもためすすぎで3回の「泥汚れ」コースが提案されます。そのままアプリで「洗濯スタート」を選べば、離れた場所からでも自動で洗濯が始められます。

森川
帰宅時間に合わせてスマホ操作で洗濯を始めたり、乾燥が終わったらプッシュ通知でお知らせしてくれたりする設定もあります。キッチンにいながら「あと10分で乾燥が終わるな」とわかりながら行動できたら、便利ですよね。

――今後は、ブランドとしてどんなチャレンジや提案をしていくのでしょうか?

津坂
コネクテッド家電は確かにトレンドですが、最初から「コネクテッド家電の洗濯機がいい」というお客さまはさほど多くありません。ただ、共働き家庭のように「時間をお金で買う」ことを選ぶお客さまは確実に増えてきています。

森川
洗濯に限らず家事の時間は減らして、そのぶんを遊びや学び、子どもとの時間に使いたいと思っている人は多いはず。

ですから、この商品を使うことでこんな幸せ、ハピネスが生活にもたらされますよということや、「新しい価値」をお客さまに伝えていくことができれば。今年2月から当社が展開している「ハロー!ハピネス」キャンペーンにもそんな思いを込めています。

津坂
「暮らしの中の課題をイノベーションで解決する」。歴代の開発チームが築き上げてきた「ビッグドラム」のブランドを守りつつ、便利な機能を更新することで、これからも一人ひとりに寄り添い、暮らしをデザインしていくお手伝いができればと思っています。