クラシコム代表・青木が大きく影響をうけたポール・ホーケンさん著の『ビジネスを育てる(バジリコ)』をご紹介した前編に続きまして、後編は3冊の本をご紹介いたします。
聞き手はクラシコムジャーナル編集・馬居です。
ECをメディア化する勇気をもらった3冊
−−−続いては『男前経営論―ピーチ・ジョンの成功哲学』(東洋経済新報社)『なぜ通販で買うのですか』 (集英社新書)『インターネット的』 (PHP文庫) という3冊ですね。
著者の3名はみなさん、通信販売会社の創始者ですね。そして、その会社はみんな、通信販売とメディアを融合させた成功例と言えると思います。
「北欧、暮らしの道具店」は、メディアっぽいECサイトの先駆けだと言われることも多いのですが、この3冊を読むと、全然そうではないということがわかります。
「通販生活」は、カタログとは全く関係ないコンテンツが紙面の多くを占めていて、それこそ通信販売のメディア化の先駆けだと思います。一方「ピーチ・ジョン」もカタログをファッション雑誌のように、女性たちが楽しんで読むことができるテイスト感を作っていて。
この2つの会社は、インターネットが普及する以前に、紙のカタログで、通信販売のメディア化を見せてくれていたんですよね。
そして、それがあった上で、ほぼ日さんは、インターネットでコンテンツをつくりながら、ECを通して収益化している様子を見せてくれました。
僕たちは、どうしてモールを辞めて、広告を減らして、代わりにメディアに投資していくという冒険ができたのか?と聞かれることも多いのですが、その決断ができたのはこの3つの成功例を知っていたからなんですよね。
(1)『男前経営論―ピーチ・ジョンの成功哲学/ 野口美佳』
◎数十ページで通信販売とはなんぞやを教えてくれる
−−−では、まず『男前経営論―ピーチ・ジョンの成功哲学』から読みどころを教えてください。
この本は、「通信販売」が本質的にどういったビジネスなのかということを、とてもわかりやすく教えてくれる本です。
−−−タイトルを見て、女性論の本なのかと思いましたが。
そう見えるんですけど、書いてあることは、かなり重要な通販の本質だと思います。
特に、第4章の「300万人の顧客リストを最大限に活かす−ピーチ・ジョンの販売戦略」は、通販がこういうビジネスなんだということが詰まっています。
“一般に通販業界では、1人の顧客情報を入手するために広告費などのコストが5000円かかると言われています。要するに、ピーチ・ジョンは、単純換算で150億円分の資産があるということです。”(p.118)
“通販ビジネスはカタログが’店頭’ですから、「カタログ」を見て商品を欲しいと思っていただけるかどうかがすべてです。”(p.134)
“もしも「通販ビジネスで成功するポイントは?」と聞かれたなら、私はこのように答えることでしょう。
「効果的宣伝、リピーターの獲得、そして継続。この3つのポイントをおさえること」”(p.135)
わずか数十ページですけど、とてもわかり易くて。ぼくが通信販売という事業ってどういうものなのかの概要を最初にある程度理解できたのはこの章のおかげでした。
◎手の届かない存在になったら駄目。カッコよすぎる必要はない。
第3章の「コンプレックスは絶対に煽らない」というところも良いですよね。
“コンプレックスを煽るということは、ピーチ・ジョンの最大の“タブー”です。そもそも女の子がハッピーでいてほしいという思いでスタートしている会社ですし、それをしてしまうと、従来の“不健全”な通信販売と同じになってしまいます。”(p.80)
それまで、通販で売れている商品は、どうしてもコンプレックスをトリガーにしていることが多かったと思います。そんな中、ピーチ・ジョンがポジティブなメッセージを出したことによって、カタログが仕方なく読むものから、読みたいものに変化したのではないかと思います。
「カッコよさ」より「わかりやすさ」というところも影響を受けましたね。
“クリエイティブな人たちの考える「カッコよさ」は、トレンドの最先端にいわゆる境界人やアパレル産業の人たちのためのもので、「手が届きにくい」。実はこの「手が届きにくい」ことが「自分たちだけが知っている」となり、そのことが「カッコよさ」の正体でもあったりします。だから「カッコいい」クリエイティブは、大衆に受け入れられないのです。”(p.093)
これは、ページづくりにすごく参考になりました。雑貨屋のサイトって、シュッとしたいから、ナビゲーションをアルファベットにしたり、マークだけにしたりする誘惑にかられるのですが、あえて、店名やサイトのナビゲーションを日本語にしたのはそいうこの影響を受けてのことですね。
決して最先端ではないけど、大切なのは、そこじゃないんだよって。
できるだけたくさんのお客さんに、「すてきだな」と思ってもらいたいですが、自分とは関係ないかもと思われてしまうところまで洗練させないようにしたいと思っています。
◎女性が多い職場では、キャラの被る子は採用しない!
