2018.02.05

やっと見つけた大きな夢、健やかに追い続けるためには?フラワーアーティスト前田有紀×「北欧、暮らしの道具店」店長・佐藤友子対談後編

書き手 クラシコム馬居
写真 木村文平
やっと見つけた大きな夢、健やかに追い続けるためには?フラワーアーティスト前田有紀×「北欧、暮らしの道具店」店長・佐藤友子対談後編
フラワーアーティスト・前田有紀さんと「北欧、暮らしの道具店」店長・佐藤の対談後半です。「好きな仕事」に辿り着くまでの試行錯誤をお話した前半に引き続き、後半では、前田さんが現在行われているビジネスについて詳しくお話いただきました。

テレビで見ていたふんわりした印象はそのままに、花や緑に対する想い、子育てとの両立など、熱くて逞しい新しい前田有紀さんを知ることができました。

「花屋」ではなく「フラワーアーティスト」になった理由。

佐藤
前田さんは、フラワーアーティストということですが、具体的にはどんなお仕事をされているのですか。

前田
自分がずっと都会にいて自然が恋しいと思っていたので、「都会の中でも、花と緑のある暮らしを色んな人に届けられるようになる」ということを大きなテーマにしているのですが…

仕事内容としては、空間装飾や、イベントでのお花づくりですね。花の輸入販売をしている商社さんと「世界の花屋」というオンライン販売をしたり、こういう花をもっと伝えたいと思っている方のところで、こんな売り方をしたらどうかという提案をして、お花を色んな人に届けるためのお手伝いをしています。

佐藤
前田さんの最近のインタビューやSNSを拝見したときに、私が「誰かの人生にポジティブな影響を与えたい」と思っていたのと同じように、単に「お花に関する仕事をしたい」だけでなく、もう一階層深くやりたいことがあったりするのかなと思ったのですが。

前田
そうですね。私がお花を仕事にするぞと決めながら、花屋をオープンしていない理由はまさにそこにあって。

イギリスに留学して、日本に帰ってきて、花屋で修行をして、そんな中、すごく感じたことは、東京の人、特に若い世代が花からどんどん離れていってるという現状です。

佐藤さんのように、花を欠かさず部屋に飾るという方ももちろんいらっしゃるんですけど、花は高くてすぐに枯れちゃうから、買えない、買わないっていう人のほうが多くて。

花好きの方は、お気に入りの花屋さんがあってそこで買うけれども、私がもう一個、自分の花屋を開いて、今まで花を買ってた人にこっちにきてほしいわけじゃなくて、今まで花を買ってなかった人を増やして、花を買ってもらう人の裾野を広げたいっていう想いが強いんです。

市場で色んな花屋さんとお話をすると、最近花が売れないねっていう話はよく出てきて。特に、8月と1月って花が売れないんですけど、「どうせ1月は売れないし」とかつい言ってしまうんです。でも、「売れないなぁ」と言いながら、お店で花をショーケースに揃えて待ってるだけじゃダメだって思って。だったら、私は花を持って色んな所に出ていきたいって思ったんです。

そういう活動をすることで、街の花屋さんに行く人がもっと増えたらいいなって。

佐藤
店舗として花屋を持つご予定はいまのところはないということですか?

前田
そうですね。ただ、今やっていることをやりながら運営する道を見つけられたら、お店を持つこともいいかなとは思っています。

花を買う人が増えた未来の東京って?

