思い出と一緒に体と心が満たされるドリンク—— 変わらずに在り続けることがポカリスエットの最大の価値

挑み続け楽しかった青春時代を思い出す味、母のやさしさを思い出す味、そして、自然と子どもにも伝えている味——。
書き手 塚本佳子
写真 佐々木孝憲
思い出と一緒に体と心が満たされるドリンク—— 変わらずに在り続けることがポカリスエットの最大の価値
ロングセラー商品は、思い出とともに、今に存在し続けます。 「暮らしを支えるロングセラーブランド」は、長く広く愛され続けている商品にスポットをあてた連載シリーズ。

今回は大塚製薬株式会社の浅見慎一さんに、発売当初から同じ成分、同じ味を保ち続けている「ポカリスエット」についてお伺いしました。

浅見慎一さん
大塚製薬株式会社 ニュートラシューティカルズ事業部 
製品部 ポカリスエット
プロダクトマーケティングマネージャー

大塚製薬株式会社に入社後、営業、本社営業企画、製品部SOYSHアシスタントなどを経て、現在はニュートラシューティカルズ事業部 製品部 ポカリスエット プロダクトマーケティングマネージャー。ポカリスエットの担当になって8年目、商品の良さや必要性をより深く知っていただくための活動に尽力している。

新たなカテゴリー「汗のドリンク」の誕生

——ポカリスエットが誕生した経緯を教えてください。

1970年代初頭、当時の製品開発部門の責任者がメキシコに出張に行き、お腹をこわして現地の医療機関にかかったことがそもそものきっかけです。脱水症状を起こしている責任者に「水分をたくさんとりなさい」といって医師が渡したのは炭酸飲料。その時、栄養があって吸収のいいドリンクがあればと思ったそうです。

また、もともと当社は点滴液で高く評価を得ている会社なので、長時間にわたりオペをする医師が手術中や終了後に、点滴液を口から補給している姿を目にしていました。

これらの体験から、日常生活の中でスムーズに水分補給ができる健康飲料があったら、という発想のもとポカリスエットの開発はスタートしました。

——市場には存在しなかったカテゴリーということで、開発も大変だったのでは?

「飲む点滴」というアイデアに、「日常生活の中で失われる水分と電解質(イオン)を手軽に補給できるドリンク(汗の飲料)」というコンセプトが加わり、まずは人間の汗を採取して成分を分析することから始まりました。

しかし、汗の成分をそのまま再現しても苦くておいしくありません。「飲みやすいし飲み続けられる。さらには記憶に残ってまた飲みたくなる味」を生み出すために、味の改良だけでも2年、起案からは6年以上の歳月を費やしました。

そうして試行錯誤を繰り返した結果、体液に近い成分配合を生み出すことに成功しました。水分補給というと、単に水分を口から摂取すればいいという認識が大半だと思いますが、実は水分が小腸から吸収され血液に浸透してはじめて汗をかける状態になるのです。汗をかいて失われた水分とイオン(電解質)をスムーズに補給できる飲料であるという製薬会社だからこそ、科学的に説得力のある商品を作ることができました。

売上本数<配布本数。4人に1人に無料配布することで非常識を常識に変えた

——開発のみならず、市場の確立にも大変なご苦労があったそうですね。

はい。基本的な成分や味は当初から現在に至るまで変わっていません。発売当時は糖質量の多いドリンクが主流でした。ポカリスエットの糖質濃度は一般的なドリンクの半分。「こんな薄いものが飲めるか」とか「これでお金をとるの?」など、散々な感想をいただきました。

ただ、汗をかくシーンで飲んでいただければポカリスエットのおいしさを実感していただける自信はありました。銭湯やサウナ、スポーツジムなど、ありとあらゆる場所に行き、汗をかいた後に実際に飲んでいただくというプロモーション活動を全国各地で行いました。

初年度は売れた本数より、無料で配った本数のほうが多かったほどです。数字でいうと3000万本。日本の人口が約1億2000万人ですから4人に1人が飲んだ計算になります。

——とてつもない数字ですね。

世の中にないものを浸透させるということは、非常識を常識に変えていくことです。現在ではこまめに水分補給をすることの重要性を多くの人が認識していますが、当時は学校の部活動で水を飲むなと教えられていた時代です。それを覆す活動は大変だったと聞いています。

時代が変わってもフェイスtoフェイスのコミュニケーションが大切

——具体的にはどのような活動をされていたのですか。

全国の学校に出向き、なぜ水分補給が大切かを手作りの紙芝居を使ってわかりやすく解説したうえで、ポカリスエットを配るという啓発活動を地道に行っていました。私も学生時代、大塚製薬社員による説明を聞き入社しましたが、こういった当社の活動に影響を受けて入社した社員も少なくありません。

——現在はどのようなコミュニケーションを行っているのでしょうか?

