新カテゴリー「微アルコール」の価値をどうすれば伝えられる?「アサヒ ビアリー」のマーケティング戦略

書き手 阿部 花恵
写真 佐々木孝憲
新カテゴリー「微アルコール」の価値をどうすれば伝えられる?「アサヒ ビアリー」のマーケティング戦略

世の中に数多くあるヒットブランド。開発の背景はさまざまですが、その裏には共通して「ずっとこういうものが欲しかった」というお客さまの声が潜んでいます。長く求められていたのに、今までになかったもの。それが、ヒットブランドのキーワードといえそうです。

「暮らしを支えるヒットブランド」では、そんな商品やサービスにスポットをあて、クラシコム ブランドソリューショングループのプランナーがヒットの理由を紐解いていきます。

今回、注目したのは「アサヒ ビアリー」。アルコール分が0.5%の微アルコールビールテイスト飲料という新カテゴリーを国内で切り開いたパイオニアです。おうち時間の増加や健康意識の高まりを受けて、酒類メーカーの大手としてアサヒビールはどのような戦略を練ってきたのでしょうか。マーケティング本部の萩野智也さん、鬼頭宏幸さんに、クラシコムのプランナー中村がお話をお聞きしました。

(写真右)
アサヒビール株式会社
マーケティング本部
新価値創造推進部 担当副部長
萩野智也
2007年入社。ノンアルコール、微アルコールカテゴリーの統括。

(写真左)
アサヒビール株式会社
マーケティング本部
新価値創造推進部 課長補佐 ブランドマネージャー
鬼頭宏幸
2010年入社。アサヒ ビアリーのブランド担当。

「微アルコール」という新カテゴリー

中村
アルコール分0.5%の「アサヒ ビアリー」はどのような背景から誕生したのでしょう。

鬼頭宏幸さん(以下、鬼頭)
本格的な商品開発がスタートしたのは2019年です。世界規模で健康志向が高まっていく中で、ノンアルコール、ローアルコール商品の飲用者も増加しており、この流れは日本にも必ず来るだろうと見込んでいました。

あえてお酒を飲まない選択をする「ソバーキュリアス」も最近のトレンドワードとして耳にするようになりましたよね。WHO(世界保健機関)も不適切な飲酒をなくす取り組みを強化しています。

そうした潮流の中で、酒類メーカーができる社会貢献の形は何か。そう考えて弊社は「スマートドリンキング」という考え方に行き着きました。

「アサヒ ビアリー」はその流れから生まれた第一弾商品です。麦芽、ホップなどの厳選した原料で作ったビールから、アルコール分のみを取り除く脱アルコール製法で作っているため、アルコール分0.5%でありながら、麦のうまみとコク、ビールらしい本格的な味わいが特長です。

中村
スマートドリンキングとは?

萩野智也さん(以下、萩野)
お酒を飲む人も飲まない人も、その日の体調や気分、シーンに合わせて適切なお酒やノンアルコールドリンクをスマートに自由に選択できる社会の実現を目指して、弊社が提唱する考え方です。つまり、飲み方の多様性を受容できる社会を作っていくことです。

普段は飲める人であっても、あえて飲まないときや飲めないシチュエーションってありますよね。

中村
ビール、発泡酒、ノンアルコールビールテイストなどがすでにある中で、微アルコール=「微アル」というこれまでにないカテゴリーの商品を打ち出す上でのポイントは?

鬼頭
脱アルコール製法を行うためには、蒸溜設備を新設する必要がありました。大規模な設備投資を伴う開発だったため、社内での調整は大変でした。

萩野
我々の酒類業界は少子高齢化と総人口減少を受けて、アルコールだけでやっていくというよりは、新たな利益を創出する事業が必要であると考えておりました。その中で弊社の調査では、若年層において「アルコールの低いお酒でちょっと気持ちよくなりたいときはある」という声も多く見受けられました。このあたりの層に需要はありそうだという見込みがあったことがひとつ。

さらに、コロナ禍においては生活環境がガラッと変わりましたよね。このタイミングで新しい飲み方を提案することが新たな需要を喚起するだろう、と考えたことも「アサヒ ビアリー」発売に繋がりました。

微アルコールであれば飲用シーンの幅が広がる

中村
具体的にはどのようなマーケティング施策を行ったのでしょうか。

鬼頭
昨年3月に首都圏・関信越で先行発売、6月から全国発売させていただきましたが、早い段階でファンになっていただいたいわゆるアーリーアダプターの方々の共通点は、「お酒のリテラシーが高い」ことだと感じています。

シーンや気分に合わせて、ワインにしたりウイスキーにしたりと、アルコールを上手に飲み分けている。そういう方々がいち早く「0.5%って?」「こういう飲み方もあるんだ」と興味を持って手に取ってくださったようです。

マスに向けたコミュニケーションとしては、本田翼さんとハマ・オカモトさんをテレビCMに起用しました。タレント性を前面に押し出すのではなく、あくまで生活者の一人として登場してもらうことで、「ゲーム+微アル」「アイデア出し+微アル」のようにいろいろなシーンで楽しめることを訴求しています。ちょっとお酒が入ってリラックスできると、いいアイデアが出ることもありますから。

