クラシコムが仕事で大切にしている考え方をお届けする企画「北欧、暮らしの道具店の裏側」。今回は、クラシコム代表取締役社長 青木耕平、取締役副社長 佐藤友子、執行役員 事業開発部部長 高山達哉の3名の組織や事業を作るうえでヒントになった1冊をご紹介します。
会社も生き物と同じだから健全でありたい
代表・青木の選ぶ1冊『ビジネスを育てる』ポール・ホーケン 著/ディスカヴァー・トゥエンティワン
この書籍との出会いは、30代前半。フィットする仕事がみつからず、自身で仕事をつくるしかないと感じていたものの、どこを目指すべきなのか見出せていない時期でした。そんなとき出会った1冊が『ビジネスを育てる』です。冒頭のこの一節に、心を掴まれました。
「成功するビジネスというのは、個人がのびのびと自己を表現することでもたらされる」という信念にもとづいて話を進めていくつもりだ
作家が小説を書いたり、絵描きが絵を描いたりするように、ビジネスも個性や思想を活かした自己表現の手段になり得るのか! と、これまでにないモチベーションが湧いてきました。そしてビジネスを健全に成長させるためのヒントも、この書籍から受け取りました。
僕が携わっているガーデニングと園芸のビジネスの観点から見るなら、あまりに速い成長をする植物は、実のところは健康とは言えない。そして、あまりに遅すぎる植物もその後の成長に問題があるようだ。(中略)健康的で、成長に富むビジネスを創造することも同じだ。その気のない市場をねじふせて成功を奪い取ることなんてでない。起業家についてまわる、征服者するヒーローぶったイメージは ウソだ。
クラシコムのビジネスも、成長のポテンシャルを持って産み落とされ、丁寧に世話をして、十分な栄養を与え、健やかな環境で育てることで、ちょうどよいサイズまで大きくなるでしょう。「会社をどのくらい大きくしたいですか」と質問をいただいた際には「会社も生き物と同じだから健全でありたい」と答えるようにしています。
他にも、この本では「日常にあるとるにたらない類の商品を、違う角度から光を当てて育ててみよう」「周りを見るのではなく、お客さまが本当に求めていることと自分の商品に集中しよう」と一貫して語られています。ビジネスについて、これだけたくさんの名言が含まれている本を、私は他にあまり知りません。もしもメンターがいたら、きっと声をかけてくれそうな言葉が随所に含まれていて、読み返すたびに響く場所が違います。
「生活」を大事にすることを肯定してくれた本
副社長・北欧、暮らしの道具店 店長 佐藤友子の選ぶ1冊『生活はアート』パトリス・ジュリアン 著/主婦と生活社
『生活はアート』は、人生に迷っていた24歳に出会い、夢中で読みふけった本で「北欧、暮らしの道具店」の原点とも言える1冊です。
私は、子どもの頃から生活のなかのディテールが好きでした。それは20代になっても変わらず、自分の部屋はまさに「お城」のよう。実家の4畳半の個室だとしても、棚のうえに並ぶ雑貨の配置を夜な夜な換えてみたり、小さな机のうえに花を飾ってみたり。
誰に指示されるわけでも、逆に止められたとしてもやらずにはいられなかったこと。それが「生活のなかのディテールと戯れること」でした。それくらい好きで好きでたまらないのに、それは誰かに発表できるようなことでも肯定してもらえるようなことでもなく、どんどん自分のなかだけの聖域のようになっていきました。そんな時期に、この本と出会ったのです。
著者のパトリス・ジュリアンさんが心地よい場をつくりたいという一心で実践されていた、生活のなかのささいなシーンでクリエイティビティを発揮することの意味と豊かさ。「生活はアートって言ってくれている人がいるよ!」と、それはもう嬉しくなりました。
パトリス・ジュリアンというと『陽気なお料理のおじさん』だと思われているようですが、僕は料理の専門家ではありません。暮しの本を書きましたが、暮しを職業にしていませんし、作家やスタイリストでもありません。
おいしいものをレストランで食べる以上に、自分で料理することが好きです。
ファッション・ショーを見る以上に、おしゃれをすることが大好きです。
誰かの考えを読んだり聞いたりすること以上に、自分で考えていたいと思います。
映画が好きですが、自分の人生を映画のように面白くしたいと思っています。
繰り返しの毎日で、自分らしい暮しを作るたった一人の主役は自分なのです。
この書籍との出会いを経て、24歳だった私は、とにかく「生活」を大事にしたい、していいのだと肯定できるようになりました。他人から見て分かりやすい特技かどうかはいったん置いておいて、大好きな生活と戯れよう。何になるか、何者になるのかはそれから考えようと思えたことは、ささやかな救いになりましたし、のちにクラシコムを起業をするときの意思決定に、大きな影響を与えたと思います。
失敗や試行錯誤も解釈次第で未来につながる
執行役員 事業開発部部長 高山達哉の選ぶ1冊『Hot Pepper ミラクル・ストーリー』平尾 勇司 著/東洋経済新報社
クラシコムに入社したばかりの頃、新規事業(現在のブランドソリューション)の立ち上げのために、どんな考えでどのように実行すべきか、明確な答えがみつからず、自信のない時期がありました。そんなとき偶然書評記事で出会ったのが、この本です。「事業のもつ物語性のおもしろさ」にあらためて気づくきっかけになりましたし、事業の立ちあげと推進における生々しさが鮮明に描かれており、リアルに想像できて、胃がキリキリしました(笑)。代表の青木とプランナーの中村と読書会を開催し、それぞれどの点に学びをもったか議論した思い出の1冊でもあります。
書籍の中で、特に印象的だったのは生活情報誌『サンロクマル』事業の失敗を徹底的に振り返り、言語化していくことで『ホットペッパー』の事業の成長につなげたエピソード。過去の失敗や現在の試行錯誤も、振り返りでの見立てと解釈次第で、今後の流れが変わってくるという学びがありました。
書籍の中ではいかにして『ホットペッパー』がクーポン文化を醸成したかにもふれています。「クーポン=割引=値引き商売=つまらないもの」という既成概念を覆し、クーポンは定価を下げずに行う賢い「価格コントロール」であり、時間や対象ユーザーなどを限定して行う「価格政策」であること、そしてユーザーにとっては「保証付きの冒険」として新しいお店を開拓でき、使わないことが損に感じられる行為である……と解釈をどのように刷新したかが書かれています。イノベーティブなサービスを生み出すのではなく、誰もが知っている一般的なサービス(=クーポン)の見立てをアップデートすることで、新たな価値を生み出したところが、個人的には特に好きです。
特定のニーズやクライアントに対して深くアプローチするクラシコムのブランドソリューション事業では、本書に書かれている
事業は物語である。筋書きなき物語など存在しない
という言葉のとおり、事業のシナリオを常に意識しています。事業に取り組むうえで「自分たちは何を選択し集中するか、チームに何を浸透させるか」をぶらさず、これからも実行第一で、取り組んでいきたいです。