まずは「紹介」しよう──北欧、暮らしの道具店が考える、スポンサードコンテンツのファーストコンタクト

書き手 長谷川 賢人
写真 廣田 達也
まずは「紹介」しよう──北欧、暮らしの道具店が考える、スポンサードコンテンツのファーストコンタクト

2016年10月6日(木)に南青山の宣伝会議セミナールームにて、クラシコム代表の青木耕平が講演を行いました。

『「北欧、暮らしの道具店」による、商品の購買につながる共感プロセスのつくりかた』と題し、わたしたちがクライアント企業さまのご依頼で制作するスポンサードコンテンツ「BRAND NOTE(ブランドノート)」の事例をもとに、どのような心がけでお客さまと接しているか、またそのやり取りから考えた「成果につながるポイント」とは何かをお伝えしました。

インターネットでショップを構える「ECサイト」を運営する方々をはじめ、メーカーでブランディングやマーケティングに携わる方々、ウェブなどでメディアを作っている方々には、参考になるポイントがきっとあると感じています。

それでは以下、前後編にて、代表青木の講演録を抜粋してお届けします。

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北欧、暮らしの道具店が「ユニーク」と言われる、2つの理由。

はじめまして、クラシコムの青木と申します。わたしたちはECサイトの「北欧、暮らしの道具店」で生活雑貨の販売をしています。いわゆる「通信販売」のビジネスになります。クラシコムがみなさまから「ユニークですね」とよく言われる部分が2つあるので、まずはそこから紹介していきます。

1.広告費用が売上の2%ほど。それでも毎年160%の売上で成長。

ひとつは、広告費用のかけ方です。通信販売のビジネスモデルは、新規のお客さまを「広告」で獲得し、その人へ「販促」でアプローチし、「リピート」してもらうことで利益を出していくのが一般的です。そのため、通信販売のビジネスでは広告費用のさじ加減が収益性にも大きく関わります。セオリーからいえば、急成長のペースを維持するには売上の約20パーセントを広告費用に再投資し続けなければなりませんが、「北欧、暮らしの道具店」はおよそ2パーセントを切るくらいの広告比率です。

広告費をかける方法以外の集客における中心的な施策は、「お買い物をする気がないお客さまにもたくさんのサービスを提供する」ことです。具体的には、わたしたちのお客さまになってくれそうな方々に楽しく読んでいただけるコンテンツを、日々たくさんつくって届けています。内容をたとえるなら、書店に並んでいるライフスタイル雑誌でしょうか。憧れるような暮らしぶりをされる方へのインタビュー、レシピや片付け術の提案、インテリアがすてきなご自宅への訪問記……それらを月に120本ほどの記事にまとめ、ウェブサイトやソーシャルメディアで配信して、お客さまとの定期的なコンタクトポイントを設けています。

現在、ウェブサイトが月間1300万ページビューで、ユニークユーザーは120万です。ライフスタイル関連のウェブメディアという括りで見ても、日本最大級のひとつではないかなと思っています。ソーシャルメディアはFacebookが41万いいね、Instagramは48万フォロワーで、特にInstagramは日本国内で活動するの事業者アカウントでは上位3位や4位に位置付けられるアカウントとなっています。(2016年11月25日時点)

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2.ECサイトだけでなく、同時にメディアビジネスも展開している

もうひとつのユニークな点は、いま述べたようなメディアとしての側面をマネタイズしていくために、2015年12月から「BRAND NOTE」という広告事業をスタートしていることです。

クライアントのブランドが持つストーリーや商品に隠された背景などを、読んで面白いコンテンツとして掲載する、いわゆる「スポンサードコンテンツ」の展開です。

スタートして1年ほどですが、代表的なところではキヤノンマーケティングジャパンさん、キリンビールさん、レクサスインターナショナルさん、花王さん、キリンビバレッジさん、ル・クルーゼさん、ボルボ・カー・ジャパンさん、リンナイさんといったみなさまとお取り組みをしてきました。おかげさまで現在(※講演当時の2016年10月)に至るまで、ずっと満稿(提供できる最大量の出稿)の状況が続いております。