あとは、女性中心の組織をどういう風にマネージメントしていくかということについてもこの本での学びが多くありました。
第2章の「キャラの被る子は採用しないーピーチ・ジョンの人事戦略」は、なるほどなと、とても面白くよみました。僕らが意識して真似していることはないですが、できるだけいろんなキャラの人を採用しようと思う動機付けにはなっています。
“いま現在、クラスがみんな仲良く過ごせているならば、新しいリーダーもトレンドセッターも不良も必要ありません。ここに誰かとキャラがかぶった転校生が入ってくると、例えばトレンドセッター的キャラが入ってきたなら、それまでクラスのトレンドセッターだった人間と無用なトラブルを生み出しかねません。だから採用の際にすでに社内に同じようなキャラの人間がいる場合、かぶるようなキャラはとらないようにするわけです。”(p.54)
ーーークラシコムには、同じテイストのものが好きな社員が集まっているように思えますが…?
好きなものが同じだからといって、キャラが被るとは限らないんですよ。もちろん、トーンが合うということはあるんですけど、内省的な子もいれば、外交的な子もいるし、がーっと詰めていく子もいれば、じわじわと進める人もいるみたいな。
そういう気持ちで採用して、中にはいってもらうと、スポッとその人のポジションができることが多いですね。
(2)『なぜ通販で買うのですか/斎藤駿』
◎ビジネスでは限られた条件の中でいかに戦うかを考えるべき
−−−次は、通販生活の創業者 斎藤駿さんが書かれた『なぜ通販で買うのですか』 (集英社新書)ですね。
これは、通販というビジネスは何なのかということを、「通販生活」だけではなくて、通信販売の歴史から紐解いて書かれた本ですね。
一番最初に面白いと思ったのは…僕は常々、ビジネスで、こういうものをつくりたいなで始めるものって、だいたいうまくいかないなと思っているんですよ。
「通販生活」は、売っている商品には全く関係のない読み物を充実させたカタログのメディア化の草分け的存在ではあるのですが、それは、もともとメディアがやりたかったとか、こういうのがあったらいいなで始めたわけではなくて。
“『通販生活』の創刊は1982年だが、当時の郵便料金は
・書籍小包 250グラムまで200円
・第3種 250グラムなら60円
250グラムのカタログなら1冊当たりの配達料が140円も安くなるのだから、これは第3種の適用を受けなくてはもったいない。しかしそのためには、読み物をつけなくてはいけない。読み物ページのコストを140円以内におさめられれば、こっちのほうがトクだ。”(p.17)
つまり、「通販生活」を郵送するコストを第3種郵便というもので安く郵送するために、仕方なく記事のようなものをつけたところが始まりだと書いてあって。
僕らも単にコラムが書きたかったとか、メディアがやりたかったというよりも、継続的にビジネスをやっていく形ってこれだろうという選択をして、その枠で精一杯やってこれたのは、事前にこういう事例見ていたからだと思います。そういった、ビジネス上での決断の仕方は勉強になったんですよね。
◎通信販売なら、日常に埋もれた何気ない商品に光を当てられる
もう一つこの中で、デロンギのヒーターや枕だとか、昔からあるけど、埋もれていた商品を、手を変え品を変え、色々な軸で光を当てて紹介しようという姿勢もここから学びましたね。僕らが、一個の商品をいろんな角度で何度も紹介したり、商品ページ自体も何回もリニューアルしているのは、この本を読んだからです。
そして、そういった、日常で埋もれている商品を売るのは、店頭ではなくて、通信販売だと思うことができたのもこの本のおかげです。
“街の売り場の最大の欠点は、使用価値をなかなか消費者の納得の行くようには伝えられないことだった。街のお店の陳列棚に鎮座ましますだけでは、『デロンギヒーター』が寝室に最適のヒーターであることは伝えられない。『ルームランナー』に隠されている、それを使った結果の肉体の変化の楽しさを伝えることはできない。”(p.133)
僕らも、今は実店舗はなく、ECだけに絞っていますが、商品を直接見ていただく以上にここで書かれている「使用価値」の紹介の方にやりがいと面白さを感じているからかもしれません。そういう感覚の根元にこの本で学んだ考え方が影響があると思います。
大きさがどうとか、質感がどうとか、見てわかることは、もちろん実際のお店のほうがわかりやすいのですが、見ただけではわからない、どういったシーンで使うのか、どういう方に使ってほしいのか、といった説明が必要なものは、通信販売のほうが向いてる場合も多いのではないかと思っています。
◎ものを売るには、顧客が信じられる媒介者が必要
