良いマネージメントってなんだろう?会社のためには、どうあるべき?女性スタッフは、どんな上司だったら働きやすくなるの?
そんなことを、同じように、模索している方とお話がしたい!というか、そういったお友達がほしい!というところからスタートした本対談企画。
お相手は、 毎号、素敵な方々のライフスタイルと、可愛くて心地よいファッションを届けてくれる『リンネル』と『大人のおしゃれ手帖』の編集長を兼任されている宝島社 西山千香子さんです。
前編は、西山さんが編集長になった経緯や、編集チームの作り方について。 後編では、ふたりの考える「女性社員のマネージメント」についてのお話をまとめました。
とにかく売りたい編集者から、ファッション誌編集長へ
ーーーそれでは、はじめさせていただきますね。よろしくお願いします。
西山
あの、その前に、いきなりなんですけど……。
今日は、佐藤さんにお会い出来る!ということで嬉しくて来てしまったのですが、私、ビジネスのことも、マネージメントの話も、特に“コレ”ということはしていなくて…。もし、つまらなかったら、掲載しないで、他の方を取材してくださいね。
佐藤
そんなこと…!でも、わかります!自分で自分が何をしてるかなんて、わからないですよね。なんなら、部下に聞いてくださいって感じです…。
ーーーそんなこと言わないでください!率直にお話いただければ大丈夫なので、おふたりとも、どうぞよろしくお願いします!
では…、まず、私(ライター馬居)から質問させていただきますね。西山さんが兼任されている『リンネル』と『おしゃれ手帖』の編集長になられた経緯を教えていただけますか?
西山
はい!
もともと、リンネルに関わる前は、書籍やムックなど、単行本を作る部署にいました。韓国ドラマの本、語学の本、齋藤孝さんの本ですとかと、ジャンルは、本当にいろいろなものでした。
そんな時に、ライフスタイル系の雑誌が少しずつ出てきて、自分もそういったものをテーマにして本をつくることができたら楽しいだろうなと思い、『心地いい暮らし』というムックを作りました。
当時そういったライフスタイル系の本は、食と住が中心で、ファッションの要素はありませんでした。
でも、読者からは、出ていただいた方々のファッションに関する問い合わせがたくさんくるようになって。
そこで、あらためて考えてみると、取材させていただいた方はみなさん、「リネンがいいよね」とか、「天然素材が良いよね」などと、おっしゃっていることに共通点があることに気が付きました。
そこから、「こういったライフスタイルを大切にされる方も、ファッションを嫌いなわけがない。みんな洋服の情報を求めてるんだ!」という思いで、『リンネル』の企画を出し、ムックとして出版することになりました。
そして、しばらく季刊で出した後、会社から、せっかくなら月刊化してみないかと言われて、企画者として編集長になったというかんじです。
佐藤
編集者として、企画が通ってムックになるという時点で、すごくやりがいのあることですよね。それが季刊で出て、更に、2年くらいで月刊誌になって、編集長にというのは、まるで「プラダを着た悪魔」のような、すごいサクセスストーリーですよね。
西山
それだけ聞くと、そうですね(笑)
ただ、もともと、ファッション誌の編集長を目指していたというわけではないんです。
ムックや書籍を担当しているときは、とにかく売れるものを作りたいという気持ちで作っていました。ジャンルにこだわりもなかったですし、沢山の人に読んでいただいて、さざ波を起こせるようなことであれば何でも良くて。
でも、30代後半になった時、自分の「暮らし」というものを持ちたいなと思うようになって、その気持ちが、当時は「スローライフ」と呼ばれていた一つの事象とシンクロして、これをやる時期が来たのかなという感じだったんですよね。タイミングがよかったんでしょうね。
あとは、会社もよくチャレンジしてくれたなと思います。
ナチュラルとか、暮らしとか、当時はまだメジャーなジャンルではなくて、すごく男の人には分かりにくい世界観だったと思いますが、よく月刊化に踏み切ってくれたなと思います。ありがたかったですね。
自分がつくった雑誌に影響されてしまうんです
佐藤
『リンネル』『おとなのおしゃれ手帖』の編集部はどのような構成ですか。
西山
『リンネル』は、アルバイトスタッフを入れて10人くらいですね。年齢は28、29歳から、私が一番上で47歳。多いのは30代の中盤くらいかな。この人数をふたつに分けて隔月で担当するとかではなくて、毎号をその10人全員で作っています。おしゃれ手帖は、もう少し人数が少なくて、年齢層も上ですね。私より年上の方もいます。
佐藤
「北欧、暮らしの道具店」の編集チームとも近いですね。リンネル編集部と規模も年齢層も同じくらいです。全員女性ですか?