「成果につながるコミュニケーション」のための、4つのポイント。

わたしたちが「BRAND NOTE」で主に提供したいのは、マス向けのプロダクトやサービスの「裏側」に触れる機会です。どれほどきれいにパッケージされた商品でも、その裏側にはつくっている組織なり人なりがいます。その人たちの熱さ、真剣さ、人情味、開発秘話などに触れ、そこに共感や信頼を覚えたり、作っている姿が思い浮かんだり……といったコンテンツに特化していきたいと考えています。

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この広告ビジネスに取り組む中で気がついたのは、「ECサイトの運営」と「スポンサードコンテンツの提供」では、コミュニケーションのプロセスが非常に似通っていることです。

わたしたちのような小売事業者は、仕入れた商品が持つ良さや背景をご説明して、商品の購入につなげていくという仕事です。実は商品を広告に置き換えても、ほぼ同じプロセスを踏んでいるんですね。お客さまに直接販売するのか、間接的に購入までの導線を引くかに違いはあっても、必要となるノウハウやコミュニケーションには近しいところがあります。

そこで、これまで「北欧、暮らしの道具店」が培ってきたスタイルで、クライアントの広告をお手伝いすることが、最も成果につながるという仮説で制作を続けています。

さて、その「成果につながる」コミュニケーション、今回のお題である「商品の購買につながる共感プロセスのつくり方」について、これからお話します。わたしたちが「ECサイトの運営」と「スポンサードコンテンツの提供」の両面において心がけていることを、今日は4つのポイントに分けてお伝えしていきます。先に、要点だけ紹介しましょう。

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わたしたちのメディアは、この4点に注力してスポンサードコンテンツを制作しています。

1.広告ではなく「紹介」という意識をもつ

まずは、広告ではなく「紹介」という意識をもつ、というのが大切だと思います。

ブランディングやマーケティングを担当なさっている方とディスカッションさせていただくと、プロモーションにおける顧客とのコミュニケーションが年々難しくなっていることをよく耳にします。

大きな資金を投入して、コミュニケーションの量をたくさん増やせば問題が解決した時代もあったかもしれませんが、さまざまな理由でそれがもう叶わないのは、おそらくみなさんに共通していることではと思います。では、自分たちがコミュニケーションをしたい相手に、正しく伝えたいことを聞いてもらうためにはどうすればよいのでしょうか。

当然といえば当然ですが、「話す前に相手と良い関係をつくる」ことです。同じ内容の話であっても、知らない人に大声で語られるより、好きな人から教えてもらうほうが聞きたくなりますよね。つまり、良い関係性をつくる上でメディアが果たすべき役割は、「広告をする前に、自分たちの読者へ正しくブランドを紹介する」ことのはずです。まさに、これからのペイドメディア(企業が費用を払って、商品を広告する掲載枠を持ったメディア)に求められている役割ではないかと考えながら、この課題にクラシコムは取り組んでいます。

たとえば、わたしの友達に、別の知り合いが会いたがっていたので、わたしが間を取り持つことを想像してみます。まずは、わたしから友達に対して、知り合いがどんな人か、なぜ会わせたいのかを説明するはずです。そうでないと、友達は誰に会うのか、その理由もわからず不安になってしまいますよね。

いざ3人が集まったら、知り合いは会いたかった理由や、友達に共感しているポイントを明らかにした上で、友達が喜びそうな「何か」 を提供するでしょう。知らないであろう「情報」や、自分と仲良くなる「メリット」などです。そうすると、友達は知り合いに対して「いい人だから仲良くなれるかもしれない」という気持ちで、その後の関係性につながる第 一歩を踏み出せるかもしれません。

たとえを本題に置き換えると、わたしは「メディア」、友達は「読者」、知り合いは「ブランド」になります。現在、多くの広告において行われていることは、「わたしが友達と知り合いの面談を設定するから、あとは勝手にやってね」と丸投げしているようだといってもいい。つまり、メディアが読者に説明を放棄しているケースが多く、その説明についてもブランドにおまかせしてしまっている状態です。当然、ブランドはどのように話しかけていいのかわからず、とりあえずは伝えたい話を伝えるだけになってしまう。下手をすれば、読者は「知らない人に大声で語られる」ように思ってしまいかねません。そうすると、最初の目標だった「話す前に相手と良い関係をつくる」のはそもそも難しくなります。