萩野
営業担当者から聞いた話ですが、スーパーマーケットの流通の担当者にプレゼンする際も、「試飲しながらやると盛り上がった気分になれるんですよ」と言ってましたね。

アルコール分0.5%ってほどよくリラックスしながら読書や映画鑑賞、片付け、ブレストをしながらでも飲める度数なんです。その価値をお伝えするために、ブックカフェなどさまざまな施設でのサンプリング活動にも力を入れました。

全国発売が始まった6月からは、飲食店に「5%」「0.5%」「0.00%」とアルコール度数で選べるメニューを展開し、気分や体調に応じて選択いただけるご提案をいたしました。

鬼頭
スタンスとしてはアルコールですが、微アルであればいろんなシーンで楽しめます。ただ、その部分がお酒が好きでビールしか飲まない方々にはどうしても伝わりづらいですからね。そこのコミュニケーションについては今後、工夫が必要だと思っています。

かつてない熱量を感じた全社活動

中村
スーパーマーケットなどの売り場では、新カテゴリーだからこその悩みもあったのでは?

鬼頭
営業担当者から「この商品はどういった売り場に置けばいいんですか?」といった問い合わせが入ることはよくありました。

我々としては既存のビールテイストの味に満足していないリテラシーの高いビール類ユーザーをターゲットにしていたということもあり、ビールカテゴリーの売り場での展開を推奨していました。

飲食店さんにしても、お客さまと相対するのは現場のスタッフさんですから、その方々にもアルコール分0.5%の魅力をきちっとお伝えして理解していただく必要がありました。そこは一店ずつ丁寧に営業を介して、地道にコミュニケーションを積み重ねていったつもりです。

萩野 
「アサヒ ビアリー」という商品だけではなく、スマートドリンキングという考えを浸透させていくためにも、全国の各地区でご説明させてもらいました。営業現場からご要望いただいた際は、お得意先さんの店舗を巡回している当社スタッフにも、説明を重ねていきました。

飲み方の多様性を推進するための第一弾商品「微アルのビアリー」の価値を理解してもらうために、会社一丸となって取り組んだ結果、ここまで成長できたんだと思っています。

鬼頭 
僕は当時、広島にいたのですが、本社の熱量はそれまで感じたことがないくらい強く感じましたね。コロナ真っ只中で売上も正直厳しい状況下で、「お酒が飲める人だけではなく、飲めない人にも楽しんでいただける微アルコール」という新しいことをやっていこう、と提唱する会社の姿勢にはすごくワクワク感がありましたし、会社の本気度を肌で感じました。

2022年の目標はメジャー化

中村
昨年末からの新CMでは松本人志さんを起用していますね。これは訴求するメッセージを変化させた、という意味があるのでしょうか?

鬼頭 
感度の高い方々に手に取っていただけたことで好発進できた「アサヒ ビアリー」ですが、2022年はメジャー化を目標に掲げています。そのためにはもう一段ギアを上げていく必要がある。松本人志さんのような伝達力かつ説得力のあるタレントさんを起用することで、今まで以上にユーザー獲得が進むと考えたからです。

萩野 
もちろん若年層への訴求も継続していきます。

昨年、Pairs(ペアーズ)さんとコラボレーションしてオンラインイベントを行ったのですが、それが非常に好評だったんですね。飲める人と飲めない人、それぞれの男女に集まってもらい、事前にお送りした「アサヒ ビアリー」を飲みながらのオンラインマッチングイベントを行ったところ、非常に盛り上がってポジティブな反響が多くありました。

お酒を飲める人が「これなら飲めない人にもおすすめだよ」と勧められるような場があるとやっぱりいいね、という話にもなりましたね。同じく若年層へのアプローチとして、次はBEAMSさんとのタイアップも予定しています。

鬼頭 
BEAMSさんはファッションブランド、カフェ、雑貨など幅広いジャンルを手がけられており、タイアップをさせていただくことが「アサヒ ビアリー」の価値向上に繋がると考えました。

業界全体で微アル市場を盛り上げていく

中村
最後に今後「アサヒ ビアリー」をどういう存在にしていきたいか、目指すところを教えてください。

鬼頭 
まずはしっかりと実購買層に支持されるブランドにしていきたいと思っています。「アルコール分0.5%でありながらここまでうまい」という特長を今後もさまざまな方法でコミュニケーションしていくつもりですし、パッケージデザインでも伝えていけたら。目下の狙いはビール味が好きな人たちにファンになってもらうことです。

「飲まない人」たちとの接点としては飲食店などでまず認知・飲用いただき、そこから日常生活に取り入れていただく、というアプローチがあるかなと思っています。

微アルコール、低アルコール飲料は他社さんからも続々出ていますが、「アサヒ ビアリー」の強みは100%のビール由来原料だからこその本格的なビールのような味わいです。そこをしっかりとお客さまに伝えて、選んでいただけるブランドに成長できたらと思います。

とはいえ、生まれたばかりのカテゴリーですので、一緒に微アルコール市場をどんどん盛り上げて拡大していけたら非常にありがたいですね。

萩野 
アサヒビールだけでスマートドリンキング活動をしても、世の中に浸透するのは時間がかかりますので、業界をあげて一緒に盛り上げていったほうが、我々が目指すスマートドリンキングの社会にも近づきます。お客さまにとっても選択肢が増えるのはいいことですよね。2022年はこれまで接点がなかった企業さんとも積極的にタイアップして情報発信していくつもりです。