前編では、政治家をやめて進んだ食の世界の大切さを、主に編集長を務める『東北食べる通信』を切り口に教えていただきました。
後編では、高橋さんが昨年設立した会社「ポケットマルシェ」について。生産者と消費者をつなぐウェブとアプリのサービスが、社名でもある「ポケットマルシェ」。スマホから新しい食べ物との関係を提示しようとしています。
2017年9月には、株式会社ユーグレナや株式会社メルカリなどから、1億8000万円の資金調達をし、まさにいまビジネスの大海原に、がむしゃらに漕ぎ出している最中だとか。
株式会社を設立して挑む、高橋さん流の世なおしについてお話いただきまます。
NPOと株式会社、二足のわらじは履けるもの?
──高橋さんは、昨年は新たに株式会社ポケットマルシェを設立して代表になりました。NPOと株式会社っていうのはどのくらい違うものですか。
高橋
もう股が裂けるようですよ(笑)。NPOをすごく応援してくれてるような人は、僕のきれいごとに惚れてくれている人が多いんです。そういう人ばかりだったから、Facebookで発信するときに「資本主義くそくらえ」みたいな話を時々書いてしまいます。でも、それを株主が見てるから、「株式会社の社長として、何書いているんだ」って言われます。
──たしかに、「どの口が言うか」ってことになっちゃいますね。逆に威勢のいいことを言わないと、「高橋節はどうしたんだ」と言われるだろうし。
高橋
今、ビジネスのグラウンドに降りて初めて分かったことがあります。今までは、「本当はやりたいことがあるけれど、食うためには会社を辞められない」という人に対して、「今すぐに辞めてグラウンドで戦え」みたいな威勢のいいことばっかり言って否定してました。
けれど、自分が苦手としていても、やらなくちゃいけないことがあるとやっと理解できたんです。大多数の人は会社に属して働いている現実が、会社を経営してみて初めて身に染みました。
今まで否定してきたことをやっているので苦しいんですけど、人間として成長するチャンス。理想の世界じゃなくて、現実の世界にきちんとコミットしていくしかないですね。
──ポケットマルシェがどんなサービスか教えてくれますか。
高橋
ポケットマルシェは「一次産業を情報産業に変える」を目的として、農家から直接食材を買えるプラットホームをウェブ上につくっています。
僕らが特にやろうとしているのは、生産者がスマホを使って出品することです。そしてスマホで購入される。食卓と農場を「ひとつにする」。そこに挑みたいです。
オーガニックマーケットを作りたいわけではないんです。既存の食の宅配サービスは安い、おいしい、安全っていうことをもれなく言ってて、唯一言えてないことは「楽しい」なんです。ポケットマルシェでは、おいしい安い安心というのは前提で、「楽しい」を大事にしたいんです。
人情が通う、ポケットマルシェのコミュニティ
高橋
生産者とお客さんのやり取りのメッセージは、心も和むし笑わせられるし、消費の意味が変わる気がします。単にお金と物を交換してるだけじゃなくて、売る買うっていう行為の余韻がしばらく続くんですよね。
たとえば、「今度久しぶりに親父が誕生日で上京して来るから、親父の好きな魚を一匹買ってさばいてやりたい」というメッセージとともに、漁師に注文が来ます。そうしたら漁師も「よっしゃ誕生日か」って鯛を一匹って言ってたのに、「ちょっとおまけしました」ってサービスしちゃう。
お互い顔が見えて、祝ってあげたいという気持ちのやり取りがあって初めて成り立つ。しかも買った側は、あとで「親父も喜んでくれた」と伝えられる。そういうのが、売り買いの余韻であり、楽しさですね。
ポケマルの商品選択画面。スーパーでは見かけないようなラインナップだ。
──確かに、そういう双方向のやりとりを気軽にできたら、楽しいでしょうね。私は農村地域に住んでいるのでご近所に野菜を届けてもらって、そのときに食べ方を聞いたり、好みを伝えたりしているんですが、それがスマホでできちゃう。
高橋
そうなんです。実は、昔は地域の市場でやってたやりとりの場が、距離を乗り越えてスマホでやる。欲を言えば対面で会うのが一番いいですよ。だけどそこにこだわってしまうと今の時代には合わないので、まずはここから。スマホのやりとりを続けるうちに、現場を家族で訪ねる人も出てくるんですよ。
食べる機会は1日3回だとして、10回に1回でもいいから、今まで話したようなやりとりで手にした食べものを食べられたら、きっと楽しいし、食への関心が高まると思います。
──サービスを始めて1年ちょっと。利用者は今どのくらいいらっしゃいますか。
高橋
商品を出している生産者さんが、今400人くらいで、最初に計画した通りに順調に推移しています。9割が僕が知らない生産者さんなので、今現場を廻っているところです。
どうしてポケマルに入ってくれたのか、実際に使ってみてどうなのかを時間を見つけては聞いてまわっているんです。
登録している生産者は順調に増えているので、もっともっとユーザーをふやさなくてはいけないと思っています。僕が生産者に「まだ、売れていなくてごめんね」って言うと、謝るなって言うんですね。「ポケマルを応援してる」、「これが軌道にのったら、生産者にとってこんなにいい世界はないよ」という声が多い。すごくポケマルファンが多くてありがたいです。
