お取り組み企業担当者様インタビューでは、当初抱えていた課題やクラシコムと一緒に取り組んだことで得た気づきなどを担当プランナーと一緒に振り返っています。
今回お話を伺ったのは、味の素AGF®︎で「ブレンディ®︎」スティックを担当する宇田和紗さん。
「ブレンディ®︎」スティックは、2002年の発売から「お湯を注ぐだけで簡単に本格的でクリーミー&スイートな味わいが楽しめる」ことをコンセプトに掲げてシリーズを展開。現在では、スティック市場全体の約5割(※)のシェアを占め、トップブランドとして市場を牽引しています。
一方で、購入率は横ばいの時期もあり、トップブランドがゆえに直面した市場拡大の難しさ。その打開策はどこにあるのでしょうか。担当プランナーの中村が話を聞きました。
※AGF調べ
味の素AGF株式会社
リテールビジネス部マーケティング第1グループ
宇田和紗
「ブレンディ®︎」スティックチームでマーケティングや商品開発、プロモーションの企画などを担当。
スティック1杯で、ほっと一息つける時間を
中村
「ブレンディ®︎」スティックは発売から20年。そもそも、どういう背景から生まれたのでしょうか?
宇田
きっかけの1つは、家事や育児、仕事などの忙しい合間でも、ほっと一息ついて手軽においしい飲みものを楽しめる時間を提供したかったからです。
たとえば、カフェオレはコーヒーに自分で砂糖や牛乳を入れて味わいを調整します。そうした楽しみを否定するわけではないのですが、2002年頃は働く女性も増え、時短にも注目が高まるなど、利便性のニーズが高まっていました。
そうした状況を踏まえ、1杯分のコーヒー、砂糖、クリーミングパウダーを1本のスティックに入れ、お湯を注ぐだけでベストな味わいを楽しめる「ブレンディ®︎」スティックが生まれました。
中村
おいしさとリラックスできる時間を届けるためだったんですね。2020年に行なった、カフェオレの味わいとシリーズのパッケージのリニューアルもその一環でしょうか?
宇田
そうなんです。細かな改良は毎年行ってきましたが、大々的なリニューアルは久しぶりで。特に主力商品のカフェオレはミルク感のある甘み、カフェオレの濃厚さをより感じられるようになり、弊社としても自信のある1杯を実現しています。
従来のマス広告だけでは実現しづらい価値の伝え方を検証するために
中村
リニューアルは、企業としては大きなチャレンジですよね。そのタイミングで私たちとのお取り組みを決めた理由は、どんなところにあったのでしょうか?
宇田
「北欧、暮らしの道具店」さんからの提案が、抱えている課題に対して「今やるべきコミュニケーションだ」と思えたことですね。
これまでのコミュニケーションはマス広告を中心としていました。スティック1杯がもたらす手軽さやおいしさを伝えることを基本に、さまざまな切り口でコミュニケーションを行なってきています。
それぞれ課題はありますが、一貫して抱えているのは新規の取り込みです。スティックカテゴリ市場の購入率は横ばいで、間口の広がりが鈍化。一度手に取っていただけるとリピート率は高いのですが、最初の1杯を手に取ってもらうのが難しい……。
中村
飲む人は飲むけど、飲まない人にとっては手に取ってもらいにくい。コアなファンがいらっしゃるのは心強いものの、新しいお客さまが増やせていない課題があったんですね。
宇田
それに、今の20代、30代の方ってテレビをあまり見ない方もいますよね。商品と親和性の高い生活者の方がいても、マス広告だけでは振り向いてもらえない方々がいるのではないか。この仮説を検証するために、別の方法にも取り組む必要があると考えていました。
あと、他社の企業担当者の方もインタビューでお話しされていましたが、私も「北欧、暮らしの道具店」さんのコンテンツを拝見していて。生活者として見たときに、企業タイアップに広告感がなくて、内容を自分ごと化して受け取れる切り口がいいなぁと思っていました。
中村
ありがとうございます。私からは「ブレンディ®︎」スティックの価値を伝えるのに2つの切り口を提案しました。仕事と暮らしを切り替える役割を持つ「on/off」と、仕事中の相棒の意味を持つ「ing」。
どちらも他社から同様の提案や、宇田さんもそうした価値があることは知っていたのではないでしょうか?