佐藤
花を買う人の裾野を広げたいというのは、どうしてそういうふうに思われるんですかね。

前田
自分自身が東京という都会の真ん中で忙しく過ごしていて、でも、花があることで元気をもらったり、癒やされていました。

佐藤
私もどうして毎週花を買いに行くんだろうって思うと、やっぱり元気になるんですよね。自分もこうありたいなとか、こうなりたいなって思わせてくれる存在といいますか。

前田
そうですよね。都会の中でも花を見つけると、花が生えていた風景を想像して、自然の息遣いを感じられる気がして。

花を好きな人が増えて、花や緑がある暮らしがもっともっと当たり前になっていったら、生き方も変わる人が増えるというか、もっと暮らしが濃くなって毎日がもっと思い出深いものになっていくんじゃないかなっていう理想や願いがあるんです。

だから私がおばあちゃんになるころには、東京の窓から緑があふれて、通りがかった家には必ず花が飾ってあるようになったらいいなって夢を持っています。

そうなった時の人の暮らしは、今とはちょっと違う時間軸で、忙しい、忙しいじゃなくて、ゆったりした時間を持ったり、仕事がすべてじゃなくて、暮らしも楽しむ人が増えたりするんじゃないかって思うんです。

花も人間も個性がある。「らしさ」を大切にしたい。

佐藤
素晴らしいですね。前田さんがプロデュースされている「世界の花屋」では、アフリカの農園のお花も取り扱われていますよね。

前田
そうなんです。アフリカのお花は本当にユニークで、いわゆる美しいとは違う花がたくさんあって。そういう花を届けることで、みなさんも、自分だけの美しさを見つけたいと思ってもらえるといいな、なんてことも思っています。

日本の花は、野菜と同じようなすごく厳しい規格を通って市場に届いていて、規格外のものは、隅っこで安く売られちゃったりしているんですね。農家さんを訪ねても、すごく可愛い花だけど、大量生産できないから出荷できないというものがたくさんあって。私はつい、そういういう花に惹かれてしまうんです。

佐藤
可愛いのに勿体無いということですか。

前田
単に可愛いというよりも、他と違っていてユニークで可愛いのになって思うんです。

節が長い子もいれば、短い子もいて、葉がたくさんついてる子もいれば、少ない子もいて。本来、自然の世界ってすごく個性豊かなものが集まっているものだと思うんです。それが不自然になっていく流れが寂しいというか。

たしかに束ねやすいのは茎が曲がってないぴっとしたバラだったりするんですけど、そうじゃない花には、個性とか、こっちに伸びたかった理由とか、その花のストーリーが詰まっている気がして。

私も自分らしく生きるということを大切にしようと思って今の自分があるので、ちょっと自分の人生も重ねてしまうんです。

そういう花を商品の中にちょっと足して個性を入れていくことで、買ってくださる方に、昨日よりも今日、自分らしさを見つけてねというメッセージを伝えたいと思っています。

初めての出産を前にしても、止まらない未来への好奇心。

佐藤
前田さんは、妊娠を期にフリーになられたということですが、つまり、最初のお子様を持たれたタイミングと独立が同じということですよね。それって、かなりバイタリティーある選択だなって思うんですが。

前田
そうですね。お店を辞める時に、実はすごく迷いまいした。

3年間勤めた「ブリキのジョーロ」はすごく良いお店だったんですね。オーナーの勝地さんから教えていただくこともすごくたくさんあって。最初は一番下っ端だったのが、辞めるときにはいろんなことを任せてもらえていましたし、ここだったら色々できるし、安定した生活ができるし。

しかも、勝地さんは、3人のお子さんがいらっしゃるので、子育てしながら働くということを理解した上で、うちで続けていいよって言ってくださっていて。

子育てしながらお花屋さんに勤めるという安定した道も良いなと思ったんですけど…、でも、そこでまたふと、おいおい待てよという自分がいて。安定した道に走るなら最初から会社員でいたらよかったじゃん。ここまできたら、本当にやりたいことをもっともっと突き詰めて、行けるところまで行こうよと思ってしまいました。

佐藤
好奇心が上回ったんですね。

前田
そうですね。

お店の外に出てお仕事をしたら、どんな世界が待ってるんだろう。掃除をしたり、値付けをしたり、そういったお店のための時間もなくなって、本当に自分一人になったら、どんな世界が待っていて、どんな出会いができるんだろう。新しい出会いがきっと待ってるはずって思って辞めてしまいました。