SNSを含め、時代にあったコミュニケーション展開もしていますが、フェイスtoフェイスのコミュニケーションは現在も変わらず続けています。学校や企業に赴き、水分補給の大切さを伝えています。

効率性や合理性も大切ですが、フェイスtoフェイスのコミュニケーションはユーザーとより深い関係が構築できます。お互いに見えるからこそ、記憶に残る体験ができるし、ブランディングにもつながっていると感じています。

思い出の中にも、リアルタイムの暮らしの中にも、存在するドリンク

——マスを意識されたTVCMにも印象に残るものが多いですよね。

発売当初はポカリスエットとはどういうもので、どういう時に飲むべきものかを語っていただくという手法で商品の特徴を伝えるCMのつくりでした。

その後、みずみずしく汗をかく人たち、生命力あふれる若者に飲んでもらいたいとの思いから、体だけでなく心の乾きにもフォーカスするようになりました。

——恋や友情など、人が成長していくうえで起こる、葛藤による心の乾きにも必要なドリンクだと。

はい。その流れを汲んでいるのが、学生たちが大勢で踊っている「ポカリガチダンス」です。とはいえ、このCMは若者だけに向けたものではありません。部活動に一生懸命取り組んだ日々や友人関係でナーバスになったことなど、「そんな時代もあったな」と懐かしい思い出と一緒にポカリスエットの味を思い出すという、大人の方々からの感想を多くいただいています。

——吉田羊さんと鈴木梨央ちゃんの親子CMにはどのような思いが込められているのでしょうか。

発売から40年近くが経過し我々が実感しているのは、ポカリスエットというブランドは生活者のみなさんのものになっているということです。

幼い頃に汗をかいた後、また、お母さんが体調を気づかい渡してくれたドリンク=ポカリスエットというイメージを、お母さんのやさしさとともに記憶している人が大勢います。そして自分が親になり同じことをしてくれている。

親子のコミュニケーションの中にもポカリスエットは存在するんですよね。吉田羊さんと鈴木梨央ちゃんのCMは、みなさんのポカリスエットに対するイメージや思いを表現したものです。

今の時代だからこそ「変わらずにいること」を大事にしたい

——そんな流れの中で、イオンウォーターという新たなブランド商品も誕生しました。

イオンウォーターは日常の渇きを潤す、甘さ控えめで、スッキリした後味の製品です。子どもの頃に比べても、大人は純粋に体を動かして汗をかくことが少なくなっています。

その反面、大人だからこその汗事情もあります。たとえば「冷や汗」とか「あぶら汗」とか(笑)。そんな日常シーンでも飲みやすく、体から自然と出ていってしまった水分が補給できるイオンウォーターは、日々さまざまなことと戦い、がんばっている大人のみなさんの体と心を潤し、サポートするドリンクです。

——イオンウォーター独自の取り組みはありますか?

がっつり運動することは難しいけれど、みなさん汗をかきたいし、汗をかくことの重要性も認識しています。そこで、「ととのう」をテーマに「サウナ×イオンウォーター」で心身をリフレッシュさせようという「大人の汗」に寄りそう取り組みにも力を入れています。

——最後に、今後ブランドとして挑戦していきたいことはありますか?

世の中、ものすごいスピードで変化しています。そのスピードについていくことに必死になり、自分らしさを失ったり疲れてしまったりする人が増えています。そんな時代だからこそ、「変わらないでいることの価値」を保ち続けることに重要性を感じています。

色褪せない形で鮮度を保つ探究心を持ちながらも、これからもポカリスエットの良さ、必要性、変わらず在り続けることの大切さを伝え続けていきたいですね。