初手はニッチでも構わない。「ブランドのコモディティ化」について考えてみる

書き手 阿部 花恵
初手はニッチでも構わない。「ブランドのコモディティ化」について考えてみる

株式会社クラシコムが企業のマーケティング担当者様向けに、マーケティングやブランドについての考え方を議論するクラシコムサロン。ラジオ感覚でのおしゃべりという気軽な形式で招待制で開催された今回のテーマは、「ブランドのコモディティ化を考えてみる」です。

ブランドがコモディティ化することの意義。独自性を出すにはどうすればいいのか? ニッチにならない差別化の手法はあるのか。

ブランドのコモディティ化にまつわる悩みについて、クラシコム ブランドソリューショングループマネージャーの高山と、代表の青木が話し合いました。

写真左から)クラシコム青木、クラシコム高山

山のてっぺんは意外と賑わっている

高山 
今回のテーマは「ブランドのコモディティ化を考えてみる」です。僕はブランドソリューショングループとして、普段からさまざまな企業のマーケティング担当者さん、ブランドマネージャーさんなどとお話しする機会が多いのですが、「ブランドのコモディティ化」に対して課題を持たれていない方はもう誰一人いない実感があるんですね。皆さんがそれぞれに試行錯誤されている。

そんなことを社内で雑談していたら、「でも、コモディティ化って別に悪いことじゃないよね」という言葉が青木さんから出てきたんです。僕にとってはそれがすごく新鮮な視点でした。

そこで、今回は「脱コモディティ化?」「独自性を出すには?」「独自性を認識するには?」「ニッチにならない差別化」「模倣のリスク」という5つのテーマから深堀りしていけたらと思います。

では最初は「脱コモディティ化?」について。企業の担当者さんは一般にコモディティ化から脱するために、多種多様なマーケティング戦略を打ち出しています。青木さんはそもそもコモディティ化をどう捉えていますか。

青木
うーん、まず「脱コモディティ化」の必要性を感じる段階にあるってすごいことだよね。コモディティって日常のどこにでもあるし、皆が知っているということだから。すべてのサービスや商品は、コモディティまで行くことを目指している。だからゼロから起業しました、みたいな僕らのような企業にとっては、まずそこまで行くことが難しい。

高山
確かにそれはありますね。

青木
正直に言うと「北欧、暮らしの道具店」は、「脱コモディティ化」以前の段階。今の僕らはまだ「目指せ、コモディティ!」の段階といえると思うんだよね。

高山
そもそも認知されていなかったら、コモディティにはなりませんからね。

青木
だから「脱コモディティ化」をいえる時点で、ものすごく大きなアドバンテージを持っている方たちなんじゃないかな、と僕は思っています。

前提として、すべてのマス向け商品やサービスは、まずコモディティ化を目標にするよね。登山に例えると、その時点では山のてっぺんに自分たちだけがいるイメージ。でも登ってみたら意外とてっぺんは広くて、他にもいっぱい人がいる。富士山の山頂をイメージするとわかりやすいかな(笑)。

高山
てっぺんも意外と人でにぎわっているという。

青木
そう。じゃあこの次はどうする?って話が脱コモディティ化の感覚なのかなと思う。実際のビジネスって段階が上がるほどに、膨大なデカいものを抱えて登らなきゃいけないわけだから。上に行ったら総取りだと信じて固定費を膨らませながらあがってきたのに、実はそこにはいっぱい人がいた、という状況はシビアだし切実だよね。

高山
山頂は人でいっぱいだから、じゃあ下ろうか、とは簡単にできないから。

青木
「それならもう一段上に行こうか」「この混み合っている中でも自分たちのシェア増やしていこう」となるよね。

すでにあるものから掘り出していく

高山
では具体的にどうすればコモディティ化する状況を生き抜いていけるのでしょう。

青木
企業としては、コモディティ化した商品・サービスってすごくありがたい存在だよね。ある程度のシェアを確保・維持できているから、収益も上がっている。そういう状況であればコモディティであっても十分に価値がある。

でもずっと変化せずにいると、いずれはジリ貧な状況に追い込まれていく。てっぺんにいる1軍から落とされないためには、ユーザーにとって「よく考えてみたらこれって欠かせないよね」と思われるようなかけがえのない存在にならなきゃいけない。

そのためには、ただ認知されているだけじゃなくて、商品やサービスとのあいだにエピソード、物語が生まれるような仕組みづくりが重要なんじゃないかな。

高山
プロダクト自体の機能を変えていくだけでなくて、プロダクトと生活者との関係性についても考えていく、ということですか?