消費者には、「生産者と繋がって食べ物を買うのはすごく楽しいんだよ」って言っても、経験のない人にはピンとこない。その価値をまだ見たことがない人や、体験したことがない人に伝えなくてはいけません。とにかく一回体験してもらえる入り口をつくるために、今作戦を練っています。
──なるほど。逆に言えば生産者は順調に延びているのは、直接消費者とやりとりした経験があるからでしょうね。だから、この仕組みっていいなと思えるんじゃないでしょうか。
高橋
それもありますが、利用者には小中規模の農家さんが多くて、「今の流通じゃだめだ」とみなさん思ってる。「買い叩かれるし、中抜きされるから、マルシェがいいんだ」と言うんですね。
自分で値段をつけて、値段の理由も直接説明して、「ああそうか」って言ってもらって買ってもらえる。だけど、マルシェは都市でしかやってなかったり、頻度が低かったりしますよね。
ポケットマルシェなら、畑にいながらスマホでマルシェに出品できるんです。直売所で1000万円売りあげるようなスター農家じゃなくても、普通の農家が直販に生き残りをかけている。利用者のところをまわっていると、70歳近い人が、「3日前にスマホ買ってきてポケマルやっている」ってがんばってるんですよ。
目指すのは、かかりつけの農家や漁師がいる生活
高橋
生産者は、決して弁が達者でプロモーションも上手なスーパーサイヤ人じゃなくても、いいんです。消費者は、ポケマルに来たらそれぞれの生産者の魅力が見られる。もちろん食材を選ぶんだけど、どんなタイプの生産者から買いたいかっていうマッチングサービスでもあるんです。
かかりつけのお医者さんや美容師さんと同じように、「かかりつけの農家・漁師」があるのが理想です。
──確かにそうですね。でも、うまくマッチングできると、ポケマルを介さないやり取りが行われていく可能性もあるのでは?
高橋
その可能性も否定はできませんが、ポケマルは手数料15パーセントをいただくかわりに、ヤマト運輸さんがすごく協力してくれて、送料をかなりお得に設定して、しかも送付先の住所を印字した伝票まで持って来てくれるんです。生産者は箱に詰めて伝票をペタって貼るだけで、かなり省力できます。
後は、ポケマルコミュニティが盛り上がってくれたら、そこに参加していることに価値を見出してくれると思います。レビューもどんどん増やして、ここに参加するからこそ楽しいというプラットホームにしていきたいんです。
──なるほど。利便性っていうのも本当に大事ですよね。農家や漁師にとって発送の手間はかなり負担になっていると、いろんな方から聞いたことがあります。
高橋
そうなんです。あとは買う人を増やすには、売る側は値段についても考えなくてはいけませんね。高い物ばっか並べるとだめなのはもちろんですが、生産者って「じゅんさい1kg」とか出品しちゃうんですよ(笑)。好きでもそんなに食べられません。
消費者も生産者の世界を理解できないけど、逆もしかり。核家族でみんな忙しくて、それでも時短の料理キットを買って、子どもに手料理を食べさせてる、なんて食生活って想像できていなんです。なので、今、虎の巻を作っているところです。
※編集注……この話をしていたら、β版がちょうどできあがってきました。
これがどんどんアップグレードされていきます。
──わぁ、分かりやすくていいですね。「パンフレットよりもお手紙を利用しよう」なんて項目もありますね。手紙の例を見ると、結構ビジュアルに凝ってます。
高橋
ポケマルをやるにはマーケティングや接客も必要なんですよね。だから、生産者が起業家になる場でもある。農家さん漁師さんが鍛えられて、ビジネスマンとしてやっていけるようにバックアップしていく役目もあると思っています。
土地に根ざしながら、世界に友達ができる仕事
高橋
奥出雲の棚田で、自然栽培でお米を作ってるじいちゃんに去年会ったんですけど、そのじいちゃんが「俺は100人の固定客が全国にいて、遊びに来てくれる。いろんな情報を電話で教えてくれるし、こんな山奥にいるけど、広い世界にいるんだ」って言うのを聞いて、農家ほど直販で友達を増やせる仕事はないなと思いました。
食べ物だから売買が一回で終わらないんです。おいしければまた頼んで、継続的な関係が築かれます。
今後、ポケマルの流通範囲をアジアに広げていく準備もしています。そうなれば、さらに農家の世界は広がって、一次産業の価値や見え方がガラッと変わると思うんです。いまは、親は「継がせたくない」って言うし、子どもは「こんな狭い世界抜け出したい」っていうのが染み付いていますけど、それを変えたい。
「今日は香港から注文来てるよ」って日常があったり、海外の消費者が産地を見たいと訪ねてくるなら、こんなグローバルな仕事はないと思いませんか。
──それは……世界平和にまで繋がりますよね!
高橋
あはは、そうですね。もちろん世界とつながるだけじゃなくて、地域内流通にも手をつけたいです。地産地消はやっぱり食の基本。その地域に住んでる人がその地域の旬の食材を世界で一番安く食べられるのが一番のメリットなはず。
だけど今は、同じ地域内でも分断が起こっています。幸い、地域には元気なお年寄りがたくさんいる。彼らと一緒に宅食サービスをする夢もあります。
事業が成功していけば、きっと社会にインパクトをあたえられるはず。起業家としては歩みだしたばかりですが、信じた道を進んで世なおしに挑んでいきたいです。