ブランドマーケター座談会「マス発想にとらわれないコミュニケーション戦略とは?」

書き手 阿部 花恵
ブランドマーケター座談会「マス発想にとらわれないコミュニケーション戦略とは?」

企業のマーケティング担当者さま向けに、マーケティングやブランドについての考え方を議論するクラシコムサロン。

第19回目は、「カルピス」「象印マホービン」「オルビス」の各マーケティング担当者さま3名をお招きし、「マス発想にとらわれないコミュニケーション戦略とは?」についての試行錯誤を共有・ディスカッションしました。

多くの人に認知されているマスブランドでありながら、多様化する生活者の価値観にどのように寄り添い、具体的にどのような施策を展開しているのでしょうか。

「マス発想にとらわれないコミュニケーション施策の背景にあるブランド課題とは」
「顧客に「寄り添う」ためにブランドとして大切にしていること」
「ブランドとメディアが築くパートナーシップのあり方について」

これら3つのテーマにまつわる事例をもとに、3ブランドが実践しているコミュニケーション戦略について語り合いました。モデレーターは、クラシコムのブランドソリューショングループマネージャー 高山です。

登壇者

(写真左から)
アサヒ飲料株式会社 マーケティング本部 マーケティング二部
乳性グループ 課長補佐 藤木 菜津子

象印マホービン株式会社 マーケティング部
今水 陽一

オルビス株式会社 メディア戦略部 部長(2022年4月現在)
山口 直

株式会社クラシコム 取締役 事業開発部 部長
ブランドソリューショングループ マネージャー 高山達哉

カルピス®︎、象印、オルビスが行った、マス発想にとられないコミュニケーション施策

高山 
今回は、皆さまがこれまで実践してきた「マス発想にとらわれないコミュニケーション戦略」の事例についてご紹介いただければと思います。では、藤木さんからお願いできますか。

藤木
私は営業・商品開発・販売戦略と部署を変えながらも、入社以来ずっと「カルピス」一筋で担当してきました。今回は「放課後カルピス®」の事例をご紹介したいと思います。

大人世代の多くはカルピス®︎と聞くと希釈タイプを思い浮かべるかもしれませんが、20代より下の世代では「カルピスウォーター」のイメージのほうが実は強いんですね。その「カルピスウォーター」が2021年に発売30周年を迎えた背景もあり、昨年は高校生向けに「放課後カルピス®」というコミュニケーション施策を展開しました。

藤木
その中でもメインといえるのが、登場人物全員が片思いという設定の10分ドラマ『すべての恋は片思いからはじまるっぽい』全13話を製作してYou Tubeで放映した ことです。このドラマは企画段階から高校生に関わってもらい、10代のリアルな共感を反映させて作り込んだコンテンツなんですね。それをTik tokやInstagram、Twitterと連携・拡散させたり、人気イラストレーターの夏季限定のパッケージデザインを販売したりなど、徹底して高校生にターゲットを絞った企画を打ち出したのが「放課後カルピス®」です。

この層の国内人口は約300万人くらいですから、それほどの規模感はないんですよ。そういう意味で広さの点では悩ましいのですが、You Tubeのコメント欄などを見ると「わかる!」といった書き込みが多くて、すごく盛り上がってくださったんですね。広さはなくとも、特定の層に深く刺さるコミュニケーションにはなったのかな、と嬉しく思っています。

高山
全13話ってすごい労力ですよね。僕が知っているドラマの文脈とは全然違っていて、これが今の世代のリアルなのかなと楽しく視聴しました。では、今水さんお願いします。

今水
私からは象印の「STAN.」シリーズをご紹介したいと思います。象印は2018年に創業100周年を迎えたのですが、その翌年に、次の100年を見据えてデビューしたのがこの「STAN.」シリーズです。

製品ラインアップは炊飯ジャー、ホットプレート、コーヒーメーカー、電気ポット、それから2021年10月に自動調理なべが登場予定です。(現在、好評発売中)ターゲットは共働きの子育て世帯、いわゆるミレニアル世代に振り切っています。