コンテンツの中に、読者から信頼を勝ち得られる媒介者を登場させることは、とても有効なことなんだなということも学びました。
“「情報を情報だけで信用する人」よりは、「情報を発する人への信用を媒介することで情報を信用する人」のほうが圧倒的に多いはずだ。(中略)知らない発信者からの情報は、知らないというだけで不安なのだ。”(p.156)
「通販生活」がやっているのは、みんなが知っている有名人から感想を聞くことで、媒介者にするということですが、僕らは事前に自分たち社員をお客さんに紹介して、信頼していただいてた上で、その社員が出てくるコンテンツでこれを実現しようとしています。
(3)『インターネット的/糸井重里』
◎インターネットなら良さをまるごと伝えられる
ーーーそして最後は、先日上場を発表されたほぼ日の代表、糸井重里さんの「インターネット的」ですね。
この本に影響を受けたところは、ありすぎて、どこをあげるのかが難しいのですが…。
ひとつあげるのであれば、「WHOLE(まるごと)で渡せる可能性」というところですね。
“ぜんぶを伝えておきたいのにしかたなくエッセンスだけを渡したり、短くまとめたキャッチフレーズを配ったりするのではなく、情報を運ぶのに多くの経費も時間もかからなくなるために、全体でやり取りできることです。これはまさにインターネット的ですね。”
つまり、インターネットが普及するまでのカタログや広告は、商品のキャッチーな一箇所にフォーカスをあてて、そこをフックに買ってもらうための手段を選んでいたと思います。
それが、インターネットを使う中で、渡せる情報が無限になり、商品に関する全体の価値を見てもらえるようになったと思うんです。
どういう意図で、どういう風に作って、どういう人が使っているのか。そして、もし不良品だったらどういう保証がうけられるのか。商品にはそういった、色々な価値があるわけですが、それをCMで全部語ろうと思うとできなかったから、価値の一部ひとつをとって「安い」とか「美味しい」とか、という形で語ってきたわけですよね。
他にも価値があることはわかっていたけど、すべて伝えると分かりにくくなってしまうから、マスクをしていたということですね。
それが、インターネットの登場によって全体が見せられるようになり、これまで価格では選ばれなかったような商品が、違う目線では選ばれるかもしれないという可能性が産まれてきて。
その、「まるごとが表現できる」ということがすごく刺さりました。さらに、実際、ほぼ日刊イトイ新聞を見ていくと、商品の紹介がまさにそういうふうになっていて。どういうスタッフが、どういうきっかけで出会った商品で、こんな風に作っていて、出しました、出したらこんな人達が使ってますよというところまで可視化されたりして。
もし、昔の村の商売みたいなものがあったとしたら、そういうものだった気がするんですよ。あの店の人はどんな人で、どんな家族がいて、これまで3代に渡ってどういう商売をしてきて、ということがあって商品が売れたりしたのではないでしょうか。
それが、街場になると、そういう背景は加点にはならないので、有名だとか安いとか、わかりやすい方向にアピールする他ない。でもそれだと、小さい事業者としては難しいですよね。
この本で、村のようにインターネットはまるごとでつながることができるという可能性を学びました。
◎にぎわいがビジネスを産む。ECならできると教えてくれた
もうひとつは、ベタなことかもしれませんが、にぎわいが生まれればビジネスは後からついてくるという考え方で。
“歴史を見ると、いつでも、祭りというものが何かをつくってきているんですね。(中略)祭りを作るってことを、ぼくはいままで請け負いでやってきた。でも、自前でも祭りができるという可能性が、インターネットならあるぞと思ったんです。”
“いままでのようにビジネスしたい人に頼まれて”余ったお金で、大きい祭りをつくってね”と言われるのではなく、祭りをつくるエネルギーが先になって、商売をしたい人を巻き込むことができるぞと思ったのです。”
まずは売上を増やすことよりも、みんなに楽しんでもらって、集まって貰える場所を作ることに集中するほうがいいよねという。その上で成功があるということを、この本が出版された後のほぼ日刊イトイ新聞に見せてもらうことできました。この本がなくて、ほぼ日さんがいなかったら、僕らはここまで信じてやれなかったと思うんです。
読み返してみても、色々なことに影響うけてるなぁと思います。
前編では、ビジネスの基礎はすべてここから学んだという一冊をご紹介。ぜひご覧ください!
「北欧、暮らしの道具店」を作った本:ビジネス編『ビジネスを育てる/ポール・ホーケン』