青木
そうそう。個人的なエピソードと関係付けができたり、数年に1度は思い出してもらったりするきっかけを演出したりとか、そういう仕組みがあると強い。それも一種の「独自性の出し方」だから。新たに関係性を作るというよりは、すでにあるものから掘り出してもらう方法を探していく。

長く使っていれば、そのブランドと生活者のあいだには小さくても何かしらのエピソードが絶対にあるはず。普段は忘れているその物語を、上手く思い出させてあげるとか。。機能や価格、プロモーションの量以外でも、勝負できる部分はある。

「北欧、暮らしの道具店」もまさにそうで。。僕らは世界一すごいプロダクトをつくっているわけでも、価格が最安値というわけでもない。でもお客さんは商品の裏側にある僕らの動機や価値観、クリエイティブが合わさった世界観をきっと好きになってくれたから、サービスとして利用してくださっていると僕は思ってるので。

ブランド化には時間がかかる

高山
確かに、ブランドの世界観やマインドをお客さんに伝える機会をつくることは有効だと思います。ただ、その伝え方も難しいですよね。やり方を間違えると一方通行になりかねない。

青木
そこは本当に難しいところで。ただ、「コモディティ化」の対義語がもしあるとしたら、僕は「ブランド化」だと思うんだ。正確じゃないかもしれないけど、あくまで遠くにあるイメージとして。

ブランドって一発では絶対にできないんですよ。彗星のように現れて大ヒットしたからといって、すぐブランドになれるわけではない。むしろ「あの頃流行ってたけど消えたよね」というネガティブな印象で終わってしまうものもある。

ブランディングって、「こういう風に思われたい」という目標に向かって、ひとつずつファクトやエピソードを積み上げていくことだからやっぱり時間がかかる。その過程で「ブランドとして本当はこう思われたいけど、実際はお客さまにこう思われている」という差分も生じてくるから、いろんなメディアやチャンネルを使ってそこも埋めていかなきゃならない。

コツコツと、適切に伝えていく。その繰り返しだよね。完全に極秘のままだと、エピソード効果も一向に生まれないし……って、地道な話で申し訳ないけど(笑)。

高山
「北欧、暮らしの道具店」の例で言うならば、『青葉家のテーブル』の映画化だったり、オリジナルコスメの開発だったり、そういうエピソードを1個ずつ積み上げていく、ということかもしれません。

青木
まさにそう。実は今、『青葉家のテーブル』から生まれた某プロジェクトが進行中なんですが、それは多分1円も儲からない。それどころか持ち出しになりそう(笑)。

でも、「北欧、暮らしの道具店」がどういう風になりたいかというイメージ、自分たちの世界観を表現する一手段にはなれる気がするんだよね。そこから新しい事業が発展する可能性だって大いにあるかもしれない。そんな風にエピソードをためていくことは大切だなと思っていて。

理想をしっかり掲げて、地道に継続していく。さらに言うと、そこに一貫性がないとコモディティを抜けてブランド化することは難しい。軸がないと砂漠に水を撒くみたいに、バラバラに散らばって終わりになりかねないから。

高山
なるほど。一貫した世界観でずっと取り組んでいく。それは理想的ですが、現実はなかなか難しいかもしれませんね。社員自身が先に飽きてしまうケースもありそうです。

青木
それはあるよね。でも、だからこそそれを乗り越えることが、ブランドの大きなアドバンテージにもなるはず。素晴らしい機能の商品を開発したり、コストを下げたりするのと同じくらい、「ブランドの一貫性を守る」ことの必要性も今後ますます議論されていくと思うよ。

初手がニッチでもどうにでも展開できる

高山
とはいえ、ブランドが掲げる世界観って、得てして他社と被りやすかったりするじゃないですか? 独自性を打ち出したつもりでも、他社と似通ってしまうこともあるわけで。そういったブランドの本当の意味での独自性の打ち出し方については、どう捉えていますか。

青木
僕としては、もちろん違うものとして認識されたいという思いはある。でも、他社と似てるかどうかなんて、お客さまから見たら多分どうでもいいことなんじゃないかな。

それよりは「僕らはどんな風にお客さまを幸せにしたのか」と心から思えることのほうがずっと重要なわけで。自分たちの強みを出して一番にやれることを考えて出た答えが、結果的に他社と似てしまう部分があっても、別にいい。初手が似ていても、3年後にはまったく違う風に見えてくるはずだから。

高山
その思考は、今回のサブテーマの1つ「ニッチにならない差別化」ともつながりそうですね。他社とは違う道を模索してニッチな方向性に突き進む道もありますが、それについてはどう思いますか。

青木
僕はニッチにならないことや模倣のリスクはそこまで意識しなくていいと思う。初手がニッチであっても、その後にどうにでもできることなので。それにニッチに1回なったからといって、マスになれないわけじゃない。むしろ、入り口としてニッチから始めないで成功するほうが難しい。

「ニッチを恐れない」という姿勢は結構大事だと僕は思っている。今の時代、意外とニッチっぽいことが突然バーン!って跳ねたりするでしょ? 例えば、Zoomなんて3年くらい前はわりとニッチなツールとして認識されていたよね。こんなにもマスなツールになるなんて当時は想像できなかった。

僕らだってもとはヴィンテージの北欧食器専門店とか、要するにセカンドハンズの店みたいな立ち位置からスタートしてきたし、最近だとサントリーさんの「BOSS」が紅茶を展開し始めたよね。あんな風にブランドが成熟して支持を獲得できていれば、そこからいくらでも広げていけるはず。僕はこれを「一点突破全面展開」と呼んでいるんだけど。

高山
でも自分たちの強みを認識するのって、意外と難しい気がしますね 。

青木
「独自性を認識する」ことは本当に難しいよね。自分たちだけではなかなか見つからない。外から見てもらうとかいろんな方法があると思うけど、僕は「自分たちだけの独自性は絶対にある」と強く信じて、まずはそこを前提にして探していくのがいい気がしている。

「あるかな、ないかな」ではなく、「絶対にある」を起点にする。そこから考えていけば、必ずそのブランドだけの独自性が見つかるはずだから。