株式会社クラシコムが企業のマーケティング担当者様向けに、マーケティングやブランドについての考え方を議論するクラシコムサロン。
今回のテーマは「中長期で考える、ブランドとパートナーメディアとの幸せな関係」です。
UCCのカプセル式コーヒーシステム「DRIP POD」が2018年から継続して「北欧、暮らしの道具店」とお取り組みを続けている理由を深堀りながら、これからのブランドとメディアの関係を議論した内容をお届けします。
スピーカーには、「DRIP POD」のブランドマネージャーを務めるUCCグループの小牧美沙さんと、クラシコムのブランドソリューショングループマネージャーの高山を迎えました。モデレーターは、「DRIP POD」と「北欧、暮らしの道具店」の取り組みを初回からプロデュースされてきた、電通 出版ビジネス・プロデュース局の宮脇彩夏さんです。
継続性ある取り組みによりブランドへの認知度と熱量が高まった
宮脇
今回はUCCの「ドリップポッド」と「北欧、暮らしの道具店」の2018年から続く取り組みを通じて、「中長期視点でのブランドとパートナーメディアとの幸せな関係」についてお話を伺っていきます。まずは小牧さん、ドリップポッドについてご説明いただけますか。
小牧
ドリップポッドはUCCが開発したカプセル式のドリップコーヒーシステムです。「すべての人と時間に”最高の一杯”をお届けしたい」という思いを持って事業を展開しております。
「ドリップコーヒーシステム」という言い方をしているのは、ドリップポッドが2つの要素から成り立っているためです。
ひとつめの要素はマシン。UCCはコーヒーの育成栽培、輸入、焙煎以外にも、コーヒーアカデミーという専門の教育機関をもつなど、「カップから農園まで」一貫した事業展開を行っています。もうすぐ創業90年目を迎えますが、我々が培ってきた抽出技術の全てがこのマシンに搭載されています。
ふたつめはコーヒー。UCCのコーヒー鑑定士が世界中の産地から厳選したコーヒー豆を使用したカプセルもまた、ドリップポッドの重要な要素です。
この2つが相互に補完し合うことによって、豆の味わいを最大限に引き出した最高の一杯をスマートにご提供する。これが「ドリップポッド」というシステムです。
まだまだブランドとしては伸び盛りですので、「北欧、暮らしの道具店」さんや電通さんにもお力添えいただきながら、認知拡大のプロモーションを行っている最中です。
高山
最初のお取り組みは2018年でしたよね。以降、2021年の今日まで継続的に記事や動画のコンテンツコミュニケーション施策をご一緒してきました。そもそも「北欧、暮らしの道具店」とお取り組みを決めていただいた理由はどんなところにあったのでしょう。
小牧
暮らしにこだわりを持つ30~40代の女性層にアプローチしたい、という考えがまずありました。ユーザー調査を進めていくと「コーヒーを淹れるのは夫任せ」「コーヒーマシンはよくわからない」という女性の声が多かったのですが、ドリップポッドであればカプセルを選んで、セットして、ポチッとボタンを押すだけ。たった60秒でコーヒーがサーブできます。
電通さんとブランディングの方向性を探っていく過程で、その特性を伝えられる媒体としては「北欧、暮らしの道具店」さんで展開していくのがよいのでは、とお話をいただいたことがお取り組みのきっかけです。
宮脇
これまでのお取り組みを簡単に振り返ると、お取り組みが始まった2018年の段階では、「北欧、暮らしの道具店」のお客様のなかでのドリップポッドの認知度は8%でした。そこから切り口を毎回変え、お客さまの反響を参考に展開していく中で、1年後にはお客さまの認知度が30%を越えるまでに上昇しましたね。
数値だけでなく、記事のアンケート回答からも「お客さまの熱量が高まってきている」という感触がありましたよね。そろそろ機が熟したのでは、と感じられた2020年には、記事を読んで「欲しいな」と感じたお客さまに、そのまま商品を買える仕組みをご提供しようということで、「北欧、暮らしの道具店」のサイトでドリップポッドの販売も行いました。
小牧
あのときの反響はすごかったですね。「北欧、暮らしの道具店」さんのECサイトでのマシン販売台数は想定を大きく上回るインパクトで、もう社内騒然でした。
パートナーとして2ステップ先まで見据えた話ができる
宮脇
ひとつのメディアと何回もお取り組みを行う事例は、どちらかといえば少数派ではないでしょうか。「北欧、暮らしの道具店」と3年以上にわたってお取り組みを重ねてきた理由はどこにあるのでしょう。
小牧