今水
「日常生活発想」という象印のコーポレートスローガンをしっかりベースに置きながらも、デザイン性をしっかり重視している点が特徴なのですが、そうするとどうしても「デザイン性だけが独り歩きしてしまうんですよね。デザイン性はもちろんアピールしたい点なのですが、きちんと使いやすく機能性がある本質的な価値が伝わるような施策に注力しています。

例えば、インテリア実例共有サイト「RoomClip」さんとの施策、それから「北欧、暮らしの道具店」さんともBRAND NOTEでご一緒させてもらいました。そのときは平均PV値と比べると、ありえないほど高い数字が出て驚いた記憶があります。

高山
はい、PV数もそうですが、記事を読んだ方のブランドサイトへの遷移率が当時の過去最高を記録されて非常に反響がありました。

今水
ブランドとしての顔つき、体温が伝わるコミュニケーションが今は必要な段階かなと感じていまして、最近はブランドサイトも大幅にリニューアルしました。そうした取り組みの積み重ねのおかげもあってか、最近はInstagramで「炊飯器」と検索すると「STAN.」タグが多く出てくるくらいに投稿を獲得できております。

今水
「STAN.」シリーズに関しては、ユーザーさんとの双方向のコミュニケーションが非常に大事だと思っています。私たちもユーザーさんのことを深く知らないといけないし、ユーザーさんにも「STAN.」のことを知ってほしい。最大公約数に広く届けるよりも、リーチが狭まっても密度が濃いコミュニケーション施策を行っていけたらと思っています。

高山
では、山口さんはいかがでしょうか。

山口
我々はエイジングケアのためのスキンケアシリーズとして「オルビスユー」「オルビスユードット」の2ブランドを展開しているのですが、従来のコミュニケーションの構成比としてはダイレクトレスポンス広告がやはり大きいんですね。

ただ、それだけでは私たちが提唱する「スマートエイジング」、年齢を重ねることを肯定的に捉えて自分らしく生きていこうというメッセージがなかなか届きづらい。そこで、30歳から49歳の女性20名に一人ひとりに質問を投げかけて答えていただくプロモーション動画「ORBIS presentsわたしの肌事情」を昨年公開したところ、非常に大きな反響がありました。年齢が異なるお一人ずつの悩みに共感していただくことで、ブランドのメッセージを表現できたと思っています。

高山
1歳違いの女性たちが次々に登場していくんですよね。テンポよく切り替わっていくので面白かったです。

山口
この企画は視聴完了率も高く、数字的にも大きな手応えがありました。広告と判断されると離脱されるケースが多い中で、共感をもって最後まで見ていただけたのかなと嬉しく思います。

マス広告だけで物が動く時代は終わった

高山
皆さまの事例を踏まえて、早速1つ目のテーマについてお話しできればと思います。「マス発想にとらわれないコミュニケーション施策の背景にあるブランドの課題とは?」これについてはどうお考えでしょう。

藤木
「多様化」がひとつのキーワードかなと思っています。「20代女性」「30代男性」のような性別・年代別のカテゴライズにあまり意味がなくなってきている。飲料は化粧品や家電と比べると単価は非常に安いですが、そのぶん競合他社も多い。そうした状況下では何かしら共感性がないと手に取っていただけない時代になっています。

「放課後カルピス®」のターゲット層だった高校生も分母としては小さいですが、コミュニケーション自体はすごくいい方法だったと思っているんですね。若い世代が手に取ってくれて、SNSで話題になれば、さらに上の世代もついてくる。そういう層の共感をどう取っていくかは、ブランドとしての課題のひとつだと思っています。

山口
わかります。化粧品も商材としてはすでにコモディティ化していますから。僕たちも商品のクオリティには自信を持っていますが、お客さまから見ると違いはわかりづらいですよね。

我々に関していえば、マスブランドのように大々的にCMを打つコストをかけることはやはり難しい。では、どうしたら世界観に共感していただけるか、ブランドの価値を体現できるか、という点を深く考えながらコミュニケーションを取らないといけないと思っています。