西山
そうです。私は男性がいてもいいと思うんですけどね。
佐藤
私が、今回、西山さんにうかがいたかったのは、もともと、ご本人がナチュラル系と総称されているファッションがお好きだったのか、ということなんですよね。
西山
もともとは、この世界観が好きという感じですね。そして、ファッションもだんだん好きになってきました。
佐藤
自分で作っているものに自分が影響されるということですか。それ、すごくわかります。
西山
そうなりますよね。私にとっても、この2冊の雑誌は憧れなんです。そして、作りながら影響を受けています。
佐藤
この質問をしたかったのは、『リンネル』には「ふわっとやさしい暮らし&おしゃれマガジン」というタグラインがあると思うのですが、初めて何かの写真で西山さんのお顔を拝見したときに、いわゆるふわっとしているようには見えなかったんですよ。初めてお目にかかったというのに15分経過でいきなりこんなこと、すみません。
西山
わかりましたか(笑)そうなんです。私、ふわっとしてないんです。
佐藤
今日、実際お会いしてみて、ファッションも素敵ですし、リンネルを作ってる方だという納得感もあるんですけど。でも、こういう面白い冊子を作られる方って、ふわっとはしてないんだろうなって思っていて、今日はそれが確信に変わりそうです。
私も、新しいスタッフが入社してくると、店長はもっとゆったりほんわかな人かと思っていましたって必ず言われるんです。私はふわっと感を出しているつもりは全然ないんですけど、そう見えていたらしくて。
西山
そうですね。たしかに、そう見えていたかも(笑)
編集長は細かく口出しするべき?任せるべき?
西山
でも、「北欧、暮らしの道具店」の中で店長としていられるときの佐藤さんと、対談など、お話をされるコンテンツの中の佐藤さんは違いますよね。
お話されているのを見ると、言葉がたくさんあるし、すごく賢い人なんだろうなって思っていました。でもそうじゃないと、できない仕事ですよね。きっとお兄様の青木社長がいらっしゃって、いろんな会話があるからかなと思うのですが。
佐藤
兄は子供の頃からすごくそういうことが上手で。
私は、兄に比べるからか、自分が言語化が得意だという認識はないんです。ただ、作りたい世界観や、こういうものがあったらなという絵面のようなものは頭のなかにはっきりあります。
でも、それを、スタッフに伝える際に、言語化がすごく難しくて。絵は頭にあるけど、うまく言葉に出来ないギャップと毎日葛藤してるんですよね。
そこで何をしちゃうかというと、バナーの一言一句に口出ししたり、写真撮影から立ち会っちゃったり。そういった、口出しをし過ぎないように、わざわざ自分の個室を作ってセーブしたりはしているのですが……。
西山さんは、毎号これだけハズレがない雑誌を作られていますが、ご自分の考えをどうやって編集部の皆さんに伝えているのですか。
西山
私はイメージするものが、こんな感じのテイストがこのくらいの割合で入ったら嬉しいなくらいで、細かくはっきりとはしてないんです。毎月のテーマも、みんなから出た企画を見て、今こういうことを思うんだなということを見て、決めたりします。
佐藤
私は編集長としてこれをやりたいから巻頭はこれで!というよりも、みんなの企画を見て、テーマを決めるという感じなんですね。
西山
そうですね。『リンネル』では一年に一回の北欧特集号というものを、10月に出しているのですが、それ以外は、あまり決め事を作っていません。
結構任せちゃうんです。任せて、失敗があっても、次、改善しようという気持ちで。
『リンネル』は、200ページ前後あるので、多少テイストの違う企画が一つできてしまっても、大枠を外さないようにすれば、全部で一つの雑誌なので、いいかなと割り切っています。
小さなことをチクチク追求しても、時間がかかるだけですし、私も完璧ではないので、ある程度の許し幅を持って、この枠は外さないでね、くらいの信頼関係でいいかなって思っています。
佐藤
ああ、もう、なるほどとしか。
西山
ただ、色んなタイプの編集長がいると思います。リーダーシップのすごいカリスマ編集長がいる雑誌は面白いですし。でも、私はそういうタイプではないんですよ。