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「広告ではなく『紹介』という意識をもつ」ことに立ち返れば、メディアは読者にブランドを紹介する理由をしっかり説明する。そして、紹介されたブランドは、いろいろ伝えたいことがあったとしても飲み込んで、まずは「なぜメディアのユーザーや読者と関わり合いを持ちたいのか」を上手に伝えて、そこに集まっている人たちに「何か」をギフトする。それによって三者間の関係をしっかり作ることに、最初は取り組むべきだと考えるのです。

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レクサスと花王のケースに見る、関係性のつくり方。

「BRAND NOTE」でも、このプロセスを大事にしたコンテンツをつくっています。

たとえば、高級車ブランドとして有名なレクサスインターナショナルさんとご一緒した事例です。「北欧、暮らしの道具店」の雰囲気を想像していただくと……イメージが合わないですよね(笑)。まさにコンテンツの中でも「どうしてレクサスがわたしたちに声をかけたの?」みたいな疑問から記事をスタートしています。

でも、お読みいただければ、レクサスさんがブランドとして発信したいメッセージと、わたしたちがいつも大事にしているコンセプトの「フィットする暮らし、つくろう。」に重なるポイントが実はあって、同じような目標へ向かっていることが伝わるはずです。

他にも、花王さんの洗たく用洗剤の「ウルトラアタックNeo」との事例も同様です。有名ブランドのウルトラアタックNeoと、わたしたちがご一緒する理由からコンテンツを始めました。この商品には「そのままの白さを守る」というコンセプトがあります。言い換えれば「それぞれの服で異なる、わたし好みの白さをキープする」ことを大切にしている。その姿勢は、「それぞれにとって気持ち良いを暮らしを実現する」というクラシコムの理念とも重なる部分です。

花王さんのコンテンツでは、まずはわたしたちが共感したポイントを読者へ紹介し、読者から聞いてもらえる姿勢になったところへ、ブランド担当の方にインタビューした商品の裏側や熱意を届けました。それにより、とても多くの方に読まれる成果につながったのです。

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ショップには「主語で話せる」強みがある。

この成果には、わたしたちがそもそもショップであることも大きく働いています。ショップを訪れるお客さまは、「お店のスタッフが選んだのはどういうモノかな?」と、わたしたちの主観やセンスを知るために足を運んでくださっています。一方で、従来型のメディアは記事の内容を含めて「一定の客観性」が期待されているんですね。

つまり、わたしたちは読者との関係性が良好なメディアであると同時に、ショップであるが故に、「主観や主語で話せる」という構造的な強みを持っているのです。実質的に、クラシコムスタッフの半分以上のリソースは、ショップ運営よりもメディアの仕事に費やしてはいますが、わたしたちがあくまでもショップとしてコミュニケーションを続けているのは、その強みが大きな理由です。

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「主観や主語で話せる」ショップとして、わたしたちは普段から、メーカーの商品を仕入れた理由を説明しています。つまり、「こんなに良いところがあるから、みなさんに紹介したいんです」というコミュニケーションを日常的にしている。その商品が広告に置き換わっても、同じようなコミュニケーションが受け入れられやすい土壌が構造的にあるといえるわけです。

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わたしたちは、この「主観や主語で話せる」ショップとしての強みを生かして、なぜこのブランドを紹介するのかを説明して、読者にもご理解をいただき、ブランドが読者に話を聞いてもらえる適切な関係性になっていくお手伝いができたらと思っています。とにかく「話す前に相手と良い関係をつくる」という最初の課題を端折らないことを、日頃から気をつけています。

後編:広告コミュニケーションを変えるのは「タモリ」と「ありがとう」──北欧、暮らしの道具店が考える、企業と読者の良い関係