ソニックガーデンが実践している、世の中の変化に対応して生き抜くための経営論について伺った前編に続きまして、後編ではさらに議論を深める中で、ジブリ映画にみるリーダー像や、この先に見えてくる「会社の死」という話題にまで及びました。
社員が心穏やかに働くために必要なのは、強いリーダーでも、100年続く保証でもない?新しい会社の安定のカタチを探りました。
気にしなくていい、家族のような安心感
青木
経営者と社員に垣根がないということでいうと、社長である倉貫さんから、社員の方にここをもっと注意しろとか、とか、もっと頑張れとか、そういう声かけはほとんどしないですか。
倉貫
ほとんどしない。したとしても、最近は聞いてくれない(笑)。
青木
要するに、社長が見ているからとか、こう言われたからとかが無くても、自然に気をつけて仕事をするし、頑張ると。それ、現場からすごく感じました。
倉貫
そうです。
青木
それ、いいですよね。僕、気を付けろって言われることが一番苦手なんですよ。
というのも、短期の記憶力がすごく悪いので予定が覚えられないんです。次の予定は、常にカレンダーで確認しないとわからなくて。Googleカレンダーのおかげで相当機嫌よく生きれるようになっているんですよね。
「気をつけろ」と言われても、常に気を付けるってことは、自分のメモリスタックを1つそれに割きつづけるってことじゃないですか。思考のキャパシティが狭まる感じがして。
倉貫
確かに、もったいないですよね。そこに気をつかうのは。
青木
気にしなきゃと思うと、なんかイライラしたり、余裕がなくて不安になったりする。気を付けなくていいってすごい安心感じゃないですか。そういう安心感を、ソニックガーデンさんに感じたんですよね。ある種、子どもの幸せ感といいますか。
最近では、声優の方やアイドルに対して感じる母性だったり、包容力だったりを「バブみ」っていうとか。赤ちゃんバブバブのバブみだと思うんですが。
倉貫
勉強になるな。
青木
まあ、そういうこともありつつ、子どものように安心できる状況って大切だと思うんですよね。
倉貫
うちの会社でいうと、副社長がまさに「おかん」と呼ばれていて、そういう空気を作っているのかもしれないです。みんなに料理を振る舞ってくれたり。
青木
あのちょっとガタイの良い男性よね(笑)。
倉貫
そうです。彼に何になりたい?ってきいたら、仏になりたいっていうんですよ。世の中のすべてを愛したいって。彼は、バブみを作り出しているのか… ?(笑)
強い者に守られない方が、心地よい?
青木
でも、そうそう、そういうおかん的な存在が、僕はジブリ映画の中にも見れるなと思っていて。
倉貫
ほうほう。
青木
大体2軸あるんですよね。ナウシカだと、ナウシカという母的存在とおじいさんたち。そして、トルメキアのクシャナと、髭の副官。
倉貫
なるほど。
青木
ラピュタでいうとドーラと息子たちはもちろん、シータもママ的な存在感があって。
ただ、ここで重要なのは、ママと言っても、決して息子たちをいつも守っているわけではないんです。ドーラが突っ走る後ろを、息子たちが「マーマー!」って、追いかけていたり。むしろ息子たちはドーラやシータを守っていたりするんだけど、彼らは守ることで安心感を持っているような。ナウシカも、守られていますよね。
つまり、リーダーが守らないってことが、逆に安定に繋がったりするのかなとか。
倉貫
まあ、僕は社員のみんなに守られてる感はないですけどね(笑)。
青木
何が言いたいかっていうと、強いリーダーにガチガチに守られる方が不安になるのかなと。
要するに、場をつくるのはママかもしれないけど、その場でイニシアチブをもつのは息子たち、自分たち自身だから、逆にそっちのほうが安定するのかなって思うんだよね
倉貫
それはあるかもしれないですね。うちの経営陣が常にもっている危機感のひとつは、社員たちは、技術的にはどこに行っても働けるエース級なので、彼らが魅力ない会社だなって思ったらすぐ辞めちゃうということで。確かに、イニシアチブを持っているのは彼らですね。
だから、僕は全然強いリーダーじゃないですし、安定してないんですよ。みんながそっぽむいたらやべえなって。でもだから、ちゃんと自分の仕事をしなきゃなって思います。
青木
あいつと仕事したいと思われないと、そこですべてが終わっちゃうみたいなね。
僕もすごくそう感じるんですよ。僕にいたっては、クラシコムのビジネスにおける肝、つまり「北欧、暮らしの道具店」のスタイルとかコンテンツとか、どういう商品がうけるのか、ということに対して、一切の知見と技術を持ってないんで。みんながいなくなったら何にでもない。
倉貫
それは、もう、クラシコムじゃないっていう。
青木
「暮らし」はわからないっていう。
倉貫
一緒です。今、うちの現場のメンバーと同じ仕事をやれって言われてもできないから、自分なりの場所を見つけて仕事するしかないなって思っています。
青木
でも、その倉貫さんの不安定さと相対するように、社員サイドの心の安心感ってちょっと高まってるんじゃないですかね。倉貫さんも常にちょっと不安だし、社員もちょっと不安。
倉貫
そうですね、みんな不安だと思います。プログラマーなんて、今持っている技術が10年後も通用するなんて信じてないので、常に不安なんです。経営者も不安だし、社員も不安。でも、みんな不安であれば働くんだと思うんです。
そして、真面目に働けば会社は安定するんで、みんな気持ち不安くらいがちょうどいいんじゃないかなっていう。
青木
適度に不安があるからいいのかもしれないですね。