毎回の施策に多角的な視点からの強力なアドバイスをいただけることも理由のひとつではありますが、少し長めのスパン、中長期の展開を見据えたご提案いただけることも大きいですね。
「BRAND NOTE」という記事コンテンツをこれまでに9本やらせていただいたのですが、はじめの2本はドリップポッドを全然知らない生活者の方々に「どういうメリットがあるのか」を優しく紐解いていき、3回目でドリップポッドの開発担当者が「北欧、暮らしの道具店」スタッフさんの疑問に答える形でセッションしたんです。
「マシンがハンドドリップってイメージつかないんですけど、正直どうなんですか?」という率直な質問をはじめ、読者の方々と同じ目線からの疑問に弊社社員がお答えする、という記事だったのですが、その回の読者の反応がすごくよかったんです。それはやっぱり興味を持っていただける土壌が最初の2回の記事でつくられたからだと思っています。
しっかり土壌ができた後でなら、少し熱量のある深めのコンテンツでもきちんと届く。そういった視点を交えながら、2ステップ先くらいを見据えたお話ができるところが、「北欧、暮らしの道具店」さんと中長期で取り組んでいる一番の理由かなと思います。
高山
僕たちは最初のオリエンやコミュニケーションで、「クライアントさんが本当に伝えたいこと」を、自分たちがちゃんと腹落ちできるまですごく粘ります。そのうえで「北欧、暮らしの道具店」のお客さんがこの商品を選ぶのであれば、理由は何になるのだろう、ということをとことん突き詰めて考えるようにしています。
その商品が「共感される理由」と「信じられる理由」。この2つの要素が成立し、掛け合わさって初めてお客さまは商品の購入に踏み切れる、と思っています。
ドリップポッドに関しても、最初のお取り組みが始まる前に、コーヒーマシンとしての性能や、UCCさんだからこそ担保できる本格的な味わいについては詳しく聞かせていただいたんですね。商品としてのクオリティの高さを通して「信じられる理由」はその時点ですでにたくさん見つかりました。
一方で、「共感される理由」は見出しにくかった印象がありました。ならば、しっかりと「共感される理由」を一緒に見つけていくことを目的にスタートしました。
毎回のお取り組みで数値的な成果を出すことはもちろんですが、その上で「お客様はどこに共感しているのか」というトリガーを発見し、「次はどのようなコミュニケーションをしていくべきか」を仮説化し、検証するサイクルを回していくこともすごく大切にしました。
検証するうえで重要なのは、いかにお客さまのリアクションを得られるかなんですよ。PVやCTRの数字だけでは、やっぱりどこがトリガーになって響いたのかまでは見えてこない。
BRAND NOTEの場合は記事末尾にアンケートを設置していて、記事を読んだお客さまから毎回たくさんの回答をいただけます。質問の最後に、記事の感想などをフリーアンサー箇所があるのですが、毎回熱量高く書いていただけていて、そこからトリガーを発見します。
「私は普段はこういう暮らしをしていますが、こういう時間が本当に欲しいと思っていて、ドリップポッドの今回の記事のこのポイントにすごく心惹かれました」のように、ご自身の生活と絡めて具体的に語ってくださる。そういった回答からトリガーを見つけて考察し、共有して次に活かしていくサイクルは大切にしています。
生活者視点で改善するサイクルをまわし続ける
小牧
「北欧、暮らしの道具店」さんがすごいのはチューニングの力です。私たちとしては3回目の開発者が出た回の反響が大きかったのでつい「次も出したほうがいいですか?」と提案したのですが、「いや、今届いているお客さまは三角形でいうとこのあたりの部分なので、次は別の角度からドリップポッドの価値を出していきましょう」ときっぱり判断してくださって。読者とドリップポッドの価値、両方を深く理解してチューニングしてくださるんですね。そのすごさはお話するたびに毎回実感しています。
高山
「北欧、暮らしの道具店」は、お客さまとの間にある約束を守り続け、お客さまからの期待に応え続けることで、ブランドをつくってきました。そこで培ってきたノウハウをもとに、「選ばれるブランド」になるためのお手伝いをするとなるとやっぱりある程度の時間が必要なんです。
そういう意味でも、こうして中長期でご一緒させていただけるのは本当にありがたいです。
様々なマーケティング担当者さんとお話すると、同じメディアと長く取り組みするよりも、新しいメディアとどんどん組んでいくことを求められるとよく聞くのですが、いかがでしょうか?