今水
お二方の話に頷く部分が多くありますね。象印は企業の歴史が長い分、上の世代の方々の多くは炊飯器や水筒のイメージをすでにお持ちなんですね。それがブランドへの信頼感・安心感にも繋がっているのですが、一方で20~30代は象印というブランドを知らない方、「昔、実家にあったポットの会社だな」くらいで止まっている方も少なくありません。

そうした現状を考えると、若年層へのコミュニケーション施策、ファン作りは今後も力を入れてやっていかないといけないなという課題を持っています。

高山
お三方が今抱いている課題は、社内の理解も得られていますか?

藤木
いや、難しいですね。「頭じゃわかっているけど、それって利益に繋がるの?」っていう反応が社内ではまだ主流な気がします。でも価値観をブラッシュアップして既存のイメージを打破していかないと、時代に取り残されてしまう。理想と現実の両輪をどう回していくかが、ブランドの土台であるマーケティング部の私の仕事かなと思っています。消費者の共感を得るのも大事ですが、それと同じくらいに社内の共感を得ることもハードルです。

今水
テレビCMのようなマス広告って、明らかに目に見えるのでわかりやすいんですよ。でもCMだけバーンと打っても今の時代、物は動かない。付加する形でデジタル施策で情報量を増やすなどして複合的に捉えていかないと、メディアのパワーは最大化できません。そこを実行していくためにはマーケティング担当者が自分なりの筋道、ロジックを立て、会社を説得していくことも必要ですよね。

山口
お客さま側の広告を見る目も高まっている印象がありますね。だからこそ、ブランド側は常に一定数を伝え続けていかなければならない。ブランドは積層するものですから。その伝え方のバリエーションをどれだけ見せていけるか。「この方法なら価値が伝わるはずだ」と理解して発信を続けていくことが大切だなと実感しています。

顧客に寄り添うためにブランドがしていること

高山
では、2つ目のテーマ「顧客に寄り添うためにブランドがしていること」に移りましょう。皆さん、それぞれの方法でお客さまに寄り添うことをとても大切にされている印象を受けましたが、あらためて「寄り添う」とはどう定義されていますか。

今水
とことん生活者の身になり、同じで気持ちで考えることに尽きるかなと思っています。象印が掲げる「日常生活発想」のコーポレートスローガン通り、どのブランドも日々、生活者のことを第一に考えて開発しています。もちろん他社さんもそこは同じだと思いますが、象印だからこそのかゆいところに手が届く独自の機能を持った製品が多いのかなと感じています。

そうした製品を通じて、潜在的に不満・不安を抱えている人たちの解消に繋がるコミュニケーションをどれだけシンプルに、丁寧にできるかな、という点かなとは思っています。

高山
生活者視点を持ち続ける。それもまた「わかってはいるけど難しい」視点のひとつですよね。具体的に意識されていることはありますか。

今水
開発メンバーは日常生活発想でもの作りをしていく発想がすでにミッションとして根付いていますね。それを今度は僕たちマーケティングのセクションが、コミュニケーションとしてどうストーリー立てて、生活者の方に浸透させていくか。そこが難しいところではありますけれども、しっかりストーリー立ててお伝えしていくことができれば、必ず伝わる商品だと自負しています。

例えば、2020年に新発売となったシームレスせん水筒は、パッキンが蓋に一体化されているんですね。パッキンのつけ外しが面倒だという水筒の不満を解消した製品なのですが、これをどうデビューさせるかと考えて、製品発売前の段階でSNSのユーザーの方々とコミュニケーションを取るチャレンジをしました。

今水
Twitterで1日2~3件を目安に、水筒のパッキンに関する不満をツイートしている方に、「突然厚かましいご連絡ですが、少しでも水筒の不満や手間を解消したくこんな製品を考えました」とこちらから話しかけてみたんですね。結果、本当にありがたいことにポジティブな反応をたくさんいただきました。

