「暮らしを支えるロングセラーブランド」は、長く、広く、多くの人々に愛され続けている商品にスポットをあてた連載シリーズです。
今回は、ブランド誕生から100年以上もの歴史を持つ「ニベアクリーム」のコミュニケーション戦略について、ニベア花王株式会社の雨宮綾子さんにお話をお聞きしました。
雨宮綾子さん
ニベア花王株式会社 ビジネスユニット 1 マーケティンググループ ブランドマネージャー
ニベア花王株式会社にてニベアクリームをはじめボディケア、ボディウォッシュ商品などのブランドマネジメントを担当。戦略、商品計画、コミュニケーションまで、ブランドにまつわる全般の業務を手がける。
保湿効果プラス、情緒的なつながりを大切に
――「ニベアクリーム」が誕生した背景について教えてください。
1911年にドイツのバイヤスドルフ社というスキンケア製品の会社で誕生しました。以来、世界各国に広がっていき、日本での発売が始まったのは1968年です。
――誕生から108年、日本での販売開始から昨年で50周年。100年以上愛されてきたクリームとしての特長はどんなところにあるのでしょう。
スキンケアクリームには水ベースのものとオイルベースのものがあります。日本の化粧品市場では、水ベースのクリームが比較的多いのですが、ニベアクリームはオイルベースのクリームです。
オイルベースのクリームの大きな特長は、肌へのうるおい補給プラス、肌表面に油性の膜をつくることで肌を保護してくれる点です。乾燥などの外部刺激が中に侵入するのを防ぎつつ、内側の水分を外に逃さない。さらっとした使用感の水ベースのクリームとは違って、リッチでしっとりした使用感、保湿効果が、日本でも多くのお客さまに受け入れられた要因ではないでしょうか。
一方で、ここまで長く愛されてきた理由は、保湿効果といった製品の機能面だけではないとも思っています。ニベアクリームは親子、三世代渡って使ってくださるお客さまもたくさんいらっしゃるんですね。
幼い頃、冬になるとお母さんやお父さんにニベアクリームを塗ってもらった記憶を持つ方々が、大人になってからその行為に込められた親の愛情を再確認する。大切な思い出、絆の中に、ニベアクリームが息づいている。そういった経験を通じた情緒的なつながりも、長く支持されてきた理由のひとつだと考えています。
――クリームとしての成分の配合も、昔から変えていないのでしょうか。
基本となる成分の骨格は、発売当初と今のものでほぼ変わりません。日本のニベアクリームに関していえば、日本人になじみのあるホホバオイルやスクワランなどを配合していますが、海外のニベアクリームと大きな違いはありません。
100年以上もの長い間、お客さまに使い続けてもらっているということ。それは、ニベアクリームがお客さま一人ひとりの生活の一部として受入れられていることの証だと考えています。白色のクリームとリッチなテクスチャーや香りは、今の大人の皆さんが子どものときの記憶にあるものと同じはずです。
優秀なプチプラコスメとしての再評価
――最近では、優秀なプチプラコスメとしての価値も見直されていますね。「実は高級美容クリームと成分がそっくり」という噂も話題になりました。
両商品の成分を比較したお客さまがネットで声をあげたことから話題になったようです。
洗顔後、化粧水などをつけずにニベアクリームを塗る“ガッテン塗り”もお客さまから発信された話題です。そこから顔用クリームとしての評価が高まりました。
機能面だけではない、情緒面も大切に伝えていきたい
――老舗ブランドとして、どのようなメディア戦略を意識されていますか。
ニベアクリームのターゲットは老若男女、つまり全方位。それもまた誕生当初から変わらない「世代、肌の色、性別を問わず、あらゆる人の肌のためのクリーム」というコンセプトなのですが、ターゲットに応じたコミュニケーションの使い分けは意識しています。
たとえば、核の部分にある「親子」に関しては、さまざまなメディアがある中でもとくに幅広い層を対象とするテレビCMの展開を通じてきちんとニベアの思いを伝えていきたい。
一方で、若い世代のお客さまを対象に、今後はさらにデジタルのメディアを積極的に活用してコミュニケーションをとっていくつもりです。
実は、ニベアクリーム=ハンドクリームと認識されている方々も多いですが、私たちとしては「ハンドクリームです」というPRの仕方をしたことはなくて。ニベアクリームは、手にも、顔にも、ボディにも、全身に使えるというコンセプトで誕生しています。なので、ニベアを顔用クリームとして使っている20代の娘さんが、50代のお母さんに「ニベアいいよ!」と、勧めるケースもあるそうです。
――最後に、今後の「ニベアクリーム」が目指すところを教えてください。
ニベアクリームという商品、ブランドの価値を守り続けていく。このこと自体がひとつのチャレンジであると思っています。一方で、「ニベア」というブランド全体という意味では、保湿機能をうたったケア製品だけではなく、洗浄・洗顔まで肌に関するお手伝いができたら、うれしいですね。
と同時に、先ほどお話した親子の絆のような、“情緒的なつながり”も含めたところにこそ「ニベアクリーム」の強さがある。だからこそ機能面だけを訴求するのではなく、大切な人とのあいだに存在するスキンケア製品でありたい、という立ち位置を今後も守り続けていけたらと思っています。