小牧
正直、それはあります。A社とやってみてよかった、じゃあB社はどうだろうといった、スパイスという言い方は失礼ですが、そういうわかりやすい変化が社内で求められることはあります。
ただ、いろんなメディアの方とご一緒させていただいたからこそ、「北欧、暮らしの道具店」さんのすごさ、圧倒的な消費者目線と熱量が実感できたともいえるんです。
記事へのアンケート回答は毎回300~400件、多いときは600件超も寄せられるのですが、担当者さんは毎回隅々まで目を通しているんですね。営業部の方から編集スタッフの方まで全員がしっかり読み込んでくださって、いい意見だけじゃなく、「ここが嫌だった」という率直な意見もしっかり伝えてくださる。それが私にはすごく新鮮でした。
そこを踏まえた上で、次の施策のときには「前回はこういう声が多かったからこれは残しましょう」「ここはもっと改善したほうがいいですよね」という意見交換ができますし、「なるほど、そこはそう読み解いたほうがよかったか」「その視点は私たちにはなかった!」といった刺激的な発見や学びが常にあります。
お取り組みを重ねるごとに、よくなっている感じが実感として確かにあるんですね。それもずっと継続している理由のひとつです。
高山
ありがとうございます。BRAND NOTEは、顧客理解に繋がるコミュニケーション施策でもありますよね。アンケートで集まるお客様の声から、商品の新たなインプットが得られる絶好の機会でもある。そこが伝わるとすごく嬉しいなと僕も思います。
小牧
思いの強さが違います。例えばご提案いただいた企画案などに私たちがメーカーとして言いたいことを赤字で入れてお戻しすると、「わかりました」とそのまま直してくださるメディアさんも多いんです。でも「北欧、暮らしの道具店」さんは赤入れした企画書が、真っ青になって返ってくることもあって(笑)。
高山
すべての赤字に対して、「ここはこういう意図なんです」「こういう解釈での提案です」という戻しの青字コメントを入れて、みたいなことは最初の頃はありましたね(笑)。
小牧
「どうしたらもっと伝わるか」の思いが強い。それだけの熱量を持ってつくっていただける、ディスカッションできる媒体さんなんだ、という驚きがありました。
自社コンテンツでは届かない領域がある
宮脇
コンテンツをつくる過程のすべてがディスカッションの種になり、それを互いに育てることが次のステップへに繋がっていくということですね。「北欧、暮らしの道具店」としては、その強みを磨くためにどんなことを心がけていますか。
高山
D2CでやっていることはBtoBのブランドソリューションでも一貫性を保ち続けることを意識しています。お客様に対して感じてもらいたい気持ちやスタンス的なものは、どちらも本当に変わりないんです。だからこそ、一貫性を担保できないと判断したブランドさんには、申し訳ないですが取り組みをお断りしてしまう場合もあります。
あとは「お客さまを理解し続ける」って何よりも大事だなと思います。普段の暮らしのなかでどういったことにモヤモヤしていて、何に喜びを感じるのか、最近はどんな気分になりたいと思っているか?などにアンテナを張り続けています。
そのケイパビリティを活かすことで、顧客理解のためのパートナーとして一緒にお付き合いしていきたいと思っています。
宮脇
YouTube動画や映画『青葉家のテーブル』、ポッドキャストのように、手法を少しずつ変えながらお客さまにチューニングされていますよね。
高山
そうですね。ポッドキャスト「チャポンと行こう!」はすでにコアなリスナーさんもついてくださっているので、スポンサード価値も高まっています。広告主さんからもご相談をいただくことが増えていますね。
小牧
そのような取り組みは、自社でやるのが結構難しいですよね。相当好きな人しか見てくれないから。でもすでにコアなファンが集まっている場所にスポンサードする形であれば、企業の代わりに商品の魅力を紐解いて、引っ掛かりをほぐしてうまくコンテンツに仕上げてもらえる。それも「北欧、暮らしの道具店」さんの魅力です。
お付き合いが長くなってくると、ブランドについて理解していただけますし、なんなら社内の内情までもわかっていただける部分も出てきたりします。でも、こちらに寄りすぎず、遠慮することもなく、常にフラットな立ち位置から「読者は今、何を求めているか」を今後もアドバイスしていただけたら嬉しいですね。
高山
「選ばれるブランド」になるための階段を一緒につくり、一歩ずつ上っていく。そんな感覚で今後もいろんなお取り組みをご一緒できればと思います。いろんな形のご相談・ご提案をいただけることは、自分たちのケイパビリティを拡張していくことにもつながるので、とてもありがたいです。
(写真左)
UCCグループ ソロフレッシュコーヒーシステム株式会社
ドリップポッド ブランドマネージャー
小牧美沙
「ドリップポッド」のブランドマーケティング担当。タイアップ施策、イベントなどを通じて、一般ユーザーへの認知拡大、理解、コミュニケーションの促進を担当。
(写真中央)
株式会社クラシコム 取締役 事業開発部 部長
ブランドソリューショングループ マネージャー
高山達哉
2015年9月にクラシコム入社。「北欧、暮らしの道具店」のブランド広告事業の立ち上げを行い、様々な企業とのコラボレーション施策を統括。現在もメディアがもつ世界観やブランド価値を広告主にソリューションとして活用いただく取り組みに従事。
(写真右)
電通 出版ビジネス・プラットフォーム局 出版3部
宮脇彩夏
2001年電通入社。マーケティング、PR、イベントなどの業務を経て2005年より雑誌局(現出版ビジネス・プロデュース局)。女性誌、主婦誌を中心に担当。電通 食ラボメンバー