倉貫
そうですよね。だから、会社自体は安定せずに、常に変わったほうがいいと思っていて。僕の仕事は経営ですから、そういう意味で、率先して会社に変化をもたらすようなことを言い出すんですけど…まためんどくさいこといいだしてるなって思われるんですよね。
うまくいってるのに、今何でそれやるのみたいな感じの空気感を味わって…、さみしいなぁとおもいながら…。
青木
そう、そう、あれさみしいですよね。すごくわかる。会社の将来のためを思ってるんだけどなぁ、って。
倉貫
そこに耐えるハートの強さは欲しいものですね。
「会社の死」から目をそらさないでいよう
青木
あと、これからの会社の安定というものを考える時に、「会社の衰退と死」に対する意識の持ち方がキーになると思っていて。
会社って、大体潰れるわけじゃないですか。これからの世の中は、さらに変化するでしょうし。でも、潰れた会社は何の意味も残さないかというと、どうなのかって。人間はどうせ死ぬから意味がない、とは言いませんよね。
人類数千年の英知で「死」に対する意味づけがされたり、ファンタジーによる死後の世界の説明だったりで、人間が死んでしまうことに対して、絶望じゃないよね、というコンセンサスはなんとなく取れていると思うんです。
そんな風に、会社も潰れるって悪くないというか、衰えたり無くなったりしたとしても、プロセスというか、死に至るまでの生き様のほうが重要だよねってことになるとすごくいいな、なんて思ったりして。
倉貫さんは、会社の死について考えていたりしますか。
倉貫
まさに、最近そのことをよく考えていて。起業当初は、会社を長く続けることはとても意味があることだと思っていたし、そのつもりでちょっとずつ人も増えてきたんですけど、最近ちょっと考え方が変わり始めていて。
もともと僕らの会社は、「プログラマーを一生の仕事にする」というビジョンがあって、プログラマーが、ずっとプログラマーのまま楽しく暮らしていけたらいいな、そういう会社をつくれたらいいし、そういう社会にしていきたいなと思っていて。
でも、今のメンバーで、それを目指して会社を続けていく中で、僕がいずれ引退するとか、死んじゃったりすると、誰かが継ぐというような話がきっと出てくると思うんですけど、それは果たして本当に幸せなことかと。2代目社長って、自分がやれって言われたら嫌だなと思って…。
青木
僕も嫌かもしれないですね。
倉貫
前任者を想って、あの人ならこうしたんじゃないかとか考えないといけないし、上手くいっても大して褒められないし、失敗したら2代目がダメにしたって言われるし、なんかかわいそうだなって。
そもそも、僕は、この会社はいつ潰れるかわからないよと伝えていますし、だから、潰れたとしても、個人で働くなり、いろんな会社から引く手あまたになるような成長の機会やチャンスを与えるようにしていて。
社会変化の速さを考えても、会社の寿命と人間の寿命で考えたら、人間の寿命のほうが長いことのほうが多い。そもそもに、会社のほうが先に潰れる可能性は高いと考えると、潰れるのを待つまでもなく、創業者自身の手で、終わらせるのもありなんじゃないかと。
青木
なるほど。確かに、僕らは明日にも死んでしまうかもしれないんですが、でも、うまくいけば20年くらいは働けるわけですよね。
でも、これも小口化の発想で考えると(前編参照)20年とは考えずに、3年くらいずつに区切って走ることができれば、3年間は心理的な安全を担保して経営できますよね。
そういう意味では、大企業が3〜4年とかで社長交代してたりするじゃないですか。あれって、案外悪くないかもしれないですよね。短期志向っていえばそれまでですけど、長期で考えるのは、なんともしんどい。
倉貫
そうですよね。例えば、親会社、子会社、孫会社って続いていくことはよくあると思うんですけど、子会社ができたら、親会社が潰れるとかでも良いと思うんですよね。
青木
のれん分けみたいな。
倉貫
そうそう。ラーメン屋のような。
青木
家系みたいなかんじですよね。そのうち、ソニックガーデン系みたいな言われ方をするかも(笑)。
倉貫
会社なんてただの法的な器でしかなくて、それより僕がやろうとしていた「プログラマーを一生の仕事にする」というビジョンやカルチャーを引き継いでもらうほうが大事で。
僕自身も、あと何年で引退するかもと思っていたら、その先の自分の人生のために、今から色んなチャレンジしなきゃいけない。
プログラミングで稼げるようになるでもいいし、もっとちゃんと文章を書いて、本が売れるようにするでもいいけど。食っていく術を今から見つけなきゃって思うと、結構いろんなチャレンジをしなきゃいけないから焦るし、焦り出すと頑張れるんじゃないかなって。
青木
そっちのほうが、なんだかんだで結局は安定するのかもしれないですね。会社は死ぬんだ、って覚悟で生きてれば、生きている間は集中できる。
倉貫
なんて、まぁ、ソニックガーデンの株主が私だからこんな話できるんですけど。
青木
他に株主さんがいたら、怒られますね。死ぬとか潰すとか勝手にいってんじゃねえよ、おまえのもんじゃないしって。
倉貫
そうですね(笑)。
青木
話は尽きませんが…お時間ですね。まさかの展開でしたが、とても楽しかったです。倉貫さん、こんな話して社員のみなさんに怒られませんか。
倉貫
今度の社員合宿で、今日の内容は話しておこうと思います(笑)。
青木
では、それまで出さないでおきますね(笑)。今日はありがとうございました!
と、対談を締めつつも、その後も立ち話が終わらないお二人でした。