宇田
はい。弊社でも「ブレンディ®︎」スティックがもたらす価値に、特に「on/off」の価値があることは、長年認識していました。実際にそうした提案も過去にあったと思います。
でも、心に響く、これといったアウトプットのイメージがなかったんですよね。これまでチャレンジしてきた訴求内容である「朝時間」や「パン×カフェオレ」といった切り口に比べると、「on/off」はさらに丁寧にコミュニケーションしないと伝わらないのではないかと思い、実現に至っていませんでした。
「北欧、暮らしの道具店」さんからの提案は「自宅で過ごす時間が増えて、プライベートと仕事のメリハリをつけるのが難しい」というリアルな声に基づき、生活のワンシーンで描かれていました。商品を知っていても「自分に必要なもの」と認識していない人に手に取ってもらえそうな可能性を感じられたのが大きいですね。
中村
これまで訴求していない切り口だからこそ、その実現に向けて一緒に議論しながら詰めていきましたよね。
「トライしてみたい」と担当者として感じてくださっていたからか、宇田さんと私が広告をつくっていくパートナーとして同じ方向を見て進められたことが、とても印象的でした。
2つの切り口の取り組みを行い、今後の方向性を見出す
中村
今回、仕事と暮らしを切り替える役割を持つ「on/off」と、仕事中の相棒の意味を持つ「ing」のどちらがより響くかを検証しましょう、ということで実施しました。結果的には前者が響きそうであることが見えてきましたが、社内ではどのような反応がありましたか?
宇田
どちらも、人によって「わかる」と思ってもらえる内容だったと思っています。より価値を伝えたいと思っている、30代、40代の女性には「on/off」を伝える方が共感を得やすいとわかったのは、面白い結果でしたね。測りにくい軸をしっかりと検証でき、取り組むべき方向がわかったのは大きな成果でした。
また、私が仮説で持っていた従来のマス広告だけでは振り向いてもらえないけど、実は商品を必要としてくださっている生活者の方がまだまだいらっしゃいそうだと気づけたことも大きいです。
中村
リモートワークなどで働き方が変わったことや、家事や子育てと仕事を両立する必要があることから、暮らしの中で息抜きの時間となる「on/off」を確保することが、生活者の方の切実な課題としてあったといえそうですよね。
宇田
そう思います。
中村
「on/off」を訴求した記事には、「北欧、暮らしの道具店」のほかの記事にも出ていただいたことのある滝口和代(たきぐち かずよ)さんに出演いただきました。
「ほっとひと息つける時間」という大きなメッセージは、記事だからこそ微妙な心の機微を描けた、というのはありそうですね。
宇田
それは思いました。最初は暮らしにこだわりを持つ人には、スーパーなどで販売されている商品って受け入れらえないんじゃないの?という不安も少しありました。でも、滝口さんが子どもが生まれる前と今で、もの選びの基準が変わったといった言葉は、「なるほどなぁ」と思って何度も読み返したほどです。
中村
生活者と一言で言っても、いろんな一面がありますよね。ハンドドリップしたいときもあれば、手軽なものに頼りたいときもある。
そして、価値観やモノの選び方はライフステージによって変わっていくもの。「今のタイミングでは『ブレンディ®︎』スティック“が”いいんだ」と、頼るれものには上手に頼るという考え方に、僕も読みながらとても共感しました。
宇田
アンケートに集まった声にも、そこに共感をもたれた方がたくさんいましたよね。
こうした共感が生まれたのは、出演いただく方に商品をしっかりとご説明いただき、商品と向き合っていただける方を起用いただけたから。そして、滝口さんの言葉を、読者の方が読んだときに「私も同じだ」と思えるように紡いでもらったからだと思います。
こういう描き方は、企業だけでは、やりたくてもなかなかできないことです。
中村
うれしい感想をありがとうございます。今回の結果を踏まえて、次はどのようなステップを考えていますか?
宇田
価値を丁寧に届けるための深いコミュニケーションを、単発ではなく中長期的にしっかりと行うための施策を検討しています。暮らしのワンシーンに商品があることを具体的に描くことで、自分にとって実は必要な商品なんだと気づいてもらえることがわかりましたから。それを続けることで、商品を好きといってくださる方が増えていくのだと実感しています。
周囲とのコミュニケーションのきっかけや、くつろぎを届ける存在に
中村
最後に、今後はブランド全体でどのようなコミュニケーションを行なっていくかを教えてください。
宇田
ほっと一息つきたいと思ったときに、「ブレンディ®︎」スティックがその人の気分に合わせてくつろぐ時間を届けられる存在である、ということは引き続き伝えていきたいと思っています。
実は、期間限定で前向きなメッセージが入ったスティックをご提供していたんです。その後、お客様相談室に「気持ちが落ち込んでいたけど、これを見たら癒された」「まわりにもちょっとしたときに渡している」と、たくさんのうれしいお声をいただいています。
「ブレンディ®︎」スティックシリーズの優しい味わいによって、気持ちを緩めていただいたり、周囲の方とのコミュニケーションのきっかけになったりと、これからも一人ひとりの気持ちに寄り添った1杯をお届けできるような存在でありたいですね。