佐藤
フリーになってから、どういうふうにお仕事を作ってこられたんですか。

前田
ブーケを記念日に贈ってといってくれる知り合いや、それこそテレビ朝日の方たちがお祝い花を頼んでくださったりしたので、そういったことを小さく続けていくうちに、声をかけていただくことが増えて、今につながっています。

でも、「ブリキのジョーロ」を辞めて、まず最初に行ったのは、個人事業主の届け出ですね。

佐藤
すぐですか?ちょっと3ヶ月ゆっくりしてからとかじゃなく。

前田
はい、辞めて次の週とかに税務署に行って、かたちだけは整えようって。

佐藤
全ての速さがすごいですよね。何がそうさせるんですかね。

前田
山羊座だからっていうのはしっくりきますけどね。(※前田さんと佐藤店長は山羊座。 前半参照

まあ、でも、好奇心ですね。もっと知りたいとか。もっと自分の知らない世界を見たいとか。

アナウンサー時代に培った「現場主義」が独立後の行動力に。

佐藤
先日参加されていた「ほぼ日」さんのイベントも、もともとご自分からメールを送って実現されたというのを見て、すごいなって思ったんですよ。ちょうどその頃、私にも対談のお誘いを前田さんご本人からメールをくださって。

でもこの頃って、ご出産されて半年くらいの事ですよね。

前田
そうですね。でも、「世界の花屋」を立ち上げることが決まっていて、どんなコンセプトでどういう花を売りたいかということは話し合っている段階で。

いつも子どもを連れて授乳しながら働いていて。初めてお会いする方なのに離乳食を広げて、ちょっとあげながらでもいいですか、前田有紀と申します、すみません…!とか言う時もありましたね。

子育ても仕事も、どちらも自分がやりたいことだったので、どうしたら両方ができるか、そればかり考えて過ごしていた気がします。

佐藤
前田さんの、自分から行動を起こすしなやかさや速さとか、すごいです。

前田
うーん、とにかく会ってみたかったんだと思います。どんなことを考えてらっしゃるのか、聞いてみたかったんですよね。

自分からメールをお送りしたのは、ほぼ日さんと佐藤さんなのですが、「ほぼ日刊イトイ新聞」さんからも、「北欧、暮らしの道具店」さんからも、暮らしと仕事は結びついているものだというメッセージを受け取っていて。

自分も、暮らしと子育てを切り分けないで、どっちも大事にする道が絶対にあるはずだって奮闘していたので、話を聞いてみたかったという感じですね。

佐藤
ありがたいです。

前田
会いたい人には会いに行くというのは決めているんです。

アナウンサーの時に、一番学んだことは、現場に行ってみないとわからないということで。メディアとしては当然のことですけど。

行かないで書いた記事には、その時の空気感とか伝わらないことがあって。例えば、サッカーの試合で、2対0で勝ったという情報だけ聞けば、勝って良かったねとなりますけど、実は勝ったチームのほうが苦しそうだったり、行ってみないとわからないことがたくさんあるんです。

ですから、現場に行くという気持ちはその時から大事にしています。農家さんも同じで、花に日々触れていても、知った気にならないで、作っている方々に会いに行ってみて、どんな花なのかをもっと勉強したいです。

自分の健全さを守るために決めた「やらない」という選択。

前田
佐藤さんは会いたい人は会いに行くタイプですか。

佐藤
私はね…割と億劫がっちゃうほうなんです。内省的なタイプで、社交が得意じゃないんですよ。

前田
社交的にみえるのに。

佐藤
頑張れば出来るんですけど、頑張らないと出来ないんです。

好奇心あふれてフットワーク軽くてアクティブというタイプでは、本当に、まるでなくて。自分の中で、自分と対話して何か価値を作りたいという方が強いタイプかもしれないんです。まあ、人それぞれですよね。