コントロールしたくないというか、支配的になりたくないというか、それぞれが自分をコントロールしている範囲をあまり変えさせたくないというか。そういう主従関係じゃないと、こういう雑誌の雰囲気は出せないかなと思っています。
まぁ、全ては、自分のカリスマ性がない言い訳ですけど。
佐藤
西山さんが、お仕事を任せるようになった理由はあるのですか。
西山
改めて考えてみると、会社のおかげかなと思います。
書籍担当の時に、売れたものも、売れなかったものもあるし、売れなかったどころじゃなくて回収になったりとか、そういう笑えない失敗をちょこちょこやっていますが、会社が、また次のチャンスをくれて、機会を奪わないでいてくれたんですね。
そんなふうに、失敗しても、まあ、もう一回やってみたらという場で育ってきたので、それを受け渡していくという感じですね。
佐藤
良い環境ですね。
編集長、店長…「長」の使命は「続けていくこと」
西山
編集長にしても、店長にしても、「長」がつく人は、続けていくこと、持ちこたえさせることが一番大切なことだと思うので、次号だったり、次の企画を考える余白が必要だと思って、その余白が埋まらないように、一つ一つに入り込みすぎないようにもしています。
佐藤
余白は大切ですよね。そして、続けていくということも、すごく考えますね。
次の世代を育てていかないといけないので、今は、自分の下にマネージャー陣を設けて、私は彼女たちとコミュニケーションをとっていればこちらの意向は伝わるようにはなっているんですけど、そのある意味でトップダウンなやり方が本当に正しいのかも分からなくて。
西山
すごくわかります!悩むところですよね。
きっと、いかに多くのスタッフに自分の意思を伝えられる関係性を作るかということが、私にとっても、佐藤さんにとっても課題ですよね。
2年前に『大人のおしゃれ手帖』ができて、すごく良かったなと思ったのは、新しい仕事を作り出せたということなんです。それに伴ってスタッフの仕事も増えましたし、新しい人を採用することもできました。
でも、そういうことを続けていこうと思うと、きちんと指揮系統を整えていかなくてはいけないですし、そこはちゃんと甘えずに立ち向かわないといけないと思っています。
佐藤
西山さんは、今は兼任で編集長だと思うんですけど、育ってきた誰かがいたら、どちらかの編集長の座を譲ることなどを想定していますか?
西山
すごくそれを考えている時もありました。
今はちょっとモードが変わって、流れにまかせてみようとか、やれるところまでやったらどうなるかなとか考えてもいます。
佐藤
悩みますよね。私は、もっと違う人にチャンスをあげなきゃと思って、すごく努力する時期もあるのですが、続けていると、だんだんつまらなくなって…という器の小ささに苛まれたりします。
西山
私も、若い人たちを育てて任せて、自分は新しいものを作って、そしてまた育てて任せてということが使命かなと思ったりする時期もあれば、作り始めた手前、どこまでも手をかけていくことが幸せなのではと思ったり、色々悩みますよ。
佐藤
それを聞いて少し安心しました。同じなのだなと。でも、40歳を超えて、自分に何かあった時のことを考えるようになってきたりすると、自分が不在でも絶えないようにするにはどうしたら良いのだろうとか、すごく考えるんですよね。
西山
いつでも、誰かが私の仕事を代われるような編集の枠組みというのはつくっておきたいな、代わった人がやりやすいようにはしておきたいと思いますけどね。
『リンネル』に関しては、読者は編集長がどうとかではなく、この世界観が好きだから買い続けてくださっているので、仮に私じゃなくなっても、この世界観が変わらないでいられるようなチームづくりをしたいと思っています。
佐藤
わかります。でも、日々本当にこれでいいのって思います。
西山
そうそう。ずっとそう。悩みますよね。
引き続き、後編では、女性スタッフを率いるお二人が考えるマネージメントについてお話しております。ぜひご覧ください!
■雑誌ご紹介
『リンネル』
“心地よい暮らしと装い”をコンセプトに、201
『大人のおしゃれ手帖』
40~