そういう草の根的なコミュニケーションを毎日継続させていく中で、「このUSPなら戦える」と勝算が見えてきたんですね。そうした流れを踏まえてテレビCMを打つ流れになり、そこから口コミでヒットした、という経緯がありました。これもマス主導とは違う、SNS主導で口コミを作っていけたいい事例といえるかもしれません。

高山
企業側からすると炎上リスクが気になるかもしれませんが、悩んでるお客さまに役立つ情報を、丁寧に寄り添った形で伝えるというスタンスであれば、やっぱり嬉しいですよね。

藤木
生活者の声に耳を傾けることは大切ですよね。当社では「100年のワクワクと笑顔を。」というスローガンを今掲げているのですが、ワクワク、つまり少しの目新しさをどう提供できるかを考えながらも、ブランドとして守るべきところはしっかり押さえていかなければならない。守りと攻めのバランスを一生懸命考えていく。それがお客さまに寄り添うことにも繋がっていくのかなと感じています。

山口
我々に関しては、化粧品を使う時間って人生の中で見るとそんなに多くはないと思っています。だからこそ、使う前後の時間まで含めて大事だなと思っているんですね。

例えば昨年、メンズブランドの「Mr. produced by ORBIS」で「いまこそキミに、僕のプロポーズを」という男性がプロポーズするまでの1カ月間に密着した企画を行ったのですが、そこで自分磨きのひとつとして「Mr.」のスキンケアとメイクを使ってもらったんですね。使う時間自体は短くとも、大事な時間のためにスキンケアをする。そういう前後の文脈を踏まえて、寄り添う、プロデュースしていくことが大事なポイントだなとそこであらためて実感できました。

高山
この企画、視聴完了率が10分で20%と、ブランドコミュニケーションの動画としてはかなり高い数値を叩き出していますね。

山口
これは僕らも本当にびっくりしましたね。

ブランドとメディアが良いパートナーになるために

高山
では最後のテーマ「ブランドとメディアが築くパートナーシップのあり方」についてお話しいただけたらと思います。

ブランドが生活者にどう寄り添い、どうアプローチしていくかという方法を考えたときに、やはり従来の広告的手法だけでは十分ではないケースが増えています。ブランド担当者の立場から、メディアと今後どのように関係性を築いていくのかお聞かせください。

今水
藤木さん、山口さんの事例をお聞きしていて感じたのですが、共感を生み出すためにリアリティをどう表現していくか、という点にすごくこだわってらっしゃいますよね。それを実現してくれるのがメディアさんのパワーだと私は思っています。ですから、ブランド側としてはメディアさんを信頼して、そのメディアが持つ色を濁さずに活かしていく。自分たちと同じ温度感で製品やサービスに向き合ってもらう。そういうパートナーシップを作り上げていくことが大切かなと思います。

藤木
同感です。喉の乾きを潤すためだったら正直、何でもいいんですよ。でも私たちは「カルピス」を手に取ってもらいたい。その理由を突き詰めていくと、やっぱりカルピス®︎から広がる時間や何かがあるはずだと思っているからなんです。

たんなる情報伝達ではなく、そこの部分を膨らませてくれるリアルなコンテンツを提供できるかどうか。私たちとお客様をどう繋ぎ合わせてくれるか。そこはメディアさんの力が大きく影響してくるので、一緒に考えていきたいですね。

山口
広告を広告として捉えられてしまった段階で、僕たちが伝えたいことが伝わらない。そういう難しさはずっと感じていました。だからこそ、「気付いたら見ていた」「気付いたらそこにあった」ようなことを普段から体現されてるメディアさんであるかを見極めることが、ブランド側としては大事な気がします。それこそ「北欧、暮らしの道具店」さんのように。

高山
ありがとうございます。共感を伴ったリアリティ、顧客との共創。そうした部分が「マス発想にとらわれないコミュニケーション戦略」の鍵を握っていると感じました。今回の座談会がマーケティング施策のヒントにしていただければ嬉しく思います。あらためまして、皆さまありがとうございました。