前田
佐藤さんは、やらないことも大事って先日出された本の中に書かれていましたよね。

佐藤
書きましたね。諦めるとか。

前田
それには、私もすごく共感していて。

私はいつもどんどん会いに行ったり、どんどん走っていってしまうんですけど、でも、今は子育てもありますし、全部をやっていたら時間がないし、パンパンで。

やらないことを見極める勇気とか、効率よく仕事をしていくというと機械みたいですけど、やりたいこととやらないことのメリハリを付けていくことは、これから大事になるなって思います。

佐藤
私もキャパシティが広いほうじゃないので、意識しないと、パンパンになりますね。

でも、自分の健全さが保たれなければ、会社にも事業にもお店にも、ひいてはお客様にも、なんにも良いことがないと思うんですよね。だからできるだけ、自分が健全な状態を保つために、どこまでができる無理で、どこから先が無理できないことなのかを試し試しやっています。

それで、自分にとって、仕事をしていく上でどういう状態が「健全」なのかと考えると、「感じたいことを感じられる状態」なのかなと思っているんですね。

前田
感じることってとても大切ですよね。

佐藤
私が何も感じられなくなった時は、おそらく自分が崩壊しているときですね(笑)。感じたいことが感じられるくらいの容量で生きていられたら、感じたことを言語化していくことで今の仕事も良い形で続けられると思うです。

いろんな無理とか、背負い込まないで良いものまで背負い込んでいくと、感じたいことが感じられなくなる容量まで水位が上がってアップアップになってしまう。いかにそこの水位を健全な状態で保つかっていうところはすごく意識してやっています。

仕事も暮らしも大事にする、健全な野望はこれからも。

前田
そこを保つためには、人に預けるっていうのは大事なキーワードだなって思いました。佐藤さんは、いわゆる、管理職ですよね。

佐藤
管理職と言えるような仕事ができているかわからないのですが、写真を撮ったり、商品を探したりすることはもうあまりなくて、社内や社外のコミュニケーションが仕事の9割ですね。

あんなこといってよかったかなぁ、とか、ああするべきだったのかなぁ、とか考える毎日です。

前田さんは、今後お仕事が広がったら、誰かを雇うとかアシスタントをつけるとか、いずれ個人事業主から会社組織にするとか、野望も持たれたりしていますか?

前田
そうですね。

佐藤
お、そうなんですね。

前田
というのも、私もこれまでは自分で走ればいいやと思ってきましたが、子育てもしながら走りすぎると、自分が忙しすぎて、子どもが楽しそうにこっちをみてるのに気づかないでいるときもあったり。今よりもっと、子どもが成長していく姿をみていたいということもあって、自分の仕事を人に預けたり、仲間を作っていかなくてはと思っています。

佐藤
具体的なプランがあるのですか。

前田
今年中には、個人事業主から法人にしたいと思っています。あとは、自分で確定申告とかしていて、もう、パニックになっているので…数字の計算とか、苦手なことは誰かに預けたいですね。

苦手なこと以外も、私は花へのこだわりがすごく強くて、人に任せられないと思っちゃうところがあるんですけど、これからは、一緒に良いものを作っていく仲間を見つけたいです。

佐藤
楽しみですね。私たちも一緒になにか出来ると嬉しいです。

前田
わあ、嬉しいです!楽しみにしています。

佐藤
今日をご縁に、これからもどうぞ宜しくお願いします。

前田
こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします!


佐藤「ん?これは私の大好きなミモザですね。」
前田「佐藤さんをイメージして作ってきました。」
佐藤「嬉しい!今年もミモザが出てくるのを毎日花屋に通って待ってるんです。」
前田「そうなんですね!市場にはもう出ているんですよ」
と、写真撮影中も大盛り上がりのふたりでした。

 

前編「私たちが「好き」と生きていこうと決めた瞬間。